初期宇宙における超大質量星形成の数値計算 平成27年1月19日(月)- 21日(水) 初代星研究会@東北大 初期宇宙における超大質量星形成の数値計算 東京大学 宇宙理論研究室 吉田研M2 櫻井祐也 共同研究者:細川隆史、吉田直紀
宇宙年齢10億年以前におけるSMBHの存在 遠方宇宙の観測で宇宙10億歳(z~6)未満で10億M⦿程度以上の活動銀河核中のSMBHの存在を確認 2 4 6 8 赤方偏移 z 106 108 1010 SMBH質量 [M⦿] 109 107 URAS J1120+0641 ~2×109 M⦿ 宇宙7.5億歳(z~7) Mortlock et al. (2011) 超巨大ブラックホール形成研究の背景と問題点について話します。 近年の可視光・赤外光観測から、宇宙年齢10億年未満のところで、太陽の10億倍の質量を持つ超巨大ブラックホールが存在していることが分かっています。 このようなSMBHは、100太陽質量程度の大きさのBHを種として、周辺ガス降着によりできると考えられていましたが、そのような小さなBHからSMBHを形成しようとすると、成長時間などに問題が出てきます。 通常考えられる最大の成長率を常に維持することは難しいと考え、計算を行うと、100太陽質量のBHが宇宙年齢10億歳になるまでに10億太陽質量のSMBHになることが難しいことが分かります。 Marziani & Sulentic (2012)
通常の初代星からSMBHを形成するモデル 降着・合体 重力崩壊 >260 M⦿ 初代星 成長時間や降着速度に問題あり BH質量Mは 輻射効率 組成:水素約75%、ヘリウム約25% ・ ・ エディントン降着(m=mE)で102 M⦿から2×109 M⦿になるまでの時間は > (z=20からz=7までの時間) さらにエディントン降着を維持できるとは限らない
Direct Collapseモデル 水素原子冷却 ガス降着 〜10-1 M⦿/yr 重力崩壊 〜0.03 M⦿ 重力収縮 〜105 M⦿ Atomic-cooling halo中のガス雲 原始星 超大質量星 種BH 他銀河に存在する多くの初代星からの紫外線により水素分子解離 水素分子冷却抑制 Atomic-cooling halo形成 Tvir >104 K より大きな種BHから成長させるので成長時間の問題起きにくい 通常の初代星形成では典型的に10-3 M⦿/yr SMBH 〜109 M⦿
Direct Collapseモデルにおける輻射フィードバック 通常の初代星形成では降着段階で輻射フィードバック効く Direct collapseモデルでもフィードバック効く可能性あり 降着率一定で~0.04 M⦿/yr以上ではフィードバックは重要でない 原始星 超大質量星 ガス降着 〜10-1 M⦿/yr 〜0.03 M⦿ 〜105 M⦿ 降着の過程で輻射フィードバック効くと105 M⦿まで成長できず問題となる (Hosokawa et al. 2012、2013) 101 102 103 104 星の質量 [ M⦿ ] 1052 1048 1044 1040 電離光子放出率 [ sec-1 ] 1036 0.1 M⦿/yr ZAMS 0.001 M⦿/yr 半径 [ R⦿ ]
降着率が変動する場合:バースト降着 バースト降着:円盤が分裂、分裂片が星に落ち込み起きる バースト降着が起きることは現在の星形成でも通常の初代星形成でも2次元シミュレーションにより確認されている Atomic-cooling halo中の星形成で円盤の分裂が起きることは3次元流体シミュレーションにより示されている(Regan et al. 2014) 1 数千年 時間 [ 104 yr ] 6 10-8 降着率 [ M⦿ yr-1 ] 円盤の不安定性による降着率の変化 1 低降着率期は典型的に~100 yr 高降着率期は典型的に~103 yr 20AU Vorobyov et al. 2013
本研究の主な目的・考える状況 バースト降着の場合での星進化計算でどのような場合に輻射フィードバックが効くかどうか明らかにする 計算では星の内部と大気のみを考える 分裂片の降着によるバースト降着は、降着率のモデルを作り、手で与えることで考慮する 中心星 降着円盤 分裂片
数値計算コード(Stellar) 1次元の星の進化計算コード(Yorke氏作成、細川氏改良&提供)を使う、Henyey法利用 星内部の進化を決める式を同時に解く 慣性項は星の表面付近以外で問題とならないので無視する 質量保存の式 運動量保存の式 エネルギー保存の式 エネルギー輸送の式 物質の組成変化の式 輻射優勢なら
バースト降着のモデル化 主に4つのパラメータを設定(下図) 平均降着率はatomic-cooling halo中の星形成降着段階を想定して0.1 M⦿yr-1とする ここでは低降着率期が1080 yrのモデルCに着目して説明する 高降着率期の時間 低降着率期の時間 時間 降着率 高降着率 低降着率 降着のモデル化について。 円盤の不安定化により起きる降着率の変化を単純化して、この図のように降着率をモデル化しました。 主なパラメータは高降着率とその期間、低降着率とその期間です。 0.1Msun/yrの一定降着率の場合の星進化と比較を行うため、平均降着率が0.1Msun/yrとなるようにパラメータをとり、計算を行いました。
星の進化過程でのフィードバック バースト降着モデルCでは星の進化の過程で、低降着率期に輻射フィードバックが効く可能性がある 101 102 103 104 105 時間 [ yr ] 黒:一定降着率 赤:モデルC フィードバック 効く 効かない 電離光子放出率 [ sec-1 ] 1036 1040 1044 1048 10-3 100 [ M⦿ yr-1 ] 降着率 計算結果を説明します。 図は星から出る電離光子の放出率の時間進化です。 計算は星の質量が2太陽質量である時刻を0としました。 ここでは一定降着率の場合と、低降着率期が1000年と500年の場合の3つの計算結果を示しています。 フィードバックが効くかどうかの目安となる電離光子放出率は10^48/sec程度です。この線より上ではフィードバックが起きます。 この図を見ると、一定降着率の場合や、低降着率期が500年と短い場合には、フィードバックが効かず、低降着率期が1000年と長い場合にはフィードバックが効く可能性があることが分かります。
低降着率期に電離光子放出率が大きくなる理由 半径が縮み表面温度が上がるので電離格子放出率が大きくなる 半径 [ R⦿ ] 102 103 104 1036 1040 1044 1048 電離光子放出率 [ sec-1 ] 101 105 時間 [ yr ] フィードバック 効く 効かない 黒:一定降着率 赤:モデルC ではなぜ途中で放出率が大きくなるのでしょうか。 それは星の進化の途中で星の半径が小さくなるためです。 詳しく見るために、星の半径の進化の図を示します。 一定降着率の場合、従来の研究からも知られているように、半径は時間とともに膨張し続けます。 一方時間変動降着率の場合は、半径が途中で数回小さくなることが分かります。
t低降着率期 > t熱緩和 星が収縮する条件 星が熱緩和する時に星は収縮する これは式では という条件 これは式では という条件 t熱緩和は時間とともに大きく なる そのためt低降着率期が長いほど 星が収縮するチャンスが多く フィードバックも効きやすい 計算によりt低降着率期~1000 yr がフィードバック効く臨界値 t低降着率期 > t熱緩和 星縮む 時間スケール [ yr ] 102 104 103 時間 [ yr ] 101 105 A 270 yr C 1080 yr t熱緩和 t低降着率期
現実のt低降着率期はどのくらいか? Inayoshi & Haiman (2014) によると、atomic-cooling halo中で、円盤の分裂片が出来てから中心星へ落ち込むまでの時間は最も長く見積もって 分裂片が円盤中に複数あることを考えると、t低降着率期はこの値よりずっと小さくなると考えられる その場合に輻射フィードバックが効くかどうかは自明でない 実際にt低降着率期がどのくらいになるか知るためには、多次元流体シミュレーションを行う必要がある
結論 一定降着率では0.1 M⦿yr-1でフィードバックが効かない一方で、時間変動降着率の場合では低降着率期が~103 yr以上でフィードバックが効く可能性があることが分かった 実際にt低降着率期がどのくらいになるか知るためには、多次元流体シミュレーションを行う必要がある