平成18年度長周期地震動対策に関する調査    建築構造物編   北村春幸(東京理科大学).

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C08011:大澤直弥 C08012:太田邦亨 C08013:大場友和 C08014:大矢英雅 C08015:岡井成樹
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平成18年度長周期地震動対策に関する調査    建築構造物編   北村春幸(東京理科大学)

建築構造物編 検証用スペクトルの設定に向けて 建築構造物の耐震性評価 耐震性能向上に向けての方策 避難計画の課題

長周期地震動の応答スペクトルとエネルギースペクトルによる評価 長周期地震動は「特定の周期帯」で大きなピークが現れるが,それ以外の周期帯では速度応答スペクトルSVは標準波・告示波とほぼ同じ値を示し,エネルギースペクトルVEはそれをかなり上回った値を示す。 ただし現状では,予測波は,最大値,入力エネルギー,卓越周期とも1/2~2倍程度のばらつきがあることを前提に利用すべき。 予測波を直接用いることより,多くの予測波を総合した検証用の応答スペクトルSVとエネルギースペクトルVEを設定する。

速度応答スペクトル (h=5%) 標準波・告示波 長周期地震動

エネルギースペクトル (h=10%) 標準波・告示波 長周期地震動

表1 超高層建物に対する長周期地震動の想定レベル 検証用スペクトルの設定に向けて 超高層建物に対する長周期地震動は,標準波・告示波との比較に基づき, 「全体的」なレベルと「特定の周期帯」のレベルに分けて,それらの値に幅を持たせた設定。 表1 超高層建物に対する長周期地震動の想定レベル 標準波・告示波 巨大地震による長周期地震動 全体的 (周期0~10sec) 特定の周期帯 速度応答スペクトルSV(cm/s) SV=80~120cm/s SVm1=80~120cm/s SVm2=120~180cm/s エネルギースペクトルVE(cm/s) VE=120~180cm/s VEm1=180~270cm/s VEm2=270~400cm/s

A.「全体的」と「特定の周期帯」の2つのレベルでBi-linear形状の速度応答スペクトルとエネルギースペクトルを規定する. 図-4 目標スペクトルの形状

検証用スペクトルの設定に向けての課題 検証用スペクトルを速度応答スペクトルとエネルギースペクトルで設定する方法を提案。 予測波は、大きなピークを持つ「特定の周期帯」の存在が共通の特徴であるが、地域や地点を限っても研究者によりピーク値と卓越周期に大きな違いが見られる。 予測波は最大値,入力エネルギー,卓越周期とも1/2~2倍程度のばらつき幅を持ち、「特定の周期帯」を特定することは現在のところ困難。 地域ごとにスペクトルを設定できるほど十分な長周期地震動が予測されていない。    ここで、提案した検証用スペクトルは、提供された予測波に基づき、長周期地震動に対する建築物の耐震安全性を検討するはじめの一歩として、目安となるレベルを設定したもの。 

地域ごとの速度応答スペクトルと エネルギースペクトルの比較 SVスペクトル(h=5%) VEスペクトル(h=10%) (a) 大阪地域

釜江          関口          鶴木 速度応答スペクトルSV  (h=5%) エネルギースペクトルVE  (h=10%)

建築構造物の耐震性評価 長周期地震動の「全体的」なレベルにある超高層建物 長周期地震動の「特定の周期帯」にある超高層建物 層間変形などの最大値は,標準波・告示波とほぼ変わらないが,累積塑性変形などの累積値は約2倍になる。 骨組が塑性変形能力を有する場合には耐力上重大な問題が発生することは少ないと予測される 。 やや大きな残留変形が残ることや,設計時の想定を超える層間変位による外装材の破損等が生じる可能性がある。 長周期地震動の「特定の周期帯」にある超高層建物 標準波・告示波の約1.5倍程度の最大応答値と約5倍程度のエネルギー入力の可能性を想定する必要がある。 構造骨組に大きな塑性歪みエネルギー吸収性能を確保する対策を講じるとともに,これまでの想定を超える層間変位に対する内・外装材の脱落防止等を考える必要がある。

建築構造物の耐震性評価の課題 塑性履歴性状を終局状態に至るまで適切に評価できる解析技術の開発。 崩壊に至までの荷重変形関係を定量的に予測する方法の研究。 多数の繰り返し載荷を受ける部材の挙動および崩壊条件を明らかにするための研究。 構造骨組の終局状態を評価するには,P-δ効果の考慮が不可欠。 免震・制震構造におけるダンパー・制震部材のエネルギー吸収による温度上昇等の影響を考慮した適切なモデル化。

耐震性能向上に向けての方策 耐震・制震・免震補強策が提案されているが、実際の建物に対する有効性と適用性の検討が必要 エネルギー吸収能力を増加させるための部材の増強、ならびに特定層への損傷集中を防ぐように架構の吸収エネルギーの分散を図る。 新たに取付けた制振部材にエネルギーを吸収させ構造体の累積損傷を低減させる制振構造は、極めて有効な方法。 地震による建物への入力エネルギーのすべてを免震層に吸収させる免震構造が有効。免震層の位置は最下層のみならず上層部(中間層)に設けることも可能。

避難計画の課題 現状では、超高層建物の避難計画には地震時の全館避難を想定していない。 階段による全館避難は困難であり、エレベータ利用などこれからの技術開発に期待するところが大きい。 在館者に対する情報の逐次提供が重要であり、避難経路の容量不足に対する二次被害を防ぐとともに高層階におけるゆれからの不安を取り除くなどのソフト的防災対策を考える必要がある。

エレベータの課題 現状では、超高層建物のエレベータは、地震時には使用しない。 地震時のエレベータ内への人の閉じ込め、地震後の利用再開の難しさ、耐震性を向上させた大地震後にも利用可能なエレベータがないこと、既存エレベータの耐震改修の未実施などの問題点が挙げられる。 災害時に安全に利用できるエレベータ(「スーパー耐震エレベータ」)の開発を考える。

長周期の長時間のゆれに対する課題 超高層ビルにおける非構造部材・設備の耐震補強方策の検討が必要 非構造部材・設備等のうち、地震時の損傷により人的被害や大きな機能障害に結びつく可能性のある部材を対象に、有効な耐震補強方法の検討。 室内家具等の固定対策の検討が必要 超高層建物の上層階では、床応答が増幅して家具の転倒・移動・落下被害が大きくなる傾向が見られ、人的被害や建物機能障害などにも影響を与える可能性が高い。 長周期の長時間のゆれが人間の心理面に与える影響の検討が必要。