2012 口腔細菌学 10月30日 口腔微生物学講座;前田伸子
セッション2; 口腔微生物学各論 Ⅱ 口腔微生物学各論 2 桿菌 B 口腔に常在するグラム陰性桿菌
口腔に常在する グラム陰性桿菌 ●嫌気性か、通性嫌気性か? ●運動性があるかないか? ●形態;桿菌か?湾曲?ラセン 形?
(a) グラム陰性嫌気性桿菌 ●運動性がないもの;桿菌 Fusobacterium Leptotrichia Porphyromonas Prevotella Tannerrella ●運動性があるもの;湾曲 Selenomonas Centipeda 口腔スピロヘータ(来週!)
嫌気性グラム陰性桿菌は最終代謝産物により分類できる 嫌気性細菌は発酵(酸素のない状態で ATPを産生)の最終代謝産物がそれぞれ の菌種によって異なる ↑ 最終代謝産物の種類によって同定・分類できる
a-1-1 Fusobacterium ●グラム陰性で菌体内に顆粒がみられ、菌端が尖った紡錘形 ●グラム陰性で菌体内に顆粒がみられ、菌端が尖った紡錘形 ●偏性嫌気性でインドール,H2S,DNase産生. ●炭水化物(糖)およびペプトンを分解 ●おもに酪酸を産生.口腔,気道,消化管に常在
赤血球凝集能および他の細菌との凝集能がある Fusobacteriumの病原性 ●歯周病原菌の1つで口腔内ではF. nucleatumが最も多い。 ●急性壊死性潰瘍性歯肉炎 Acute Necrotizing Ulcerative Gingivitis;ANUGとの関連 → fusospirochetal infection 現在、ANUGはPrevotella intermediaが関連 赤血球凝集能および他の細菌との凝集能がある ↓ 歯垢の成熟化に関係
急性壊死性潰瘍性歯肉炎 Acute Necrotizing Ulcerative Gingivitis ANUG ●急性の非常に悪性の歯肉炎で宿主の全身状態の悪化 や抵抗力の減弱により発症する。 ● 1990代後半ごろから、AIDSやHIV感染者での発症率の 増加が問題になっている。
急性壊死性潰瘍性歯肉炎
a-1-2 Leptotrichia ●グラム陰性大型桿菌でフィラメント状,連鎖ー関節形成、非運動性 ●グラム陰性大型桿菌でフィラメント状,連鎖ー関節形成、非運動性 ●5%CO2で発育促進され,CO2添加で好気的にもわずかに発育 ●炭水化物(糖)を分解して主に乳酸を産生. ●非病原性で歯垢の主要構成微生物.L. buccalis1菌種のみ.
Fusobacterium Leptotrichia 並べて比較すると違いが歴然!
a-1-3 Porphyromonas 多形性グラム陰性嫌気性、糖非分解性桿菌 血液を利用 →protoporphyrinやprotohaem産生 →血液を加えた培地上で黒色色素産生
黒色色素産生性Bacteroides Porphyromonasは 以前に黒色色素産生性Bacteroidesと 呼ばれていた菌群の一部 →Prevotellaに分けられた
Porphyromonas gingivalis ●多形性の短桿菌 ●血液を含む培地上 →黒色〜暗褐色の特徴的なコロニー形成 ●やや耐好気性 →長期間空気に曝されても生存可能 ●重度の成人性歯周炎から頻繁に分離 →強い歯周病原性がある
P. gingivalisの病原性に 関わる因子 ① 付着因子 ●菌体表層の細い線毛;I~Vの5typeあり ●外膜由来の小胞体(vesicle) →局所の宿主細胞や赤血球への付着 →他の細菌との共凝集 線毛;比較的長く太い線毛と短い線毛があり、病原性も違う可能性ある
P. gingivalisの線毛 ↑
小胞体
P. gingivalisの病原性に 関わる因子 ② 莢膜 ●生体由来の食細胞;白血球、マクロファージの食作 用に抵抗 ●莢膜抗原 →遅延型アレルギー反応を引き起こす
莢膜は食細胞に抵抗する
P. gingivalisの病原性に 関わる因子 ③ タンパク分解酵素 ●コラゲナーゼ ●トリプシン様酵素;アルジンジパイン ●線維素溶解酵素 ● DNase ● RNase ● IgA分解酵素 ●アルカリフォスファターゼ
P. gingivalisの病原性に 関わる因子 ④ LPS;グラム陰性菌の外膜成分 lipopolysaccharide ●LPS には内毒素活性がある →発熱作用 →致死毒性 →シュワルツマン活性 →直接的・間接的な骨吸収作用 歯周炎
LPSの構造 コア多糖
P. endodontalis ● 最初に根管内から分離された ● P. gingivalisと違い、酸素に対する耐性がない →酸素に曝されると速やかに死滅 ● P. gingivalisにきわめて類似 →トリプシン様酵素活性 →羊赤血球凝集能が共に陰性 ●歯髄の感染や歯根膿瘍の原因
a-1-4 Prevotella 黒色コロニーを形成するもの この属にはPorphyromonas属と同様に血液を利用して protoporphyrinやprotohaemを産生して黒色あるいは 暗褐色のコロニーを形成するものとしないものが含 まれる 黒色コロニーを形成するもの
歯肉溝、歯周ポケット内から分離 される黒色色素を産生する Prevotella属 ●P. intermeida ● P. melaninogenica ● P. denticola ● P. loescheii
P. intermedia ●多形性の桿菌;短桿菌状ーフィラメント状 2-4日以内の培養→紫外線下でレンガ色の蛍光を 発する 2-4日以内の培養→紫外線下でレンガ色の蛍光を 発する ●炭水化物(糖)分解性あり ● Porphyromans gingivalisと同様に歯周病原性 がある ●女性ホルモン(プロゲストロン、エストラジオー ル)により発育が促進→妊娠性、思春期性歯肉炎 の原因となる
P. intermediaの病原性 ●特別なタイプでない歯肉炎 ●特別なタイプの歯肉炎 ・妊娠性、思春期性歯肉炎 ・急性壊死性潰瘍性歯肉炎
P. intermediaと P. nigrescens ●今まで、P. intermediaの中で菌株差があると考えら れていたが現在、P. intermediaとP. nigrescensの2つ の菌種に分けられた →P. intermediaの方が病原性が強い →P. nigrescensは健康な歯肉溝に多い 新しい菌種名;P. pallens
強いトリプシン様酵素活性を持ち、歯周ポ ケットからの分離頻度が高く、歯周病原性 があると考えられている。 a-1-5 Tannerella Tannerella forsythiaの病原性 強いトリプシン様酵素活性を持ち、歯周ポ ケットからの分離頻度が高く、歯周病原性 があると考えられている。 トリプシン様酵素活性;T. forsythia以外で陽性の菌種は Porphyromonas gingivalis;ジンジパイン Treponema denticola
a-2-1 Selenomonas ●弯曲した桿菌で菌体の凹面側のほぼ中央に束毛 →特徴的な運動 ●歯肉溝や歯周ポケットに常在 →特徴的な運動 ●歯肉溝や歯周ポケットに常在 →歯周組織の炎症とともに菌数が増加 ●病原性は不明
a-2-2 Centipeda ●菌体の2、3箇所で湾曲した桿菌 ●菌全体に長い鞭毛を持つ ●歯周ポケットから分離され、健康な歯肉溝か らは分離されない ●病原性は不明
(b) グラム陰性通性嫌気性桿菌 ●Aggregatibacter (Actinobacillus) ● Eikenella ● Capnocytophaga
b-1 Aggregatibacter Aggregatibacter actinomycetemcomitans ●学名が示すようにヒト放線菌症の病巣部から, Actinomycesとともに分離された細菌 →本菌が混合感染するとより重症・難治性化 ●ヒトの侵襲性(若年性)歯周炎の原因菌
b-1 Aggregatibacter Aggregatibacter actinomycetemcomitans の病原因子 外膜のリポ多糖(LPS)の内毒素活性 莢 膜による食菌作用からの回避 白血球毒素;ロイコトキシン:白血球の食作用に抵抗す るだけでなくマクロファージ傷害性もある。 CDT(Cytolethal distending toxin)毒素;細胞を膨化させ て傷害的に働く。 Fc結合性;IgG抗体のFcに結合し免疫反応を阻止する。
Aggregatibacter actinomycetemcomitans
b-1-2 Eikenella Eikenella corrodens ●寒天培地に食い込んで発育 ●成人性歯周炎との関連
b-1-3 Capnocytophaga ●CO2を好む ●寒天平板上を滑走して運動→gliding ●口腔内には C.ochraceae ●口腔内には C.ochraceae C.gingivalis C.sputigena
(c)らせん状および湾曲した細菌 ●Campylobacter ● Wolinella Treponemaも含まれるが、次回のその他の 微生物のところで説明
c-1 Campylobacter ●微好気性,湾曲,S字,鴎の翼状形態. ●菌体の一端,両端に1本の鞭毛 →コルク抜きのような回転しながら運動. ●炭水化物(糖)は全く利用しない. ●口腔に常在するのは C.sputorum C. concisus C. showae C. rectus C. curvus
c-2 Wolinella ●嫌気性 ●炭水化物(糖)分解性はない ●口腔内に常在するのは W. succinogenes
歯周病関連細菌 グラム陰性嫌気性桿菌 歯周病関連細菌のほとんどがグラム陰性嫌気性桿菌
歯周病関連細菌 グラム陰性嫌気性桿菌 嫌気性 ●Fusobacterium ●Porphyromonas ●Prevotella ●Tannerella ● Treponema 通性嫌気性;CO2要求性 ●Aggregatibacter (Actinobacillus)
患者間・歯周ポケット間で分離される細 菌に差があるが3大歯周病関連細菌を あげるとすると・・・ 3大歯周病関連菌 患者間・歯周ポケット間で分離される細 菌に差があるが3大歯周病関連細菌を あげるとすると・・・ ●Porphyromonas gingivalis ●Prevotella intermedia ●Aggregatibacter ( Actinobacillus ) actinomycetemcomitans
Red Complex(レッド・コンプレックス) 1996 年の世界歯周疾患ワークショップで歯周病原細菌として、P. gigivalis, P. intermedia, A. actinomycetemcomitansが重要な歯周病関連菌として認められた後、SocranskyらはP.gingivalis、Tannerella fosythensis にTreponema denticola を加えた3菌種をRed Complex(レッド・コンプレックス)と呼び歯周病と強く関連する菌として分類している。
Red Complex 口腔内に常在する数百種類の細菌を、歯周病への関連が高い順に分類し、ピラミッド状に模式図化したとき、Red Complexと呼ばれる3菌種(P.gingivalis、T. fosythensis にT. denticola )は、ピラミッドの頂点に位置し、重度の歯周炎に最も影響を及ぼしている。 SIGMUND S.SOCRANSKY,ANNE D.HAFFAJEE Dental biofilms: difficult therapeutic targets Periodontology 2000, vol.28,2002,12-55
ピラミッドの頂点に位置するRed Complex P.gingivalis T. fosythensis T. denticola
別の見方として特定の 病原性で; ● P. gingivalis;ジンジパイン ● Tannerella forsythia トリプシン様酵素活性 合成基質N-benzoyl-DL-arginine-2- naphlamide(BANA)分解活性を調べる事によっ て活性の有無を確認できる; BANA陽性 ● P. gingivalis;ジンジパイン ● Tannerella forsythia ● Treponama denticola
生態系の中で助け合う 歯周病原菌たち 生態系;環境とそこに棲む生き物 歯肉縁下の生態系は歯肉溝が環境、縁下の常在微生物が生き物 いったん歯周病原性の方向へシフトしたら、病原性が高まっていく
プレ・ポストテスト 10/30/12 正しいのはa,誤っているのはbにマークして下さい。 1 Fusobacterium nucleatumは急性壊死性潰瘍性歯肉炎の病巣部に多い。 2 急性壊死性潰瘍性歯肉炎は典型的な日和見感染症である。 3 Leptotrichia buccalisに歯周病原性はない。 4 Porphyromonas gingibvalisは最も歯周病原性が強い。 5 Porphyromonas gingibvalisは血液を要求する。 6 Porphyromonas gingibvalisは複数の歯周病原因子を持つ。 7 Porphyromonas gingibvalisのLPSの内毒素活性は高い。 8 Prevotella intermediaはバラエティに富んだ歯周病原性を示す。 9 Prevotella intermediaは女性ホルモンで発育が抑制される。 Tannerella forsythiaにはトリプシン様酵素活性がある。 11 Aggregatibacter actinomycetemcomitansは侵襲性(若年性)歯周炎の原因菌と考えられている。 Aggregatibacter actinomycetemcomitansは白血球毒素を持つ。 Aggregatibacter actinomycetemcomitansは細胞傷害性がある。