第5章 国際貿易の構造と基礎理論 グローバリゼーションと国際貿易.

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地域格差と生産性 ー地域別全要素生産性の計測ー 明治学院大学経済学部 高橋ゼミ 発表者 増田 智也 2007 年度卒業論文発表会.
1 II マクロ経済学のデータ. 2 第5章 国民所得の測定 マクロ経済学とは 国内総生産 = GDP ( Gross Domestic Product ) – 社会の経済的福祉を測定する尺度の1つ ミクロ経済学とマクロ経済学の違いについては、 pp. 40 – 41 も参照.
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第5章 国際貿易の構造と基礎理論 グローバリゼーションと国際貿易

5.1 国際貿易の構造 a 商品分類と貿易構造 財の貿易 財の貿易構造は産業,用途別,技術という3つの商品分類がある。 5.1 国際貿易の構造 a 商品分類と貿易構造 財の貿易 財の貿易構造は産業,用途別,技術という3つの商品分類がある。 第一に産業分類。一次産品貿易と工業製品という区別がある。一次産品の特徴は①自然条件に左右され,②付加価値は小さく,③需要の所得弾力性が低い。 第二に用途別分類として素材原料,中間財(部品を含む),最終財(資本財,消費財などを含む)という区分がある。 第三に商品に投入された技術の違いに注目してハイテク製品貿易とローテク製品貿易という区分がある。 商品分類 産業 一次産品 工業製品 用途別 素材原料 中間財 最終財 技術 ハイテク製品 ローテク製品 2

サービス貿易は,商品特性に基づいた取引の特殊性から ある国のサービス事業者が,自国から外国にいる顧客にサービスを提供する場合(越境取引) ある国の人が,外国に行った際に現地のサービス事業者からサービスを受ける場合(国外消費) ある国のサービス事業者が,外国に拠点を設置してサービスの提供を行う場合(拠点設置) ある国のサービス事業者が,人材を外国に派遣して,外国にいる顧客にサービスを提供する場合(自然人移動) の4つの区分がある。 サービス貿易 ① 越境取引 ② 国外消費 ③ 拠点設置 ④自然人移動 3

国民経済,産業,企業の3つの経済単位から貿易を考えると図5-1のように3つに分類される。 b 経済単位と貿易構造 図5-1 経済単位と貿易の形 国民経済,産業,企業の3つの経済単位から貿易を考えると図5-1のように3つに分類される。 A.産業間貿易 異なる産業化における貿易 B.産業内貿易 特定の産業内部の貿易 C.企業内貿易 特定の企業内部の貿易 A.産業間貿易 B.産業内貿易 C.企業内貿易 現代の貿易構造として B.産業内貿易 に注目したい。 (注)    は国民経済、      は企業で、       は産業を意味する。 4

世界全体の財およびサービスの輸出の合計金額のGDPに占める割合が増加し、貿易の伸び率が高い 1970年13.4%→2005年27.0% c グローバル化と国際貿易の動向 1.貿易の伸び  世界全体の財およびサービスの輸出の合計金額のGDPに占める割合が増加し、貿易の伸び率が高い 1970年13.4%→2005年27.0% 表5-1 総貿易額と地域別割合 (注)*東アジア6カ国とは香港,マレーシア,韓国,シンガポール,台湾,タイのこと. (出所)WTO, International Trade Statistics より作成. 5

・ アジア地域の貿易額の比重が高くなっている(表5-1) ・ 世界全体の貿易は域内貿易の動向に左右される(表5-2) 2.地域別の動向 ・ アジア地域の貿易額の比重が高くなっている(表5-1) ・ 世界全体の貿易は域内貿易の動向に左右される(表5-2) 表5-2 国際貿易における地域構造 (出所)WTO, International Trade Statistics より作成. 6

・ ハイテク製品の割合の増加。特にアジア地域の割合が大きい ・ 内訳を見るとIT(情報通信技術)関連の占める割合が高くなっている 3.製品別の動向 ・ ハイテク製品の割合の増加。特にアジア地域の割合が大きい ・ 内訳を見るとIT(情報通信技術)関連の占める割合が高くなっている 表5-3 ハイテク貿易の地域別構造 (注)北米はアメリカとカナダ.EU4はイギリス,ドイツ,フランス,イタリア.アジアは日本,NIEs4カ国,中国.ハイテクITとは事務機・コンピュータ・通信機器を指す. (出所)National Science Foundation, Science and Engineering Indicators-2006 より作成. 7

5.2 貿易理論の基礎 a リカードの比較優位 ① 労働投入係数 5.2 貿易理論の基礎 a リカードの比較優位  表5-4 自国と外国の労働投入係数 ① 労働投入係数  表5-4に示されているような自国,外国が第1財,第2財を一単位生産するときに必要な労働者数。 ② 労働生産性  労働者1人当たりの生産量(1単位の財÷労働投入係数) ③ 絶対優位  自国は外国よりも少ない労働者で両財を生産できる。このような状況を自国は絶対優位にあるという。 8

絶対優位にある自国にとって貿易する理由は比較優位にある。 表5-4 自国と外国の労働投入係数 絶対優位にある自国にとって貿易する理由は比較優位にある。 労働投入係数の比較,つまり労働価値による商品の交換比率(あるいは機会費用)を国際間で比較することで比較優位が明らかになる。これを発見したのがリカード(D.Ricardo)である。 表5-4の数字を用いると表5-5のようになる。自国の第1財,外国の第2財が比較優位を持つ。 また,自国では第2財(外国は第1財)が比較劣位であるという。 図5-5 比較優位の決定 9

両国の比較優位財が1対1(交易条件1[注])で貿易されると考え、貿易の利益を説明しよう。 b 貿易の利益 両国の比較優位財が1対1(交易条件1[注])で貿易されると考え、貿易の利益を説明しよう。 貿易前(両国が第1財,第2財それぞれ1単位を生産) 自国:第1財 1単位⇔第2財 0.5単位     労働投入量30人 外国:第1財 2/3単位⇔第2財 1単位     労働投入量100人 貿易後(自国が第1財を2単位,外国が第2財を2単位生産) 自国:第1財 1単位⇔第2財 1単位(第2財が0.5単位多い)     労働投入量20人(10人の労働費用節約) 外国:第1財 1単位⇔第2財 1単位(第1財が1/3単位多い)     労働投入量80人(20人の労働費用節約) [注]交易条件・・・国際間で交換される財の比率 10

0.5<T<1.5 T<0.5, 1.5<T T=0.5, 1.5 c 交易条件の幅 →両国に利益。どの生産者も比較優位財に完全特化する。 T<0.5, 1.5<T →T<0.5ならば自国に利益がなく,1.5<Tならば外国に利益がないので貿易は成立しない。 T=0.5, 1.5 →両国とも貿易してもしなくても利益はない。このような状態を不完全特化という 表5-6 生産者の行動と交易条件 11

交易条件の決定,相対価格と相対数量の同時決定は次のような仮定のもとで展開される d 消費と生産の拡大効果 交易条件の決定,相対価格と相対数量の同時決定は次のような仮定のもとで展開される 国際市場は2つの国で構成され,それぞれの国で生産される商品は    2つ(2国2財モデル)である どの商品も労働要素のみで生産される(1生産要素モデル) 労働投入係数は一定(規模に関する収穫一定)である 2国間の間には生産性の格差(技術格差)がある 労働は国内産業間での移動は自由であるが,国際間では移動しない 労働は常に完全雇用される 生産したものはすべて消費される(セーの法則) 輸送費は無視する 物々交換(貨幣はベール)である このような仮定の中で,貿易の利益として消費拡大効果と需要量の導入による交易条件の決定が説明される 12

表5-7のように自国と外国の総労働量と消費性向を与えて考えてみよう 消費量を超えた自国の第1財200単位と外国の第2財150単位が貿易される このとき交易条件は4/3となり、0.5<T<1.5の間にある。交易条件の決定は,国内の消費性向に依存する さらに貿易によって自国は第2財50単位,外国は第1財100単位を,消費量を拡大する。また,生産量は第1財が300から400に,第2財は250から300に増加する 表5-7 貿易前と貿易後の消費量比較 貿易とは「消費量・生産量を拡大させる効果」を持つ経済活動 課題として2国間の経済規模が異なれば,両国の輸出可能な財の数量が異なってくることが残っている まとめ 13

e もうひとつの比較優位の決定要因―H-O・モデル ヘクシャー(E.F.Heckscher)とオリーン(B.G.Ohlin)が考えた比較優位モデル 労働以外の「支払いを受ける生産要素」としての資本を考慮 特徴:資本・労働比率(要素集約度ともいう)は国際間で同じ     異なるのは賦存比率(国内総労働量Lと総資本量Kの割合)     相対要素価格ω=w/r(wは労働要素1単位当たりの報酬としての賃金     率,rは資本設備1単位当たりのレンタル価格としての資本レンタル)の     相違が貿易を規定     各国は,相対的に豊富に存在する生産要素を集約的に用いる産業に比     較優位を持つ 14

5.3 グローバル生産システムと貿易 a グローバリゼーションと貿易構造 5.3 グローバル生産システムと貿易 a グローバリゼーションと貿易構造 グローバル生産システムには、先進国内部のバリューチェーン(商品を生産する生産工程間の付加価値の連鎖)が解体され国際的に分散したもの,あるいは,多国籍企業内部の国際バリューチェーンが解体・再編成され,外注化されたものがある 図5-2 バリューチェーンのグローバリゼーションと貿易構造 ①単純形態・・・先進国の企業が海外組立施設を設立し、本国から中間財を輸出し子会社から完成財を輸入 ②2国間多段階形態・・・単純な2国間完結型のリンケージ連鎖が複雑なバリューチェーン形態へと変化 ③多国間多段階形態・・・外注化が進むなかで、複数の国で多段階の工程を分担する形態 15

生産工程の国際的分散化を引き起こすのは企業行動 b 量的変化と形態変化 バリューチェーンのグローバリゼーション (部品貿易の拡大) 量的変化 (産業内貿易の拡大) 形態変化 一方向に貿易 双方向に貿易 垂直的産業内貿易 水平的産業内貿易 品質が異なる 品質が同じ c 国民経済の要因と企業の要因 生産工程の国際的分散化を引き起こすのは企業行動 企業行動は,現状の比較優位に基づく貿易を行う場合もあるし,その比較優位を変化させる技術移転を選択する場合もある また、外注化(オフショア・アウトソーシング)により形成される貿易構造もある 16