土地利用規制・都市景観と住宅価格 -ヘドニック・アプローチ入門-

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土地利用規制・都市景観と住宅価格 -ヘドニック・アプローチ入門- 清水千弘(Chihiro SHIMIZU) 麗澤大学国際経済学部准教授 All Rights Reserved. Chihiro SHIMIZU 2007 cshimizu@reitaku-u.ac.jp

家計の立地選択 住宅の財としての特性 (1)必需性, (2)耐久性, (3)重要性, (4)多様性と住宅市場の薄さ, (5)生産における規模の経済性, (6)情報の非対称性, (7)取引費用の重要性, 金本(1997) リスク構造 不動産市場のリスク特性   →他の金融資産とのリスク構造の違いは   →高い取引費用・流動性

Ⅰ-1.住宅立地と地代 図表Ⅰ-1-二つのタイプの世帯での住宅賃貸料直線- 住宅賃貸料R(d) 立地地代 建築賃貸料 c raq 農業地代 CBD b 距離(d)

住宅立地のモデル:リカードの立地理論

住宅立地のモデル:リカードの立地理論つづき1

住宅立地のモデル:リカードの立地理論つづき2

Ⅰ-1.住宅立地と地代 図表Ⅰ-1-二つのタイプの世帯での住宅賃貸料直線- 住宅賃貸料R(d) R1(d) R2(d) 立地地代 建築賃貸料 c 農業地代 CBD m b 距離(d)

Ⅰ-2.ヘドニック・アプローチの理論的基礎 価格形成要因の変化に伴う住宅価格の変化

ヘドニックアプローチの理論的基礎

ヘドニックアプローチの理論的基礎.つづき

属性 に関する付け値関数,オファー関数,市場価格関数:上方バイアスの問題

環境価値が住宅価格に与える影響 キャピタリゼーション仮説 ・足による投票 ・with-without ・地方公共財の理論   ・足による投票   ・with-without   ・地方公共財の理論 環境価値の変化:外部経済・外部不経済 ・外部不経済(市場の中で取引されない価値)   ・騒音・大気汚染・緑の価値 ヘドニックアプローチ   ・経済理論と統計モデルの融合

環境質の変化と価格変化.経済理論的基礎

図表.環境質の変化と価格変化

ヘドニックアプローチによる:統計学の基礎

都市計画用途地域:1992年以前 「第一種住居専用地域」・・・(a) 「第二種住居専用地域」・・・(b) 「住居地域」 「近隣商業地域」 「商業地域」 「準工業地域」 「工業地域」 「工業専用地域」

都市計画用途地域:1992年以後 「第一種低層住居専用地域」・・・(a)-1 「第二種低層住居専用地域」・・・(a)-2 「第一種中高層住居専用地域」・・・(b)-1 「第二種中高層住居専用地域」・・・(b)-2 「第一種住居地域」 「第二種住居地域」 「準住居地域」 「近隣商業地域」 「商業地域」 「準工業地域」 「工業地域」 「工業専用地域」

用途規制の効果 民事訴訟や行政規制に応用可能性   ①土地利用規制(用途地域指定)   ②地区計画,建築協定,景観条例等や緑地・    公園の価値評価 →外部(不)経済の制御 →外部経済の誘導(市場の内部化)

ヘドニックアプローチが持つ問題 (同時方程式バイアス) ヘドニックアプローチが持つ問題        (同時方程式バイアス)

推計モデルの設定1 構造制約型モデル 構造非制約型モデル

データ 戸建て住宅価格 東京都区部23区(621平方キロメートル) 1986年1月から2006年12月までの約20年超  東京都区部23区(621平方キロメートル)  1986年1月から2006年12月までの約20年超 「週刊住宅情報」 掲載の戸建て住宅の価格情報・・・338,753件  (成約によって情報誌から抹消された時点の価格情報)

住宅品質に関するデータ 「都心までの時間:TT」 「最寄り駅までの時間:TS」「バス圏ダミー:BD」 「市場滞留時間:RT」 「土地面積(GA)」「建物面積(FS)」「前面道路幅員(RW)」 「建築後年数(AGE)」 「南向きダミー:SD」 「行政市区ダミー:LD」 「沿線ダミー:RD」 「時間ダミー:TD」

4.推定結果(構造制約型価格指数の推定) Adjusted R-Square: 0.689    Number of Observation: 340,754

「専有面積」「前面道路幅員」・・・正で推定 「土地面積」「建築後年数」「最寄り駅までの時間」「都心までの時間」・・・負で推定 指定容積率1%の増加は   戸建て住宅価格を0.008%押し上げる 指定建ぺい率1%の増加は 戸建て住宅価格を0.4%高くする 第一種低層住居専用地域に指定されることで,価格が1.2%高くなる

回帰係数の時間的変化-容積率

回帰係数の時間的変化:建ぺい率

回帰係数の時間的変化:第一種住居専用低層地域ダミー 第一種住居低層地域ダミー 回帰係数の時間的変化:第一種住居専用低層地域ダミー

いずれの変数においても,月ごとに   回帰係数が大きく変化 (日本の住宅市場は,取引が多い時期と薄い時期で倍以上の取引量の格差が存在するといった変動特性を持つことから発生するバイアス問題)  ただし,時間的にある方向性をもって変化していることが予想される

重複期間型モデル →ローリング回帰の応用

OPHM回帰係数の時間的変化 容積率:1986/01~2006/12

OPHM回帰係数の時間的変化 建ぺい率: 1986/01~2006/12

OPHM回帰係数の時間的変化 第一種住居専用地域ダミー:1986/01~2006/12

OPHMによる戸建て住宅価格指数: 1986/01~2006/12 価格変化と土地利用規制の変化 OPHMによる戸建て住宅価格指数: 1986/01~2006/12

戸建て住宅価格と回帰係数の変化(容積率):1986/01~2006/12

戸建て住宅価格と回帰係数の変化(建ぺい率):1986/01~2006/12

戸建て住宅価格と回帰係数の変化(第一種低層住居専用地域ダミー):1986/01~2006/12

重複期間型価格指数の推定 容積率の緩和   2003年以前⇒価格を押し上げる   2003年以後⇒価格を押し下げる 建ぺい率 の緩和   常に価格を押し上げる 第一種低層住居専用地域の指定

地域別効果の相違 容積率の地域別効果   ⇒地域によって正負が異なる 建ぺい率の地域別効果   ⇒おおよそ正で安定 第一種低層住居専用地域の地域別効果

分析まとめ1:時間的変化 パラメータは時間的に安定とはいえない 時間は1ヶ月ではなくて12ヶ月でパラメータは  安定 ・価格の変化と係数の変化は似た傾向を示す ・空間的にも安定ではない  →より詳細な検討が必要

土地利用規制が住宅価格に与える影響に関する効果の抽出 被説明変数:戸建て住宅価格 説明変数:土地面積,建物面積,最寄り駅や都心までの所要時間,築年数  +土地利用規制(用途地域・容積率・建ぺい率・棟数密度・地区計画,建築協定,緑地協定など)

敷地分割規制とLot Premia なぜ,敷地分割規制をするのか? 100㎡の土地の価値+100㎡の土地の価値= 200㎡の土地の価値????????? 3個のりんごの価値+3個のりんごの価値=6個のりんごの価値????? 1カラットのダイアモンドの価値+1カラットのダイヤモンドの土地の価値=2カラットの土地の価値??????

データ 対象:世田谷区 1995-2005年 取引価格 GISとリンクしてデータ作成   棟数密度,指定容積率,建ぺい率   地区計画,建築協定,緑地協定,   国分寺崖線地区(内外,周辺100m)   成城憲章地区,烏山環境地区   環7,環8 沿道(道路中心線から50m)

推定結果1(一部) 棟数密度:2次関数  容積率:3次関数で表現 つづく

推定結果2(一部) 地区計画内は低い

推定結果  実容積率=3という条件での敷地面積別の 仮想住宅価格 残差の空間分布

敷地分割規制 棟数密度を通じて価格が変化 個別:周辺の敷地面積がすべて200m2とし,同じ建物面積の建物がたっている住宅地において当該敷地のみ面積を変化させたときの戸建住宅の地価(円/m2) 地区:地区全体の敷地面積,建物面積が同一であるときのある戸建住宅の地価(円/m2)

敷地分割規制 「社会的ジレンマ」の解消 (個別) 150m2未満では単価が 高くなる→敷地分割の インセンティブがある. (地区) 敷地分割規制  「社会的ジレンマ」の解消 (個別) 150m2未満では単価が 高くなる→敷地分割の インセンティブがある. (地区) 平均敷地面積が小さく なると単価は下がる →みな敷地分割すると 価格は下がる! 個別:周辺が200m2を基準,実容積率=3

容積率の制限によって価格が上昇する領域が存在 地区計画を通じた容積率規制 容積率の制限によって価格が上昇する領域が存在

まとめ:実証分析 容積率・建ぺい率・都市計画用途制限は戸建価格に対して,強い影響を与える それぞれの効果は,時間により変化していく それぞれの効果は,地域により異なる →制度設計において,弾力的な運用が必要 敷地分割の効果は,個別行動の最適解と築全体の最適解が異なる. 地区計画を通じた容積率効果の相違