法とコンピュータ08(第4回) 法適用 法の解釈における具体化と体系化 慶應義塾大学 2008/5/13 吉野一
目次 法適用の推論の構造 事例問題3bにおける問題解決のための、 1 事実の記述 2 適用法 3 具体化の解釈命題の創設 1 事実の記述 2 適用法 3 具体化の解釈命題の創設 4 体系化の解釈命題の創設-契約成立を解くための体系化ルール 課題:事例問題3cの問題解決の論理構築
法適用の構成要素(復習) 法文と推論 法的推論 法文は三つの要素から構成させる 法的正当化の推論 法的創造(発見)の推論 法 事実 判断(決定)
法適用の推論の構造 法的三段論法(復習) 大前提:法 小前提:事実 ⇒ 結論:法的判断 法 法的正当化の推論 事実 法的判断
法的正当化の推論に法創造の推論 法的正当化の推論 法原則 法規 具体化(判例・解釈) 事例用解釈 事実の記述 事実の資料 大前提:法 ∀X{可罰(X)← 構成要件該当(X)&違法(X)&責任(X) 大前提:法 法原則 法規 具体化(判例・解釈) 事例用解釈 小前提:認定事実 事実の記述 事実の資料 ⇒ 結論:法的判断 刑法第204条: ∀X{人の身体を傷害した者(X)→ 十年以下の懲役又は三十万円 以下の罰金若しくは科料に処する(X)} 法的正当化の推論 ∀X{人の身体を傷害した者(X)← 身体の生理機能に障害を与えた(X)} ∀X{身体の生理機能に障害を与えた(X)← 胸部に十日間疼痛を与えた(X)} 人の身体を傷害した者である(豊島) 胸部に十日間疼痛を与えた(豊島) 出来事に関する資料 十年以下の懲役又は三十万円以下の 罰金若しくは科料に処する(安藤昇)
法的三段論法 (事例3bにおいて,依頼人=原告のための) 大前提:法 原告のための適用法 小前提:事実 原告の立場の事実の整理 ⇒ 結論:法的判断 原告の要望 CISGの適用法ルール 法的正当化の推論 事例 3bの事実の記述 AはBに代金を支払う 義務がある
法的三段論法 (依頼人=原告のための) 法的正当化の推論 CISGの適用法ルール 事例 3bの事実の記述 AはBに代金を支払う 義務がある 大前提:法 法原則 CISGの条文 CISGの判例・解釈 原告のための法: 結論を導き出す法 小前提:事実 原告の立場の事実の整理: 結論を見引き出す事実の発見 ⇒ 結論:法的判断 原告の要望: 証明可能な結論 CISGの適用法ルール 法的正当化の推論 事例 3bの事実の記述 AはBに代金を支払う 義務がある
法適用による問題解決のプロセス 依頼人のための法律構成(今回は3,4,5) 依頼人の要望と問題概略を把握 事実の資料(証拠)収集(収集されたものとして出発) 依頼人の要望を確認 事実のメモ作成 適用法の探索と確認 法律構成⇒論理構築 法律構成メモ作成 ⇒(意見書、訴状、準備書面)
事実の資料:事例問題3b
事実のメモ 課題提出結果の評価1
適用法の発見・確定 課題提出結果の評価2(学生回答に基づき議論)
1 事実の記述(超簡略版) 事例3b (1)4月1日、ニューヨークの農業機械メーカー安西が、日本商社バーナードのハンブルク支店に対して、申し込みの手紙を発信した。手紙の内容は、安西がバーナードに農業耕作機械一式(トラクターとレーキからなる)を売る、トラクターの代金は5万ドル、安西はその機械をバーナードに5月10日までに引き渡す、バーナードは代金を安西に5月20日までに支払う、機械はアメリカの貨物船で運ぶ、というものであった。 (2)4月9日、その手紙はバーナードの葉ハンブルク支店の郵便受けに配達された。 (3)4月9日、バーナードは安西に電話をした。「申し込みは承諾。但し、日本のコンテナ船で運ばれたし。」 (4)5月1日、安西は農業耕作機械をニューヨーク港において日本のコンテナ船に引き渡した。 (5)その他:取引慣行はFOBである。日本コンテナ船の運賃は20パーセント高い。
2 適用法 International Convention on Contracts for International Sale of Goods国際物品売買契約に関する国連条約(CISG) 第14条 (1)一又は複数の特定の者に向けられた契約締結の申入れは、それが十分明確であり、かつ、承諾があった場合には拘束されるとの申込者の意思が示されているときは、申込となる。申入れは、物品を示し、かつ、明示又は黙示に数量及び代金を定め又はその決定方法を規定している場合には、十分明確なものとする。 第15条 (1)申込は、被申込者に到達した時にその効力を生ずる。 (2)申込は、たとえ取消不能のものであっても、申込の撤回通知が申込の到達前又はそれと同時に被申込者に到達する場合には、撤回し得る。 第16条 (1)契約が締結されるまで、申込は取消すことができる。ただし、この場合には、被申込者が承諾の通知を発する前に取消の通知が被申込者に到達しなければならない。 第17条 申込は、たとえそれが取消不能であっても、その拒絶通知が申込者に到達した時は、その効力を失う。
第18条 (1)申込に同意する旨を示す被申込者の陳述その他の行為は、承諾とする。 (2)申込に対する承諾は、同意の意思表示が申込者に到達した時にその効力を生ずる。 第19条(1)承諾の形をとっているが、付加、制限その他の変更を含んでいる申込に対する回答は、申込の拒絶であり、反対申込となる。 (2)しかしながら、承諾の形をとった申込に対する回答が、付加的条件や異なった条件を含んでいても、申込の内容を実質的に変更するものでない場合には、申込者が不当に遅滞することなくその相違に口頭で異議を述べ又はその旨の通知を発しない限り承諾となる。申込者が異議を述べない場合には、契約の内容は申込の内容に承諾中に含まれた修正を加えたものとする。 (3)付加的条件又は異なった条件であって、特に代金、支払、物品の品質及び数量、引渡の場所及び時期、一方当事者の相手方に対する責任の限度、又は紛争の解決方法に関するものは、申込の内容を実質的に変更するものとして扱う。 第23条 契約は、申込に対する承諾がこの条約の規定に従って効力を生じた時に成立する。 第24条 この条約第2部の適用上、申込、承諾の宣言、その他の意思の表示が相手方に「到達」した時とは、相手方にそれが口頭で伝えられた時、又はその他の方法で相手方に個人的に若しくは相手方の営業所又は郵便送付先に、また相手方が営業所も郵便送付先をも有しない場合においては相手方の常居所に配達された時とする。
課題1 事例3bの事実整理メモ(改訂版)提出 事例3bの事実整理メモ未提出者はかならず提出のこと。 事例3bの事実整理メモ提出者で改訂の必要があると思う者は改訂版を提出すること。 メールの件名とファイル名に「法とコンピュータ・事例3bの事実整理メモ(改訂版・慶應太郎)」というように、内容と提出者が分かるようにすること。
課題2 「承諾効力発生」の具体化の例を考える 事例3bにおいて「4/9に承諾の効力が発生した」という結論が出てくるためのルールを検討し追加せよ。スライドの18図の赤線で囲まれた空欄を埋めなさい。(空欄を埋めるべきルールを書いて送りなさい。) 提出方法: 別紙に書いて提出する。 タイトルのところに「法とコンピュータ第4回課題・承諾効力発生の具体化」と必ず記入すること。 締め切り 第5回講義末まで
具体化の具体例を考え見よう!
解釈により創設されるべき具体化ルールは何か! 申込効力発生←申込到達15(1) 承諾効力発生←承諾到達18(2) 意思表示←承諾 法的正当化の推論 創設 申込の通知が4/8に郵便受けに入る 4/9にBは電話で「承諾する」と言う 出来事 Case3b 4/9に承諾効力発生
第17スライドの赤枠を埋めよ! 承諾到達 ← 相手方に承諾が口頭で伝えられた(24,上田) 口頭で伝えられた←電話で言う(24条の事例向き解釈,上田)
回答例とその講評
解釈により創設されるべき具体化ルールは何か! 申込効力発生←申込到達15(1) 承諾効力発生←承諾到達18(2) 意思表示←承諾 法的正当化の推論 承諾到達 ←口頭で伝えられた 創設 口頭で伝えられた←電話で言う 申込の通知が4/8に郵便受けに入る 4/9にBは電話で「承諾する」と言う 出来事 Case3b 4/9に承諾効力発生 21 21
課題3 「承諾効力発生」の体系化の例を考える 事例3bにおいて「4/9に承諾の効力が発生した」という結論が出てくるためのルールを検討し追加せよ。スライドの18図の青線で囲まれた空欄を埋めなさい。(空欄を埋めるべきルールを書いて送りなさい。) 提出方法: 別紙に書いて提出する。 タイトルのところに「法とコンピュータ第4回課題・承諾効力発生の体系化」と必ず記入すること。 締め切り 第5回講義末まで 22 22
来週:体系化を中心に学ぶ