半田利弘 鹿児島大学 大学院理工学研究科 物理・宇宙専攻

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半田利弘 鹿児島大学 大学院理工学研究科 物理・宇宙専攻 鹿児島大学/愛媛大学 宇宙電波天文学特論 第9回 NH3とHII領域 半田利弘 鹿児島大学 大学院理工学研究科 物理・宇宙専攻

アンモニアの反転遷移(1) NH3 の特殊性→温度の指標となる 反転遷移 2つの“配置”がある=“状態”ではない! エネルギー固有状態 反転の激しさに応じて“状態”がある

アンモニアの反転遷移(2) 1つの回転準位に対して隣接した2レベル 反転遷移のエネルギー固有値は? 考え方1 考え方2 中心に山があるポテンシャル 摂動で考える:出発点は単振動 考え方1 1つの単振動ポテンシャル 中心が盛り上がる 考え方2 2つの単振動ポテンシャル 奇数・偶数で接続条件が変わる 1つの回転準位に対して隣接した2レベル

アンモニアの準安定状態 回転のz成分変化DKの遷移確率は大 J=Kのところに分子が溜まる 準安定状態meta-stable state

NH3の輝線 準安定状態; J=K 反転遷移 殆どの分子がここにいる (J,K)=(1,1), (2,2), (3,3), … lines in 23-24 GHz band meta stable states

回転温度 R(2,2)/(1,1): NH3 (1,1)-(2,2) 輝線強度比 Trot  衝突励起として、Tgasを求める Nagayama et al. 2007

アンモニア微細構造輝線(1) 超微細構造線 窒素原子核のスピン(原子番号7) 電子のスピンとの相互作用(電子7個) Tojima et al. 2011

アンモニア微細構造輝線(2) 超微細構造線 ほぼ同じ励起状態の分子が出す 相対強度比は励起状態に依らない理論値 見かけの強度比はt だけによる→t が求められる Tojima et al. 2011

NH3による観測例(1) 銀河中心付近 T > 40Kのガスが卓越 Nagayama et al. 2008

NH3による観測例(2) 鹿児島6m電波望遠鏡による 輝線強度比R(2,2)/(1,1) からTrot とTgasを求める CMZ全体でTgas > 20-80 K ~50% of total flux 40-80K ~25% of total flux >100K Tk=20-30K Nagayama et al. 2007

NH3のオルソ・パラ比 NH3の2つの形態; オルソNH3 と パラNH3 輻射でも衝突でもなかなか遷移しない 106 yr で遷移する オルソ・パラ比 Ro/p  形成時の温度Tform J=3n J≠3n

NH3の形成温度 Tform  Ro/p 高温ガス(T=40K), Ro/p=1 Takano et al. (2002)

種々の天体でのオルソパラ比 R(3,3)/(1,1) – R(2,2)/(1,1) diagram Ro/pが高い天体 銀河円盤部の星形成領域 爆発的星形成銀河の中心 Ro/pが高い天体 爆発的星形成銀河 when t≪1 Nagayama et al. 2008

HII領域 早期型主系列星=OB型星 B2よりearly type 強い紫外線放射で周囲のガスを電離 濃い電離ガスによる星雲 膨張途中?

Strömgren sphere & radius(1) HII領域はどこまで大きくなれるか シュトルムグレン球 Strömgren sphere 一様球と仮定=温度・密度が一定 電離平衡 紫外線電離率=再結合率として求める 全準位の再結合率aB nenp (実効値) 再結合の解析から aB=2.6×1013(104/Te[K])0.85 全球内の再結合率 (4p/3)Rs3aB ne2=S*

Strömgren sphere & radius(2) (4p/3)Rs3aB ne2=S* Rs: Strömgren radius, S*: total ionization photon Rs={3S*/(4p aB ne2)}1/3 S*は励起星のスペクトル型で決まる S*=1049 s-1(O7 star), ne=10 cm-3, T=104 Kだと Rs=15 pc : 典型的なHII領域の大きさ 励起パラメータ excitation parameter u=Rs ne2/3:励起を特徴付ける目安 [pc cm-2/3]

Strömgren sphere & radius(3) R=Rs:電離限界HII領域 電離ガスはもう増えない 圧力が高ければ、大きさは成長の余地あり R<Rs:密度限界HII領域 周囲の中性ガスが不足している HII領域外まで紫外線が飛んでいく interstellar UV radiation field コンパクトHII領域 サイズは小さいが、密度やEMが大きい(EM:次ページ)

電離ガスの光学的厚さ(1) レイリージーンズ近似 (hn≪kT) k = en /(4p Bn(T)) = (4q6Z2) /(3mhc) {(2p)/(3km)}1/2 gff ne ni T -1/2 n -3 (1-e-hn/(kT)) = 0.018 gff Z2 ne ni T -3/2 n -2 [cgs単位] HII領域のモデル 元が中性ガスだから ni = ne; 水素原子だから Z=1 視線に沿って温度が一様と仮定 tn =∫k dx だから EM= ∫ ne2 dx を定義すると

電離ガスの光学的厚さ(2) tn =3.014×10-2 Te-3/2n -2 EM gff Gaunt因子の近似式 Te:電子温度[K], n :周波数[GHz] EM=∫ne2 dx : 輻射量度emission measure[pc cm-6] Gaunt因子の近似式 gff=1 @ n Te-3/2≫1[MHz K-3/2]   =ln{4.955×10-2 (n /[GHz])-1}+1.5 ln(Te/[K]) さらにベキ乗近似(gff∝Texn y )すると tn =8.235×10-2 Te-1.35n -2.1 EM a(n,Te) a(n,Te)はほぼ1.0

電離ガスの輝度温度 光学的厚さの境界tn =1 光学的に薄いと n0=0.3045 Te-0.643 (a(n,Te) EM)0.476 n0:周波数[GHz], Te:電子温度[K] EM: emission measure[pc cm-6] 光学的に薄いと TB= tn Te = 8.235×10-2 Te-0.35n -2.1 EM a(n,Te) a(n,Te)はほぼ1.0 Teがわかれば観測されたTBやn0からEMが求まる

HII領域の連続波スペクトル 典型的なHII領域 ne= 200 cm-3, Rs=25pcとすると、EM=106 cm-3 pc Te=104 Kとすると、n0=0.6GHz 光学的に薄い 光学的に厚い

HII領域の観測例 S252 Monkey Head Nebula