認定看護師研修センター  ホスピスケア 分野   がんのプロセスとその治療     5. がんの治療                                                   2010年                    生命基礎科学講座                                        小林正伸.

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認定看護師研修センター  ホスピスケア 分野   がんのプロセスとその治療     5. がんの治療                                                   2010年                    生命基礎科学講座                                        小林正伸

がんの治療の種類 がんの治療法 1)外科手術 局所療法 2)放射線治療 局所療法 3)化学療法 全身療法 4)免疫療法 全身療法    1)外科手術 局所療法    2)放射線治療 局所療法    3)化学療法 全身療法    4)免疫療法 全身療法    5)分子標的療法 全身療法

がんの手術療法の有効性(根治度別効果) 根治度A:(比較的早期の癌について完全切除) 根治度B:(肉眼的にがんの遺残はないが、再発の危険性が高い) 根治度C:(肉眼的に明らかな遺残がある) 根治度Aの場合でもかなりの再発を認める。 完全切除の場合には切除の効果は顕著ではあるが、腫瘍細胞が遺残している限り、常に再発の危険性がある。これらの遺残腫瘍に対しては明らかに肉眼的に認める場合は治療的に、そうでない場合は予防的に放射線療法や化学療法との併用による集学的治療を考える。

癌手術療法の特徴 良性腫瘍の手術では、腫瘍だけをくりぬくように切除して正常組織の切除を最小限にする。 癌の手術の場合には、癌の発生した臓器(例えば胃など)とともに浸潤や転移しているかもしれない周囲脂肪組織やリンパ節を安全域として切除する。胃癌を例にとると、リンパ節を廓清するために、脾動脈、脾臓および周囲脂肪組織を胃とともに切除する。 手術そのものの負担が大きく、術後の臓器欠損による負担も大きくなる。 脾動脈 脾臓

手術治療の選択 メリットである根治性だけではなく、デメリットである合併症、後遺障害も含めたバランスシートを考慮して、患者本人が決定する。 ー 根治性と安全性のバランスシート ー 根治性 切除範囲を大きくすれば、がん組織を完全に切除できる可能性が高くなる。 安全性 合併症:出血、感染、縫合不全、静脈血栓症など 後遺障害:臓器を切除したことによる欠損障害。例えば、胃切除後のダンピング症候群や貧血など メリットである根治性だけではなく、デメリットである合併症、後遺障害も含めたバランスシートを考慮して、患者本人が決定する。

がんの手術療法の変遷−拡大手術から個別化の時代へ 1980年代までは、がん病巣とその周囲を安全域として大きく切除する拡大手術が主流であった。しかし機能を温存した縮小手術でも成績に差のないことが明らかになり、食道・胃・大腸の早期がんに対する内視鏡治療も行われるようになった。一方高度進行がんに対しては術前に化学療法や放射線療法によってがん組織を縮小させてから手術するといった戦略もとられるようになった。

内視鏡治療の実際 1) 2) 3) 1)ポリペクトミー 有茎性や亜有茎性ポリープの切除 2)内視鏡的粘膜切除術 右図のように表面型の病変   有茎性や亜有茎性ポリープの切除 2)内視鏡的粘膜切除術   右図のように表面型の病変 3)内視鏡的粘膜下層剝離術   (EMR)   病変をヒアルロン酸などで十分隆起   させて周辺切開をおいて粘膜下層を   剥離していく方法。

早期胃癌に対するEMRの適応 高分化型 低分化型 Ul (-) Ul (+) Ul (-) 高分化型 低分化型 Ul (-) Ul (+) Ul (-) M 2 cm以下 2.1 cm以上 3 cm以下 2 cm以下 SM 3 cm以下 ガイドラインのEMR適応 リンパ節転移のほとんどない癌 Ul (-):潰瘍なし、Ul (+):潰瘍あり、M:粘膜内、SM:粘膜下 日本胃癌学会:胃癌治療ガイドラインより引用

鏡視下手術 腹腔鏡(ふくくうきょう)下切除術は手術のダメージを最小限にし、開腹手術に劣らない成績を期待した手術法。腹壁に数ヵ所小さな穴を開けて、腹腔鏡と電気メスなどを入れてモニター画像を見ながらがんを切除する。開腹手術に比べて、傷が小さく出血も少ないうえ、周りの他の臓器が外部の空気にふれなくてすむというメリットがある。しかし、遠隔操作であるため、腹腔内での操作範囲に限界があること、臓器、血管の損傷がおこりうること、また、その損傷に気づきにくいことなどの技術の難しさがある。

高齢者に対する外科治療 年代別肺癌切除例の全国集計結果 1999 1994 症例数 (%) 症例数 (%) 10歳代    9  0.1    2  0.0 20歳代   15  0.1   17  0.2 30歳代  122  0.9   84  1.1 40歳代  731  5.5  512  6.9 50歳代 2312 17.3 1334 18.0 60歳代 4610 34.5 2984 40.4 70歳代 4823 36.1 2222 30.1 80歳代  598  4.5  232  3.1 90歳代    4  0.0    1  0.0 欠損値  120  0.9    5  0.1 合計 13344 100.0 7393 100.0 1994年の全国集計では60歳代の切除例が2984例と最も多かったが、1999年では総切除例が2倍に増加し、70歳代の切除例が最も多かった。術後30日以内死亡は0.9%

超高齢者(80歳以上)の肺癌手術の適応基準 1.非小細胞肺癌 臨床病期I、II期 小細胞肺癌 臨床病期I期 2.重篤な併存疾患がない 3.Performance Statusが良好(PS<1) 4.十分な心肺機能の予備能がある 5.患者および家族が手術に積極的である 肺癌の臨床研究プロトコールの患者選択基準では、75歳未満と設定されることが多く、75歳以上を高齢者、80歳以上を超高齢者として、手術適応、術式選択の判断を75歳未満と分けて考慮している。

超高齢者肺癌の手術成績 東北大学加齢医学研究所の成績:80歳以上の超高齢者35例について2群郭清した22例と1群郭清以下にとどめた13例の比較検討結果では、肺葉切除+縦隔リンパ節までの郭清をおこなう標準手術よりも肺門部以下のリンパ節郭清にとどめた縮小術の方が5年生存率は良好であった。

がんの治療の種類 がんの治療法 1)外科手術 局所療法 2)放射線治療 局所療法 3)化学療法 全身療法 4)免疫療法 全身療法    1)外科手術 局所療法    2)放射線治療 局所療法    3)化学療法 全身療法    4)免疫療法 全身療法    5)分子標的療法 全身療法

IVR(Interventional Radiology)

原発性肝細胞癌に対する動注化学塞栓療法 担がん亜区域までカテーテルを挿入してリピオドールと抗癌剤のエマルジョンを注入し、さらにゼラチンスポンジを注入して塞栓を行った。 CT scanでは、がん領域がリピオドールによって濃染している。

胆道狭窄に対する治療(ステント) リンパ節転移による総胆管狭窄に対する 金属ステント挿入。 肝門部胆管癌による分離型狭窄に対して右前枝、右後枝、左枝、総肝管にそれぞれ金属ステントが挿入された。各枝から12指腸への良好な流出が得られている。

放射線治療 放射線治療の基礎 1.腫瘍の局所制御 2.正常組織の急性反応 3.正常組織の晩期障害   放射線治療では線量さえ十分投与すればが   んは100%治しうる。 2.正常組織の急性反応   例えば60Gy程度の照射をすると照射開始10-   14日ぐらいでマウスの下肢皮膚は放射線皮   膚炎を起こすが、照射終了後2-4週間でほぼ   治癒する。あてる場所で異なる炎症が出現。 3.正常組織の晩期障害   8Gy x 10回の照射を行うとマウス腫瘍は   100%治癒すると述べたが、この時マウスの   足は萎縮し、指はとけてなくなっている。 6Gy x 10回の照射を行った場合合計線量は60Gyとなり、局所制御率は0%(すなわちマウス腫瘍は1つも治癒しない)であるのに対し、7Gy x 10回の照射では合計線量70Gyで局所制御率は約50%、さらに8 Gy x 10回の照射では合計線量80Gyとなりマウス腫瘍は100%治癒する。

放射線治療の進歩 いずれも正常組織への副作用軽減をはかり、腫瘍組織への十分量の放射線照射量を確保するための方法である。 空間的線量分布の改善 CTシミュレーション、PET/CTシミュレーション 原体照射 術中照射 192-Ir 高線量率小線源治療 125-I 前立腺がん永久挿入術 強度変調放射線治療(IMRT) 脳および体幹部定位放射線治療 時間的線量分布の改善 加速過分割照射 放射線像管法の進歩 化学放射線療法 温熱療法、放射線増感剤 空間的線量分布の改善:がん病巣に集中させて正常組織へ照射しない方法の改善 いずれも正常組織への副作用軽減をはかり、腫瘍組織への十分量の放射線照射量を確保するための方法である。

PET-CTシュミレーション PET-CT画像に基づく治療計画 PET-CTシュミレーター

定位放射線治療 転移性肺がんに対する体幹部定位放射線治療の線量分布図:肺腫瘍にピンポイントで線量集中が行なえる。

強度変調放射線治療 原発性肝がんに対するIMRTの線量分布と立体表示 肝がんにはこれまで放射線治療はあまりおこなわれてこなかった。それは、肝臓の組織は放射線に比較的弱いとされていたためである。従来の肝臓への放射線照射は全肝照射といわれる肝臓全体に照射する方法が多く、その場合は放射線治療の線量の半分くらいの線量(30 Gy位)でも重篤な肝障害が生じることがあり腫瘍をコントロールする線量,(50Gy以上)にははるかに及ばなかった。 しかし、肝がん自体へは放射線の効果は高く、正常肝への障害を抑えることができれば非常に有効な治療法といえる。IMRT では図のように腫瘍に限局した照射が可能になる。

定位放射線治療と標準的手術成績との比較         手術・海外 手術・国立がんセンター 手術・全国調査 定位照射 T1N0M0 77% 71% 72%    76% T2N0M0 60% 44% 50%    64% I期非小細胞肺癌に対する標準的な手術成績と定位照射放射線療法との比較を示したが、手術成績と遜色ない成績であった。

密封小線源治療 A) B) レントゲン写真 この装置で線源を埋め込む 直腸内に挿入された超音波プローブ 前立腺に埋め込まれた線源 50−100個の線源が埋め込まれる

重粒子線の特徴 ー体内深部での高い放射線活性ー

化学放射線療法 食道癌という限られた癌腫が対象ではあるが、化学放射線療法が手術と差のない良好な予後をもたらしうることが明確となった T1(癌の進行が粘膜下層までにとどまっている)-T2食道癌(癌の進行が食道壁の筋層までにとどまっている)という比較的早期の食道癌患者さん66名を対象に化学放射線療法群(Pro)36名(5-FU+CDDP+radiation)と手術療法群(S)30名にわけて生存率を比較検討した。(天理よろず相談所) 図から明らかなように、両群の治療成績に明らかな差はない。 食道癌という限られた癌腫が対象ではあるが、化学放射線療法が手術と差のない良好な予後をもたらしうることが明確となった

がんの治療の種類 がんの治療法 1)外科手術 局所療法 2)放射線治療 局所療法 3)化学療法 全身療法 4)免疫療法 全身療法    1)外科手術 局所療法    2)放射線治療 局所療法    3)化学療法 全身療法    4)免疫療法 全身療法    5)分子標的療法 全身療法

化学療法 1.がん化学療法の基礎 2.術後補助化学療法 3.外来がん化学療法  4.がん化学療法の副作用 5.抗がん剤耐性

がん化学療法が効くメカニズム (Skipperモデル) 白血病細胞は腫瘍量に関わらず増殖期にある細胞量が変わらず、抗癌剤によって指数関数的に殺細胞効果が見られる。 白血病に化学療法が効果を示す根拠がここにある。

がん化学療法が効く(効かない?)メカニズム (Gomperzモデル)  臨床効果で評価可能な部分奏功(PR)の部分は比較的狭く、完全奏功(CR)になってから完治するまでの腫瘍量の幅は広い。 手術などで完全寛解になってから治癒までは遠い。 腫瘍量が増大するにつれて細胞死が増加し、腫瘍内の栄養・酸素供給が悪化して増殖も低下する。したがって大きな腫瘍では増殖速度の低下によって抗癌剤の効果も小さい。(固形癌の特徴) 消化器癌化学療法:久保田哲郎ら、南山堂より引用

がん化学療法が効く(効かない?)メカニズム (Norton-Simon仮説) 臨床で検出される高進行癌では、増殖速度が遅いために、log-killが小さく、治癒は望めない。 手術後に残存したような微小な腫瘍に対する補助術後化学療法は効く。 Gomperzのモデルに従えば、大きな腫瘍では抗癌剤の効果は少なく。小さな腫瘍では抗癌剤の効果は大きい。これが術後化学療法の効果の理論的根拠となっている。 消化器癌化学療法:久保田哲郎ら、南山堂より引用

がん化学療法が効くメカニズム (Dose dense化学療法) 消化器癌化学療法:久保田哲郎ら、南山堂より引用

化学療法 1.がん化学療法の基礎 2.術後補助化学療法 3.外来がん化学療法  4.がん化学療法の副作用 5.抗がん剤耐性

術後補助化学療法の理論的根拠 1)治癒切除例であっても,進行癌においては約半数の症例で再発が認められること。 (2)術前にすでに骨髄などの遠隔臓器で癌細胞が検出できる症例があること。 (3)手術操作によって癌細胞が血中や腹腔内に散布される可能性があること。 (4)原発巣を外科的に切除することで微小転移巣が急激に増大することがあること。 (5)手術侵襲により種々のサイトカインの血中濃度の上昇が認められ,これらのサ   イトカインが遺残癌細胞の増殖・進展を促進する可能性があること。 (6)一般に腫瘍が小さいほど腫瘍内の耐性細胞は少なく,また薬剤到達性が良好で   あるため抗腫瘍効果が高いと考えられること。

術後補助化学療法の効果 1977年から2001年にUFT内服群と手術単独群を比較する第III相試験が行われた。治療群,および手術単独群の4年生存率はそれぞれ86.3%対73.6%(p=0.0176),4年無再発生存率も84.5%対68.1%(p=0.0040)と統計学的に有意差を認め,UFTによる術後補助化学療法の有用性が示唆された。 Proc ASCO.2005;#4021.より引用

化学療法 1.がん化学療法の基礎 2.術後補助化学療法 3.外来がん化学療法  4.がん化学療法の副作用 5.抗がん剤耐性

外来化学療法 もっとも大切なことは,患者が,平常の日常生活,社会生活を送りながら治療を継続することを可能にすることによって高品質な生活(high quality of life;HQOL)を保証することである。この実現のため平成14年度の診療報酬点数改正では,外来化学療法加算が新設された。 当初,財団法人日本医療機能評価機構の機能評価を受け認定された病院のみに認められていたが,平成16年の改正でこの要件が撤廃され,ある程度の必要要件を満たす医療機関ならば,外来化学療法加算が認められるようになった。

外来化学療法の副作用対策-嘔吐 米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)のガイドライン1)によると,抗癌剤はその嘔吐の頻度に応じてリスク分類されており,高・中リスクの抗癌剤の急性嘔吐に対して制吐剤の予防投与を行うことが推奨されている。急性嘔吐を予防することが遅発性嘔吐の予防につながるため,積極的な対応が必要である。 遅発性嘔吐に対しては,高リスクの抗癌剤に限り予防投与を行う。具体的には内服薬としてdexamethazone(デカドロン®)とmetoclopramide(プリンペラン®)あるいはdexamathazone と5-HT3 antagonis(t ondansetron ゾフラン®,granisetron カイトリル®など)を処方し,翌日以降自宅で内服させるようにする。

外来化学療法の副作用対策‐発熱 表3にあるような条件をすべて満たせば低リスクの好中球減少性発熱と考えられ,外来で経口広域抗菌薬を内服して経過を観察することが可能である。化学療法開始時にあらかじめ7日分の経口広域抗菌薬(c i p r o f l o x a c i nシプロキサン®+amoxicillin/clavulanate オーグメンチン®)を処方しておき,38℃以上の発熱時は連絡するように指示しておく。発熱の際は電話を受けた医師がリスクの高低を判断し,受診させるかそのまま抗菌薬を内服させるかどうかを判断することになる。

化学療法 1.がん化学療法の基礎 2.術後補助化学療法 3.外来がん化学療法  4.がん化学療法の副作用 5.抗がん剤耐性

化学療法の副作用 1.消化器症状 1)悪心・嘔吐 2)下痢 3)消化管穿孔 4)イレウス 2.骨髄抑制 3.皮膚症状、脱毛、粘膜障害   1)悪心・嘔吐   2)下痢   3)消化管穿孔   4)イレウス 2.骨髄抑制 3.皮膚症状、脱毛、粘膜障害 4.神経症状 5.浮腫 6.間質性肺炎 7.心毒性 8.肝障害と腎障害

がん化学療法後のイレウス 抗癌剤治療中に生じるイレウスでは,症状出現時には下痢を伴っていることが多い。したがって,通常の機械的な原因によるイレウスとは異なり排便・排ガスがあることが多い。しかし,身体所見では腹部膨満と腹部圧痛があり,腹部単純X線写真では小腸のガス像と鏡面像(ニボー)が認められる。また,大腸にもガス像がみられ,麻痺性イレウスに類似した症状と所見を呈する。一方,大腸にガス像がみられない場合には,腹腔内の腫瘍の進行や,術後の癒着による機械的なイレウスが疑われる。

がん化学療法後の肺障害 右上葉原発の肺扁平上皮癌stage ⅢAの53歳女性。右上葉原発巣への放射線治療(45Gy)終了後に当院へ紹介となった。1st line chemotherapyでvinorelbineとUFTでの治療を8クール実施していたがPDとなったために,2nd line chemotherapyとしてgefitinibを投与していた。Gefitinib投与開始43日目の定期外来受診時に自覚症状はまったくなかったが,診察医が診察室入室直後のSpO2が93%と低値であることに気がついた。このさい,安静時SpO2は97%であった。緊急で行った胸部X線写真(図3,図4),胸部CT(図5)では右上葉にすりガラス状陰影が出現していた。臨床症状,血液検査,画像所見,心臓超音波検査などからは肺癌による病変や感染症,心原性肺水腫は否定された。以上の結果からgefitinibによる薬剤性肺障害と診断した。病変出現部位が放射線照射部位に一致し,かつ放射線治療終了9カ月後であることから,この肺障害はgefitinibによるradiation recall pneumonitisと考えられた。

化学療法 1.がん化学療法の基礎 2.術後補助化学療法 3.外来がん化学療法  4.がん化学療法の副作用 5.抗がん剤耐性

化学療法耐性のメカニズム (Goldie-Coldman仮説) 耐性細胞の変異率が10−4とすると腫瘍が104個になった時に1個出現する。 臨床検出段階以前に既に耐性クローンは出現している。したがって、臨床的に検出できる癌を化学療法のみで治癒にまで持っていくことは不可能に近い。抗癌剤の治癒可能性を高めるためには、微小ながん組織の段階で早期に治療を開始することが必須。

抗癌剤耐性の機序 1.細胞膜の変化、薬剤の膜輸送機構の変化 多剤耐性 MDRの活性化 2.標的酵素、タンパク質の増量 2.標的酵素、タンパク質の増量      メソトレキセート耐性など 3.薬剤活性化機構、酵素の低下     サイクロホスファミド耐性など 4.障害修復機構、DNA修復の亢進     ニトロソウレア耐性など 5.抗癌剤不活化機構の亢進     グルタチオンなど

MDR発現増強による抗癌剤耐性の機序 P-gp(P-glycoprotein、ABCB1)、BCRP(breast cancer resistance protein、 ABCG2)などの抗がん剤排出トランスポーターは、細胞膜に発現し、ATPのエネルギー依存的に種々の抗がん剤を細胞外に排出するポンプとして働く。その結果、癌細胞内の抗癌剤濃度が低下してしまう。

がんの治療の種類 がんの治療法 1)外科手術 局所療法 2)放射線治療 局所療法 3)化学療法 全身療法 4)免疫療法 全身療法    1)外科手術 局所療法    2)放射線治療 局所療法    3)化学療法 全身療法    4)免疫療法 全身療法    5)分子標的療法 全身療法

癌に対する免疫応答は有るのか? ヒト癌の自然治癒症例がある。 ヒト自家癌の拒絶の報告がある。 マウスに化学発ガンで誘発された腫瘍細胞を放射線照射して皮下注射。 その後、同じ腫瘍を接種すると、腫瘍細胞は拒絶される。 一方、違う腫瘍を接種すると、腫瘍細胞は生着する。 逆の系でも同様の結果が得られている。 ヒト癌の自然治癒症例がある。 ヒト自家癌の拒絶の報告がある。

癌に対する免疫応答の抑制機構 最も簡単な免疫応答回避機構は、腫瘍関連抗原を隠すことである。腫瘍関連抗原は、癌化過程で必須のものではなく、腫瘍特異的な分化抗原であることが多いため、なんら腫瘍増殖に影響なく抗原提示を抑制できる。 免疫応答自体を抑制してしまうような、免疫細胞のアポトーシス誘導因子の産生や、免疫抑制因子の産生などが高頻度で認められる。

新しい免疫療法戦略 受動免疫 腫瘍特異的モノクロナール抗体の注入(ハーセプチンや リツキサンなど) 能動免疫  腫瘍特異的モノクロナール抗体の注入(ハーセプチンや  リツキサンなど) 能動免疫  1.活性化された腫瘍内浸潤リンパ球(tumor infiltrating    lymphocytes (TILs))を注入  2.腫瘍特異的オリゴペプチド抗原を搭載した樹状細胞の注入  3.接種した腫瘍特異抗原にB7共活性化受容体を添加  4.抑制性T細胞を抑制

癌に対する免疫療法の試み −その1− これらの図は、抗癌剤による化学療法にHER2に対する抗体であるハーセプチンを併用した時の効果を示したものである。 効果があると言えるのかどうか?

癌に対する免疫療法の試み −その2− この図は、癌ワクチン投与単独療法と抗癌剤との併用療法の効果を比較したものであり、併用療法の方が良いことを示している。 しかし、残念ながら免疫療法の効果を示してはいない。

がんの治療の種類 がんの治療法 1)外科手術 局所療法 2)放射線治療 局所療法 3)化学療法 全身療法 4)免疫療法 全身療法    1)外科手術 局所療法    2)放射線治療 局所療法    3)化学療法 全身療法    4)免疫療法 全身療法    5)分子標的療法 全身療法

分子標的薬剤のメカニズム ソラフェニブは,増殖因子レセプターの下流にあるMAPキナーゼカスケードの重要な分子Rafキナーゼ阻害薬としてスクリーニングされた低分子化合物である。c-Rafに強い阻害活性を有するのみならず,VEGFR-2(vascular endothelial growth factor receptor-2)VEGFR-3,PDGER(platelet-derived growth factor receptor),Flt3(Fms-related tyrosine kinease 3),c-Kit,Retなどの血管新生および細胞増殖にかかわるレセプターチロシンキナーゼに対し強い阻害活性を有する。抗腫瘍効果は腫瘍細胞に対する直接的な効果と血管新生阻害作用によると考えられる。

分子標的療法 TK阻害 転移性乳癌 EGFR-TK 非小細胞肺癌 (肺腺癌) bcr/abl 慢性骨髄性白血病 CD20 非ホジキンリンパ腫 薬剤名  (一般名)  標的分子  作用機作  適応症 ハーセプチン (trastuzumab) Erb2/HER2/neu TK阻害 転移性乳癌 イレッサ (Gefitinib) EGFR-TK 非小細胞肺癌  (肺腺癌) グリベック (Methyl imatinib) bcr/abl 慢性骨髄性白血病 リツキサン (ritukisimab) CD20 (B細胞の表面抗原 細胞膜傷害 非ホジキンリンパ腫 マリマスタット MMP 浸潤阻害 癌の転移 アバスチン VEGF 血管新生阻害 サリドマイド TNF-α MMP産生阻害 種々の癌

分子標的薬剤の効果 ラパチニブは,HER1と HER2タンパクを標的とする低分子チロシンキナーゼ阻害薬である。