行動障害心理学 第1回:行動分析の枠組み 望月昭

Slides:



Advertisements
Similar presentations
軽度知的障害児の 不適応行動改善の支援. はじめに 機能分析 3 項随伴性(弁別 - 反応 - 結果)に基づいて、 問題行動が対人関係の中でどのような機 能を持っているのかを分析する。 確立操作 強化子の効力を増大させるような環境の 変化。
Advertisements

第4章 何のための評価? 道案内 (4) 何のための評価? ♢なぜ教育心理学を勉強するか? (0) イントロダクション ♢効果的な授業をするために (1) 記憶のしくみを知る (2) 学習のしくみを知る (3) 「やる気」の心理学 ♢生徒を正しく評価するために ♢生徒の心を理解するために (5)
心理測定法 記憶③. 今日の予定 1.方法の工夫によって面白い成果を出 した有名な研究の紹介 2.動物実験 4.信号検出理論すこし.
進路説明会 伏見中学校 平成 25 年 10 月. 進路アンケート 県の PTA 連合会から依頼 実施日 平成 24 年9月 14 日に実施 対象 全生徒 回答数 563 人( 92 %)
第 2 章 子どもの成長・発達と看護 3. 幼児期の子どもの成長・発達と看護( 2 ) 学習目標 1 .幼児の睡眠と規則正しい生活の必要性を理解する. 2 .幼児の健康維持に対する取り組みとしての清潔行動確 立に向けた援助を理解する. 3 .幼児にとっての遊びの意義と発達を促すために必要な 遊びへの援助を理解する.
第 10 回:動物も考える? 学習心理学と比較認知心理学. 1 動物は「思考」するか? 大学生 107 人に聞きました ガは光があるとその方向に向かって飛ぶ 考えてる 考えてない その他
第5章 子どもは心をどのように 理解するか? 道案内 (5) 子供は人の心をどう認識するか 1 準備 (0) 授業を始める前に (1) 発達心理学とはどんな学問か? (2) なぜ発達心理学を学ぶのか? 2 知覚の発達 (3) 子供に世界はどう見えるか 3 認知の発達 (4) 子供はものごとをどう認識するか.
「バリアフリーの心理学」(望月) 配布資料(10/ )
販売行動を通した自発的コミュニケーションスキルの促進
「ストレスに起因する成長」に関する文献的検討
軽度の発達障害のある生徒さんへの 対応方法:
第5章 子どもは心をどのように理解するか?.
(1)行動分析学の基礎 「実験する」ことの意味
教育心理学 学習と認知プロセス 伊藤 崇 北海道大学大学院教育学研究院.
第3章 「やる気」の心理学.
2011応用行動分析(3)   行動分析学基礎 HP:望月昭のホームページ ブログ:「対人援助学のすすめ」
自律学習と動機づけ 教育心理学の観点から 2011/2/19 上淵 寿 (東京学芸大学).
重症心身障害児者等 支援者育成研修テキスト 3 福祉③ 遊び、こどもらしさ、保育
「存在の肯定」を規範的視座とした作業療法理論の批判的検討と 作業療法・リハビリテーションの時代的意義 田島明子
情報は人の行為に どのような影響を与えるか
(1)ノーマリゼーション、 QOL そして バリアフリー
行動分析学実習(大阪樟蔭09) (1)行動科学とは何か? 学習理論の流れの中での行動分析学
ギャンブルと脳と心理 2班 新川正明 名和田晃則 武山貢 毛利健人
子どもたちが発達段階に応じて獲得することが望ましい事柄
平成27年度 埼玉県障害者 虐待防止・権利擁護研修
● ブログ:「対人援助学のすすめ」  応用行動分析学11(1)  応用行動分析とは?      望月昭 ● ブログ:「対人援助学のすすめ」 ●HP:「望月昭のホームページ」
バリアフリーのための心理学 2010 (1)社会参加とはどういうこと? ブログ:対人援助学のすすめ
   応用行動分析学(5) (5)行動の原則を行動的環境心理学の研究から確認する.
R 対人援助に必要な心理学(対人援助学) 立命館大学 応用人間科学研究科 望月 昭 ブログ:「対人援助学のすすめ:日々是新鮮」
(7)テレビ電話機能の使用 その前に・・・基礎研究例
行動分析学実習(樟蔭Special-07) (1)行動科学とは何か? 学習理論の流れの中での行動分析学
第3章 学習のしくみを知る 効果的な授業をするために(2).
行動分析実習(7) もろもろ問題集 関連ブログ「行動福祉心理学
神戸大学医学部附属病院 リエゾン精神専門看護師 古城門 靖子
この授業のねらい 個人的問題から、社会的課題までを、 「行動分析学」(Behavior Analysis) の枠組みでとらえ、具体的な対策について発言提案・実践することができる。
(2)なぜ君は 「応用行動分析」を選ぶのか?
スポーツ経営学 第4回目 スポーツ経営学の特徴.
2011 行動分析学特論(2). 行動理論の歴史:パブロフからスキナーまで
2011 行動分析学特論(3) 行動の原則を行動的環境心理学の研究から確認する.
 08応用行動分析(その6)        基礎的内容その2 応用行動分析・行動分析学特論 共通資料 (^^);
認知学習論  ~学習とは何か~ 担当:今井むつみ.
2013 応用行動分析学(2)  行動科学・学習理論 そして     行動分析学 望月 昭.
行動障害心理学05 第4回:行動を減じるための伝統的 操作 消去・罰・分化強化
学習・行動理論 行動分析学のご紹介 (1)行動科学とは何か? 学習理論の流れの中での行動分析学
行動障害心理学05 第5回:機能分析を中心とした方法
教師にとっての「生の質」 青木直子(大阪大学).
(1)ノーマリゼーション、 QOL そして バリアフリー
大学生における援助要請行動の 調査研究.
心理科学・保健医療行動科学の視点に基づく
『組織の限界』 第1章 個人的合理性と社会的合理性 前半
【研究題目】 視線不安からの脱却に 影響を与える要因について
情報経済システム論:第13回 担当教員 黒田敏史 2019/5/7 情報経済システム論.
第7回:環境と随伴性を自らが変容する 行動の獲得とその援助: 1)「要求言語行動」(マンド)の獲得とその成立のための実践
第6回:環境と随伴性を自らが変容する 行動の獲得とその援助: 1)「要求言語行動」(マンド)の獲得とその成立のための実践
子どもの性格は生まれつき? ー性格の決定因と発達ー
第5回『Tsuku-場 フォーラム』アンケート集計結果
09応用行動分析(その6) 基礎的内容その2  09応用行動分析(その6)        基礎的内容その2 「対人援助学のすすめ」
「対人援助の方法」(対人援助学)としての応用行動分析の“応用”
アクティブ・シミュレーション の場としての大学 ①物理的資源としての大学 ②人的資源としての大学 ③情報蓄積資源としての大学
2011 行動分析学特論(4) 「思い」と「事実」の違い 強化、罰、の いったいどれを?
2011 行動分析学特論 (1)行動分析学と 対人援助(学)
Lecture2 体育・スポーツ経営とは p.16
2011 行動分析学特論(5) 問題行動への対処(1)消去、罰、分化強化
行動福祉学 来し方行く末 行動福祉学・対人援助学という コンテクスト 立命館大学 望月昭 HP:望月昭のホームページ
 10応用行動分析(その5)        基礎的内容その2 コメントは、以下のブログのコメント欄に ハンドルネイムでもいいですから・・・・
Ⅳ.生活支援コーディネーターが行うべきアセスメントと支援の視点
学生ボランティアを中心とした障害学生支援の課題 日本福祉大学における障害学生支援を手がかりとしての考察
2010応用行動分析(3) 対人援助の方法としての応用行動分析
   学習・行動理論   行動分析学のご紹介 (3)行動の原則を行動的環境心理学の研究から確認する.
Presentation transcript:

行動障害心理学 第1回:行動分析の枠組み 望月昭 mochi@lt.ritsumei.ac.jp    行動障害心理学   第1回:行動分析の枠組み 2005年度 前期 望月昭  mochi@lt.ritsumei.ac.jp 共通ミッション:「正の強化で維持される行動の選択肢の拡大」(覚えてね)

「本人もしくは周囲の人間がそれがなくなることを望んでいる慢性的な行動」 暫定的な定義として・・・・・ 「本人もしくは周囲の人間がそれがなくなることを望んでいる慢性的な行動」 1)ある行動の過多が典型的 2)ある行動の過少 3)慢性的ということは、現状環境の何かがそれを維持している =行動の問題である.=行動障害

行動分析(Behavior Analysis) 人間を含めた動物全体を対象として行動の原理が実際にどう働くかを研究する学問 (1)研究の対象は行動それ自体である。行動を通して心ないし意識や認知あるいは脳の働きなどを研究するのではない (2)行動に関するすべての出来事を、同一の理論的枠組みとできるだけ少ない共通の原理で分析する (3)行動の原因を、個体の内部にではなく、個体をとりまく過去および現在の外的環境のなかにもとめる      

行動分析的方法の第一の利点: ・職制としての専門性としてではなく、 日常的な(直接の)援助者、一般的、日常的な状況設定の中で「行動問題」に対処する。 ・問題となっている事、その事自体(「問題にする」のはなぜ)の背景を辿ることで抜本的理解をすることができる. →(狭い意味での)「行動療法」とは異なる。 参考:「精神疾患はつくられる:DSM診断の罠」  カチンス/カーク(日本評論社)

行動分析の枠組み 行動障害を考える上での基本フレーム 1)行動分析学の思想・志向 2)分析の枠組み

1)思想・志向 「罰なき社会」 B.F.Skinner(1990)      行動分析学研究、5, 87-96 1979年の日本における講演 日本心理学会で来日、慶応義塾大学での 名誉学位授与式におけるスピーチ

      不快で罰的なもの 0.ヒトを含めた動物は不快で罰的なものから   逃避する、という特性を持つ 1.自然的・物理的な随伴性の中にあるもの    →克服されつつある 2.社会的な随伴性の中にあるもの    →いまだに多い 罰と負の強化による行動の統制の最終的な結果は? →逃亡(例題:シートベルト) →反撃(counter control)罰による対抗

罰を他者に与える行動はなぜ維持されるか  本能ではなく「学習」による ●罰を用いた社会的行動:直後に強化を受けやすい(かつコストがかからない)  例: ・「罰」による相手の行動停止が、罰の執行者の即時的な「負の強化」になる ・嫌悪的(不快)刺激を前提とした(そむけば罰)行動統制は、即効性がある場合があるので、執行者の当該行動は強化を受けやすい

罰ではなく「正の強化」を用いる       行動修正法 1)(罰ほど)即効性はない 2)コストはかかる  (短期的に言えばの話) 3)長期的には効果あり

即時的な負の強化に対抗するには即時的な正の強化を配置する必要がある ●トークンなどの使用  →「買収」「即物的」といった批判   あり(古典的には「餌付け」) ●本来、「行動の達成」がなによりの 正の強化となりえる  →トークンはそれに至る手段 「正の強化」というのは手段ではなく、目的としなくてはならない。

あるいはトークンなどは、 「強化随伴性への感受性」を回復するための 「補充的」環境と考える トークン・エコノミー(精神病院で最初に使用) 批判:本来あるべき「権利」を剥奪され(食べ物、活動)、それを強化刺激として用いるのはいかん 「権利の剥奪」:「強化随伴性」(自らが行動する、強化を得る)を剥奪され、一方的に 「与えられている」(given)状態ではないか →Prison Blues

「人が人をコントロールすること」自体が良くない、という批判あり 現実には、われわれの日常は絶えず相互にコントロールする(される)という状況  罰や負の強化でコントロールされている場合に、われわれはネガティブな意味で「コントロールされている」と感じる 「正の強化」での生活できる随伴性を創る 「しなければならない」(罰・負の強化)から 「・・したい」(正の強化)→ 幸福感

2)行動分析の基本的枠組みとターム ★行動随伴性という枠組みで行動をとらえる ★行動を維持する2つの行動随伴性   「正の強化」「負の強化」 (行動を減じる操作:「罰」と「消去」) ★特定の刺激(事態)が持つ行動への強化の   効果を変化させる操作あり(確立操作) ★即時的行動随伴性と社会的相互作用(問題行動が絡むと「社会的悪循環」)

行動とは? ★「行動随伴性」という枠組みで行動を捉える 行動 行動 先行状況 行動 先行状況 結果状況 3点セットで「行動」をとらえる 2)分析の枠組み 行動とは? ★「行動随伴性」という枠組みで行動を捉える 行動 行動 先行状況 行動 先行状況 結果状況 3点セットで「行動」をとらえる 行動することで、環境変化が生じ行動に影響

「正の強化」と「負の強化」の特徴 ●正の強化:「好ましい結果」(一般的には)に よって行動が維持される → その行動や関連する事物が好ましい刺激と    なっていく。 → さらに多くの当該行動が出現していきやすい ●負の強化:「(一般的には)嫌悪的な状況からの逃避や回避」によって行動が維持される →その行動や関連する事物も嫌悪的になる可能性→嫌悪事態を避けるための最低限の行動が維持

行動の増大(維持)/減少をひきおこす二つの随伴性の手続き(強化/罰) 行動への効果で区別:「好ましい」はずなのに・・  反応増大(維持)   反応減少 刺激の出現   正の強化      正の罰* 刺激の除去    負の強化*     負の罰 *罰の効果:「天罰」しか効かない(?) **負の強化:逃避(escape)/回避(avoidance) それまで行動を維持していた強化を中止することで行動が減少していくこと・・・    消去

喫煙する行動 1)正の強化? 2)負の強化? 3)ある別の行動が正の強化を受けるための「強化事態」を作るための行動?

★ 即時的行動随伴性と社会的相互作用 「抱き癖」行動随伴性 赤ん坊の「泣く」行動 先行状況 抱かれていない 行動 泣く 後続状況 抱かれる  行動   泣く 後続状況 抱かれる 母親は、子どもの「泣く」行動を維持している 随伴性に気づいているかも知れない。 しかし維持している自分の行動を止めることができない

母親の「抱く」行動 先行状況  泣声あり  行動   抱く 後続状況 泣き声なし 一時的だが即時的環境変化 行動は、遅延する環境変化よりも、即時的な環境変化に影響を受けやすい

★社会的悪循環 「やめさせたい」と思っているのに、かえってやまらなくなってしまう相互的行動随伴性の状況 抱く 即時性が絡む 泣きやむ 泣く  抱く 即時性が絡む 泣きやむ  泣く ベッドに寝かせる

      「問題行動」 いやしくも「慢性的」になっているので問題視されている。 慢性的とは、当該行動が周囲との行動随伴性関係において「社会的悪循環」になっている場合が多い。 →つまり、「やめさせたい」という思いが強いがゆえに「やめさせられない」場合がある。 →あるいは、(実際には効果のない)「やめさせる行動」自体が他から強化されて、維持している場合もあるかも知れない。

Question: ●赤ん坊の「抱き癖」を停止するには? 1)赤ん坊の行動への操作(母親の対応): 2)母親の行動への操作(母親への対応):