国際金融2002(毛利良一) 16章 EUの通貨統合と新たな課題 1 欧州通貨統合の歴史的背景 域内通貨協力の歴史/EMS(欧州通貨制度)と金融政策協調/資本移動自由化と欧州通貨危機 2 「市場統合+EMS」からEMUへ EMUのコストと便益/EMU計画策定からユーロ導入まで/ユーロシステムと単一金融政策 3 ユーロ域内の政策運営とEUの諸課題 ユーロの金融政策運営と為替相場/世界金融危機と規制監督体制の強化/ユーロ圏債務危機とEU財政制度構築 4 ユーロ圏の拡大と国際通貨としてのユーロ EUの拡大とユーロの求心力/為替標準通貨・公的準備通貨としてのユーロ/国際取引通貨としてのユーロ 2013-15 MohriR http://mihama-w3.n-fukushi.ac.jp/ins/mohri
16-1欧州通貨統合の歴史的背景 16-1-1 域内通貨協力の歴史 16-1欧州通貨統合の歴史的背景 16-1-1 域内通貨協力の歴史 小国の分立と仏独の対立→普仏・第1次・第2次大戦 1952年 欧州石炭鉄鋼共同体,1958年 欧州経済共同体 EEC誕生 大陸6カ国 1970年 ウェルナー報告 加盟国間の為替変動をなくす 1971年 ニクソン金ドル交換停止,そしてスミソニアン合意 為替変動幅を上下2.25%に拡大 (→域内通貨間4.5%) 1972年 欧州共同フロート体制(トンネルの中のヘビ) 相互間上下1.125%(合計2.25%) 1973年 変動相場移行&石油ショック→スネーク離脱 2013-15 MohriR
16-1-2 EMS(欧州通貨制度)と 金融政策協調 1979年 欧州通貨制度 EMS (European Monetary System)が 創設←スネーク離脱 ①欧州通貨単位 ECU (European Currency Unit)導入 バスケット通貨で基準相場の計算や介入後の決済手段に利用 ②ERM為替相場メカニズム (Exchange Rate Mechanism)による為替相場の固定 ③信用供与メカニズム ・EMSの20年間 ①不安定期(1979/03~),②収斂期(1983/03~),③安定期(1988/06~),④混乱期(1992/09~),⑤再収斂期(1993/08~98末) 2013-15 MohriR
16.1.3資本移動自由化と欧州通貨危機 EC(欧州共同体)1988年「4th資本移動自由化指令」→1992年欧州市場統合(財,サービス,労働,資本の移動の自由化) 国際金融のトリレンマ(①自由な資本移動,②固定為替相場制,③金融政策の独立性,の3つが同時成立することはない.独は例外.欧①②を選択し,③を放棄)(図16-1) 独マルクの欧州通貨化の進行 貿易や資本取引 欧州通貨統合に向けたマーストリヒト条約批准投票 1992年デンマーク国民投票で拒否,ポンドとリラがERMを離脱.しかし93年以降,再収斂. 2013-15 MohriR
16-2 「市場統合+EMS」からEMUへ 16.2.1 EMUのコストと便益 欧州主要国が自国通貨主権を放棄why? ①欧州諸国との取引の際の為替手数料やリスクからの解放,②最後で最大の「通貨の相違」の除去,「価格の透明性」の実現→欧州寡占企業間競争,③ドルを凌ぐ経済規模を背後に持つ通貨の登場 独自の金融政策や為替相場変動を通じた調整メカニズムの喪失 労働移動,賃金・価格の柔軟性,財政による調整が可能か,最適通貨圏OCA(Optimum Currency Area:内部における資本と労働の可動性がある地域では固定相場制が望ましい)の要件を備えているか.そうでなければ特定国が不況や失業になる. 図16-2非対称的ショックに対する調整メカニズム 2013-15 MohriR
16.2-1 EMU計画策定からユーロ導入まで ドロール・プラン1989.4 通貨統合(通貨の交換制,資本移動の自由化や為替変動幅縮小)促進派 vs 経済ファンダメンタルズ(単一市場,EC競争政策やマクロ政策協調)派が収斂 経済通貨同盟 EMU (Economic and Monetary Union)への3段階アプローチ. 欧州連合条約(通称マーストリヒト条約)調印1992.2 93.11発効 第1段階:資本移動の完全自由化,第2:欧州中銀ECBの前身の創設,第3:ECBがユーロを発行して単一金融政策を開始. 2013-15 MohriR
16.2.2-2 ユーロ導入 EMU参加条件:①インフレ率,②長期金利,③財政赤字:フローGDP比3%以内,政府債務残高60%以内,④為替相場. ユーロ第1陣参加国99.1:独,仏,ベネル3国墺のコア6か国,伊,西,葡の南欧3ヵ国,フィン,アイルの合計11ヵ国.+ギリシャ01 最初ユーロは預金や国債の建値に利用,02年1月,ユーロ圏12か国で紙幣と硬貨が強制通用力を持つ法貨となった. イギリス:歴史・文化的に米国との結びつき.北欧には福祉後退の危惧があり,参加を見送った. 2013-15 MohriR
16.2.3 ユーロシステムと単一金融政策 ユーロ圏の通貨の管理と単一金融政策 ユーロシステム:ECB欧州中銀とNCBs各国中銀からなる.ユーロのベースマネーは,ECBが定める方針に従ってNCBsが各国国債などの適格資産を見合いに供給,回収される.単一の金利体系が成立. ECBの金融政策の目標:主ー物価の安定 年2%以下;NCBsの政府からの独立.従ーEUレベルの経済政策の支援. 単一通貨と単一金利の出現 ①債券市場の規模は米・日に次ぎ第3位,②ドイツ国債と各国国債の利回り格差0.3%ポイント内だった.③株式市場時価総額. 2013-15 MohriR
16-3 ユーロ域内の政策運営とEU 16.3.1ユーロの金融政策運営と為替相場 ユーロ圏:通貨としてのユーロの供給と金融政策は一元的,財政政策は参加国別 ユーロ導入後の金融政策運営 ①1999.11-01.5 主要オペ金利引き上げ,②01-05末 金融緩和と緩和維持,③05末-08央 引き締め局面,④08.9-リーマン危機後の金融緩和 ユーロの対ドル相場 ①99-00末 下落,②02-08 上昇,③08央-乱高下.ドル不足と欧州政府債務危機. 2013-15 MohriR
16.3.2 世界金融経済危機とEU金融規制監督体制の強化 ・1992年市場統合→欧州メガバンクの群生と投資銀行業務→サブプライム・ローン危機で打撃 ・2008年危機の新規性:「影の銀行制度」による高レバレッジで増幅した「流動性ファンディング危機」 ,ドル建て投資→ドル調達危機,ソルベンシー(支払い不能)危機は市場リスクを抱える資産の評価損など. ・EU構成諸国政府による資本注入や保証,EU金融規制や監督の強化など. 2013-15 MohriR
16.3.3 ユーロ圏政府債務危機とEU財政制度構築の課題 金融政策の単一化→財政の資金移転が重要.しかし各国の財政発動任せ.財政赤字に縛りをかけGDP比3%超には罰金.01-03年の不況時に独仏が上限を突破したとき,EU理事会は制裁を発動せず. 08年9月リーマン・ショック→各国は巨額の財政出動 09年10月ギリシャの財政赤字粉飾暴露→国債価格暴落(利回り上昇)→国債購入金融機関経営危機→PIIGSなど南欧諸国へ債務危機の伝染→緊急支援策 経済ガバナンス強化策:①財政規律,②域内マクロ不均衡,③競争力格差是正 2013-15 MohriR
16.4 ユーロ圏の拡大と国際通貨としてのユーロ 16.4.1 EUの拡大とユーロの求心力 旧「社会主義」国は市場経済への体制移行を完了.1990年代のマイナス成長から01年以降はプラス成長.インフラを整備した低賃金の中東欧むけFDI(直接投資)急増. ユーロ導入.スロヴェニア,キプロス,マルタ,スロヴァキア,世界金融危機でマイナス成長に陥ったバルト3国のうちエストニア. 2013-15 MohriR
16.4.2 為替標準通貨・公的準備通貨としてのユーロ 16.4.2 為替標準通貨・公的準備通貨としてのユーロ 「ユーロ圏」:ユーロを自国の「法貨」として利用する地域では,為替相場変動がなく,90年代の通貨危機の構造から恒久的に解放 「ユーロ通貨圏」:ユーロを国際通貨として利用.①ERMIIに参加するEU諸国.為替相場変動幅の固定(上下2.25%または15%)が義務付けられる.②EU加盟候補国.③西欧域外諸国で,ユーロ圏との貿易・投資などの結びつき.中央・西アフリカ14か国はユーロ・ペッグ. 公的準備としての保有:基準通貨として利用国は70%前後.99年以降世界全体で20%台後半で推移.米ドルは60%台前半. 2013-15 MohriR
16.4.3 国際取引通貨としてのユーロ 貿易契約・決済通貨:①EUの経済主体が関与する貿易では主要な契約・決済通貨,②EUからEU域外への輸出ではユーロ建て比率は4割から8割,③欧以外の第3国通貨としての利用は限定的. 投資通貨:貿易と同じパターン. 為替媒介通貨:①欧州諸国の通貨にとって媒介通貨の役割,②円,英ポンド,スイス・フランなどの主要通貨は,ドルとだけでなく,ユーロとの間にも太いパイプ,③ユーロとドルとの取引規模は大きい(28%). グローバルなレベルでは,ドルが基軸通貨. 2013-15 MohriR