日本応用老年学会理事長 桜美林大学名誉教授 柴田 博

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日本応用老年学会理事長 桜美林大学名誉教授 柴田 博 2015年度 8割以上の老人は 自立している 日本応用老年学会理事長 桜美林大学名誉教授 柴田 博

「Gerontology」の命名 1903年 パスツールの後継者であるロシアの 学者メチニコフ(Metchinikoff)は 1903年 パスツールの後継者であるロシアの 学者メチニコフ(Metchinikoff)は gerontology(老年学) thanatology(死生学) の2つの用語を 生み出した 出典:Kastenbaum R : Gerontology. In : The Encyclopedia of Aging , Maddox GF etal(eds), Springer Publishing Company, 1987, P288-290

自然科学と社会科学 自然科学 社会科学 (マックスウェーバーなどの価値の中立性の考え方) 対象は外にある 自分が対象に含まれている ×      自然科学         社会科学       対象は外にある       自分が対象に含まれている   (マックスウェーバーなどの価値の中立性の考え方)   ○対象A  △対象B  ●対象D  自分 対  象 = × 対象C ▲対象E ()

哲学(方法論もふくむ)と個別科学 哲 学 哲 学 哲 学 哲 学 (物理学の武谷理論、経済学の宇野・黒田論争) 科 学 A 科 学 B      哲 学      哲 学    哲 学   哲 学   (物理学の武谷理論、経済学の宇野・黒田論争) 科 学 A 科 学 B 科 学 C 科 学 A 科 学 B 科 学 C

要素還元主義の考え方 集団 (国家、社会、家庭 e t c) ↓ ↓ 個人 (肉体、行動、ライフスタイル)       ↓ ↓    個人 (肉体、行動、ライフスタイル)      器官・組織 (脳、筋肉、骨 e t c)      細胞 (肝細胞、神経細胞 e t c)      分子 (遺伝子 e t c)      原子 洞 察

老年学とは何か 1 加齢変化の科学的研究 2 中高年の問題に関する科学的研究 3 人文学(Humanities)の見地からの研究 1 加齢変化の科学的研究 2 中高年の問題に関する科学的研究 3 人文学(Humanities)の見地からの研究    (歴史、哲学、宗教、文学など) 4 成人や高齢者に役立つ知識の応用       (Maddox et al eds:The Encyclopedia of Aging、1991) 5 世代間問題の研究 出典:柴田 博, 長田久雄, 杉澤秀博 編著, 『老年学要論 』建帛社(2007)

老年学の歩み(日米比較) 日 本 アメリカ 1942 アメリカ老年医学会(AGS) アメリカ老年学会(GSA) 1945 敗戦 日 本 アメリカ 1942 アメリカ老年医学会(AGS) アメリカ老年学会(GSA) 1945 敗戦 日本老年医学会 1959 日本老年学会 日本老年社会科学会 1965 Older Americans Act (高齢アメリカ人法) 東京都老人総合研究所 東京都養育院付属病院   (現:東京都健康長寿医療センター) 1972 1974 アメリカ国立老化研究所(NIA) 高等教育老年学学会(AGHE) 1988 長寿科学振興財団 2004 国立長寿医療センター

日本老年学会 (設立年月日 1959.11.7) ( )は私的研究会としてスタートした年月日を示す。会員数は2003年10月現在 会員数 設立年月日 日本老年学会への 加入日 日本老年医学会 6,400 1959.11.07 日本老年社会科学会 1,403 日本基礎老化学会 521 1981.05.15 (1977.02.02) 1981.10.16 日本老年歯科医学会 1,859 1990.09.29 (1986.09.13) 1991.11.03 日本老年精神医学会 2,451 1986.06.01 1999.06.17 日本ケアマネジメント学会 1,261 2001.07.14 2003.06.19 日本老年看護学会 954 1995.11.23 2009.06.17

~1960年代、老化は劣化である 老化の定義 普遍性 すべての人に起こる 固有性 出産・成長と同様に 進行性 後戻りはしない 普遍性  すべての人に起こる 固有性  出産・成長と同様に 進行性  後戻りはしない 有害性  能力も人格も悪くなる (ストレーラー 1962)

1970年代~ 1970年 デューク大学 「Normal Aging=正常老化」 1970年 ボーヴオワール「老い」 1970年 デューク大学        「Normal Aging=正常老化」 1970年 ボーヴオワール「老い」 1972年 東京都老人総合研究所(TMIG)設立 1974年 アメリカ国立老化研究所(NIA)設立

1980年代 1980年 フリーズの直角型の老化 1980年代全体に終末低下理論の発展 流動性能力=動作性能力 結晶性能力=言語性能力 1980年 フリーズの直角型の老化 1980年代全体に終末低下理論の発展 流動性能力=動作性能力 結晶性能力=言語性能力 1980年 シュロック:健康の正規分布モデル

高齢者の健康度(生活機能)の正規分布モデル 平均的高齢者 要支援 高齢者の健康度(生活機能)の正規分布モデル 出典:Schrock M.M : Holistic Assessment of the Healthy Aged, John Wiley & Sons, 1980

平均年齢が限界(85歳)にたっしたときの生存曲線 出典:Fries, J.H : N.Engl.J.Med., 303, 130, 1980.

流動性能力と結晶性能力の 生涯的変化 柄沢:1981年を一部改変

若年者と高齢者のタイプ能力の比較 19~72歳のタイピスト 高齢者は一定時間あたりのタッピング数,文字を見てからタイプするまで時間は遅くなる(マイナス効果) 高齢者は次に出てくる語に対する予測に鋭敏である(プラス効果)    結果として若年者と高齢者のタイプの    スピードに差はない 出典:Salthouse TA : Journal of Experimental Psychology : General 113:345-371,1984 17

バルテスの生涯発達理論 ピアニストのルービンシュタインの例 加齢に伴って指の動きが遅くなった (喪失) テンポにコントラストをつけることで早いパートが全体の中で早く感じるようにした(補償) 演奏する曲目を減らし(選択) 1つの曲を練習する時間を増やす(最適化) 若い時より円熟した演奏の質を確保

PEOPLE HELPING PEOPLE The Immunity of Samaritans Beyond Self In the body / mind economy. The benefits of helping other people flow back to the helper. New researcher shows that doing good may be good for your heart, your immune system and your overall vitality. By Eileen Rockefeller Growald and Allan Luks American Health, March, 1988 情(ナサケ)は他人(ヒト)のためならず 他人を助けることの自分の健康への影響を説いた論文

出典:柴田 博, 杉原 陽子, 杉澤 秀博:応用老年学 Vol.6: 21, 2012

1999年の総社会貢献時間と 2002年のアウトカム ADL障害レベル 認知障害レベル 死亡 有償労働時間 家庭内無償労働時間 奉仕・ボランティア時間 以上3つの活動総時間 1999年時点の年齢, 性, 教育年数, ADL障害レベル, 認知障害レベル, 慢性症罹患数を調整 ↓P<, 10   ↓↓<, 05    ↓↓↓P<, 01 出典:柴田 博, 杉原 陽子, 杉澤 秀博:応用老年学 Vol.6: 21, 2012

第2回世界高齢化会議 スペインのマドリードにて、160ヶ国4,000名が参加し、5日間開催された 2002.4.16  読売新聞 朝刊

(国際長寿センター理事長・山之内製薬元会長) 森岡茂夫氏 (国際長寿センター理事長・山之内製薬元会長) 室井摩耶子氏 (日本最高齢の現役ピアニスト)

桜美林大学老年学修士課程の構造 リハビリテーション 看護・ケア学 論文・成果のまとめ 老年医学 (基礎老化学をふくむ) 老年心理学     老年社会学 ヘルスプロモーション 福祉学 疫学・統計学 死生学 老年学方法論 政策科学 回想心理学  桜美林大学老年学修士課程の構造

日本応用老年学会 産官学民に老年学のコンセプトを 発展させ広げるためのセンター構想 民 学 産 官 (NPO、NGO、市民など) ↑↓ ↑↓ (大学、大学院、 日本応用老年学会 ↑↓ ↑↓ (各種企業など) 小中高などの教育) ↑↓ 官 (各省庁、地方自治体  など) 産官学民に老年学のコンセプトを 発展させ広げるためのセンター構想 (柴田 博ら:日本応用老年学会設立準備会,2006)

高齢者自身が高齢社会をアクティブに想像する社会へ!

序章 支えられる時代から、共に支え合う時代へ 1章 幸せな高齢社会の基盤、ウェル・ビーイング 2章 体の健康編 3章 心の健康編 4章 コミュニケーション編 5章 老化予防編 6章 生活編 7章 社会交流編 8章 地域活性化と新しいビジネス編 9章 介護予防編 10章 介護保険と介護編 11章 医療と年金編 12章 暮らしの安全・安心編

現在の老年学の概念 サクセスフル・エイジング 生涯発達理論 サードエイジ概念 ジェロトラセンデンス ‐長寿・生活の質・社会貢献‐      ‐長寿・生活の質・社会貢献‐ 生涯発達理論      ‐人格面 エリクソン マズロー‐    ‐能力面 バルテスなど‐ サードエイジ概念    ~19歳 20-49歳 50歳~ ジェロトラセンデンス    ‐超越的老化‐

  Pressey S L& Simcore E  「Case study comparisons of successful   and problem old people」         J. Gerontol 5:168-175 1950 533名の高齢男女、successとproblem, successの条件 1.社会的関心 2.活動性が高い 3.他人の役に立っている

サクセスフル・エイジングの条件 長寿 高い生活の質(QOL) 高いProductivity(社会貢献) 出典:柴田博,生涯現役「スーパー老人」の秘密,技術評論者 2006年

生活の質(QOL)の概念枠組 ① 生活機能や行為・行動の健全性(ADL、 手段的ADL、社会的活動など) ① 生活機能や行為・行動の健全性(ADL、    手段的ADL、社会的活動など) ② 生活の質への認知(主観的健康観、認知力、    性機能など) ③ 生活環境(人的・社会的環境、都市工学、    住居などの物的環境) ④ 主観的幸福感(生活満足度、抑うつ状態 など) Lawton WP: In the Concept and Management of Quality of Life in the Frail Elderly (Birren JE et al eds) pp4-27

Productive Behavior の構成要素 有償労働(自営や専門的仕事) 無償労働(家庭菜園、家政など) ボランティア活動 相互扶助 保健行動 (Self-care) Kahn R:J Am Geriat Soc 31:750-757,1983

学際的研究の構図 労働力率 人口学 加齢学 労働市場 QOL観 一人当たり 生産能力 労働価値観 景気 所得・年金 政策 経営者の評価 (マルクス,ヴェーバー,  宗教) 景気 所得・年金 政策 (ワーク・シェアリング等) 経営者の評価