基礎商法2 第2回
本日の内容 商号の意義とその保護 名板貸し 営業(譲渡)の意義 営業の譲受人の責任
基礎商法2第2回 商号
商号の意義 定義 商号の価値 個人商人 ・・・商人が営業上自己を示す名称 会社 ・・・会社(外国会社)の名称 個人商人 ・・・商人が営業上自己を示す名称 ※1営業1商号 会社 ・・・会社(外国会社)の名称 ※1法人1商号 商号の価値 一般人の視点で、企業主体・企業内容の識別を容易にする 商号自体に信用、得意先関係が付着して顧客誘引力等の経済的価値を有する場合もある(ブランド化)
商号と区別すべきもの 商号の保護の必要性 氏名 ・・・氏名を商号とすることは可能だが、氏名自体は商号ではない 氏名 ・・・氏名を商号とすることは可能だが、氏名自体は商号ではない 商標 ・・・商品を区別するために用いる文字・図形等 例:ウォークマン、 営業票 ・・・営業を表示するために用いる文字・図形等 例:三越百貨店、 「商品等表示」 ・・・商号、商標、営業標等を含む概念 商号の保護の必要性 企業主体・企業内容の誤認の防止 顧客誘引力等へのフリーライドの防止
商号の選定 商号選定自由の原則 ⇒ 商号は商人、会社が自由に選定できる 屋号を商号としてきたわが国の商取引の沿革 商人の利益保護
例外 会社 ・・・会社の種類に応じた文字(「株式会社」等)を用いなければならず、かつ他の会社であると誤認されるおそれのある文字を使用してはならない(会6) 個人商人 ・・・会社であると誤認される文字の使用禁止(会社7) ※①②については、他の法人(たとえば一般法人)についても同様の規制(一法5,6) 営業主体を誤認させる商号(商12,会8) 商号単一の原則 ・・・会社は1社1商号、個人商人は1営業1商号 ※商号は登記可能(商11②)。同一住所、同一商号はその後登記できない(商登27)
商号権 商号権の意義 商号権の法的性格 商号使用権と商号専用権 人格権的性格 ・・・氏名権類似 財産権的性格 ・・・商号自体に経済的価値 人格権的性格 ・・・氏名権類似 財産権的性格 ・・・商号自体に経済的価値 商号使用権と商号専用権 商号使用権 他人に妨害されずに商号を使用する権利。商号の登記の有無は無関係 商号専用権 他人による同一または類似の商号の使用を排斥することのできる権利。商号の状態(知名度)で保護の態様が異なる
商号(専用)権の保護 保護のレベル 未登記かつ周知性のない商号 ・・・商12(会8) 登記済みだが周知性のない商号 ・・・商登27 未登記かつ周知性のない商号 ・・・商12(会8) 登記済みだが周知性のない商号 ・・・商登27 周知性のある商号 ・・・不競2Ⅰ①,3~5 著名な商号 ・・・不競2Ⅰ②,3~5 低高 周知性なし 未登記 登記済 周知商号 著名商号 条文 商12・会8 商登27 不競2Ⅰ①,3~ 不競2Ⅰ②,3~ 排斥の対象 他の商人と誤認 されるおそれの ある商号 同一住所、 同一商号 需要者の間に広く認識 されている商号と同一 もしくは類似の商号 著名な商号と同一 その他の要件 不正の目的 なし 混同を生じさせること 差止め ○ (登記拒絶) 損害賠償 ○(民709) ○(不競4,5)
商法における保護 排斥される対象 差止めの要件 損害賠償の要件 「不正の目的」 他の商人であると誤認されるおそれのある名称、商号 不正の目的 上記iの商号の使用 営業上の利益の侵害、または侵害のおそれ ※差止請求権者は商人に限定(他の主体は他の立法に委ねる) 損害賠償の要件 民709にしたがう 「不正の目的」 他の商人との誤認を生じさせて自己の営業活動を有利に展開しようとする意思で足りる(広く捉える) ※冒用者が被冒用者と同一の営業を営んでいる必要はない(最判S36.9.29百-13参照)
商号の譲渡等 商号の譲渡 商号の変更・廃止 商号自体に財産的価値があるので譲渡の意義あり 一方で、(営業を置き去りにして)商号だけが譲渡されると、営業主体の誤認により一般公衆に不測の損害 ⇒ 商号譲渡は営業の譲渡とともにする場合、および営業を廃止する場合に限って許容(商15Ⅰ) ※商号の譲渡は登記がなければ第三者に対抗できない(同Ⅱ) 商号の変更・廃止 登記商号の廃止・変更は登記事項(商10) 商号の廃止、正当理由のない2年間の不使用、商号変更等にも拘わらず廃止・変更登記が行われない場合には、同一商号使用者が登記抹消請求可(商登33)
名板貸し(商14) 意義 定義 ある商人(名板貸人)が、他人(名板借人)に自己の商号を使用して営業を行うことを許諾すること ⇒ 名板貸人を営業主と誤信して取引に入った第三者の保護の必要(一種の外観法理の適用場面) 誤信 ○○商事 名板貸し 取引 ○○商事
適用要件 効果 ある商人(名板貸人)が、他人(名板借人)に自己の商号を使用して営業を行うことを許諾すること(虚偽の概観+帰責性) 相手方が名板貸人が営業を行うものと誤信(相手方の誤信) ※誤認=善意・無重過失(最判S41.1.27百-15) 効果 名板貸人は、相手方・名板借人間の取引によって名板借人に生じた債務につき、連帯して弁済の責任を負う
論点 名板借人と名板貸人の営業の同一性の要否 特段の事情のない限り両者の営業は同一でなければならない(最判S43.6.13百-16) 〔理由〕商号は特定の営業について特定の商人を表す名称であり、営業の同一性を表示し、その信用の標的となる機能を営むものだから ※ただし判例は特段の事情を認定(本当に「特段」なのかとの突っ込みあり) 営業の同一性は、相手方の重過失の判断要素に過ぎない
営業活動以外での商号使用 テナント事業への類推適用 営業を許諾された者(名板借人)が、営業活動は行わずに手形振出のみを行った場合には、商法14条が類推適用される(最判S55.7.15百-14) ※「営業を行うものと誤認して・・・取引をした」わけではないので類推適用 手形行為について名義使用を許諾した場合は、商法14は適用されない(類推適用もない)(最判S42.6.6手百-12) ※手形行為は営業ではなく、営業を行うことの許諾がないから テナント事業への類推適用 スーパーのテナントの債務不履行につき、スーパーの行為によって、両者の営業が混同される外観が作出されたとして、商法14条類推適用(最判H7.11.30百-17)
営業の譲渡等
営業の意義 「営業」と「事業」 商法では「営業」、会社法は「事業」を用いるが、両者の意味は同じであると説明 ※ここでいう「営業」は「客観的意味の営業」のこと 商法では「営業」、会社法は「事業」を用いるが、両者の意味は同じであると説明 個人商人は1営業1商号であるのに対し、会社は1社1商号であるため、商号と営業の対応関係が異なることから、会社法制定に際して「事業」と呼称変更 会社法には会社・個人商人間での営業譲渡についてのみなし規定あり(会24)
営業譲渡の意義 総説 商法総則における「営業(譲渡)」の意義 商法総則(会社法総則)における営業譲渡(事業譲渡)の意義については争いがない 一方、会社法467条以下における「事業譲渡」の意義については、商法総則と同義に解すべきか否かについて議論がある(司法試験で何度も取り上げられている) 商法総則における「営業(譲渡)」の意義 「一定の営業目的のために組織化された有機的一体として機能する財産」の移転を目的とする債権契約 2015/9/1
商法総則における営業譲渡の効果 当事者間の効果 競業避止義務 特約がなければ一切の積極財産・消極財産を移転する契約と推定(除外対象は明示すべき) 営業譲渡契約は1個だが、財産の移転は個別に(財産の性質に応じて)移転行為が必要であり、対抗要件も個々に備えなければならない 競業避止義務 特約がない限り、営業の譲渡人は、同一及び隣接市区町村内において、営業譲渡の日から20年間は同一の営業を行えない(競業避止義務) ※競業避止義務を加重する特約は可能だが、期間は30年を限度 ※譲渡人は不正の競争の目的を以て競業してはならない
会社法における事業譲渡 総説 事業譲渡規制の対象(会467) 467条で総会の承認が要求される取引の範囲の問題 事業の全部譲渡 事業の重要な一部の譲渡。ただし、譲渡資産の帳簿価額が、譲渡会社総資産の5分の1以下の場合は除外 ※5分の1を超えたら直ちに「重要な一部」になるわけではないので注意 子会社株式の譲渡で、譲渡する株式の帳簿価額が総資産の5分の1を超え、かつ譲渡によって子会社議決権の過半数を割り込む場合 他の会社全部の事業の譲受け 事業全部の賃貸等 事後設立 2015/9/1
事業譲渡の意義に関する判例・学説 判例(最判S40.9.22民集19-6-1600会百87) 一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産の譲渡 事業活動の承継 譲渡会社に競業避止義務発生(特約がなければ) ⇒ 商法総則における営業譲渡と同じに理解する 〔理由〕 法律関係の明確性(同じ文言は同じ理解) 取引の安全(事業活動の承継の有無で事業譲渡か否かを判断でき、相手方は事業譲渡か否かを区別できる) 2015/9/1
有力説 少数説 一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産の譲渡 〔理由〕 会467は株主保護の規定であり、譲受人保護の商16とは趣旨が異なる 判例では営業を廃止した直後に譲渡を行えば株主総会決議は不要になるので不当 「営業」の価値の源泉はノウハウや従業員、得意先関係であり、事業活動そのものではない 少数説 きわめて重要な財産の譲渡 2015/9/1
事業譲渡の範囲 事業活動 得意先 ・従業員 ノウハウ 事業用財産 判例 有力説 江頭説 少数説
営業譲受人の責任 総論 商号を続用した場合 基本的な責任 営業譲渡は取引先にとっては権利義務の主体の変更にあたるが、営業譲渡前の債権債務関係について取引の相手方の保護が必要 商号を続用した場合 ※「続用」の意義について最判S38.3.1百-20 基本的な責任 原則(商17Ⅰ) 商号を続用した譲受人は、譲渡人の営業によって生じた債務について弁済の責任を有する ※相手方の誤信は不要(外観責任であるとともに、合理的意思解釈や、営業用財産が引当となっている実態等を考慮)
本条の類推適用 例外(商17Ⅱ) 弁済責任の消滅 相手方の譲受人に対する弁済 営業譲渡後遅滞なく、譲受人が債務を弁済する責任を負わない旨登記、通知をした場合には弁済の義務を負わない 弁済責任の消滅 譲受人の責任は譲渡日から2年で消滅 相手方の譲受人に対する弁済 相手方が譲受人に対してなした弁済は、善意・無重過失であれば有効 本条の類推適用 ゴルフ場の営業譲渡について類推適用(最判H16.2.20百-21) 営業の現物出資について類推適用(最判S47.3.2百-22)
商号を続用しない場合 詐害的営業譲渡の取消し(商18の2) 誤信の要素がないことから、譲受人は譲渡人の債務について弁済の責任を負わない(商18Ⅰ反対) ただし、譲受人が譲渡人の債務を引き受ける旨の広告をした場合には、広告日から2年間、債務の弁済の責任を負う(商18ⅠⅡ) ※業務を引き継いだ旨の挨拶状が債務引受の広告にあたるか否か争われた事案あり(最判S36.10.13百-23〔消極〕) 詐害的営業譲渡の取消し(商18の2) 2015/9/1