出産育児一時金制度と分娩費用の関係について ー日本産科婦人科学会の取組ー http://shusanki.org/ 2010年6月13日 出産育児一時金制度改革を考える公開フォーラム 出産育児一時金制度と分娩費用の関係について ー日本産科婦人科学会の取組ー http://shusanki.org/ 海野信也 北里大学医学部産婦人科 (日本産科婦人科学会・医療改革委員会)
出産育児一時金制度改革 総理・厚生労働大臣による発言 ① 厚生労働大臣 閣議後記者会見(平成20年8月22日) 総理・厚生労働大臣による発言 ① 厚生労働大臣 閣議後記者会見(平成20年8月22日) 「贅沢しなければ、手元に現金がなくても、安心して妊娠、出産できる」ようにする旨、与党・官邸と協議の上、発言。 ② 総理大臣 所信表明演説(抄)(平成20年9月29日) 「・・・妊娠や出産費用の不安、・・・いつ自分を襲うやもしれぬ問題であります。日々不安を感じながら暮らさなくてはならないとすれば、こんな憂鬱なことはありません。わたしは、これら不安を我が事として、一日も早く解消するよう努めます。」 1
出産育児一時金と分娩費用 出産育児一時金 分娩費用 出産に直接要する費用や出産前後の健診費用等の出産に要すべき費用の経済的負担の軽減を図るために支給されるもの。 保険者から被保険者に支払われる。 分娩費用 出産に直接要する費用 出産をした人から分娩施設に支払われる。 両者は関係はあるけれども別のもので、つながっているわけ ではありません。これをつなげようとしたために、いろいろな 問題が発生しました。
出産育児一時金制度改革の論点 制度改革の目的 給付額 申請の方法 給付の方法 出産に要すべき費用の経済的負担の軽減 少子化対策 55万円? 事前申請・事後申請 本人申請・代理申請 給付の方法 本人受領 代理受領
申請と受領の方法 本来の制度 以前の代理受領制度 現在の直接支払制度 事後申請 : 本人申請 → 本人受領 事後申請 : 本人申請 → 本人受領 以前の代理受領制度 事前申請 : 本人申請 → 代理受領 現在の直接支払制度 事後申請 : 代理申請 → 代理受領
出産育児一時金制度改革の経緯 2010年6月以降: 2008年11月27日:出産育児一時金に関する意見交換会 2009年6月1日:「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」要綱 2009年9月25・28日:厚労省 出産育児一時金に関する意見交換会 2009年9月29日:保険局長通知「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度実施に当たっての当面の取扱いについて」 2009年10月1日:出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度実施 2010年3月12日:保険局総務課 報道発表 「実施一部猶予措置の1年間延長」 出産育児一時金制度について議論する場を設け、直接支払制度の現状・課題や、平成23年度以降の制度の在り方について検討する方針 2010年6月以降: 社会保障審議会医療保険部会における検討開始予定
2008年11月27日 出産育児一時金に関する意見交換会 日本助産師会の意見表明 舛添厚生労働大臣 直接支払制度における入金のタイムラグについて懸念を表明。 舛添厚生労働大臣 タイムラグがある問題は、いかようにもその間緊急融資するとか、それは幾らでも技術的に2か月、3か月のタイムラグについては、政治的な補修はそんなに難しくないと思っております。
出産育児一時金直接支払制度 導入時の経過 2009年7月3日:日本産婦人科医会 医療対策委員会発足 以後各地で説明会の実施 2009年7月3日:日本産婦人科医会 医療対策委員会発足 以後各地で説明会の実施 2009年8月21日:日本産婦人科医会 直接支払制度の3ヶ月程度の実施猶予を保険局に要望。 2009年9月2-3日:保険局 実施猶予の枠組みを保険者に説明。保険者から、直接支払制度に対応できない、又は対応する医療機関等の名称等を事前に周知すべきとの意見。
出産育児一時金直接支払制度 導入時の経過 2009年9月16日:鳩山内閣発足。 同日 日本のお産を守る会 署名運動開始(10月8日時点 署名数 8417名) 要望事項 出産育児一時金の可及的すみやかな入金処理を要望します(せめて産後1週間までに) 現行の事前申請による代理受取制度の存続を要望します(妊産婦にとって直接支払制度と同等の利便がありますが、今回廃止されようとしています) 直接支払制度に伴う事務手続きの簡素化を要望します。
日産婦学会 医療改革委員会の対応 2009年9月17日:陳情の方法について民主党議員に相談 日産婦学会 医療改革委員会の対応 2009年9月17日:陳情の方法について民主党議員に相談 2009年9月25日:厚労省 出産育児一時金に関する意見交換会 出席 出席者:長妻昭厚生労働大臣、足立信也厚生労働政務官、梅村聡参議院議員、唐澤剛大臣官房審議官、外口保険局長、神田保険局総務課長、阿曽沼医政局長ら 2009年9月28日:厚労省 第2回出産育児一時金に関する意見交換会 出席 出席者:長妻昭厚生労働大臣、足立信也厚生労働政務官、外口保険局長、神田保険局総務課長ら 当面の方針決定
出産育児一時金 直接支払制度の問題点 制度のスキーム: 分娩施設にはこの負担を被る理由がない。 これまで:産婦は分娩退院時に分娩費用の全額を支払う。出産育児一時金は出産後、産婦からの申請に基づいて支給されていた。支給まで、産婦側が負担してきた。 導入後:分娩費用の内、出産育児一時金相当部分は、保険者から支給されるまでの期間、分娩施設が負担することになる。産婦側の負担は軽減される。 この制度変更では、国および保険者には新たな負担は生じない。 分娩施設にはこの負担を被る理由がない。 分娩施設が不当に利益を得ていた等の問題があるのであれば、理解できないこともないが、そのような問題は発生していない。
出産育児一時金 直接支払制度の問題点 最終的に誰が負担することになるか この施策により、平成21年度、分娩施設全体で約500億円の減収 平均2ヶ月遅延、全分娩108万として約750億円の一時的収入途絶。20%程度は代理受領制度で既に遅延支払となっていたためその分を差し引いて少なくとも500億円)となる。これに未収金にかかる税負担がさらに追加される。 福祉医療機構の融資 2010年2月26日現在 38億6450万円 最終的には、分娩費用に転嫁されざるをえない。 負担はお産する人たちがすることになる。
出産育児一時金直接支払制度の 問題点に対する緊急対策 どうすればいいか この制度は不公正、不公平なので、制度設計をやり直す必要がある。 分娩施設が介在して、事務手続き代行等を行う合理的理由がない。 妊婦がより早く一時金を受け取り、出産準備に活用できる制度とすべきである。 制度導入を一時凍結して、一時金のさらなる増額とともに、より公平で、現場に負担をかけない制度として施行されるべきである。
2009年9月29日:長妻厚生労働大臣 記者会見 保険局長通知 2009年9月29日:長妻厚生労働大臣 記者会見 保険局長通知 当面の資金の準備が整わないなど、直接支払制度に対応することが直ちに困難な医療機関等については、例外的に、・・・・、今年度に限り、準備が整うまでの間、直接支払制度の適用を猶予することとする。
2009年10月16日: 日産婦学会 厚労大臣宛要望書「出産育児一時金制度の抜本的改革に関する要望書」 2009年10月16日: 日産婦学会 厚労大臣宛要望書「出産育児一時金制度の抜本的改革に関する要望書」 要望事項 平成22年度には、今回導入された直接支払制度を廃止し、被保険者が出産直後に出産育児一時金の給付を受けることのできる制度を導入すること 制度導入時に被保険者、保険者、分娩施設に過剰な負担がかからないよう配慮すること 直接支払制度による現場の分娩施設の負担軽減措置を早急に実施すること 平成23年度には、出産育児一時金を55万円程度まで増額し、被保険者の出産前後の経済的な負担をさらに軽減する制度を整備すること 事前申請 :本人申請 → 分娩直後の本人受領または代理受領
日本産科婦人科学会 分娩費用に関する考え方 目標 安心で安全な地域分娩環境の確保 分娩施設の状況の改善 医療スタッフの過剰勤務の是正とそれが達成されるまでの正当な処遇 適正なスタッフの配置と医療設備の向上 適正な分娩費用:経済的基盤の確保
分娩取扱医療施設数の変化 (厚生労働省・医療施設静態調査) 分娩施設は、診療所も病院も減少を続けており、住民にとっての分娩施設へのアクセスは悪化している。 地域分娩環境の確保には、分取扱の継続と新規参入を促進する施策が必要と考えられる。
日本産科婦人科学会会員 年齢別・性別分布 2009年 日本産科婦人科学会会員 年齢別・性別分布 2009年 新規学会員の中で女性の占める割合が急速に増加しており、現状でもきわめて過酷な産婦人科医の勤務状態を考慮すると、今後、産婦人科医のワークフォースの確保はきわめて困難な状況になると考えられる。 分娩取扱医師の確保のためには、現状より経済基盤の安定化と拡大が必要になると考えられる。
平成18年10月27日 日本産科婦人科学会 ・産婦人科医療提供体制検討委員会 「分娩施設における医療水準の保持・向上のための緊急提言」 http://www.jsog.or.jp/news/pdf/kinkyuteigen2006-10-27.pdf すべての分娩施設は必要なスタッフを確保し、医療設備の向上に努めていただきたい。 分娩施設の責任者は、勤務している産婦人科医師の過剰勤務を早急に是正すべきであり、それが達成されるまでの過渡期においては、産婦人科医師の過剰な超過勤務・拘束に対して正当に処遇していただきたい。 上記を達成し、地域の周産期医療を崩壊させないためには、分娩料の適正化が必要である。 公立病院の分娩料が病院経営の観点から設定されている施設は多くない。診療所が分娩料を適正化しても公立病院の分娩料が据え置かれれば妊産婦は相対的に公立病院にシフトする。 診療所の分娩料の適正化は必要だが、公立病院の分娩料の適正化が先行して行われないと、期待した効果は得られない 分娩にかかる経費は、産科医療体制が安定的かつ安全に維持可能な水準以上でなければならない。その経費を個人が負担するかどうかは政策の問題であり、現行制度の範囲でも出産育児一時金の引き上げ等によって対応可能と考えられる。
日本産科婦人科学会 分娩費用に関する考え方 分娩費用の適正化を阻む要因 保険診療ではないので、基本的には分娩施設が独自に設定できる 分娩費用設定の仕組みが医療機関によって異なる 自治体立病院:議会の承認が必要 地域住民にとって受容できる範囲の設定 赤字分は補助金等で補填 ←赤字でも存続可能 私的病院・診療所:自ら設定可能 経営可能な収入を確保する必要 ←赤字では続かない 自治体立病院の費用設定より高すぎる設定だと、取扱数の確保が困難 安すぎると質の担保ができない 私的病院・診療所の分娩費用は自治体立病院の分娩費用の影響を受ける。
「我が国における分娩にかかる費用等の実態把握に関する研究」 2010年6月13日 出産育児一時金制度改革を考える公開フォーラム 分娩費用の実態 2009年4月 平成20年度厚生労働科学特別研究事業 「我が国における分娩にかかる費用等の実態把握に関する研究」 (研究代表者 可世木成明)報告書から
施設区分別 分娩入院費用 (2009年1月時点・平日昼間の正常分娩) 施設区分別 分娩入院費用 (2009年1月時点・平日昼間の正常分娩) 2009年4月 平成20年度厚生労働科学特別研究事業 「我が国における分娩にかかる費用等の実態把握に関する研究」 (研究代表者 可世木成明)報告書
自治体病院と診療所 都道府県別平均分娩入院費用 自治体病院と診療所 都道府県別平均分娩入院費用 自治体立病院と診療所の分娩費用相場には有意の相関がある。 2009年4月 平成20年度厚生労働科学特別研究事業 「我が国における分娩にかかる費用等の実態把握に関する研究」 (研究代表者 可世木成明)報告書
自治体病院と国立病院・大学病院 都道府県別平均分娩入院費用 自治体立病院と国立病院・大学病院の分娩費用相場には相関がない。国立病院や大学病院は、自治体病院の分娩費用をあまり気にしていないようだ。
一人当たり県民所得と自治体病院の平均分娩費用 自治体病院の分娩費用は県民所得と有意の相関がある。 県民所得の低い県では自治体病院の分娩費用を引き上げにくい可能性がある。 2009年4月 平成20年度厚生労働科学特別研究事業 「我が国における分娩にかかる費用等の実態把握に関する研究」 (研究代表者 可世木成明)報告書
都道府県別の県民所得と消費者物価 県民所得は消費者物価と有意の相関がある。 2009年4月 平成20年度厚生労働科学特別研究事業 県民所得は消費者物価と有意の相関がある。 2009年4月 平成20年度厚生労働科学特別研究事業 「我が国における分娩にかかる費用等の実態把握に関する研究」 (研究代表者 可世木成明)報告書
都道府県別 消費者物価と診療所の分娩入院費用 都道府県別 消費者物価と診療所の分娩入院費用 消費者物価と診療所の分娩費用には有意の相関がある。 2009年4月 平成20年度厚生労働科学特別研究事業 「我が国における分娩にかかる費用等の実態把握に関する研究」 (研究代表者 可世木成明)報告書
地域分娩費用水準の決定過程 (仮説) 自治体病院分娩費用 診療所 分娩費用 相関 相関 相関 相関 県民 所得 物価 相関
地域分娩費用水準の決定過程 (仮説) 県民 物価 所得 自治体病院分娩費用 診療所 分娩費用 相関 下支え 相関 出産育児 相関 一時金
地域分娩費用水準の決定過程 地域の分娩費用水準は、住民の所得水準、物価等の多くの因子によって決定されている。 診療所の分娩費用は自治体病院の分娩費用の影響を受けている。 出産育児一時金は地域分娩費用水準をした支えしていると考えられる。 出産育児一時金の引き上げは、地域分娩費用水準を引き上げ、分娩施設の経済基盤の強化、質の高い地域分娩環境確保に有効と考えられる。