授業の内容 天文学は天体からの光を研究する学問です。 そこでこの授業では、「光」をどう扱うかの基礎を学びます。 授業計画は、 A.水素原子 B.エネルギー準位 C.熱平衡 D.線吸収 E.連続吸収 F.光のインテンシティ G.黒体輻射 H.等級 I.色等級図 J.光の伝達式 I K.光の伝達式 II L.星のスペクトル という順で進めます。 最後まで行くと、星のスペクトルがどんな仕組みで決まっているかが判る、 というのが目標です。 AからEまでは光の吸収に関係する物理の話です。Fでは光の強さをきちん と定義します。GからIは光の強さを天文学でどう使うかを示します。JからLは 光がガス中を伝わる様子を式に表わし、その式を解いて星のスペクトルを導き ます。それでは、始めましょう。 A: 原子のエネルギー準位
B 原子のエネルギー準位 今回の内容 (B.1) 原子のエネルギーレベル 原子内部の電子の状態が原子のエネルギーを定めます。 (B.1) 原子のエネルギーレベル 原子内部の電子の状態が原子のエネルギーを定めます。 (B.2) 電子配列 原子内の電子の軌道を一つづつ並べたリストを電子配列と呼びます。 ここでは、電子間の相互作用はまだ考えていません。 (B.3) 殻 (shell) と 特性X線 電子は低いエネルギー準位から詰め込まれていきます。一定の電子が 詰め込まれた時、エネルギー状態が閉じるので 「殻」 と呼びます。 殻と殻の間はエネルギー間隔が飛ぶので、その間を電子が遷移すると X線を放出します。 (B.4) 項 (term), 準位 (level), 状態 (state) 殻内の電子は相互に作用して、全体としてのエネルギー準位を作り出します。 それらを相互作用の順に、項、準位、状態と呼びます。 (B.5) 項 (term)と準位 (level)の例 天体のラインはどんな項、準位、状態から生まれてくるかを説明します。 C: 線吸収係数
B.1.原子のエネルギーレベル 原子のエネルギー準位には次のような特徴があります。 1).電子が一つ以上含まれるので、各電子の状態を指定する必要があります。 各電子の状態は、n = 主量子数(1,2、...) l = 方位量子数(0, 1, ...n-1, n) m = 磁気量子数 [ -l. –(l-1), ...(l-1), l ] ms =スピン磁気量子数 (-1/2, 1/2) で指定されます。 2).各電子が持つ角運動量 l 、スピン s をベクトル合成した値, L=l1 + l2 + l3 + ... S= s1 + s2 + s3 + ... がエネルギーに影響します。 3).L と S をベクトル合成した総角運動量 J = L + S もエネルギーに影響します。 影響の大きさは下へ行くほど小さいので、1),2),3) それぞれでグループ分けをしています。その名前と詳しい解説がここから、しばらく続きます。 A: 原子のエネルギー準位
エネルギーグループの名前 電子配列 原子に属する個々の電子がどんな軌道 (n, l) を占めているかを指定します。(n1,l1)、(n2,l2).、....(nk,lk) が決まります。しかし、互いの軌道間の関係は未定。 項 その電子配列の中で、 L=l1 + l2 + l3 + ... と S = s1 + s2 + s3 + ... が決まった状態です。 順位 L, S に加えて、総角運動量 J = L + S も決まった状態です。 状態 L, S, J に加えて、総角運動量 J のz成分Mまで決まった状態です。 名前 電子配列 項 準位 状態 (configuration) (term) (level) (state) 指定値 (n1,l1)(n2,l2)....(nk,lk) S, L S, L, J S, L, J, M 状態数 (2S+1)(2L+1) 2J+1 1 A: 原子のエネルギー準位
B.2.電子配列 (configuration) 原子内の電子軌道を、いくつかの量子数で指定します。 n:主量子数 (principal quantum number) 1, 2, 3, 4, ... l:方位量子数 (azymuthal quantum number) 0, 1, ..., n-1 m:磁気量子数 (magnetic quantum number) -l, -(l-1), -1, 0, 1, ...(l-1). l 主量子数 n の状態は殻(シェル、shell)とも呼ばれ、名前は下から K,L,M,...。 方位量子数lにも名前が付いています。l=0は s、l=1は p、l=2は d、... 主量子数 n 1(K) 2(L) 3(M) 方位量子数 l 0(s) 0(s) 1(p) 磁気量子数 m 0 -1 1 スピン ↑↓ 主量子数 n 3(M)(続き) 方位量子数 l 2(d) 磁気量子数 m -2 -1 0 1 2 スピン ↑↓ この先は、 n=4(N), 5(O),6(P)… A: 原子のエネルギー準位
同じnでも、l小(遠心力ポテンシャル低い)では中心付近にたまるので他の電子の遮蔽効果が弱くなり、エネルギーレベルが下がります。 ⇒ 経験的には、n+l(エル)がエネルギーレベルの目安になります。 (nl)レベルをエネルギーの低い順にならべると、 n l 1s 2s 2p 3s 3p 4s 3d 4p 5s 4d ……. n+l 1 2 3 3 4 4 5 5 5 ……….. 上の式は実際の原子の基底状態をよく表わしています。 H He 1s (1s)2 Li Be (1s)22s (1s)2(2s)2 B C N O F Ne (1s)2(2s)22p (1s)2(2s)2(2p) 2 (1s)2(2s)2(2p) 3 (1s)2(2s)2(2p) 4 (1s)2(2s)2(2p) 5 (1s)2(2s)2(2p) 6 A: 原子のエネルギー準位
(続き) (下線のあるCrとCuのところで飛びがあります) (続き) (下線のあるCrとCuのところで飛びがあります) Na Mg ..(2p) 6(3s) ..(2p) 6(3s)2 Al Si P S Cl Ar ….(3s)23p .. (3s)2(3p) 2 .. (3s)2(3p) 3 ….. (3s)2(3p) 4 ….. (3s)2(3p) 5 ….. (3s)2(3p) 6 K Ca …(3p) 64s …(3p) 6 (4s)2 Sc Ti V Cr Mn …(3p) 63d(4s)2 …(3p) 6 (3d)2 (4s)2 …(3p) 6 (3d)3 (4s)2 …(3p) 6 (3d)5 4s …(3p) 6 (3d)5 (4s)2 Fe Co Ni Cu Zn …(3p) 6 (3d)6 (4s)2 …(3p) 6 (3d)7 (4s)2 …(3p) 6 (3d)8 (4s)2 …(3p) 6 (3d)10 4s …(3p) 6 (3d)10 (4s)2 A: 原子のエネルギー準位
B.3.殻 (shell) と 特性X線 (characteristic X-ray) Kα線 一番内側、主量子数 n=1の電子の居場所をKシェル(K殻)と呼びます。 X線や電子線を浴びてKシェル(n=1)にある電子が叩き出されると、そこに上のLシェル(n=2) から電子が落ちてきます。この時、LシェルとKシェルのエネルギー差に相当するX線が放射されます。これをKα線と呼びます。Mシェル(n=3) からKシェルへの落下の場合はKβ線です。 また、Lシェル電子が叩き出されてそこに上のMシェルから落下した場合は Lα線と呼ばれます。以下同様。 Kα線 X線 Kシェル Lシェル A: 原子のエネルギー準位
Astrophysical Quantities より Kα線、Kβ線などのエネルギーは原子毎にきまるので特性X線と呼ばれます。特性X線のエネルギー(波長)を測ると何の原子から放射されたか判ります。 元素とその特性X線エネルギー Astrophysical Quantities より A: 原子のエネルギー準位
下の図は、ある土壌サンプルの蛍光X線スペクトルです。前頁の表を見て各ピークの元素を同定し、問題点を指摘して下さい。 A: 原子のエネルギー準位
Astrophysical Quantities より 元素とその特性X線エネルギー(2) Astrophysical Quantities より A: 原子のエネルギー準位
下は銀河が多数集まった銀河団を包む高温プラズマのスペクトルです。 前頁の表を見て、矢印の元素が何かを決めて下さい。 ISASホームページから引用 A: 原子のエネルギー準位
B.4.項 (term), 準位 (level), 状態 (state), k個の電子を持つ原子では、まずk個の電子状態のセットを指定します。 これが、電子配列(configuration)でした。 そのk個の状態から作られる合成角運動量をL、Sとした時に、共通のLとSを持つ状態の組を項(term)と呼びます。 総角運動量Jは、LとSのベクトル合成 J=L+S です。一般には原子のエネルギー準位はJの値により分裂します。これを、準位(level)と呼びます。 最後に、Jのz成分Mまで指定すると原子の量子状態は完全にきまります。これを状態(state)と呼びます。 この後の数ページは少し面倒ですが、頑張って乗り切りましょう。 名前 量子数 状態数 電子配列 ( configuration) (n1l1) (n2l2)………(nklk) 項 ( term ) (n1l1) (n2l2)………(nklk) SL (2S+1)(2L+1) 準位 (level) (n1l1) (n2l2)………(nklk) SLJ 2J+1 状態 ( state) (n1l1) (n2l2)………(nklk) SLJM 1 S= s1+ s2+ ……… + sk L= l1+ l2+ …. + lk J=S+L M=Jz A: 原子のエネルギー準位
人間で言えば、大学生(殻)、早稲田の学生(項)、早稲田大学教育学部生(準位)、早稲田大学教育学部学生中田好一(状態)と言うようなもんです。 人間で言えば、大学生(殻)、早稲田の学生(項)、早稲田大学教育学部生(準位)、早稲田大学教育学部学生中田好一(状態)と言うようなもんです。 名前 指定値 状態数 項(term) L,S (2L+1)(2S+1) 準位(level) L,S,J (2J+1) 状態(state) L,S,J,M 1 殻 multiplet line 合成軌道角運動量L=∑lの名前は、 L= 0 1 2 3 名前 S P D F 項(term)は 2S+1L の形で表記します。 (L,S) (2,0) (1,1) (0,0) 2S+1L 1D 3P 1S A: 原子のエネルギー準位
項 (Term)の決定 原子に属する電子は最低エネルギーの殻(shell)から順に埋めて行きます。埋められたシェル全体の総角運動量は L も S もゼロです。 L=l1+l2+l3+l4+l5+... ...+ lK-1 + lK L1=0 L2=0 S1=0 S2=0 この上の例では n = 1 のK殻に属する l1 と l2 の合成軌道角運動量L1も 合成スピンS1もゼロ、n = 2 のL殻も同様にゼロになっています。 内側の電子で埋められた殻は、全電子角運動量の和を計算する時には効かないことが判ります。ですから、L= l1+ l2+ …. + lk の計算をする時には、一番外側の埋まり切っていない殻に属する電子だけを考えればよいのです。 最外殻の電子から作る総軌道角運動量 L = Σ l と、総スピンS = Σ s が同じ値の原子をまとめて項 (term) と呼びます。 項は(n1l1) (n2l2)………(nklk) SL で指定されます。 L=Σl, S=Σs, J=L+S (LS結合) A: 原子のエネルギー準位
(A) 一番簡単なのは殻が閉じている場合、すなわち最外殻に電子が一個 もない場合です。原子としては、He, Ne, Ar などの希ガスです。 (A) 一番簡単なのは殻が閉じている場合、すなわち最外殻に電子が一個 もない場合です。原子としては、He, Ne, Ar などの希ガスです。 これらの原子の基底状態では、 L = Σ l = 0, S = Σ s = 0 となるので、 希ガス原子の基底状態の項は 2S+1L = 1S (B) 次に簡単なのは、最外殻にある電子が一個の場合です。前に 「経験的には、n+l(エル)がエネルギーレベルの目安になります。」 と述べました。この経験則に従うと、最外殻に最初に来る電子は l =0の s 電子です。このような原子を s 型原子と呼びます。 試みにリチウムを考えてみましょう。 リチウムの原子番号は3で、電子配列は (1s)22s です。 リチウムのK殻は 1s 電子2個で埋まっており、最外殻のL殻に 2s 電子が1個あります。ですから、L=0、S=1/2 です。 したがって、項の表記は、2S+1L = 2S A: 原子のエネルギー準位
では、同様の作業をナトリウムについてやってみましょう。 (1)原子番号は幾つですか? (2)電子配列を書いて下さい。 (3)最外殻の名前は何殻ですか? (4)最外殻にある電子の数とその(l,s) を書いて下さい。 (5)ナトリウム基底状態の (L, S) を書いて下さい。 (6)ナトリウム基底状態の項を書いて下さい。 リチウム ナトリウム A: 原子のエネルギー準位
(C) 最外殻に電子が二つの場合は話が少しややこしくなります。 2つの軌道角運動量lが異なる(不等価電子) 場合は、パウリの (C) 最外殻に電子が二つの場合は話が少しややこしくなります。 2つの軌道角運動量lが異なる(不等価電子) 場合は、パウリの 排他律が効かず、それぞれの電子の角運動量は自由に合成できます。 例として p電子(l=1)+d電子(l=2) の場合を考えると、 L=1+2 L=3 (F), 2(D), 1(P) S= 1/2+1/2 S = 1, 0 2S+1L = 1P, 1D, 1F, 3P, 3D, 3F (SとLの任意の組み合わせ) (D)しかし、通常の最外殻内の二つの電子は同じ軌道角運動量 l を有します。その場合は合成角運動量 L を計算する際に、パウリの排他律を考慮しなければなりません。 天文学では、最外殻に2個のp電子 (l=1)を持つ原子と、3個 のp電子を持つ原子が光吸収に関与することが多く、重要です。 最外殻にp電子を二つ持つ原子を一つ挙げて下さい。 最外殻にp電子を三つ持つ原子を一つ挙げて下さい。 A: 原子のエネルギー準位
最外殻に二つのp電子(l=1) を持つ原子の項( term ) ms(=1/2、-1/2) を同時に持つことが出来ません。この条件の下で どんな(L,S)の組み合わせが可能か、次のページでは少し変則的な やり方を紹介します。 二つの電子それぞれの角運動量の固有関数 φ1(l=1、ml、s=1/2、ms)とφ2(l=1、ml、s=1/2、ms)から、 総角運動量 L = l1+l2、 S=s1+s2 の固有関数 Φ(L、 ML、S、 MS )を作れば、問題が完全に解けたことになります。 しかし、とりあえずは固有値(L,S)が判るだけでも満足とします。 固有値(L.S)の固有関数はさらに角運動量のz成分、ML=-L, -(Lー1),...(L-1),L と MS=-S, -(Sー1),...(S-1),S A: 原子のエネルギー準位
の固有関数でもあります。そこで、先ほどのここの電子の固有関数の積 φ1(l=11、ml1、s1=1/2、ms1)φ2(l=12、ml2、s2 =1/2、ms2)もやはり ML=ml1+ml2、MS=mS1+mS2、の固有関数であることに注目します。 まず、可能な組み合わせを↑(ms=+1/2), ↓(ms= - 1/2) を使い表にし、各組み合わせの合成磁気量子数 MLと MS を書き込みます。 ↑↓ 2 0 ( 1, 1/2) ( 1, -1/2) ↑ ↑ 1 1 ( 1, 1/2) ( 0, 1/2) ↑ ↓ 1 0 ( 1, 1/2) ( 0, -1/2) ↓ ↑ 1 0 ( 1, -1/2) ( 0, 1/2) ↓ ↓ 1 - 1 ( 1, -1/2) ( 0, -1/2) ↑ ↑ 0 1 ( 1, 1/2) (-1 , 1/2) ↑ ↓ 0 0 ( 1, 1/2) (-1 , -1/2) ↓ ↑ 0 0 (1, -1/2) (-1 , 1/2) ↓ ↓ 0 - 1 (1, -1/2) (-1 , -1/2) ↑↓ 0 0 (0, 1/2) ( 0, -1/2) ↑ ↑ -1 1 ( 0, 1/2) (-1, 1/2) ↑ ↓ -1 0 ( 0, 1/2) (-1, - 1/2) ↓ ↑ -1 0 ( 0, -1/2) (-1, 1/2) ↓ ↓ -1 - 1 ( 0, -1/2) (-1, -1/2) ↑↓ -2 - 0 (-1, 1/2) (-1, - 1/2) ML =Σ ml MS =Σms ( ml ms) ml +1 0 ‐1 A: 原子のエネルギー準位
前頁の表から、p電子2個には計15個の独立な状態があることが判ります。L,Sの固有関数も計15個で、前頁15個関数の一次結合で表わされます。 Σ ml =MLの列を見ると、最大が2で、そのMS=0です。これは、L=2、S=0の状態が出来ていることを意味します。(L=1,0から、 ML =2は生じないし、L=3が出来れば、 ML=3があるはず。)そこで、L=2,S=0状態に寄与し得る関数に○をつけます。実際にはMs=0で、ML=2,1,0、-1、-2を一つずつ選びます。 ところで、( ml ms)= ( 1, 1/2) ( 1, -1/2) は(L、S)の固有関数でもあるので、(L,S)の次の固有関数を作る際にはこれはもう使えません。 残った中で(ML, MS)の最大値を探すと、 (ML, MS) =(1,1)があるので、L=1,S=1状態(X印)があることが判ります。そこで (ML, MS) =(1,1) (1,0) (1,-1) (0,1) (0,0) (0,-1) (-1,1) (-1,0) (-1,-1) となる ( ml ms) の9組に×印をつけます。 最後には(ML, MS) =(0,0)が一組だけ残ります。これはL=0,S=0を表わすと考えられます。 このようにして、 2個の等価p電子からは (L,S)=(2,0)、(1,1)、(0,0)の項が出来ることが分かりました。 (L,S)= (2,1)や(1,0)はできないのです。 A: 原子のエネルギー準位
以上のグラフ操作を下に載せておきます。 注意しますが、例えば上から3行目の φ1( 1, 1/2) φ2 ( 0, ー1/2)に○印がマークされているのは、この関数がL=2とS=0の固有関数という意味ではなく、 L=2,S=0, ML =1、MS=0を作る φ1( 1, 1/2) φ2 ( 0, -1/2)と φ1( 1, -1/2) φ2 ( 0, 1/2)の内から代表として一つ選抜されたということです。 ↑↓ 2 0 ○ 1D (L=2、 S=0) ↑ ↑ 1 1 × 3P (L=1, S=1) ↑ ↓ 1 0 ○ ↓ ↑ 1 0 × ↓ ↓ 1 - 1 × ↑ ↑ 0 1 × ↑ ↓ 0 0 ○ ↓ ↑ 0 0 × ↓ ↓ 0 - 1 × ↑↓ 0 0 △ 1S (L=0, S=0) ↑ ↑ -1 1 × ↑ ↓ -1 0 ○ ↓ ↑ -1 0 × ↓ ↓ -1 - 1 × ↑↓ -2 - 0 ○ Σ ml =ML Σms=MS ml +1 0 ‐1 A: 原子のエネルギー準位
(C)と全く同様にできます。例えば、p電子3個の場合、 3個 4S, 2P, 2D (D)3個以上の等価電子の場合 (C)と全く同様にできます。例えば、p電子3個の場合、 3個 4S, 2P, 2D となります。興味のある人はp電子2個と同じやり方を試して下さい。 4個 1D, 3P, 1S 5個 2P となります。面白いのは、p電子4個とp電子2個、p電子5個と1個が 同じ項を作ることです。なぜか、これも興味のある人は考えて下さい。 A: 原子のエネルギー準位
準位 (level) 前に示したように、項(term)では L と S が確定しています。ところで、L と S は足されて総角運動量 J ( = L + S ) を作ります。同じ項の中でも、J が違うとエネルギーレベルが少しずれます。 同じ J を持つ原子状態を 準位 (level) と呼びます。つまり、同じ L と S を持つ 項が、その中でJの違いによって準位へと分裂するのです。準位は、S,L,Jが指定され 2S+1LJ の形で表記されます。一つの項が幾つかの準位へと分裂することを微細構造(fine structure)と呼びます。 例: 2個の等価p電子の系 先にやったように、 2個の等価p電子の系は 1S, 1D 、3Pの項に分かれます。 L=0,S=0 ( 1S項)から出来る J は、J=L+S=0+0=0 のみ、 L=2、S=0 ( 1D 項)から出来る J は、J=L+S= 2+0=2 のみです。 L=1,S=1 (3P項) からは、J=L+S=1+1=2,1,0が存在します。 ですから、 1S項には一つ、 1D項にも一つ、 3P項には三つの準位があります。 それを図示すると、次ページのようになります。 A: 原子のエネルギー準位
(2p)2 最外殻に p電子が2個ある原子のエネルギー準位 電子配列 (configuration) MJ=2,1,0,-1,-2 MJ=1,0,-1 MJ=0 状態 (state) 3P 1S 1D 項 (term) 準位 (level) 1S0 1D2 3P2 3P1 3P0 各準位には J のz成分MJが異なる状態 (state) が 2J+1 個所属します。 しかし、MJは、磁場など方向性を持った場のある場所を除く、通常の空間ではエネルギー準位に関与しません。 最外殻に p電子が3個ある原子の場合も同様に扱えます。その説明はこの先の具体例で行いましょう。 A: 原子のエネルギー準位
ナトリウム D線 s型の原子Naの基底状態での電子配列は(1s)2(2s)2(2p) 6 (3s) です。 (1) Na基底状態のL と S はいくつですか? (2) Na基底状態の項(term) を書いて下さい。 (3) Na基底状態のJはいくつですか? (4) Na基底状態の準位(level) を書いて下さい。 (5) Na最外殻の3s電子が励起され、3p電子になった場合、その電子配列、 L、Sを書いて下さい。 (6) Na励起状態(3p)の項を書いて下さい。 (7) Na励起状態(3p)のJはいくつですか? (8) Na励起状態(3p)の準位(level) を書いて下さい。 (9) Naの基底状態と励起状態(3p)のエネルギーダイアグラムを描いて下さい。 (10) 各準位に属する状態(state)の数をダイアグラムに記入して下さい。 A: 原子のエネルギー準位
s型原子:アルカリ金属、Li, Na, K, Sc,..、のように閉殻の外にs電子が1つ付加。 B.5.項 (term)と準位 (level)の例 s型原子:アルカリ金属、Li, Na, K, Sc,..、のように閉殻の外にs電子が1つ付加。 電離エネルギーが低い。 存在比は小さいが、電離しやすいので、有効温度Te < 5000 K (K型より晩期 ) の星ではKとNa が電子の主な供給源です。 元素 Eion(eV) Li(2s) 5.4 Na(3s) 5.1 K (4s) 4.3 Rb(5s) 4.2 Cs (6s) 3.9 He Ne Ar H B Na Al Li K A: 原子のエネルギー準位
s型の例1:Na 配布資料はD1とD2が逆でした。直して下さい (1s)2(2s)2(2p) 6 (3s) 2S1/2 s型の例1:Na 配布資料はD1とD2が逆でした。直して下さい (1s)2(2s)2(2p) 6 (3s) 2S1/2 基底状態 3s電子 ――> L=0, S=1/2, J=1/2 2S1/2 第1励起状態 3p電子 ――> L=1, S=1/2, J=1/2, 2P1/2 ――> L=1, S=1/2, J=3/2, 2P3/2 2P 項(term) S=1/2, L=1 g=4 g=2 (3p) 2P3/ 2 準 位 (level) S=1/2,L=1,J=3/2 (3p) 2P1/ 2 準 位 (level) S=1/2,L=1,J=1/2 D line (multiplet) D2 line 5889 A D1 line 5896 A 2S 項(term) S=1/2, L=0 g=2 (3s) 2S1/2準 位 (level) S=1/2,L=0,J=1/2 A: 原子のエネルギー準位
Na D線の例 太陽スペクトル(岡山) D線スペクトル どっちがD1か判りますか? A: 原子のエネルギー準位
(s)型の例2: Ca II (Ca+イオンのこと) (s)型の例2: Ca II (Ca+イオンのこと) Ca II 基底状態の電子配列は (1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (4s) 2S その上に、 (1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (3d) 2D と (1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (4p) 2P がある。 (4p) 2P3/2 (4p) 2P1/2 (4s) 2S1/2 CaII triplet 8542 8498 8662 7291 7323 3933 K線 3968 H線 (3d) 2D3/2 (3d) 2D5/2 A: 原子のエネルギー準位
太陽スペクトル中の CaII H,K線 (岡山天体物理観測所) K線とH線の強度比に注目して下さい。 K 線はD2、H線はD1線に対応するのです。 A: 原子のエネルギー準位
メタル量が異なる星の CaII 三重線 (Olzewski 1991 より) この吸収線は星のメタル量(H,He以外の元素)を決めるのにしばしば使用されます。 M79 237 [Fe/H]=+0.06 NGC288 20C 47 Tuc 5312 Melotte66 1242 [Fe/H]=-1.70 M67 IV-202 A: 原子のエネルギー準位
(p)2型の例1:NII Ground -level = (1s)2(2s)2 (2p)2 3P (p)2型原子 (p)2型の例1:NII Ground -level = (1s)2(2s)2 (2p)2 3P (p)2 型 なので、 1D, 3P, 1S 項 (term) が出来る。 NII (2p)2 3070 3062 5754 6583 6548 22μ 76μ 1S0 1D2 3P2 3P1 3P0 A: 原子のエネルギー準位
(p)2型の例2:OIII (2p)2 1D, 3P, 1S 1S0 2331 4363 2321 1D2 5007 4959 3P2 52μ 88μ 1S0 1D2 3P2 3P1 3P0 A: 原子のエネルギー準位
惑星状星雲M57 リング内側は[OIII] ライン リング外側はHα+[NII]ラインで光っています。 外側の方が励起状態が低いのです。 A: 原子のエネルギー準位
(p)3型原子 (p)3型の例1: OII (2p)3 2P1/2 2P3/2 2D3/2 2D5/2 4S3/2 3726 3728 7330 7319 7329 7318 2470 A: 原子のエネルギー準位
(p)3型の例 2:SII SII (3p)3 2P3/2 2P1/2 2D5/2 2D3/2 4S3/2 6730 6716 10370 (p)3型の例 2:SII SII (3p)3 2P3/2 2P1/2 2D5/2 2D3/2 4S3/2 6730 6716 10370 A=0.08/s 10336 A=0.16/s 10320 A=0.18/s 10286 A=0.13/s 4076 A=0.09/s 4068 A=0.22/s A: 原子のエネルギー準位
オリオン大星雲 生まれたばかりのO型星による電離領域です。惑星状星雲と比べると、Hα線が強く、そのため星雲全体がバラ色に輝いています。この違いは中心星の温度、星雲密度が原因です。 A: 原子のエネルギー準位
では、同様の作業をナトリウムについてやってみましょう。 (1)原子番号は幾つですか? (2)電子配列を書いて下さい。 (3)最外殻の名前は何殻ですか? (4)最外殻にある電子の数とその(l,s) を書いて下さい。 (5)ナトリウム基底状態の (L, S) を書いて下さい。 (6)ナトリウム基底状態の項を書いて下さい。 11 (1s) 2(2s) 2(2p) 6(3s) M殻 1個 (0, 1/2) (0, 1/2) 2S リチウム ナトリウム A: 原子のエネルギー準位
ナトリウム D線 s型の原子Naの基底状態での電子配列は(1s)2(2s)2(2p) 6 (3s) です。 (1) Na基底状態のL と S はいくつですか? (2) Na基底状態の項(term) を書いて下さい。 (3) Na基底状態のJはいくつですか? (4) Na基底状態の準位(level) を書いて下さい。 (5) Na最外殻の3s電子が励起され、3p電子になった場合、その電子配列、 L、Sを書いて下さい。 (6) Na励起状態(3p)の項を書いて下さい。 (7) Na励起状態(3p)のJはいくつですか? (8) Na励起状態(3p)の準位(level) を書いて下さい。 (9) Naの基底状態と励起状態(3p)のエネルギーダイアグラムを描いて下さい。 (10) 各準位に属する状態(state)の数をダイアグラムに記入して下さい。 (1)L=0, S=1/2 (2) 2S (3) J=1/2 (4) 2S1/2 (5) (1s) 2(2s) 2(2p) 6(3p) L=1, S=1/2 (6) 2P (7) J= 1/2, 3/2 (8) 2P1/2 , 2P3/2 (9) 略 (10) g(2P1/2)=2, g(2P3/2)=4 A: 原子のエネルギー準位