宇宙の構造形成と ダークマター/ダークエネルギー

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宇宙の構造形成と ダークマター/ダークエネルギー 東邦大学理学部物理学科 北山 哲

宇宙論の更なる課題 1.“理解”されているのは数% DE、DM、(DB) の実体は? なぜこの割合なのか? 2. 現状の解釈は本当に正しいか?    観測:系統誤差?  理論:DE以外の可能性?        (modified gravity, etc.) 3.諸々の天体形成・進化過程   との関連・整合性? http://map.gsfc.nasa.gov/resources/

宇宙マイクロ波背景放射(CMB)と構造形成 予想される 銀河団数密度 vs 赤方偏移 WMAP red: 1st yr black: 3rd yr Spergel et al. (2007) CMB温度異方性パワースペクトル 1st yr Ωm=0.28 H0=72 σ8=0.92 ns=0.99 3rd yr Ωm=0.24 H0=73 km/s/Mpc σ8=0.76 ns=0.96 CMBだけでは、近傍宇宙の進化&天体形成史は決まらない

近傍データの重要性 宇宙の曲率(ΩK=1-ΩM-ΩΛ)、w=p/ρc2 等の測定には、 複数の時刻のデータが必要 近傍データの 系統誤差は無視 宇宙定数(w=-1) を仮定 5yr (Komatsu+09) 宇宙の曲率(ΩK=1-ΩM-ΩΛ)、w=p/ρc2 等の測定には、 複数の時刻のデータが必要

“X線宇宙論”の意義 DE/DMの実体、構造形成との整合性等を調べるには、 CMB & 近傍データ の組み合わせが不可欠 物理が比較的明らかな方法 a) 銀河団のバリオン比       → 距離(距離はしごによらない) b) 銀河団のX線&SZ効果観測 → 距離(距離はしごによらない) c) 銀河団の質量関数       → 密度ゆらぎ成長率 & 幾何    SNIa(経験則), 銀河分布(バイアス)等と相補的 原理的に予言可能     ⇒ 宇宙論の accuracy (≠precision)の向上に重要 ※系統誤差の制御が鍵

銀河団のバリオン比:方法論 fgas=Mgas/Mtot∝DA3/2 前提 ・宇宙最大の自己重力系 → 宇宙の物質構成のフェアサンプル  ・宇宙最大の自己重力系 → 宇宙の物質構成のフェアサンプル  ・バリオン成分の大半(>8割)は、X線ガス(Te>107 K) 絶対値 (White et al. 1993) X線 可視光 ビッグバン 元素合成 X線 &静水圧平衡 etc. 進化 (S. Sasaki 1996) 与えられたX線観測量(SX, Te)に対して   ・Mgas ∝ ne r3 ∝DA5/2   ・Mtot ∝ r ∝ DA (静水圧平衡) fgas=Mgas/Mtot∝DA3/2 if no intrinsic evolution

銀河団のバリオン比:最近の結果 Λ flat (ΩK=0) 42 clusters, 0.05<z<1.1 w=-1 fixed ΩK=0 fixed Λ flat (ΩK=0) 42 clusters, 0.05<z<1.1 Δ=2500 ~0.25 rvir内のfgas w= p/ρc2 = 0  物質 1/3  輻射        -1  宇宙定数     (Allen et al. 2008)

銀河団のバリオン比:系統誤差要因 12 clusters at z~0.2 Local clusters Zhang+10 Vikhlinin+09 WMAP×0.9 WMAP ×0.9 M500>5e14 M500>2.6e14 all □ all ○ undisturbed △ disturbed solid: hydrostatic mass grey: Tx-Mtot relation (overdensity) Well-defined sample selection、外側までの観測が重要 ただし、r>r500 では静水圧平衡、熱平衡が崩れている可能性 (e.g., Bautz+09)

系統誤差の影響力: fgas w パラメータ Xのバイアス: 他の情報はWMAP7yr の ΩΛ best-fit 値に固定 (i.e. optimistic limit) ΩΛ ΩΛ : flat Universe w ΔDA/DAによるバイアスは 1.5倍 (fgas ∝ DA1.5) 近傍データに共通の制約 (組み合わせが不可欠)

銀河団の質量関数:方法論 観測される銀河団数(立体角あたり) 単位体積あたりの数密度 H(z) D(z) 宇宙の体積要素 密度ゆらぎパワースペクトル   P(k) :ΩM σ8, CDM,,, 密度ゆらぎ成長率   D(z): ΩM, ΩΛ, w,,, (解析的手法/数値シミュレーション  によって計算可能) H(z) D(z) 宇宙の体積要素 宇宙の膨張率   H(z): ΩM, ΩΛ, w,,, M>2×1014 Msun の期待数 (Mohr et al. 2002)

質量関数:最近の結果 σ8 ΩM w (Vikhlinin et al. 2008) clusters ΩΛ cumulative number density ΩM w ROSAT selected & Chandra 49 clusters with <z>~0.05 37 clusters with <z>~0.55 (Vikhlinin et al. 2008) clusters 系統誤差なし ΩΛ

銀河団の質量関数:系統誤差要因 lensing X-ray Mass-observable (L, T, Y,,,) 相関 M500, X lensing X-ray M500 X-ray Mahdavi+08 Vikhlinin+09 YX=Mgas TX Lensing M500 Mass-observable (L, T, Y,,,) 相関 Scatter: 10~20% low z で較正し、high z へ外挿 X-ray vs lensing mass MX/ML ~0.8 within r500 fgas の解析にも影響

系統誤差の影響力:N(>M) パラメータXのバイアス: N(>M) [str-1 Δz-1 ] M500=3×1014 M◎/h と他のパラメータは固定 (i.e. optimistic limit) w (growth) ΩΛ (geometry) D(z): growth rate w (geometry) ΩΛ (growth) ゆらぎの成長率D(z)は 正確に決まりやすい

ASTRO-Hに期待すること (1) 近傍銀河団の高分散分光・硬X線分光マッピングによる、 非熱的圧力分布(乱流を含む運動、加速電子、、、)の測定    → 質量測定精度向上 → fgas, N(>M) 静水圧平衡 cf. - mass-observable 相関のscatter: 10~20% - 重力レンズ質量とのずれ:10~30% - growth rate の測定精度:数%

Feasibility: low z (by K. Sato) Input based on XMM data for A1795 (Snowden+08) r500 1 2 3 4 5 SXS FOVs z = 0.062, r500 ~ 1 Mpc reg kT (keV) Z (solar) Fx (0.3 – 10 keV) 1 5.0 0.6 2.0e-11 2 6.0 0.4 3.5e-12 3 0.3 4.0e-13 4 4.0 7.0e-14 5 3.0 2.0e-14 [erg/cm2/s] + Vturbulence=500 km/s の観測可能性を評価

Assumption : Temperature & Abundance profile, Vturb=500 km/s RMF, ARF : baseline,  no stray light ΔT/T [%] ΔV/V [%] exp time [100ks] exp time [100ks] Solid lines: SXS, Dashed lines: SXS+SXI SXS : 6.0 – 7.5 keV SXI : 2.0 – 7.5 keV, including NXB+CXB, sum of 5 pointings

ASTRO-Hに期待すること (2) 銀河団外縁部の理解 (構造形成の現場) ・静水圧平衡? ・Te = Ti ? ・流体近似? フィラメント方向 銀河団外縁部の理解 (構造形成の現場) ・静水圧平衡?  ・Te = Ti ? ・流体近似? ・大規模構造との関連? etc. rvir 例)A1689 by Suzaku (Kawaharada et al. 2010) ビリアル半径付近     Te:フィラメント方向は連続的       他の方向は急激に減少    ne: 全方向連続的 K∝Te/n2/3

High z の重要性:構造形成の観点から D(z) z=0.4 z=0.4 1. DEが卓越する前(z>0.4)の方が、ゆらぎの成長はやい  →激しい衝突・合体、加熱、非熱的過程の頻度大 2. 与えられた電子分布に対し、 SinvComp~const、 Sthermal X∝(1+z)-4    非熱的電子(γ~104): 硬X線    熱的電子: ミリ波サブミリ波(SZ効果) SSZ ∝∫ne Te dl、 SX ∝∫ne2 Te1/2 dl →距離測定、スペクトルと独立な温度測定 etc.

Suzaku による観測例: RX J1347.5-1145 at z=0.45 (Ota et al. 2008) 1’ 346kpc Suzaku による観測例:  RX J1347.5-1145 at z=0.45  (Ota et al. 2008) 全天最大のX線光度をもつ銀河団 SZ効果観測による超高温ガスの示唆 最遠の電波ハローの一つ ① Broadband (XIS+HXD) spectrum (150 ks) & spatially resolved Chandra spectra ⇒ ハード成分 kTex=25.3+6.1-4.5[keV] χ2/dof=1311/1219      熱エネルギー~ 2×1062 erg   or Γ=1.45+0.03-0.04 χ2/dof=1317/1219 ② HXD only 統計誤差のみ: 9σ 検出 系統誤差(NXB)による3σ上限    25.3 keV Fcl<8×10-12 [ergs/s/cm2] in 15-60 keV if IC, B>0.007μG (Γ=1.5)

大規模銀河団サーベイ SPT(2007-) : SZ、4000 deg2 eROSITA(2012-): X線、 all sky Lines: WMAP predictions ROSAT all sky SPT clusters ROSAT deep Vanderlinde+10 Predehl+06 SPT(2007-) : SZ、4000 deg2 21 clusters confirmed in 178 deg2 <z>=0.74, 12 new ! Massive: > 5×1014 Msun/h eROSITA(2012-): X線、 all sky  F(0.5-2.0 keV)>4×10-14 erg/s/cm2 ~86,000 clusters (ROSATの~102倍)

ASTRO-H に期待すること (3) 高分散・広帯域分光で探る銀河団の赤方偏移進化 既知の銀河団: Chandra/XMM データとの組み合わせ      → 空間分解能の補完 & 超高温・非熱的成分の探査     → 進化効果の系統的調査  &  SZ効果と合わせた距離測定 2. 大規模サーベイによる新銀河団(候補): - eROSITA(2012-): X線、all sky -SPT&ACT(2007-) : SZ効果、1000 ~4000 deg2   サンプル規模:~102 倍、深さ:z~2まで   (現状: 1<z<1.5 に10個程度)    → 質量関数の massive end の進化

Feasibility: high z (by N. Ota) 200ks Center of a model cluster: kT=5 keV, Lx=1045 erg/s, Z=0.3 solar, beta=0.7, rc=100kpc Vturb = 300km/s or 600km/s Pturb/Pth ΔV [km/s] z z

How about a cluster at z=2 ? XMM2235-like: kT=8.6keV, Lx=1.1e45 erg/s, Z=0.3 solar Fx(0.5-2 keV)=2e-14 erg/s/cm2 ~0.5 eROSITA flux limit (25 cts) 200ks z=2.0 (fixed)    ↓ kT=8.8+1.5-1.2 keV Z=0.52+0.52-0.44 (90% errors) SXI: 386cts/100ks SXS: 229 cts/100ks

標準モデルを超えて: non-Gaussianity? Bright end (high σ)が最も敏感 質量測定が鍵 ・ガウスゆらぎ+ΛCDM   → 期待値 <2×10-3   ・非ガウス性の制限範囲:WMAP5yr   -9 <fNL local <111 (R>120 Mpc/h)     → 期待値: (3~10)倍   ただし、 銀河団はWMAPより小スケール (Jimenez & Verde 2009) XMMU J2235.3-2557 (Mulis+05) ※曲率ゆらぎ(~重力ポテンシャルのゆらぎ)  XMM serendipitous survey で発見 MX(<1 Mpc)=(5.9±1.3)×1014 Msun MWL(<1 Mpc)=(8.5±1.7)×1014 Msun  at z=1.4 (Jee+09; Rosati+09) ガウス場 テイラー展開の最低次

標準モデルを超えて: modified gravity? flat, w=-1 標準モデルを超えて: modified gravity? GR 線型ゆらぎ成長率の一般化     (Linder & Cahn 2007) XLF fgas CMB SNIa γ=0.55: GR, ΛCDM, w=-1        (1%以下の誤差)     0.57: GR, wCDM, w=-1/3   0.68: DGP (braneworld) gravity z, スケールに依存: f(R) gravity flat GR 幾何学的方法(距離、膨張率)での縮退が解ける 加速膨張期(z~1)以降のデータが重要 Rapetti+09

ASTRO-Hに期待すること (4) 高分散分光による銀河団内温度ゆらぎの直接測定 高分散分光による銀河団内温度ゆらぎの直接測定  ⇒ Tspec Mtot, DA等、ほぼ全ての宇宙論的応用に影響 Data Lognormal Poisson Gaussian (Gaussian)2 Hydra A (Simionescu+09), XMM Fe-L & Fe-K lines → 広がった EM vs T, lognormal i.e. 視線上の温度分布、射影なし  (太陽等で用いられてきた手法)  A3667 (Kawahara+08), Chandra → Sx/<Sx>(r) の分布, lognormal     i.e. ∫ ne2 dl の分布       2次元に射影されたゆらぎ

まとめ 銀河団のX線観測: CMB, SNIa 等と相補的な宇宙論のプローブ 宇宙論の“正確さ”の 向上に重要   宇宙論の“正確さ”の 向上に重要  2. 大規模サーベイによる統計の向上、新天体発見と合わせ、   系統誤差の制御が本質的課題 ← ASTRO-H に期待 3. ダークマター/ダークエネルギーの実体、   non-Gaussianity, modified gravity などへのアプローチ ・非熱的成分の同定と質量決定精度の向上 ・銀河団外縁部の理解 ・遠方銀河団の進化、温度・重力ポテンシャル測定 ・銀河団ガスのゆらぎ測定 etc.