社会基盤維持管理工学特論 概説 コンクリート構造物を長持ちさせるには? ~劣化と耐久性,メンテナンスの考え方~ 社会基盤維持管理工学特論 概説 コンクリート構造物を長持ちさせるには? ~劣化と耐久性,メンテナンスの考え方~ 2014年4月15日 岩城 一郎
講義の内容 コンクリートとは?鉄筋コンクリートとは? コンクリート構造物に求められるもの 劣化とは?耐久性とは? コンクリート構造物の劣化要因 我が国のインフラがおかれている現状 歴史を振り返り,歴史を繰り返さないために 我が国の特殊性,これからのメンテナンスに求められるもの インフラの医療,コンクリート・ドクターの養成 まとめ
コンクリートとは? 水,セメント,砂,砂利を練り混ぜ,型に流し込み,締め固めたもの.水とセメントの水和反応により固まる. 我が国のインフラ※を構成する材料のうち最も多く用いられているもの. 圧縮(押す力)に強く,引張に弱い. ※ 「インフラストラクチャー(Infrastructure)」の略で,「社会基盤」や「社会資本」を指す.ここでは,道路(橋,トンネル),港湾,空港,鉄道,通信,電力,水道など,私たちの快適で,安全・安心な生活を支えるための公共性の高い施設を意味する. セメント 水 水和直後 数時間後 数日後~数年後
鉄筋コンクリートとは? 引張に弱いコンクリートの弱点を鉄筋で補強し,一体化したもの(⇔無筋コンクリート). コンクリート構造物のほとんどは鉄筋コンクリート 鉄筋はさびやすい(酸化しやすい)が,コンクリートのアルカリ性によって保護されている. →何らかの原因により鉄筋がさびる と鉄筋コンクリートは劣化する. 鉄筋のさび
コンクリート構造物に求められるもの 新設構造物 長寿命化 既設構造物 延命化 コンクリート構造物 安全性(丈夫) 耐久性 (長持ち) (これから造るもの) 長寿命化 既設構造物 (いまあるもの) 延命化 安全性(丈夫) 耐久性 (長持ち) 美観 (美しさ) コンクリート構造物 環境低負荷 (環境への影響) 経済性(安さ)
劣化とは?耐久性とは? 劣化:時間の経過と共に性能が低下すること 耐久性:劣化に対する抵抗性.要求されている性能を下回るまでの期間により評価される性質. 性能 時間 要求性能 設計耐用年数 耐用年数 高 低
コンクリートはなぜ劣化するか? 物理的作用,化学的作用,生物学的作用: 中性化,塩害,凍害,アルカリシリカ反応, 化学的侵食,疲労 中性化,塩害,凍害,アルカリシリカ反応, 化学的侵食,疲労 設計ミス,施工ミス (管理ミス) 手抜き・偽装!! ① ② ⑥ ⑤ ③ ④ 写真:①東京大学出版会 社会基盤メインテナンス工学,②安治川鉄工パンフレット, ③土木学会 耐久性データベースフォーマット,④,⑥日経BP コンクリート名人養成講座より
コンクリート構造物を長持ちさせるには? コンクリート工学の先人たちの教えから コンクリート技術者の使命「いいコンクリート構造物をつくるためには,親切に,丁寧に」 by 吉田徳次郎先生 土木技術者の使命「世のため,人のため,良いものを安く造る」 by 岡村甫先生 技術者としての誇り・責任感 心を込めて,手塩にかけて 不親切に,いい加減に
コンクリート構造物の寿命は? コンクリート構造物の寿命は半永久的 (メンテナンスフリー)と考えられていた. コンクリート構造物の寿命は半永久的 (メンテナンスフリー)と考えられていた. 高度成長期(1970年前後)の建設ラッシュ 1980年代:コンクリート構造物の早期劣化問題 コンクリート構造物は一体,何年もつのか??? 平均すると50年くらいしかもたないのでは??? どうしたら長持ちさせることができるのか?
①中性化(ちゅうせいか) 二酸化炭素(CO2)の作用により,コンクリートのアルカリ性が失われて鉄筋がさびる(酸化する)現象,Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O 鉄筋のさびによる体積増加(膨張圧)がコンクリートに作用し,コンクリートが剥落(はくらく) 資料提供 横浜国立大学 細田 暁 先生
②塩害(えんがい) 塩(NaCl)の侵入により,コンクリート中の鉄筋がさびる(酸化する)現象.鉄筋のさびによる体積増加(膨張圧)がコンクリートに作用し,コンクリートが剥落(はくらく),鉄筋が破断(はだん). 海洋構造物や融雪剤として塩をまく構造物で多く見られる. 安治川鉄工建設㈱パンフレットより
③凍害(とうがい) コンクリート中の水分が凍ると体積膨張し,融けると元に戻る.この作用(凍結融解作用)が繰り返し起こることにより,コンクリートがぼろぼろになる現象. ひび割れ スケーリング ポップアウト 資料提供 八戸工業大学 阿波 稔 先生
④アルカリシリカ反応 コンクリート中のアルカリ(Na+,K+)と,ある種の砂や砂利(骨材)が反応することにより,吸水膨張性の物質が生成し,コンクリートに大きなひび割れを発生させたり,鉄筋を破断させる現象. アルカリシリカ反応によるひび割れ 鉄筋の破断
⑤化学的侵食 下水道施設では,生物学的作用(バクテリア)により硫酸(H2SO4)が発生し,これがコンクリートを侵食したり,鉄筋をさびさせる現象 化学的侵食により 劣化したコンクリート 化学的侵食により さびた鉄筋
コンクリート構造物を長持ちさせるには? コンクリート構造物の変状とその程度,原因を分析し,適切な時期に,適切な方法により補修・補強を施すことが重要(メンテナンス). 構造物の計画→設計→施工→検査→維持管理におけるミスを減らす(技術力の向上). 手抜き・偽装の撲滅(技術者倫理).
我が国のコンクリート橋数の予測(50年未満,以上) 我が国のコンクリート橋の推移 (独)土木研究所データより 各年代ごとのコンクリート橋が 造られた割合(日米の比較) 我が国のコンクリート橋数の予測(50年未満,以上)
我が国の建設投資額の推移 ピーク時約40兆円 現在は 約20兆円 国土交通省データより
歴史を振り返る ローマ帝国の滅亡 「すべての道はローマに通ず」(道路,上下水道の整備)→計画・設計・施工までは良かったが・・・→メンテナンス??→社会基盤施設を放棄→首都移転 荒廃するアメリカ 1930年代のニューディール政策(社会基盤施設の建設ラッシュ)→1970年代のオイルショック→1980年代道路構造物の劣化により道路機能の著しい低下→経済的・社会的な大損失 ポン・デュ・ガール ゴールデンゲートブリッジ
最近の道路橋の事例から カナダの事例 我が国の事例 米国の事例 ケンプラッツHPより
歴史を繰り返さないために インフラのメンテナンス が我が国の土木の新たな仕事 土木技術者としての英知を結集させる. 誰の仕事? 幸か不幸か,我々の仕事 どうせやるなら,魅力ある仕事として発展させたい.
我が国の特殊性 限られた財源下での集中的なメンテナンス 少子高齢化時代のメンテナンス 複雑な地形・厳しい自然環境(島国,北海道~沖縄,地震・台風)→過酷で多様な条件 我が国独自のメンテナンス技術の体系化 メンテナンス技術を通した国際貢献 耐震技術,長大トンネル・長大橋の設計・施工技術に続く,国際競争力のある看板として発展
これからのメンテナンスに求められるもの 少ない予算で合理的なメンテナンス メンテナンスするための技術開発(モニタリング,非破壊試験,診断,補修・補強) メンテナンスに携わるトップエンジニアの育成(インフラの医療とこれに携わるドクターの養成) サーモグラフィによる劣化箇所の検出 コンクリート補強用新材料(炭素繊維シート) 光ファイバによるモニタリング
人の寿命とコンクリートの寿命 日本人の平均寿命:男子79.19歳,女子85.99歳 (平成19年度調)→世界有数の長寿国 日本人の平均寿命:男子79.19歳,女子85.99歳 (平成19年度調)→世界有数の長寿国 理由:食生活?保険制度,医療の高度化(病理の解明,医療 機器の発達,新薬の開発,ドクターの知識・経験・技能の向上等) コンクリート構造物を長持ちさせるためには? 劣化(病気・怪我)の原因と程度を探り(診断), 適切な処置を施す(治療) ,「医療行為」が必要 →コンクリート・ドクターの仕事
コンクリート・ドクター 東京大学出版会:社会基盤 メインテナンス工学
橋の疲労メカニズムの解明と対策 首都高速道路の断面交通量 1日約10万台 1年約3000万台 30年で約10億台 調査点検 車両の大型化・交通量の増加 実物大の模型の作製 1日10万台,年間3000万台,30年間で10億台 調査点検 補強方法の開発と適用 実際の橋の疲労状態を再現可能な輪荷重走行試験 損傷状況の診断
コンクリートの検査技術の開発 サーモグラフィによるコンクリートの劣化箇所の検出 EPMAによるコンクリート内部の塩分濃度分布 鉄筋コンクリートのX線画像 サーモグラフィによるコンクリートの劣化箇所の検出 BB-蒸気養生 OPC-蒸気養生 EPMAによるコンクリート内部の塩分濃度分布
塩害橋の病理解剖
将来のメンテナンス像 人工衛星,成層圏プラットフォーム 計測 大型コンピュータ(データベース) トップ 計測結果 エンジニア 解析結果 レーザ・画像計測,通信機器 計測 計測結果 解析結果 トップ エンジニア 東京大学出版会:社会基盤メインテナンス工学より
まとめ コンクリートの劣化要因:①中性化,②塩害,③凍害,④アルカリシリカ反応,⑤化学的侵食 インフラ(コンクリート構造物)のメンテナンスを土木の新たな仕事として発展させることが重要 メンテナンスのための新たな技術開発,トップエンジニアの養成が不可欠→インフラの医療とこれに携わるコンクリート・ドクターの養成 維持管理はメンテナンス&マネジメント→メンテナンスだけではなく,マネジメントも重要 我が国独自の看板技術→新たなビジネスチャンス→国際貢献