寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp

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寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp Twitter: @aterao 日本心理学会第67回大会 ワークショップ WS049:回帰分析 はじめの一歩 指定討論 寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp Twitter: @aterao

自己紹介 数学教育への貢献を目指した研究 統計学教育を含む 学際的アプローチ 認知科学 心理学 脳科学(functional MRI)

統計学のエキスパートが回帰分析を教えてく入れたワークショップで,統計学の専門家ではない私ができる指定討論とは?? 統計学の学習あるいは教育という観点から,『回帰分析入門』についてコメントしたい. 『回帰分析入門』はすばらしい.しかし・・・

論点 統計学 and/or R の初心者が自学自習できるか? 本文および付録の数式が役に立つ学習者は,少ないのではないか? 高校数学+α の知識が必要.

『回帰分析入門』ここがオススメ! 統計学の初心者が手をつけられる.(第1章 大橋さん). 統計学の初心者が手をつけられる.(第1章 大橋さん). 高度な手法まで学べる.たとえば,打ち切りデータの回帰分析(第3章,久保さん),ロジスティック回帰分析(第7章,尾崎さん)など. 学習に R を利用できる.(スクリプトは付録) 付録で式の導出を参照できる. (統計学の用語に英語表記が添えられている.)

1.自学自習は可能か? 「はじめに」で述べられていること 理論の説明と R のスクリプトを完全に分離 理論がわかれば,スクリプトの理解は容易 理論とスクリプトを分けて学習する習慣はとても大切 「R の知識は前提としておらず,理論を理解すれば R の習得は容易である」 「まず理論を理解してから R のスクリプトを実行せよ」と言っているように読める.

しかしながら,同じ「はじめに」の中に,以下の記述もある. 登場する具体例は・・・ R を用い,読者自ら追計算することができます. R をいくらか知っているならば,R を使いながら理論の説明を読むという方法をとることができる. R の基礎は習得済みなので,学習に要する時間が短縮される. 一方で,R の知識を生かした深い学習が可能になる.

第2章「単回帰分析」(岩間さん)で,回帰係数の有意性検定の計算を追計算する. 数式中のシンボルの意味をきちんと読むことにつながるのでは.深い学習. n <- nrow(Pearson30data) sse <- sum((residuals(reg.result) - mean(residuals(reg.result)))^2) ssx <- var(Pearson30data$fheight) * (n - 1) b1 <- coef(reg.result)[2] t <- b1 / sqrt(sse/((n - 2) * ssx)) R の基礎を理解していれば,こうしたスクリプトをすぐに書くことができる.

初等的な統計学(半期2単位程度)と,R の基礎を知っていた方が,学習をスムーズに進められるだろう. 第1章を復習目的で読むことができ,R のやさしい入門書を学習したレベルの人(たとえば,『R によるやさしい統計学』の基礎編を学習済みの人). さらに,R の知識は,深い学習を可能にする.

R は,統計解析はもちろん,主体的で学習のための強力なツールとなる. SPSS は統計解析に使うもの. R は,統計解析はもちろん,主体的で学習のための強力なツールとなる. 式の記述力が高く,どのような途中計算も実行できる. モデルの変更やシミュレーションの実行が容易. ただし,深い学習を自発的に行うことのできる学習者は,あまり多くないだろう. 数式の意味をあまり考えない学生は多い.そうした学生が,式を吟味したり,追計算をしたりはしないだろう.

数式を扱う学習方略の問題 青山学院大学社会情報学部1年生必修科目「統計入門」 2009年度受講者68名

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シンボルの意味を理解することの重要性を教え,シンボル読解訓練を行った学生の,期末試験の答案.テキストで明示されているにもかかわらず,最初はこれらシンボルの意味を理解できていなかった. 寺尾敦 (2010). 認知カウンセリングによる統計学のテキストの自学自習支援と訓練. 青山社会情報研究,2,1-15.

2.数式は役に立つか? 付録での式の導出は,役に立つ学習者が少ないのでは? 例を2つ挙げる.

第3章「変数間の関係性を考慮した単回帰直線の当てはめ」(久保さん)での微分方程式.微分方程式の知識がある人にとってはあまりに基本的.知識がない人はお手上げではないか?

第5章「重回帰分析」(鈴川さん)ではじめて登場する,行列・ベクトルを用いた理論展開.線形代数の知識がないと読めない.(線形代数の知識があっても,とまどうかもしれない表記もある) 『共分散構造分析 [入門編]』での,行列・ベクトルの説明はもう少し丁寧.許されるページ数の制約だろう.

理論重視のテキストではあるが,数式を用いた解説部分を読むことのできる学習者が限られる. 対策は? 補足解説のウェブや書籍?

PRML 前半のキーポイントである2章から4章まで,そして後半の難関である9章と10章をカバーしています.出てくる数式を手抜き無しのガチンコで展開しつつ,それらを理解するのに必要な数学の道具(積分の変数変換,行列の各種操作)なども並行して解説するという作りになっています. (「まえがき」より引用)

線形代数の授業での,テキストの補足を行っているウェブページ(作成者:寺尾敦)

論点 統計学 and/or R の初心者が自学自習できるか? 本文および付録の数式が役に立つ学習者は,少ないのではないか? 高校数学+α の知識が必要.