医事法 東京大学法学部 22番教室 樋口範雄・児玉安司

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個人情報保護講座 目 次 第1章 はじめに 第2章 個人情報と保有個人情報 第3章 個人情報保護条例に規定されている県の義務 第4章 個人情報の漏えい 第5章 個人情報取扱事務の登録 第6章 保有の制限 第7章 個人情報の取得制限 第8章 利用及び提供の制限 第9章 安全性及び正確性の確保 第 10.
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1 個人情報保護について 弁護士法人龍馬 弁護士 舟木 諒,板橋俊幸. 情報化社会 □ 個人情報保護法の概要 2003 年(平成 15 年) 5 月 23 日成立, 2005 年(平成 17 年) 4 月 1 日全面施行。 ◆成立の背景 プライバシー侵害 国際上の問題 住民基本台帳問題 個人情報漏洩問題.
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医事法 東京大学法学部 22番教室 nhiguchi@j.u-tokyo.ac.jp 樋口範雄・児玉安司 第11回2008年12月10日(水)15:00ー16:40 第11章 救急車と正義 1 医療倫理の原則でいうジャスティスとは何か。 2 119番トリアージとは何か。そのメリットとデメリットは。 参照→http://ocw.u-tokyo.ac.jp/

救急車の過ち―救急車派遣せず 第1審京都地方裁判所判決平成15年4月30日判例時報1823号94頁。控訴審は大阪高等裁判所平成15年12月2日(判例集未登載)。  第1回 8月11日午前11時2分35秒 第2回11時35分13秒頃 第3回11時39分38秒  第4回 11時48分52秒 11時49分28秒頃 職員からAさんの名をあげて電話を返す(留守番電話になる) 11時54分00秒頃 万一を考え再び電話で呼び返す(電話がかかるも反応なし)  第5回 午後0時3分12秒頃 第6回 0時4分53秒頃 電話で呼び返す(留守番電話になる、警察が行くとの警告を残す) 第7回 0時12分45秒頃(Aさんの名前を呼んで警告)  第8回 0時16分56秒頃 電話で呼び返す(Aさん、はぁいなどの声を数回発するも、泥酔者または意識朦朧者と判断) 第9回 0時26分1秒頃(Aさんの名前を呼ぶ)   第10回 0時44分46秒頃(Aさんの名前を呼ぶ)電話で呼び返す(留守番電話になる) 第11回 1時1分59秒頃(Aさんの名前を呼ぶ)第12回 1時9分38秒頃(Aさんの名前を呼んで警告) 第13回 1時13分12秒頃(Aさんの名前を呼ぶ) 第14回 1時23分18秒頃(Aさん、いい加減にしろという) 第15回 1時31分43秒頃(Aさんの名前を呼ぶ)  第16回 2時30分49秒頃(Aさんと呼ぶとはぁいとの声。Aから切断) 第17回8月12日午前5時55分27秒頃(Aさんの名前を呼ぶ) 第18回 5時58分16秒頃(Aさんの名前を呼ぶ) 第19回 6時58分22秒頃(Aさんの名前を呼ぶ、はいという声が聞こえるも、結局切断) 第20回 7時20分6秒頃

裁判での争点 前提となる事実・背景 ①いたずら電話の多さ ②言語障害の人からの通報への対応策 被告となった地方自治体の主張  ①いたずら電話の多さ  ②言語障害の人からの通報への対応策 被告となった地方自治体の主張 ①救急業務を行わななければならないという消防法の規定は政策的な方針を明らかにしたもので、住民に直接権利を与えるものではない ②仮に権利があるとしても、いたずら電話の横行という現実を背景にした本件職員の対応には過失がないので責任がない

裁判所の判断 「原告からの8回目の119番通報を受信した際には,これを受信し,あるいは聴話していた指令センター員としては,その際の通報及びそれ以前の通報がいたずらによるものではなく,疾病等のために適切な応答ができない者からの通報ではないかと疑うことができ,また,疑い得たというべきである」。  第1審、慰謝料として100万円  控訴審、これによって病状が悪化したとの証拠がなく精神的損害だけで慰謝料100万円は高額にすぎるとして、50万円に減額し、ただし弁護士費用を5万円加えて、55万円という損害賠償を命ずる

裁判から得られる教訓 仮に、このような裁判の結果になることがわかっていたら・・・ ◎Aさんは訴えたか。自治体と話し合って、50万円の見舞金を出すことで解決。 ◎Aさんが金銭賠償だけではなく自分のようなケースが再び起こるのを防ぎたいと考えるなら、そして消防署でもそれはもっともだと思うのなら、見舞金ばかりでなく、今後の方策を話し合いの中に入れた可能性がある。そして、この点は、判決ではまったく出てきていない。 ◆新たな改善策の提案と協議 ◆裁判ではそのような発想が不可能なのか

読売新聞2008年8月26日 救急搬送の遅れ 100万円で和解 平成18年6月9日提起、平成20年8月25日和解(千葉地裁) 読売新聞2008年8月26日 救急搬送の遅れ 100万円で和解 平成18年6月9日提起、平成20年8月25日和解(千葉地裁) 18歳男性が路上で単独の交通事故を起こし救急出動したもので、病院に搬送するも死亡した事案。 救急隊は、飲酒に関わる救急事故であり、病院側の受入れが難しくなる恐れがあるので家族の到着を待って搬送したところ、家族から救急隊が観察を実施後、速やかに搬送に着手すべきであったにもかかわらず、現場で必要以上に停止して病院収容が遅れ救命の相当程度の可能性が侵害されたとして、損害賠償請求の訴えが提起されたもの。 裁判所からの和解勧告を受け和解。和解金の支払以外の主な和解事項は次のとおり。 ①被告は、故Aの緊急搬送業務において搬送が現場到着後速やかに行われなかったことを認め、遺憾の意を表する。被告は、故Aが死亡した事実を真摯に受け止め、謹んで哀悼の意を表する。 ②被告は、今後はより一層、要救護状態の者を救急医療体制の整った施設に速やかに搬送することに努め、かつ、救急業務体制の整備に努める旨誓約する。

和解事件の示すもの 1 和解という手法で将来的再発防止策 ピンチをチャンスに 2 事件の背景に、酔っぱらいによる被害 1 和解という手法で将来的再発防止策  ピンチをチャンスに 2 事件の背景に、酔っぱらいによる被害  この人はそうでないかもしれないが、しわ寄せ。 3 救急と病院の連携の難しさ

救急車の派遣と法 トリアージという手法 救急の専門家が必要なところへ早く救急車を派遣するという考え方 現在は早い者勝ち  救急の専門家が必要なところへ早く救急車を派遣するという考え方  現在は早い者勝ち    形式的平等で実質的悪平等

法の妨げ 万一、失敗の例が起こったら →刑事司法の介入もありうる 業務上過失致死 →民事法上も国家賠償責任 →間違った担当者には行政処分    業務上過失致死 →民事法上も国家賠償責任 →間違った担当者には行政処分 これではやれない

支援型の法 リーガル・リスクを最小に 過失責任は問わないと明示 故意・重過失は責任あり そうでなくとも、過失の認定を慎重に  過失責任は問わないと明示     故意・重過失は責任あり  そうでなくとも、過失の認定を慎重に     慎重な手続きを定めてそれを遵守していれば過失なし

救急と法の場面でも 法律家の関与の増大→法化現象 医療分野・救急分野も例外ではない 法と法律家のあり方について再考する必要あり ◎実は過剰な法・過剰な規制 ◎介入方法の単純化(制裁型だけの対処)    支援型の工夫とのミックス ◎法律家と法を有効に働かせる工夫

救急車出動の増加への対処 教科書202-205頁 急増を伝える報道 ○出動件数の増加→到着時間の増加 軽症患者のための出動 さらに悪質な例も 教科書202-205頁 急増を伝える報道 ○出動件数の増加→到着時間の増加   軽症患者のための出動 さらに悪質な例も ○各自治体の検討している対策   ①悪質な利用者に罰金を科す。   ②悪質な利用者などについては有料化する。   ③軽症者のためにはむしろ相談サービスを充実させて、不急の救急車出動を抑制する。   ④救急車出動がピンチにあるという情報を広く公開し、市民の自覚と協力を求める。   ⑤トリアージという手法を採用して、本当に必要なところへ救急車を出動させる。 問 これらの方策について、メリット・デメリットを検討しなさい。

119番トリアージ ●形式的平等ではなく、実質的平等(配分的正義の実現) ★アメリカ医師会倫理規定§203 限られた資源の配分 ★アメリカ医師会倫理規定§203 限られた資源の配分 ★考慮に入れてならない事情。  ①患者の経済能力。  ②患者の社会的地位など社会的価値。職業や年齢、扶養家族の有無。  ③治療の成功に影響を与える特別な個人的要素。他の病気の有無、患者が外国人で説明に通訳が必要なことなど。  ④病状への患者の寄与度。アルコール中毒や過食をやめられなかったことなど。  ⑤すでに与えられた治療の量。すでにどれだけの医療を受けてきたか。 ★考慮に入れてよい事情  医療的見地から見た必要性(medical need)に関する要素   ①治療による利益、②必要性の緊急度、③治療によってえられる生活の質の変化、④利益の持続継続期間、さらに⑤治療を成功させるに必要な資源の量 治療の必要性が同等→はじめて治療を申し込んだ順番などが考慮される

新型インフルエンザワクチン接種に関するガイドライン新型インフルエンザ専門家会議平成19 年3 月26 日 4.プレパンデミックワクチンの実施体制 (1) 接種対象者 ○ パンデミックワクチンの供給体制が整うまでの間、限られた資材の中で国民の生命や生活を守るために、緊急的に医療従事者及び社会機能維持者等に対して接種する。 ○ 新型インフルエンザの流行の波は複数回あると考えられており、1つの波の流行期間は約2ヶ月間続くと考えられている。その2ヶ月間機能停止することで国民生活や社会機能が破綻するおそれがあるものを医療従事者及び社会機能維持者の対象とする 1)医療従事者等(以下の職員のうち、業務を継続するために最低限必要な職員) 考え方:機能低下を来した場合、国民の生命の維持に支障を来すもの 医療従事者、救急隊員、医薬品製造販売業者等 2)社会機能維持者(以下の職員のうち、業務を継続するために最低限必要な職員) ① 治安維持 考え方:機能低下を来した場合、治安の悪化のため社会秩序が維持できないもの 消防士、警察官、自衛隊員、海上保安官、矯正職員等 ② ライフライン関係 考え方:機能低下を来した場合、最低限の国民生活が維持できないもの 電気事業者、水道事業者、ガス事業者、石油事業者、食料販売関係者等 ③ 国又は地方公共団体の危機管理に携わる者 考え方:機能低下を来した場合、最低限の国民生活や社会秩序が維持できないもの 国会議員、地方議会議員、都道府県知事、市町村長、国家公務員・地方公務員のうち危機管理に携わる者等 ④ 国民の最低限の生活維持のための情報提供に携わる者 考え方:機能低下を来した場合、情報不足により社会秩序が維持できないもの 報道機関、重要なネットワーク事業・管理を行う通信事業者等 ⑤ 輸送 考え方:電気・水・ガス・石油・食料といったライフラインを維持するために必要な物資を搬送する者 鉄道業者、道路旅客・貨物運送業者、航空運輸業者、水運業者等

新型インフルエンザワクチン http://www-bm.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/09-09.pdf 誰を優先させるか ①医療従事者・社会機能維持者等 ②小児 ③医学的ハイリスク者 ④成人 ⑤高齢者

救急活動への壁―2004年当時の議論 医業独占と救急隊活動への制約 1 島崎修次・山口芳裕(救急医学の専門家) ともに杏林大学医学部 1 島崎修次・山口芳裕(救急医学の専門家)            ともに杏林大学医学部 2 柳澤厚生(杏林大学保健学部・救急救命士を教育している立場から) 3 樋口範雄(法律家として)

樋口編著『ケーススタディ生命倫理と法』(有斐閣・2004年)CASE13救急救命士と医療行為 Aは入職20年目の救急救命士である。休日に、家族とレストランで食事をしていた。すると、店内にいた50歳代と見える男性客Bが突然呼吸困難を訴え苦しみ始めた。実はAの娘C(10歳)には気管支喘息の持病があり、Aは発作時に備えて常に気管内チューブなど救急対応バッグを携行していた。しかし、この時、Aは勤務中ではなく、医師の指示もない状態だった。だが、Aは家族に促され、周囲に身分を明かして応急措置を始めた。だが、豊富な気管挿管経験がありながら、医師の指示がないという理由でバック呼吸で呼吸をアシストするにとどめた。その後、救急車が到着したが、Bは死亡した。 Aは、娘Cから「なぜもっと早く、あらゆる手段を尽くさなかったのか」と問われるのを危惧している。娘Cだったら、躊躇なく気管挿管もしただろうと考えたからである。

CASE13 次の見解について論評せよ 2004年当時、救急救命士による気管挿管については強い制約があったことを踏まえて、このような医行為概念による制約について、次のような見解がある。 ●医師法および救急救命士法が、医業の提供、救命措置の提供を制限していることには、合理的理由があり、本事例で医師法および救急救命士法に反してまで気管挿管をすべきであったと解することはできない。確かに、緊急事務管理上、一般人である救助者が免責される余地もあろう。しかし、医師でない専門的技能を有する者が、ハイリスク・ハイリターンの医業ないし救命措置をする場合は、合理的かつ明確に規定しておく必要がある。例外が明確に規定されている方が、一般的私人や専門家としても、安心して救命・救助措置を提供しうると思われる。

業務分担の趣旨目的は何か。 一般人なら緊急避難行為、業としてではないので医業禁止にもあたらないことが、それよりも安全性に勝る可能性のある救急救命士がやれないことをどう評価するか。   →医療関係職として機会が多い=リスクの増大= だから強い禁止    しかし、本件で、娘がこのような状況にあったらどうなるか。    さらに家族の例外を作るのか。そうだとすると、一種の救助権限・救助義務を家族には認めて、他人には否定することになるが・・・。

その後の動き 業務分担の見直し 社会の事情に応じた法の変化・改正 法は動くもの、あるいは動かすべきもの  社会の事情に応じた法の変化・改正 法は動くもの、あるいは動かすべきもの そうでないと、法を理由にした「事なかれ」主義に陥るおそれあり

参考資料 樋口範雄 「続・医療と法を考える―終末期医療ガイドライン」(有斐閣・2008年) 「ケーススタディ生命倫理と法」            (有斐閣・2004年)