M429(一部訂正2010.4.1) 医療と法律研究協会 シンポジウム 日本の医療をよりよくするために ドイツにおける審判制度と医療倫理 平成2008年7月5日 日本大学会館 東京医科歯科大学名誉教授 岡嶋道夫 okajimamic@hi-ho.ne.jp http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/ 2008.7.5. 岡嶋道夫
本日は審判制度、医療倫理という視点で、ドイツを見ることにしますが、同時に他の国にも目を転じてみます。 複雑な内容ですので、ご理解を容易にするため、最初に結論を述べます。 そして、それに至る過程を、いろいろな視点から眺めてみることにします。 ご多忙の方はスライド16~21の職業裁判所の判決だけでもご覧ください。 スライドNo.36、43、48、49、50は 11月に加筆訂正しました 2008.7.5. 岡嶋道夫
本日の結論 医師の倫理が論ぜられるとき、弁護士会の自律規範に相当するものが医師にはないと述べられ、医師集団には自己規制を行う自主性が欠けているという大変迷惑な印象を残して議論は終わっている。 処罰、免許や資格に制限を加える規制を行う場合には、弁護士法のような法律の拠所が必要となる。 医師はこのことに気づいていないのではないか。 高い医療倫理の求められる現在、自らを律することをせず、他者による処罰を受けているだけでは、医師は国民から真の信頼を得ることはできない。 もし、これに気がついたら、医師集団の責任者は、自律規範を可能にする法律制定を立法者に求めるべきであろう。 2008.7.5. 岡嶋道夫
(刑事事件一般、医師の義務・倫理違反に対して) ドイツの各種の審判手続 岡嶋作表 民事的 (医療過誤に対して) 民事裁判所: 裁判外紛争処理に不満足 裁判外紛争処理 (1975年から) 州医師会の鑑定委員会/調停所による調停 (Schlichtung、ADR、Arbitration) 重大なケースでは立証責任の転換(患者から医師へ)により患者に有利 となる制度もある(医師が過失のないことを立証しなければならない) 刑事的 (刑事事件一般、医師の義務・倫理違反に対して) 刑事裁判所 医師会の懲戒委員会 医師職業裁判所 医師職業規則(医師の憲法) 2008.7.5. 岡嶋道夫
医師職業規則(ドイツ医師会) ドイツでは医師職業規則は医師の憲法とも言われ、医師の義務と倫理を厳格に規定している。これによって倫理的な医師になることが義務づけられる。 これを守らなければ処罰の対象になる。 日本では倫理は明文化に馴染まない、という感覚。 日常の医療倫理の内容は常識的で、わざわざ明文化する必要はないと思う人が多いかもしれない。 ドイツと違い、それぞれの医師の自覚によって倫理的医師になってくれるのを期待する(祈る)しかない。 別の表現をすれば、性善説を信じなければならない。 しかし、明文化されていないために医師の質、医療の質、患者の安全が損なわれている。 2008.7.5. 岡嶋道夫
ドイツ医師職業規則の目次(2003年版) 規則の全文は: http://www. hi-ho. ne. jp/okajimamic/d129 ドイツ医師職業規則の目次(2003年版) 規則の全文は: http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/d129.htm §13 特殊な医療手続 §14 未出生の生命の保持と妊娠中絶 §15 研究 §16 死にゆく人に対する付添い IV. 職業的態度 1. 職業従事 §17 開業及び診療所従事 §18 支所診療所、診療所スペースの延長 §19 被雇用の診療所医師の従事 §20 代理 §21 賠償責任保険 §22 共同の職業従事 §23 勤務環境と医師 §24 医師業務の契約 §25 医師の鑑定書【意見書の意味も含む】と証明書 §26 医師の救急業務 誓約 A.序言 B.職業従事のための規定 I. 原則 §1 医師の任務 §2 医師の一般職業義務 §3 容認できないこと §4 生涯研修 §5 質の保証 §6 好ましくない医薬品作用の報告 II. 患者に対する義務 §7 診療の原則と行動規範 §8 説明の義務 §9 守秘義務 §10 記録作成義務 §11 医師の検査及び診療の方法 §12 報酬及び報酬の取り決め III. 特殊な医療手続と研究 2008.7.5. 岡嶋道夫
No.4 便箋、処方用紙、スタンプ及びその他の文通における記載 No.5 診療所内における患者への情報 No.2 診療所看板 No.3 広告と一覧表 No.4 便箋、処方用紙、スタンプ及びその他の文通における記載 No.5 診療所内における患者への情報 No.6 コンピュータ通信ネットにおける公共の呼出し可能な医師情報 II. 共同作業(共同体診療所、パートナーシップ、医学的協力共同体、診療所連帯) No.7 職業権利の保留 No.8 医師の職業従事共同体 No.9 医師及び他の専門職所属者との間の協力職業従事 No.10 その他のパートナーシップへの医師の関与 No.11 診療所連帯 III. 国境を越えた医療従事の場合の義務 No.12 他のEU加盟国におけるドイツ医師の診療 No.1 他の医師の情報 No.13 他のEU加盟国からの医師の国境を越えた医療従事 IV.特別な医学的状況における義務 No.14 ヒト胚の保護 No.15 人工受精、胚移入 2. 職業上のコミュニケーション §27 不許可の宣伝、職業従事に関する許可された客観的情報 §28 社会への貢献とメディア活動 3. 医師による職業上の共同作業 §29 同僚としての共同作業 4. 第三者と共同作業をする場合における医師の独立性の保証 §30 医師の第三者との共同作業 §31 報酬による患者斡旋は許されない §32 贈物及び他の便宜の受領 §33 医師と産業 §34 医薬品、療法、及び補助具の処方、推薦及び鑑定 §35 生涯教育とスポンサー C. 行動規定(医師の正しい職業従事の原則) No.1 患者との対応 No.2 診療の原則 No.3 医師でない共働者とのつきあい D. 医師の個々の職業義務に対する補充規定 I.職業上のコミュニケーションに対する規定、とくに職業業務に関する客観的情報の許容された内容 No.1他の医師の情報と範囲 2008.7.5. 岡嶋道夫
(2) 医師はその職務を良心的に行い、職務に関連して寄せられる信頼に応えなければならない。 (抽象的であるが裁判の時の重要な判断基準) 医師職業規則 重要な条文の例 §2 医師の一般職業義務 (1) 医師は、その良心、医師倫理の規則及び人間性に従って職務を行う。医師はその使命と相容れない、または従うことに責任を持つことのできないような主義を認めてはならないし、そのような規定や指示に従ってはならない。 (2) 医師はその職務を良心的に行い、職務に関連して寄せられる信頼に応えなければならない。 (抽象的であるが裁判の時の重要な判断基準) 2008.7.5. 岡嶋道夫
(3) C章に掲げた適切な医師としての職業従事の原則が、良心的な職業従事のために必要である。 (3) C章に掲げた適切な医師としての職業従事の原則が、良心的な職業従事のために必要である。 (4) 医師は、医師としての決定に関しては、医師でない者の指示に応じてはならない。 (5) 医師は、その職業従事に対して適用される規則についての知識を有していなければならない。 (6) 以下の規則で規定されている情報提供義務及び届出義務にかかわりなく、医師会が職業監視の法的任務を満たすために、医師宛に出した医師会からの照会に、医師は適切な期限内に回答しなければならない。 2008.7.5. 岡嶋道夫
医師職業裁判所 参審制 参審制というのは、特殊な専門領域の裁判において、その方面に詳しい民間人(ここでは医師)を名誉職裁判官として任命する(名誉職は無報酬、ボランティアを意味する) 二審制 第一審: 裁判官3名: 専門職裁判官1名、医師の名誉職裁判官2名(医師会が推薦し裁判所が選ぶ) 第二審: 裁判官5名: 専門職裁判官3名、医師の名誉職裁判官2名 2008.7.5. 岡嶋道夫
職業裁判所 Berufsgerichte Creifelds: Rechtswörterbuch法律辞典の解説 職業裁判所は個々の職能階級の懲戒裁判所で、それを純潔に保ち、職業の品位と相容れず、また職業身分の名声を害する行為を罰するためのものである。処罰は通常戒告、罰金さらには職業身分からの排除である。 2008.7.5. 岡嶋道夫
裁判所はその場合、確定した犯罪構成要件と結び つくものではなく、個々の行為をもたらした原因に よって処罰できる。 (後述の判例?) よって処罰できる。 (後述の判例?) 【わざわざこのように書いてあるのは、刑法の罪刑法定主義とニュアンスが多少 異なるのではないか?と法律の素人である訳者が勘ぐったのですが、質問した 二人の法律家は行政処分的なものであって、罪刑法定主義とは抵触しないとい う答でした。】 職業裁判所は現在通常裁判所(州裁判所、高等裁 判所)に設置され、裁判官である職業裁判官と、裁 判官でない職業代表者とによって構成される。 2008.7.5. 岡嶋道夫
通常裁判所で刑事訴訟が同時に係争中であるとき は、職業裁判所の手続は通常前者の判決が出る まで中断され、判決の出た後再開される。 手続は刑事訴訟法に合わせている。 通常裁判所で刑事訴訟が同時に係争中であるとき は、職業裁判所の手続は通常前者の判決が出る まで中断され、判決の出た後再開される。 職業裁判所の判決に対して第二審の職業裁判所 に控訴できる。 職業裁判所は、連邦法の規定で弁護士、公認会計 士、税理士、納税代理人に対して、 また州法の規定で医師、獣医師、歯科医師、薬剤 師に対して存在する。 2008.7.5. 岡嶋道夫
ドイツ医療職裁判所 判決集 2008.7.5. 岡嶋道夫
職業裁判所判決 医師職業裁判所とその判例は日本ではほとんど 紹介されていない。 なぜ見過ごされてきたのだろうか? 刑事裁判や民事裁判とは違った次元、つまり連 邦ではなく州に位置するために、医師や法学者 はその存在と重要性に気がつかなかった? 外国では医療過誤は刑事事件として扱われない と言われているが本当か? 2008.7.5. 岡嶋道夫
「医師職業裁判所判例集」からの判例 判例1(1991年): 救急業務 夜間の救急当番に当たっていた一般医が、救急受付センターから午前4時35分に急患の連絡。 夫からの電話: 妻は心臓疾患の既往はないが、呼吸と体を動かすことに関係のない胸部の痛み。 6時10分にも再度同様の電話連絡があったが、2度とも電話で指示を与えただけであった。 7時35分にその患者の家庭医が診て心筋梗塞と診断、その後心電図で確認されたというケース。 2008.7.5. 岡嶋道夫
職業裁判所は、このケースは心筋梗塞のような重篤な疾患を疑わなければならない状況であったのに、そのような判断をせず、患者や家族のために往診をしなかったことは義務に違反するとして、戒告と2000マルクの罰金を科した。 ドイツで開業されていた故柴田三代治医師によると「患者への処置を電話の指示で済ませることはできるが、私の場合は、初めての患者のときには、何があるか分らないので必ず往診して確かめることにしていた」とのこと。 2008.7.5. 岡嶋道夫
ある医師が救急箱に期限切の薬を入れていた。 診療室にも期限切の薬を多量に残しており、また錆びた器具を使っていた。 判例2(1999年):期限切の薬 ある医師が救急箱に期限切の薬を入れていた。 診療室にも期限切の薬を多量に残しており、また錆びた器具を使っていた。 その医師は「良心的な職業従事」の義務に違反したと判断され、1500マルクの罰金を科せられた。 判例3(1997年):ひき逃げ 医師が歩行者をひき逃げして死なせてしまった。 刑事裁判では、10ヶ月の実刑と3年の運転免許停止の併科。 そして医師職業裁判所は、ひき逃げしたときに救急処置をする医師としての義務を怠ったということで5000マルクの罰金を科した(通常裁判所からはみ出した部分として処罰される)。 2008.7.5. 岡嶋道夫
研修医が外科の専門医の認定を受けるために提出した手術のリストに、自分が執刀していないケースを、自分が執刀しているかのように書き込んだ。 判例4(1984年):不正確な研修証明書 研修医が外科の専門医の認定を受けるために提出した手術のリストに、自分が執刀していないケースを、自分が執刀しているかのように書き込んだ。 外科の部長医は医長の言葉をそのまま受けて、病院の証明として提出した。 職業裁判所は研修医に罰金2000マルク、外科部長医にはリストを抜き取り検査もしなかったということで罰金8000マルクを科した。 しかし、第2審で部長医の罰金は2000マルクに減額された。 2008.7.5. 岡嶋道夫
医師職業裁判所と刑事・民事裁判所との関係 判決集から拾ってみると 誤診(1993): 産婦人科医。帝王切開のあと腹膜炎となる、患者が入院を希望したが、病院への転送の手配が遅れたため手術したが手遅れで死亡。 刑事裁判所と医師職業裁判所の両方で罰金。 医療過誤(1985): サッカー後の膝の挫創で穿刺、敗血症を引き起こして死亡。 民事裁判所で医療過誤があったと判断し、損害賠償を認めた。 医師職業裁判所では無罪の判決が下されたが、州医師会が控訴したため、戒告と罰金が科せられた。 2008.7.5. 岡嶋道夫
このように、医療過誤であっても刑事事件になることがあり、基本的な能力に欠陥があれば処罰の対象になる。 しかし、失敗程度であれば処罰されない。 その場合の医療過誤は、患者側からの訴えで裁判外紛争処理Arbitrationで扱われ、過誤と認定されれば損害賠償、慰謝料の請求が認められ、患者の権利が確保されている。 不満であれば民事裁判所に提訴。 裁判外紛争処理の制度は30年の歴史を有し、大きな成果を挙げている。 2008.7.5. 岡嶋道夫
義務違反に対する処罰規定 弁護士 医師 ドイツ 連邦: 連邦弁護士法 州: 医療職法 日本 国: 弁護士法 なし 医道審議会は性格 が異なる 連邦弁護士法 州: 医療職法 日本 国: 弁護士法 なし 医道審議会は性格 が異なる 2008.7.5. 岡嶋道夫
義務違反に対する制裁プロセス (不適切な用語表現があるかもしれません) 弁護士 医師 ドイツ 会長の注意 弁護士会理事会:非難権 懲戒委員会 医師会理事会:非難権 弁護士裁判所: 控訴:弁護士上訴裁判所 上告:連邦通常裁判所 医師職業裁判所: 二審制 (それ以上の上告はない) 日本 弁護士会綱紀委員会 弁護士会懲戒委員会 不服:日本弁護士連合会 不服:東京高等裁判所 医道審議会 刑事の確定判決後の行政処分が主で、初動的事実関係調査などの能力に欠ける 2008.7.5. 岡嶋道夫
制裁の種類 弁護士 医師 ドイツ 日本 理事会、懲戒委員会: 制裁の種類は不明 州によって異なるが一例を示すと、 注意 戒告 制裁の種類は不明 州によって異なるが一例を示すと、 注意 戒告 2,500ユーロまでの罰金 弁護士裁判所 けん責 25,000ユーロまでの罰金 1年~5年の活動禁止 弁護士職からの排除 医師職業裁判所: 被選挙権の剥奪 50,000ユーロまでの罰金、 職業を行う資格なしという決定(免許剥奪) 日本 第五十七条 次の四種とする 2年以内の業務停止 退去命令 除名 ― ― ― ― ― ― 2008.7.5. 岡嶋道夫
ノルトライン医師会の処分 件数 人口 約1000万 現役医師数 約35,000 会長注意 理事会戒告 罰金 医師職業裁判所へ 手続開始依頼 ノルトライン医師会の処分 件数 人口 約1000万 現役医師数 約35,000 2001 2002 2003 2004 2005 会長注意 36 28 20 理事会戒告 15 8 27 13 罰金 2000~5000マルク 21 37 9 48 25 医師職業裁判所へ 手続開始依頼 26 17 31 30 合計 98 97 76 141 89 2008.7.5. 岡嶋道夫
諸外国の職業倫理規則 多くの国は総ての医師に対して拘束力のある職業倫理規則を持っている。 日本も医の倫理については強い関心を有しているが、これに拘束力を持たせることには消極的である。 もし、日本の医療倫理の確立を目指すとしたら、諸外国の制度を詳しく調べて検討するところから始める必要がある。 これは労力と費用のかかる大きなプロジェクトになるだろう。 2008.7.5. 岡嶋道夫
職業倫理規則の一例 医師が習熟していない治療法を試みて患者に被害を与えたとき、医師専門職団体として、どのように考えたらよいか 職業倫理規則の一例 医師が習熟していない治療法を試みて患者に被害を与えたとき、医師専門職団体として、どのように考えたらよいか 外国の医師職業倫理規則を眺めてみると、 「医師は常に自分の能力の限界を知らなければならない、能力の限界を超える時は他の人に依頼しなければならない」 という趣旨の規定が存在することに気がつく 2008.7.5. 岡嶋道夫
ドイツ: 英国: 医師職業規則(2003年版) ドイツ医師会 C. No.2 診療の原則 医師職業規則(2003年版) ドイツ医師会 C. No.2 診療の原則 自分の能力が診断及び治療の任務を解決するに至らないときは、適切な時期に他の医師に紹介する 英国: Good Medical Practice (2006) General Medical Council(GMC) 3. 医療を行う場合のあなたの義務は: (a) 自分の能力の限界を認識し、その範囲内で従事する 2008.7.5. 岡嶋道夫
フランス: 医師倫理規則 1995年9月6日付政令第95・1000号 第70条. どの医師も、原則として、診断、予防および治療の全ての行為を実施する資格を有する。但し、例外的な状況を除き、医師は、自分の知識、経験および手段を超越する分野で治療を予定したり継続したり、処方を決めてはならない。 スイス: 医師会職業規則(1997年) Art.15 医師の給付能力の限界 医師は自分の能力の限界及び可能性を自覚しなければならない。医師は、患者のために必要であれば、対診の医師、他の医療職従事者または社会サービスを呼ぶ。医師は全ての関与者の良き共同作業に努力する。 2008.7.5. 岡嶋道夫
日本: どのように答えたらよいだろうか? カナダ: 医師会 倫理綱要1994 医師会 倫理綱要1994 4. 自分の職業上の限界を認識し、望ましい場合には、追加の意見やサービスが受けられるように患者に勧める; 日本: どのように答えたらよいだろうか? 上記諸国のような拘束力のある規則はないが そんなこと常識で分っている! でよいだろうか? 2008.7.5. 岡嶋道夫
任意後見人の医師に遺贈…元患者から数億円倫理面で異論も (読売新聞08/01/29から) 任意後見人の医師に遺贈…元患者から数億円倫理面で異論も (読売新聞08/01/29から) 私立大学病院の医師が、元患者の女性と任意後見契約を結び、遺言により数億円に上る全財産を譲り受けていた。 医師は代理人を通じ、「法的にも倫理的にも問題はなく、遺志を尊重し、すべてを大学の研究などに寄付する」と回答。 医師の代理人弁護士によると、医師は女性が入院した際に担当医の一人として転院先や生活上の相談に乗る中で親しくなり、女性の後見人になるよう任意後見契約を結び、遺言公正証書を作成した。医療行為に基づく謝礼ではない。遺贈は女性本人の遺志に基づくもので、法的にも倫理的にも問題ない。 2008.7.5. 岡嶋道夫
私たち医療者の考えは? 女性の親族は、「患者の医師に対する信頼を悪用した行為で、医師の倫理に反する」と反発。 医師の所属する大学は、「医師と女性の個人的な問題で、一切関知しない」とコメント。 第三者の後見人を遺贈相手に選ぶケースについて、法務省は「本人の意思なら法的に制限することはできない」(民事局)としているが、司法書士や社会福祉士らの組織は「立場の悪用を疑われかねない」として、正規の報酬以外の金品受け取りを禁じている。 「成年後見センター・リーガルサポート」のM専務理事は「たとえ遺贈が本人の遺志でも、後見人を業務として引き受けたことも併せて考えると、倫理上問題だ。任意後見制度の信頼を揺るがす」と。 私たち医療者の考えは? 2008.7.5. 岡嶋道夫
遺贈に関連する倫理規定 フランス: 医師倫理規則 (1995年) フランス: 医師倫理規則 (1995年) 第52条. 病気で死亡した患者の治療にあたっていた医師は、法律が定めるケースおよび条件以外に、病気中に患者が自分のために行った生前処分ならびに遺言書の規定から利益を得ることはできない。 医師は、自分にとって異常に有利となるような条件で一任を取りつけるため、または有償契約を取り交わすため自分の影響力を濫用してはならない。 イギリス: GMC Good Medical Practice (2006) 72(c) 登録医は自己の直接あるいは間接の利益につながる金銭、物品等の贈与、貸与あるいは遺贈を患者から受けるべく誘導してはならない。 2008.7.5. 岡嶋道夫
スイス: 医師職業規則(1997年7月1日) Art.38 贈物の受領 スイス: 医師職業規則(1997年7月1日) Art.38 贈物の受領 たとえ患者または第三者からであっても、医師にその医師としての決定に影響を及ぼす可能性があり、また通常の小さな感謝を超えるような贈物、死因処分(遺言と相続契約の総称)、または他の利益の受領は許可されない。 2008.7.5. 岡嶋道夫
このような倫理的判断は法律の上のレベルの問題である ブラジル:医学倫理法規(1957年9月3日)法律第3268号 (古い規則だが、日本医師会雑誌掲載) 第5条 医師は次のことが禁じられる c) 施行した医療行為に相当しない利益や報酬を受けること ドイツ: 医師職業規則には遺産、相続の規定はないが、報酬や謝礼に関する厳しい規則 このような倫理的判断は法律の上のレベルの問題である 2008.7.5. 岡嶋道夫
日本の医師は自らを律することをしない 医師組織は、医師の不祥事が発生したとき自らを律することをしない 医師組織は、医療の質の向上のために自らを義務づける行為をしない どうしてできないのか その根拠となるべき職業規則もないし 日本医師会の「医師の職業倫理指針」は拘束力のある規則ではない 自律規範を機能させる審判機構もない 職業規則や審判機構を作るという意識を欠いている 2008.7.5. 岡嶋道夫
弁護士は自律規範を満たしているのに そこで何時も引き合いに出されるのが弁護士 弁護士は弁護士法という国の法律で自律規範を義務づけられ、戒告から除名にいたるまでの処分を行っている 一方、医師はこのような自律規範、自浄能力を持たないと、いつも指摘されている そして、あたかも医師会が怠慢であるかのような印象を残して議論は壁に突き当って終っている これは真面目な医師にとって迷惑な誤解である 医師は自律規範を作りたくても作る術を知らない 2008.7.5. 岡嶋道夫
自律規範を確立するには、どうしたらよいか 弁護士法と同様に自律規範を法律で規定し、委員会に戒告、免許の停止・取消などの権限を与える。 今の医師会のような任意団体のままでは、そのような権限を行使することができない。 ドイツの医療は連邦でなく州の管轄 州医師会は医師の自治組織であるが公法人 組織や任務は州医療職法で規定されているが、 実質的内容は医師がその良心に従って決定する ドイツの法制度を眺めてみる 2008.7.5. 岡嶋道夫
義務違反に対する処罰規定 弁護士 医師 ドイツ 連邦: 連邦弁護士法 州: 医療職法 日本 国: 弁護士法 なし 医道審議会は性格 が異なる 連邦弁護士法 州: 医療職法 日本 国: 弁護士法 なし 医道審議会は性格 が異なる 2008.7.5. 岡嶋道夫
医師会、歯科医師会、薬剤師会、獣医師会、精神療法士会に共通 州医療職法の目次から 医師会、歯科医師会、薬剤師会、獣医師会、精神療法士会に共通 第1章 医師会、歯科医師会、薬剤師会、獣医師会、 精神療法士会(1998年に新しく追加された) §6 任務 第2章 職業従事 §31 職業規則の公布 第3章 卒後研修 第4章 一般医学の専門教育 第5章 責問権 (医師会などの懲戒委員会) 第6章 職業裁判権 (医師などの職業裁判所) 2008.7.5. 岡嶋道夫
§6 任務 (1) 医師会(など)の任務 1.監督官庁の要請により意見を述べる、並びに監督官庁の要請により専門的意見を述べ、専門の鑑定を行うために専門家を指名する 2.公的保健医療業務と公的獣医業務の任務を満たすことを支援する、 3.診療時間外における医師及び歯科医師の救急業務を確保して公示し、並びに救急業務規則を公布する、 4.保健医療及び獣医制度の質の確保並びにカンマー所属者の職業上の生涯研修を促進、及びこの法律に準拠した卒後研修を規定すること並びにカンマー所属者の付加資格取得を証明する、 2008.7.5. 岡嶋道夫
5.高度の職業的社会身分を保つように配慮し、カンマー所属者が職業義務を満たすことを監督する;このために行政行為が許される、 6.カンマー所属者の職業上の利益を擁護する、 7.カンマー所属者相互の順調な関係のために配慮し、職業従事から発生したカンマー所属者同士の間、並びにそれと第三者との間の争いを、カンマーとして扱えるレベルのものであれば調停をする、 8.監督官庁の同意を得たケースにおいて、診療過誤の鑑定のための部署を設立する (裁判外紛争処理の規定) 2008.7.5. 岡嶋道夫
ドイツの医師会は医師の自治組織であるが、 その任務である職業規則の公布と審判機構は 法律で規定されている 9.カンマー所属者とその家族に対する特別規定により、福祉施設及び監督官庁の許可を得て年金施設を設置する、 10.氏名、専門科称号、専門分科称号、付加称号及び住所を付したカンマー所属者の届出とその取消は、職業従事地域を管轄する郡長または市長 - 保健局/獣医局 - に伝える。同じことは§3 (2) による届出にも適用される。 11.カンマー所属者に証明書を公布する。 ドイツの医師会は医師の自治組織であるが、 その任務である職業規則の公布と審判機構は 法律で規定されている 2008.7.5. 岡嶋道夫
「医療をよりよくする」ための自律規範の例 ドイツの生涯研修の罰則付義務化 生涯研修は医師職業規則で義務化されていたが、 これを徹底するために、ドイツ医師会は3年間の試行を行った後、2004年から罰則付とした 5年間に250点の研修が義務化された(1点は1時間の講義に相当) 少人数で自らも発言するような研修に重点を置く 州医師会のホームページと医師会雑誌を開くと多数の研修プログラムが羅列 2008.7.5. 岡嶋道夫
医師会が研修を認定し、出席の点数を管理する。250点の条件を満たすと証明書を発行 条件を満たさないと保険医協会が罰則を科す 250点取らないと6年目の診療報酬を10%削減 6年目の終りに300点取っていないと削減が25% 7年目の終りになっても350点を取得していないと、保険医協会が開業認可を取り消す この義務化と罰則は、公的医療保険法のなかに§95d として書き加えられた(法律を拠所に)。 2008.7.5. 岡嶋道夫
自律規範に関連すること 弁護士のI氏は英国滞在中にGMC(General Medical Council) の医師審査を傍聴する機会を得たが、「厳しさは刑事裁判と同じであった」と、その時の印象を手紙に書いてくださった。 米国では州の免許委員会が免許の付与、免許や資格の制限、取消などの懲戒を行うが、峯川浩子(2005)によると、州の法律で委員会の任務が規定されている。多くの州では、委員会は主務官庁から独立した形で委任されており、委員会は医師と市民で構成され、自己規制の形態をとっているという。 2008.7.5. 岡嶋道夫
結論 医師の自律規範、自浄作用を手をこまねいて待っているだけでは、百年河清を待つことになる。 機能させるには、今述べてきた弁護士法や諸外国の例のように法律で規定することが必要。 このことはどなたも意識していない? それとも避けてきた? 現在問題になっている第三者機関、事故調査委員会の議論などでは、事実関係究明、事故防止、補償、謝罪が論じられている。自律規範の語は時として出てくるが、漠然としたままである。 2008.7.5. 岡嶋道夫
医療過誤の犯罪扱いは不適切であるが、医師の責任を問われても仕方ない事例は少なくない。 他者からの追求に不満を述べているだけでは、何時までたっても国民から信頼されない。 過去と違って医療が高度化した現在、自律規範が機能して医学的に正しい判断を下さない限り、民事裁判や刑事裁判で医学的に非条理な判断によって痛めつけられても仕方ないと自覚すべきではないだろうか? 2008.7.5. 岡嶋道夫
もし以上の内容に納得していただけるなら、 提案 もし以上の内容に納得していただけるなら、 医師職能団体は医師職業倫理規則を作り、 これに拘束力を与え自律規範を可能 にするような法律を作ることを、 立法者に対して求める行動を 起すべきではないでしょうか 2008.7.5. 岡嶋道夫
参考資料 ドイツにおける医療(抜粋)、医師職業規則、自律規範、医師職業裁判所の判例、裁判外紛争処理の事例と統計などを下記サイトでご覧になれます。 http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m430.ppt http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m429.ppt http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m426.htm 参考資料 ドイツにおける医療(抜粋)、医師職業規則、自律規範、医師職業裁判所の判例、裁判外紛争処理の事例と統計などを下記サイトでご覧になれます。 http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m430.ppt http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m429.ppt http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m426.htm 参考資料 ドイツにおける医療(抜粋)、医師職業規則、自律規範、医師職業裁判所の判例、裁判外紛争処理の事例と統計などを下記サイトでご覧になれます。 http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m430.ppt http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m429.ppt http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m426.htm ご清聴有難うございました 2008.7.5. 岡嶋道夫