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第4時限 研究活動と知的財産(2) ◇発明は誰のものか ◇秘密情報の管理 ◇共同・受託研究においての留意点 第4時限 研究活動と知的財産(2) ◇発明は誰のものか ◇秘密情報の管理 ◇共同・受託研究においての留意点
第4時限 目次 4-1 発明は誰のものか 4-2 秘密情報管理 4-3 共同・受託研究において留意すべきこと 4-1-1 概要 第4時限 目次 4-1 発明は誰のものか 4-1-1 概要 4-1-2 特許を受けることができる者(職務発明)) 4-1-3 (補論)職務著作 4-2 秘密情報管理 4-2-1 秘密情報管理 4-2-2 研究発表と秘密情報 4-3 共同・受託研究において留意すべきこと 4-3-1 共同・受託研究において留意すべきこと 4-3-2 秘密保持契約を結ぶ理由 4-3-3 秘密保持契約の中身 4-3-4 MTA(Material Transfer Agreement) (研究材料提供協約)について
概要 4-1-1 誰が考えたか 誰が開発したか 誰が完成させたか 誰を発明者として出願するか (★誰が「発明者」となるか) 着想 研究 発明 出願 権利発生 誰が考えたか 誰が開発したか 誰が完成させたか 誰を発明者として出願するか (★誰が「発明者」となるか) 誰が権利者となるか ★着想~発明まで、複数の人間がかかわるとき、いったい誰が「発明した」といえるかが問題となる。 〔狙い〕 発明者とは誰であるか、また発明者ではないのに特許を取得することができる場合があることを理解させる。 〔説明〕 着想から権利化までのフローチャートにおいて、誰が発明者となるか、誰が権利者となるかが争点になりやすいことについて理解させる。 まず原則として、発明者が最初から最後まで一人である場合を想定し、その場合に発明者が出願人となり特許を取得できることを確認する。 次に、学生の研究室生活を想起させた上で、着想から発明の完成までの間に多くの人が関わることを指摘し、その中で誰が発明者になるのかを考えさせる。 例外(職務発明:35条)については後ほど触れる。 ※研究活動は企業や大学等の団体内で行われることが多い。各団体は研究活動に巨額の投資をしており、投下資本の回収のために、「職務発明」の制度が設けられ、また就業規則等による事前の取り決めなどがなされる。
発明者とは 4-1-2 発明 特許を受ける権利を取得する発明者 →抽象的には「発明の成立に創作的な貢献をした」者、あるいは「技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者」 *ただし、実際は個別具体的な判断になりがち。 〔狙い〕 発明者の定義について説明する。 〔説明〕 東京地判平成14年8月27日判時1810号102頁〔細粒核事件〕、知財高判平成20年5月29日判時2018号146頁〔ガラス多孔体事件〕における定義を引用した。 言われた実験をしているだけの大学院生は、発明者に該当しない可能性があることも指摘する。 ※参考事例 事例:ガラス多孔体事件(知財高判平成20年5月29日判時2018号146頁) ・具体的着想を示さず単に通常のテーマを与えた者、又は発明の過程にお いて単に一般的な助言・指導を与えた者(単なる管理者) ・研究者の指示に従い、単にデータをまとめた者又は実験を行った者(単な る補助者) ・発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えることにより、発明の 完成を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者) →発明者には該当しない
特許を受けることができる者 (発明は誰のものか) 4-1-2 特許を受けることができる者 (発明は誰のものか) 発明の完成 =「特許を受ける権利」 の発生 「特許を受ける権利」は 発明者が持つ 原則 発明者が出願し、 権利者となる ※「特許を受ける権利」は譲り渡すことができる。 研究・開発に業務として従事する、企業や大学等の研究者の場合 Q. 職務発明(特許法35条)にあたるか ・従業者等が権利を取得する。 ・使用者等は特許を利用する権利(通常実施権)を取得する。 NO YES NO 〔狙い〕 特許制度において発明をした人がどのような権利を取得するのか、またその調整規定について理解させる。 〔説明〕 概論で一度触れた点であるが、ここではより詳細な説明を行う。 まず、上段で再度、発明者が特許を受ける権利を有し、出願という手続きを経て特許権者となるという原則を確認させる。 その上で、例外としての「職務発明」という概念を理解させる。 ここでは、職務発明の要件等(特許法35条)については企業の従業員がなした発明を念頭に置きつつ説明する。 研究について企業や大学等の使用者はリスクを引き受け、当該研究はその使用者の資本(研究施設、研究材料等)を用いてなされることから、研究の成果である発明、その特許を受ける権利の帰属について、調整がなされていることを理解させる(職務発明該当性、権利承継・相当の対価は次に言及)。 ※参考事例 事例:オリンパス光学事件(最判平成15年4月22日民集57巻4号477頁) 職務発明 Q. 特許を受ける権利の使用者等への承継に関する定めがあるか(例:職務発明規程、就業規則等) ・使用者等が権利を取得できる。 ・従業者等は、使用者等に対し、相当の対価を請求できる。 ※大学と雇用関係のない学生は 職務発明にはあたらない YES
職務発明となるには 4-1-2 ①従業員がした発明 ②会社の業務範囲に属する発明 ③従業員の職務に属する(または属した)発明 具体例 薬品会社C社で働くDさんがC社研究所で新たな薬品物質を発明 ①発明したのはDさん ②薬品の開発は薬品会社Cの業務範囲 ③Dさんは研究所勤務なので薬品開発はDさんの職務範囲 〔狙い〕 職務発明に該当するための要件を理解させる。 〔説明〕 企業に勤めている者の発明全てが職務発明に該当するわけではなく、3つの条件を満たす必要があることを説明する。 自由発明との対比を行う。 また、具体的な指示がなくても職務発明になりうることなどに言及する事も考えられる。 (大学での発明について検討する事も考えられるが、研究室内の処理を確認してから行うこと。) 職務発明
使用者は一方的に権利の取得を規定できる。 4-1-2 職務発明規程・就業規則 大学・企業内 使用者は一方的に権利の取得を規定できる。 ↕ 従業者は対価の取得 研究・開発 発明の完成 →特許を受ける権利の発生 職務発明規程 就業規則 その 帰属が問題となる 〔狙い〕 職務発明における職務発明規程・就業規則等の定めの意義について理解する。 〔説明〕 職務発明規定等により、使用者による一方的な承継が可能である点に注意しなければならない。従業者の同意は不要である。 他方で、従業者は相当の対価を取得することができ、これによって企業に権利が移転し、従業員は金銭的に報われるという調整がなされていることを確認させる。 その対価の額について、使用者と従業者に与える影響について議論させる事が考えられる。 ※参考事例 事例:青色発光ダイオード事件終局判決(東京地判平成16年1月30日判時1852号36頁) →特に莫大な賠償金額:一部請求であることを前提に200億円
補論:職務著作 4-1-3 著作者とは、著作物を創作したものをいう 原則、創作したものが著作者となる。 職務著作 要件① 例外として、 (企業内創作に顕著)の場合、企業等が著作者となる。 職務著作 要件① 法人等の発意に基づく 要件② 法人等の業務に従事する者 要件③ 職務上作成 要件④ 法人等が自己の著作の名義の下に公表する Ex 〔狙い〕 著作者は著作物を創作した者であることを前提に、職務著作(著作権法15条)を説明する。 〔説明〕 例えば、新聞記者によって書かれた新聞記事や、公務員によって作成された各種の報告書などのように、会社や国の職員などによって著作物が創作された場合などは、その職員が著作者となるのではなく、会社や国が著作者となる場合がある。 特にプログラムの著作物に関しては、公表が不要であることを学生に意識させる。 ※参考事例 事例:RGBアドベンチャー事件(最判平成15年4月11日判時1822号133頁) 新聞社が記者に記事の執筆を指示した場合 ①新聞社が指示したことから、新聞社の発意といえる。 ②記者は新聞社に雇用されている ③記者の職務は記事執筆 ④新聞記事は新聞社の名義で公表される (プログラムの場合④は不要) 9
補論:職務著作 職務発明 職務著作 4-1-3 対象 発明 著作物 要件 発明者・著作者 従業員 会社 就業規則等の定め 必要 不要 従業者が発明 使用者の業務範囲 従業者の職務範囲 法人等の発意 従事者が職務上作成 会社の名義で公表(プログラムを除く) 発明者・著作者 従業員 会社 就業規則等の定め 必要 不要 相当の対価 〔狙い〕 職務著作と職務発明の違いを理解させる。 (ただし、著作権制度の概論を勉強してからのほうが良い場合は、後回しにする) 〔説明〕 職務発明と違い、職務著作の場合、規則等がなくとも自動的に法人等が著作者となることに注意する(著作権法15条)。 職務著作には特許法35条4項、5項(相当対価請求権)に対応する規定がないことも説明する。
第4時限 目次 4-1 発明は誰のものか 4-2 秘密情報管理 4-3 共同・受託研究において留意すべきこと 4-1-1 概要 第4時限 目次 4-1 発明は誰のものか 4-1-1 概要 4-1-2 特許を受けることができる者(職務発明)) 4-1-3 (補論)職務著作 4-2 秘密情報管理 4-2-1 秘密情報管理 4-2-2 研究発表と秘密情報 4-3 共同・受託研究において留意すべきこと 4-3-1 共同・受託研究において留意すべきこと 4-3-2 秘密保持契約を結ぶ理由 4-3-3 秘密保持契約の中身 4-3-4 MTA(Material Transfer Agreement) (研究材料提供協約)について
守秘義務のない他人に内容を理解できる程度に知られるおそれがないこと 4-2-1 秘密情報管理 ①情報管理の重要性 新しい物理・化学法則 研究開発 新しい情報を取得 実験データ データ取得のノウハウ 新しい技術的なアイディア 秘密として管理 する必要あり 新規の物質 秘密とは・・・・ 〔狙い〕 秘密情報とは何か?なぜ必要であるか?守秘義務とは何か?それぞれについて説明する。 〔説明〕 秘密情報の管理が、理系の学生にとって、学生時代のみならず、研究者やエンジニアとして社会に出てからも極めて重要であることを説明しながら、実際の事例を通じて学生の当事者意識を高める。特に在学中、在職中だけではなく、所属を離れてからも一定の制限がかかることに注意してもらう。 守秘義務のない他人に内容を理解できる程度に知られるおそれがないこと 知られるおそれがあると「新規性」喪失により特許されなくなる。 ※通常、研究者には、その所属する企業や機関から守秘義務が課されている 12
秘密情報管理 4-2-1 ①情報管理の重要性 秘密情報を漏らすと重大な損失のおそれ 情報が秘密でなくなると・・・ 守秘義務違反 特許されない 経営上の秘密を他社に知られることで営業上企業が重大な損害を被るおそれがある。故意または過失によって秘密を漏らした研究者は契約違反であり、損害賠償責任を負う。 特許されない その発明については、新規性がなくなり特許を取得することができなくなる。その結果、得られるはずだった独占利益やライセンス収入も得られない。契約違反とは別に考えること。 〔狙い〕 ここで、情報管理はなぜ必要であるかを理解させるのが目的である。秘密を漏らすとどのようなことになるのかを説明し、重要性を認識させる。 〔説明〕 秘密でなくなる三つの例を挙げて、このような事情が起こったら、どのような効果をもたらすのかを説明する。 他の研究者に発表される 研究の成果を漏らすと、それを他の研究者が見た場合、先に学会に発表されるなど、研究成果を横取りされるおそれがある。 秘密情報を漏らすと重大な損失のおそれ 13
秘密情報管理 4-2-1 ②特許にする情報としない情報(秘密維持が必要な期間) 企業秘密 営業秘密 発明 学会等での発表可能 特許出願 NO 企業秘密 NO 学会等での発表可能 YES YES 企業秘密である限り永久に秘密として 管理する 特許出願 秘密として 管理 NO YES 出願まで 秘密状態を維持 出願するか否かの判断 〔狙い〕 秘密情報とする判断とその対応を理解する。 〔説明〕 出願するか否かの判断では、もちろん、出願には手数料等の費用がかかること、特許要件を満たさないと登録されないこと、会社の特許取得状況などをも考慮する。 そのようにして、特許出願を断念したものについても、企業秘密としての管理の必要性を検討することになる。 ※参考事例 事例:遺伝子スパイ事件(東京高判平成16年3月29日判時1854号35頁) 研究資料を日本に持ち帰り、損壊した行為が米国経済スパイ罪に該当するかが問題 特許出願 → 出願から20年間特許権によって独占可能 企業秘密 → 期限はないが情報漏えい時の保護は弱い 具体例 医薬品(出願)→特許権満了後に低価格の後発品が出る(ジェネリック) 食品会社のレシピ(企業秘密)→厳重に管理すれば長年優位性を保てる
= × × 秘密情報管理 4-2-1 ☆守秘義務に違反しないために 所属する機関の情報管理ルールに従う 場所 ・資料の持ち出し禁止 ・カメラ(カメラ付携帯)持ち込み禁止 ・社内からのメール発信禁止 ・オンラインPCへのデータ入力の禁止 ・USBメモリの持ち込み禁止 ・ファイル交換ソフトのインストール禁止 ※ルールの一例(組織等により異なる) 不用意な情報漏えいが多発している。 細かいルールから遵守することが肝要。 ☆守秘義務違反になるかどうかの判断要素 = ※下記の要素の組み合わせで、守秘義務違反となるかどうか考えてみよう。 家族 友人、恋人 研究者 同僚 共同開発の研究者 ライバル会社の人 相手 〔狙い〕 守秘義務を守ることの重要さを認識させるのが目的である。 〔説明〕 守秘義務はどのような場面で存在しているのかを説明し、守秘義務に違反しないためにどのような手段が考えられるかを例示する。 研究テーマ 進み具合 具体的な内容 内容 ・家で ・研究室(大学)で ・研究室(企業)で ・道端で ・トイレ(大学・企業)で 場所 × ×
大学は学術的側面を、企業は営利的側面を重視する傾向がある 4-2-2 研究発表と秘密情報 ①研究成果の二つの側面 学術的側面 営利的側面 研究成果 論文を学会誌等に掲載する、学会で発表するなど、先に発表した者の成果とされる 特許出願まで、または企業秘密として管理する限り秘密として管理しなければならない 情報管理には、このように相反する二つの側面を考慮する必要がある 組織の性格上 大学は学術的側面を、企業は営利的側面を重視する傾向がある 〔狙い〕 情報管理は組織の性格によって、管理手段も大きく変わるため、学術的側面と営利的側面の違いを明らかにする。 〔説明〕 大学と企業の性質の違いによって、情報管理には、このような相反する二つの側面を考慮する必要がある。両者の違いを説明した上で、研究発表と秘密管理の関係を理解させる。 相手の立場を理解したうえで情報の管理をする必要がある。 特に共同研究開発では、立場の異なるものが研究に関わるので注意する
研究発表と秘密情報 4-2-2 ②特許出願と研究発表(出願を先にするのが原則) 研究発表により新規性がなくなると、原則として、特許を取得することができない 特許出願は、研究発表の前にできるように出来るだけ早く 研究発表は、特許出願がなされるまで待つ 共同研究の場合、企業は大学側研究者の発表の意向を確認し、発表する場合には、優先的に出願手続きをする必要がある。 実際、大学と企業の共同契約では、成果を公表する際は、事前に相手方の同意を得るという取り決めがなされるのが通常である。 〔狙い〕 研究発表と特許出願のタイミングを理解する。 〔説明〕 特許出願を行うタイミングは、基本的には、研究発表(論文、学会など)に先駆けて行う必要性があることから、共同研究を行っている場合などには、特に双方の情報共有を密にすることが重要であることなど、時系列など事例を提示して説明する。 大学側は、研究発表の希望、発表の時期について、企業側に承認を得る必要がある。実際に発表する場合は、出願手続きが完了していることを確認する
研究発表と秘密情報 4-2-2 ②特許出願と研究発表(新規性喪失の例外) 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失するに至った発明は、所定の手続きを踏むことによって、例外的に、新規性を喪失していないとみなされる(特許法30条2項) 所定の手続き ・発表の日から6月以内に出願すること ・出願時に例外の適用を受けようとすることを願書に記載すること ・出願から30日以内に例外を受けられることを証明する書面を提出すること 留意事項 〔狙い〕 特許出願前に、研究発表等で公開してしまった場合の救済手段である新規性喪失の例外規定の理解。 〔説明〕 この救済手段はあくまでも例外的なものであることの理解が重要。 証明する書面には、出願人全員の記名押印と、公開の事実等を記載しなければならない。 公開する事実は、公開日、公開場所、公開者、公開された発明の内容(証明する対象を特定し得る程度に記載)。 公開する場合は、このような書面を作らなければならないことに留意すること。 ・共同研究で相手方が手続をする場合など、期間制限に留意する ・学会発表の場合、学会当日ではなく、予稿集公開の日が発表の日である ・外国出願する場合には、このような制度がない場合がある あくまで例外であることを考慮し、発表の前に出願をするようにし、 共同研究者との情報共有をしっかりすることが重要
第4時限 目次 4-1 発明は誰のものか 4-2 秘密情報管理 4-3 共同・受託研究において留意すべきこと 4-1-1 概要 第4時限 目次 4-1 発明は誰のものか 4-1-1 概要 4-1-2 特許を受けることができる者(職務発明)) 4-1-3 (補論)職務著作 4-2 秘密情報管理 4-2-1 秘密情報管理 4-2-2 研究発表と秘密情報 4-3 共同・受託研究において留意すべきこと 4-3-1 共同・受託研究において留意すべきこと 4-3-2 秘密保持契約を結ぶ理由 4-3-3 秘密保持契約の中身 4-3-4 MTA(Material Transfer Agreement) (研究材料提供協約)について
共同・受託研究契約の際に留意すべきこと 4-3-1 着想 研究 発明 出願 ※いかに予防的に解決するかが重要 権利発生 誰が考えたか 誰が開発したか 誰が完成させたか 誰を発明者として出願するか (★誰が「発明者」となるか) 誰が権利者となるか 発生した秘密・機密をどのように扱うか。 (秘密保持契約、就業規則、ガイドライン) MTA(Material Transfer Agreement、研究材料提供協約等) 〔狙い〕 共同・受託研究においては、その発明者や権利の帰属等について紛争が生じやすいこと、その予防として、事前に契約やガイドライン等で明示しておくこと、予防的解決の重要性について理解する。 〔説明〕 着想から権利化までのフローチャートを示した。その流れの中で、誰が発明者となるか、誰が権利者となるかが争点になりやすいことについて考察させる。 発明が完成するまでには、着想・研究開発・完成までの道のりを経るが、各段階に関わる者の内、誰が「発明者」および「権利者」となるか、その判断が困難であることを理解させる。 その困難さから、そういった事項について事前に取り決めておくことが重要であるということについて思いを至らせる。 ※参考事例 事例:ガラス多孔体事件(知財高判平成20年5月29日判時2018号146頁) →教授・学生・准教授が共同で実験を行ったが、教授は除外された。 事例:University of Pittsburgh v. Mare Hedrick(国際商事法務Vol.38,No.1 111頁) ※いかに予防的に解決するかが重要
自社にない技術があるA社と共同研究したい。 その技術が本当に自社の事業に役立つか詳細な情報が必要 4-3-2 秘密保持契約を結ぶ理由 自社にない技術があるA社と共同研究したい。 その技術が本当に自社の事業に役立つか詳細な情報が必要 秘密保持契約を締結 〔狙い〕 秘密保持契約を結ぶ理由を具体的にイメージしてもらう。 〔説明〕 ある国立大学を例にとって説明している。 学生が秘密を守らなければならないことになる理由について、認識させる。 秘密保持誓約書に署名 秘密を守る義務が発生!
秘密保持契約の中身 4-3-3 研究遂行上知り得た又は取得した大学及び共同研究する企業のあらゆる契約対象の情報 ●守るべき秘密(秘密情報)とは? ●漏洩に該当する行為とは? 秘密情報を、大学の承諾なく外部に持ち出すこと。 秘密情報を、第三者(正当な権限を有しない大学の教職員等を含む。)に対して漏洩、開示すること。 秘密情報を、業務遂行の目的以外で使用、流用すること。 秘密情報を、方法の如何にかかわらず複製・複写すること。 研究遂行上知り得た又は取得した大学及び共同研究する企業のあらゆる契約対象の情報 コンピューターデータ、フロッピーディスク、文書、テープその他いかなる媒体によるものかを問わない。 有形、無形も問わない 〔狙い〕 秘密情報、秘密漏洩行為について理解する。 〔説明〕 ここでは守るべき秘密情報と、それを害する漏洩行為について分けて説明している。 特に漏洩行為については、学生が具体的に行いやすい行為を念頭に、イメージを持ちやすいよう具体例を掲載した。 (既に研究室に出入りしている学生が対象の場合は)学生の研究においてこのような秘密保持についての具体的な体験があるか、想起させるのもよい。 ※漏洩すると損害賠償責任が発生!
MTA (Material Transfer Agreement) (研究材料提供協約)について 4-3-4 MTA (Material Transfer Agreement) (研究材料提供協約)について 共同研究契約 研究 成果 +研究材料の移転(貸借、分譲、譲渡など)に関する合意 研究材料、物質の取扱いに関する事項 研究の成果物の取扱いに関する事項 成果 論文、知的財産権の取扱いに関する事項 MTA 〔狙い〕 MTA(研究材料提供協約)について理解してもらう。 〔説明〕 共同研究における研究材料や成果物などは、それ自体の中に、共同研究において当事(研究)者が提供した秘密を含んでいる。 これらは、物としての実体を持っていて持ち運び等が用意であって、特に取り扱いに注意する必要があることから、特別に取り扱いに関する取り決めを用意する。 その取り決めをMTAと総称している。 共同研究等の際、研究機関間で研究材料となる物質の移転(貸借、分譲、譲渡など)を行う際に、機関間で取り交わされる契約のことをいう。 物質自体の扱いに関する条項の他、研究の成果として得られた論文や知的財産権の取扱い及び帰属などが定められる。 例えば生物学・医学の分野においては、マウスなどの実験動物、遺伝子、培養細胞(細胞株)など様々な対象の移転に際して契約が交わされる。