会社法1 第6回.

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会社法1 第6回

お詫び シラバスを勘違いして、授業が先走っておりました。 今回は、株式の譲渡について、講義では省略した論点を中心に補足します。

今日のお題 振替株式の譲渡に関する論点 失念株に関する議論 特別支配株主による売渡請求制度

振替株式の特例

振替制度採用会社 の株式譲渡 総株主通知 ①取引成立 振替機関 ②振替通知 (振替132) 振替口座 ③ 振替口座 ③ 買 売 甲証券会社 (口座管理機関) 乙証券会社 (口座管理機関) 証券取引所 個別株主通知 ①取引成立

振替のデータ処理 総株主通知 丙信託銀行 振替機関 発行会社 X 500 X 500 タンス株券の処理 振替口座 乙証券会社 甲証券会社 (株主名簿管理人) 振替機関 発行会社 総株主通知 丙特別口座 X 500 特別口座 X 500 甲自己口座 甲顧客口座 X社 2000 X社1500 Y社300 乙自己口座 乙顧客口座 X社1500 Y社 1000 Y社 500 タンス株券の処理 振替口座 顧客A 顧客B X社1000 X社500 Y社300 顧客C 顧客D X社1500 Y社 500 乙証券会社 (口座管理機関) 甲証券会社 (口座管理機関) 振替のデータ処理

振替制度採用時の会社法の特例 通常の名義書換手続は存在せず、振替機関が年2回(上半期末日と期末)、または会社が基準日を定めた場合にはそのときに、全株式の保有状況を会社に通知し(総株主通知)、会社はこれを元に株主名簿を更新(振替151,152。なお振替161Ⅰ) 少数株主権の行使(株式買取請求権の行使を含む)に際しては、会社に対する申立ての他に、振替機関経由で「個別株主通知」をしなければならない(振替154) ※会130の適用は排除(同Ⅰ) 株式買取請求権等の通知(または公告)はすべて公告で行う(振替161Ⅱ)

個別株主通知と株主権行使 問題意識 個別株主通知が要求される「少数株主権等」の範囲 会社法上、株主権の行使期間の定めがある場合において、個別株主通知が期間内に会社に到達しないときであっても、株主権は行使可能か 振替法154条2項 「少数株主権等は、・・・(個別株主)通知がされた後政令で定める期間(4週間)の間でなければ、行使することができない」 ⇒個別株主通知の到達前は少数株主権は行使不可? ※個別株主通知の会社への到達には1週間前後が必要

訴訟法上の原告(申立)適格 新株発行仮差止(会210、民保23Ⅱ)の場合 「個別株主通知は、少数株主権等の行使について自己が株主であることを株式会社に対して対抗するための対抗要件」だから、「会社が対抗要件の具備を争う場合・・・仮処分の決定までに債権者がこの疎明をしない場合には、・・・当事者適格を欠く」(大阪地判H21.11.30、抗告審も同様の判断) ⇒個別株主通知は名義書換の代替であり対抗要件

全部取得条項付種類株式の価格決定請求(会172)の場合 裁判において、会社が申立人の株主資格を争った場合には、その審理終結までの間に個別株主通知がされることが必要(最決H22.12.7百-17) 下級審では、①行使要件説(総株主通知到達前の申立ては不適法)、②対抗要件説(会社が株主の地位を争ったときには審理終結前に通知到達が必要)、③不要説(価格決定申立は少数株主権等に該当しない)、と決定例が分かれたが、最高裁は価格決定申立てを「少数株主権等」の行使に含むとしたうえで、対抗要件説を採用

実体法上の権利行使 株主提案権(会303、305)の場合 〈事案〉 4/27 株主が証券会社に対して個別株主通知申請 5/2  議題提案、議題要領通知を請求 5/9  振替機関が会社に個別株主通知 5/17 会社が株主提案拒絶を通知 5/25 取締役会で6/29総会開催を決定 〈判示〉 個別株主通知は提案権行使に先行している必要はないが、株主要件充足の確認が必要だから、総会開催日の8週間前(本件では5/3)までには到達していなければならない(大阪地判H24.2.8) ※304条については個別株主通知は不要(議決権に付随)

失念株

失念株についての紛争 基本的には経済的利益の帰属の問題 第1の類型 第2の類型 失念株につき株主割当による募集株式の引受権が付与され(会202)、譲渡人が行使して株式を引き受けた場合 失念株につき新株予約権の株主無償割当て(会277)がなされ、譲渡人が予約権を行使し新株を引き受けた場合 第2の類型 失念株について剰余金の配当(会453)がなされた場合 失念株について株式分割(会183)、株式無償割当(会185)がなされた場合 失念株について新株予約権の無償割当てがなされた場合(予約権未行使) 譲渡人の作為(投資判断)が介在 譲渡人の作為(投資判断)は介在しない

紛争にかかる論点 前掲の各類型において、譲渡人・譲受人の間に不当利得の関係は生じるか(譲受人が不当利得返還請求をなし得るか) 不当利得返還請求権を肯定したとして、譲渡人が受領物を売却た場合において、譲渡人が譲受人に返還すべきもの(価値)は何か

設例(a) AはBに甲社株式1株を譲渡したがBが名義書換を行わない間に株主割当て(1株につき新株1株)の新株発行が行われ、Aは発行価額5万円を支払い株式を取得し、1ヶ月後に8万円で売却した。その後BがAに新株の引渡しを求めて提訴し(提訴時の株価10万円)、口頭弁論が終結した(株価12万円)。判決はどのようなものになるか。 設例(b) AはBに甲社株式1株を譲渡したがBが名義書換を行わない間に株式分割(1株を2株)が行われ、Aは分割株式に係る株券の交付を受け、1ヶ月後に8万円で売却した。その後BがAに分割株券の引渡しを求めて提訴し(提訴時の株価10万円)、口頭弁論が終結した(株価12万円)。判決はどのようなものになるか。

不当利得返還請求の可否 第1の類型 判例は不当利得返還請求を認めない(最判S35.9.15百(1)-16) 〔理由〕 株式は払込をした譲渡人が自己の権利として取得 新株引受権は株式の譲渡に当然に随伴するものではない(どの時点の株主に新株引受権を付与するかは総会決議で定まる〔※ただしS25改正前商法の事案〕) 仮に新株が譲受人に帰属すると考えると、価格の騰落が自己に不利な場合に株式の押し付け合いが生じる 学説は不当利得返還請求を認める見解が有力 〔理由〕譲渡人は引受権価格込みで譲渡しており二重に利得

第2の類型 判例・学説とも不当利得の成立は認める(最判H19.3.8百-16等) 問題は、 譲渡人は善意の受益者か悪意の受益者か 原物返還ができなくなった場合に代替物の返還義務を負うか否か 金銭による価格返還の場合の算定基準

不当利得返還義務の内容 利得者(譲渡人)の善意悪意 原物を売却した場合の返還物 判例・学説の立場 一部の学説には譲渡人を悪意の利得者とする見解もあるが、判例・多数説は(どちらの類型についても)善意の利得者と解する(ただし、口頭弁論終結時に悪意になるとする裁判例もある。東京地判H16.7.15) 原物を売却した場合の返還物 判例・学説の立場 売却した特定の株券を取り戻せるなら原物返還、不可能なら価格返還(大判S16.10.25) 代替物の返還が可能であれば代替物を調達して返還、不可能なら価格返還(大判S18.12.22〔最判H19.3.8で変更〕) 原則として価格返還(最判H19.3.8百-16)

では、返還するとしたら、返還価格はいつの時点? 検討 a説に対する批判 ・・・株券の場合には、原物の特定は損失者にとっては困難なので(損失者が差押えを試みる場合を考えよ)、原物返還が理論的には可能であっても価格返還請求の途はある方がよい b説に対する批判 ・・・代替物の返還義務を肯定すると、価格変動リスクを一方的に受益者(譲渡人)に負わせることになり不当(ただし受益者が自発的に代替物を返還すること自体は妨げられない)。 ⇒結局、cが一番妥当 では、返還するとしたら、返還価格はいつの時点? 売却 口頭弁論終結 売却 口頭弁論終結

価格返還の場合の価格算定基準 第1類型についての学説の見解 ※判例はそもそも不当利得返還請求権を認めない 新株引受権の価格または[引受権行使による発行時の時価-払込価格] 〔理由〕受益者(譲渡人)は新株引受権を不当に利得している 受益者(譲渡人)が売却した価格から払込金額を控除した額 〔理由〕受益者の行為は事務管理類似であり(準事務管理説)、新株自体または売却代金の返還義務があるが、払込金額については費用として償還請求が許される

第2類型についての判例・学説の立場 口頭弁論終結時の時価(東京地判H16.7.15:下落) 〔理由〕 価格返還は原物返還に代わるものだから、原物返還義務のあることが明らかになった時点での調達価格 受益者(譲渡人)が売却した価格(最判H19.3.8:下落) 債務不履行の損害賠償額算定と同じに考える(売却時=履行不能時=損害賠償請求権発生時と考え、その時点の価格が通常損害) 損失者が価格変動に注目して返還内容を選択できることは望ましくない 売却価格と口頭弁論終結時の価格の低い方(最判H19判決の一審、控訴審の立場) 売却価格と分割時(取得時)の時価との低い方

検討 口頭弁論終結時説 原物返還にかわる価格返還という理屈には合うが、①原物の価格変動リスクを善意である受益者(譲渡人)が負担するのはおかしい、②事実上、代替物を調達して返還しろというのと同じ、という問題点がある。 売却額説 価格変動リスクを損失者(譲受人)が負担するという点では妥当だが、仮に売却後価格が低下した場合には、高値で売り抜けた受益者(譲渡人)の才覚が考慮されなくなってしまう ※ただし、受益者(譲渡人)は任意に株式を(下がった時価で)取得して譲受人に返還することは可能 ⇒結局、最判H19.3.8の考えは概ね妥当なのではないか ※なお、振替制度採用会社においては、効力発生日の口座の記録(≠株主名簿)にしたがって分割が行われるので、失念株の問題は生じない(振替137)

特別支配株主による売渡請求

制度の概要 制度の趣旨 会社の支配権獲得のプロセスにおいて、圧倒的多数を有する株主が、少数株主を締め出し、100%株主となるために、少数派株主に対する売却を強制する手段 本来、株主は保有株式の売却を強制されることはないが、以下のような理由で正当化される ごく少数の局外株主が残存することによるコストを削減することのメリット 少数派株主はそもそもマイノリティ・ディスカウントに晒され、適時の売却が難しいことが多いから、売却強制によるデメリットが少ない 組織再編、全部取得条項付種類株式等を用いての多数決による締め出しも現行会社法ではユルされている

制度の概要 当事者・対象(会179Ⅰ~Ⅲ) 売渡請求権者 売渡義務者・売渡対象株式 法的性質等 特別支配株主=総議決権の9/10以上を有する株主(定款で加重可) ※株主は原則として単独。ただし、当該株主の100%子会社等の「特別支配株主完全子法人」が保有する株式は合算可 ※持株要件は通知から取得日まで維持が必要(多数説) ※「総議決権」(分母)には自己株式も算入 売渡義務者・売渡対象株式 特別支配株主以外が保有する株式・新株予約権・新株予約権付社債(自己株式、自己新株予約権除く)の保有者 ※自己株式、特約のある予約権付社債は対象外 ※特別支配株主完全子法人は請求から除外可 法的性質等 売渡請求は、会社の承認等を条件とする形成権

手続 承認請求の通知(会179の2Ⅰ) 承認 通知(会179の4) 特別支配株主から会社に対して売渡条件を示して売渡請求を対象会社に通知 対象会社がこれを承認するかどうかを決定(会179の3ⅠⅢ) ※取締役会設置会社においては取締役会が決定 ※取締役会非設置会社については、(株主総会決議は特別支配株主の影響下にあるので)取締役の決定と解すべき ※種類株式の場合は当該種類株主総会決議も必要(会322Ⅰ①の2) 通知(会179の4) 会社は承認後、取得日の20日前までに株主、新株予約権者、質権者に売渡条件を通知・公告 ※対象株主に対しては必ず通知(同条2項括弧書き)

事前開示(会179の5) 効力の発生(会179の9) 事後開示(会179の10) 会社において売渡請求に係る事前開示。期間は効力後6ヶ月経過(非公開会社は1年経過)まで 効力の発生(会179の9) 効力発生日に特別支配株主は対象株式を取得 事後開示(会179の10) 会社は効力発生日後遅滞なく事後開示。効力発生日後6ヶ月間(非公開会社は取得後1年間)

差止め手続等 売渡請求の撤回(会179の6) 売渡株主の差止請求権(会179の7) 価格決定の申立(会179の8) 特別支配株主は売渡請求を撤回できるが取締役会(非設置会社では取締役)の承認が必要 ※一部撤回は不可 売渡株主の差止請求権(会179の7) 不利益を受けるおそれのある売渡株主は差止請求可 ※差止事由は、①法令違反、②通知期間等不遵守、③対価の不当、の3つ 価格決定の申立(会179の8) 売渡価格に不満のある売渡株主は、裁判所に価格決定の申立て可。 売渡株式等取得無効の訴え(会846の2以下) 当事者は売渡株主と特別支配株主 管轄は対象会社本店所在地を管轄する地裁 認容判決には対世効はあるが遡及効なし

(現時点における)主要な論点 「売渡株主」の確定 特別支配株主の代金支払遅滞と解除の可否 取締役の善管注意義務 字義通り解せば、取得日における対象株式の株主だが、たとえば会社の通知(会179の4)の時点と取得日で株主が入れ替わっている可能性 差止権者、価格決定申立権者についても同様 特別支配株主の代金支払遅滞と解除の可否 売渡請求によって売買契約が成立し、効力発生日に売渡株主の義務は自動的に履行される。これに対して特別支配株主が代金支払を遅滞した場合に売渡株主は履行遅滞解除可能か ⇒条文上は解除を禁じる規定はないが、制度趣旨からすれば、原則として取得無効の訴えのみを認めるべきとの見解あり 取締役の善管注意義務 売渡し・撤回の承認に際して会社の利益と売渡株主の利害が衝突する可能性あり。この場合、取締役はどのように振る舞えばよいか 不当な目的による締め出しの効力