特論B 細胞の生物学 第2回 転写 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.

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特論B 細胞の生物学 第2回 転写 和田 勝 東京医科歯科大学教養部

遺伝子と形質 形態 機能 遺伝子 タンパク質 タンパク質をコードする独立した遺伝子がある。 遺伝子は相同染色体上にペアで存在する。

遺伝子と形質 優性の遺伝子は機能的なタンパク質をコードしているが、劣性の遺伝子は機能が無いタンパク質をコードしている。 したがって、ヘテロであれば劣性の形質は現れないが、劣性ホモだと現れる。 (注)これはもっとも単純な場合で、実際はもっと複雑である。

遺伝子の発現 ふたたびセントラルドグマ

転写の過程 RNAの鎖の伸長は必ず5’→3’の方向 (5') ATGGAATTCTCGCTC(3')(コード鎖、sense strand) (3') TACCTTAAGAGCGAG(5')(鋳型鎖、antisense strand) (5‘) AUGGAAUUCUCGCUC(3’)(転写された一本鎖RNA) RNAの鎖の伸長は必ず5’→3’の方向 実際に転写しているのは?

RNAポリメラーゼによる転写 RNAポリメラーゼというタンパク質がDNAと結合して転写をしている。DNAとタンパク質の結合?

DNAとタンパク質の相互作用

DNAとタンパク質の相互作用 結合する タンパク質 水素 結合

DNAとタンパク質の相互作用 ホメオドメインタンパク質 ロイシン ジッパー ジンク フィンガー

原核生物の転写調節 DNAには、転写の開始と終了を示す部位が存在する。 RNAポリメラーゼ着地点

転写の方向 RNAポリメラーゼのプロモータ領域への着地の仕方によって、転写の方向性が決まる。 実際は鋳型鎖の3’→5’を転写しているのだが、結果としてはコード鎖を5’→3’に読んだものがmRNAとなる。 プロモータ領域による転写の方向性が決まれば、鋳型鎖を無視してコード鎖だけを考えればいい。 そこで川の流れにたとえて、コード鎖の5’側を上流、3’側を下流という表現が使われる。

RNAポリメラーゼ 転写を触媒する酵素をDNA依存性RNAポリメラーゼという。 RNAポリメラーゼはプライマーを必要としない。 α2ββ’の4量体+σ因子。

RNAポリメラーゼ σ因子 α2 β β’ 原核生物のRNAポリメラーゼ

RNAポリメラーゼ σ因子がTATAボックスに結合。αはβとβ’をつないでいる。 β’でDNAと結合。 βでヌクレオチドとRNAを結合。

lacオペロン 原核生物の遺伝子は、機能的に関係あるタンパク質をコードする領域が複数、連なっている。

リプレッサーによる転写阻害 lacオペロンのプロモーター部のさらに上流にある調節遺伝子が常にリプレッサータンパク質を作るように指令している。 リプレッサータンパク質はオペレータ部位に結合してRNAポリメラーゼの結合を阻害する。

lacリプレッサータンパク質

ラクトースによる   リプレッサーの不活化 ラクトースはリプレッサータンパク質と結合してリプレッサータンパク質を不活性化する。

転写のスイッチィング この方式は、ふだんは転写スイッチをオフにしておき、必要に応じてオンにする方式。 ラクト-スしか無い環境では、ラクトースをグルコースに変える酵素が必要になり、スイッチをオンにする。

trpオペロン trpオペロンの調節遺伝子が常に不活性なリプレッサータンパク質を作るように指令している。 そのため、トリプトファン合成の代謝系は稼動している。

トリプトファンによる   リプレッサーの活性化 最終産物であるトリプトファンがリプレッサーを活性化する。

trpリプレッサータンパク質 trp

転写のスイッチィング この方式は、ふだんは転写スイッチをオンにしておき、必要に応じてオフにする方式。 ふだんは必要なトリプトファン合成の代謝系を稼動させているが、最終産物であるトリプトファンがだぶつくと、スイッチをオフにする。

細菌と真核生物の遺伝子 真核生物の遺伝子は全DNAのホンの一部、しかもコード領域が連続していない。

ヒトβグロビンの遺伝子 プロモータ領域 紫色はエキソン1,2,3 間にはさまれた白色は イントロン1,2 翻訳開始 翻訳終了 CCCTGTGGAGCCACACCCTAGGGTTGGCCAATCTACTCCCAGGAGCAGGGA GGGCAGGAGCCAGGGCTGGGCATAAAAGTCAGGGCAGAGCCATCTATTGCT TACATTTGCTTCTGACACAACTGTGTTCACTAGCAACCTCAAACAGACACC ATGGTGCACCTGACTCCTGAGGAGAAGTCTGCCGTTACTGCCCTGTGGGGC AAGGTGAACGTGGATGAAGTTGGTGGTGAGGCCCTGGGCAGGTTGGTATCA AGGTTACAAGACAGGTTTAAGGAGACCAATAGAAACTGGGCATGTGGAGAC AGAGAAGACTCTTGGGTTTCTGATAGGCACTGACTCTCTCTGCCTATTGGT CTATTTTCCCACCCTTAGGCTGCTGGTGGTCTACCCTTGGACCCAGAGGTT CTTTGAGTCCTTTGGGGATCTGTCCACTCCTGATGCTGTTATGGGCAACCC TAAGGTGAAGGCTCATGGCAAGAAAGTGCTCGGTGCCTTTAGTGATGGCCT GGCTCACCTGGACAACCTCAAGGGCACCTTTGCCACACTGAGTGAGCTGCA CTGTGACAAGCTGCACGTGGATCCTGAGAACTTCAGGGTGAGTCTATGGGA CCCTTGATGTTTTCTTTCCCCTTCTTTTCTATGGTTAAGTTCATGTCATAG GAAGGGGAGAAGTAACAGGGTACAGTTTAGAATGGGAAACAGACGAATGAT TGCATCAGTGTGGAAGTCTCAGGATCGTTTTAGTTTCTTTTATTTGCTGTT CATAACAATTGTTTTCTTTTGTTTAATTCTTGCTTTCTTTTTTTTTCTTCT CCGCAATTTTTACTATTATACTTAATGCCTTAACATTGTGTATAACAAAAG GAAATATCTCTGAGATACATTAAGTAACTTAAAAAAAAACTTTACACAGTC TGCCTAGTACATTACTATTTGGAATATATGTGTGCTTATTTGCATATTCAT AATCTCCCTACTTTATTTTCTTTTATTTTTAATTGATACATAATCATTATA CATATTTATGGGTTAAAGTGTAATGTTTTAATATGTGTACACATATTGACC AAATCAGGGTAATTTTGCATTTGTAATTTTAAAAAATGCTTTCTTCTTTTA ATATACTTTTTTGTTTATCTTATTTCTAATACTTTCCCTAATCTCTTTCTT TCAGGGCAATAATGATACAATGTATCATGCCTCTTTGCACCATTCTAAAGA ATAACAGTGATAATTTCTGGGTTAAGGCAATAGCAATATTTCTGCATATAA ATATTTCTGCATATAAATTGTAACTGATGTAAGAGGTTTCATATTGCTAAT AGCAGCTACAATCCAGCTACCATTCTGCTTTTATTTTATGGTTGGGATAAG GCTGGATTATTCTGAGTCCAAGCTAGGCCCTTTTGCTAATCATGTTCATAC CTCTTATCTTCCTCCCACAGCTCCTGGGCAACGTGCTGGTCTGTGTGCTGG CCCATCACTTTGGCAAAGAATTCACCCCACCAGTGCAGGCTGCCTATCAGA AAGTGGTGGCTGGTGTGGCTAATGCCCTGGCCCACAAGTATCACTAAGCTC GCTTTCTTGCTGTCCAATTTCTATTAAAGGTTCCTTTGTTCCCTAAGTCCA ACTACTAAACTGGGGGATATTATGAAGGGCCTTGAGCATCTGGATTCTGCC TAATAAAAAACATTTATTTTCATTGCAATGATGTATTTAAATTATTTCTGA ATATTTTACTAAAAAGGGAATGTGGGAGGTCAGTGCATTTAAAACATAAAG AAATGAAGAGCTAGTTCAAACCTTGGGAAAATACACTATATCTTAAACTCC ATGAAAGAAGGTGAGGCTGCAAACAGCTAATGCACATTGGCAACAGCCCTG ATGCCTATGCCTTATTCATCCCTCAGAAAAGGATTCAAGTAGAGGCTTGAT TTGGAGGTTAAAGTTTTGCTATGCTGTATTTTACATTACTTATTGTTTTAG CTGTCCTCATGAATGTCTTTTCACTACCCATTTGCTTATCCTGCATCTCTC AGCCTTGACTCCACTCAGTTCTCTTGCTTAGAGATACCACCTTTCCCCTGA AGTGTTCCTTCCATGTTTTACGGCGAGATGGTTTCTCCTCGCCTGGCCACT CAGCCTTAGTTGTCTCTGTTGTCTTATAGAGGTCTACTTGAAGAAGGAAAA ACAGGGGGCATGGTTTGACT…… 翻訳開始 翻訳終了 紫色はエキソン1,2,3 間にはさまれた白色は イントロン1,2

真核生物のRNAポリメラーゼ RNAポリメラーゼⅠ: 核小体に存在。rRNA前駆体を合成 RNAポリメラーゼⅡ:  核質に存在。mRNA前駆体を合成 RNAポリメラーゼⅢ:  核質に存在。tRNAと5S rRNAを合成

真核生物mRNAの修飾 1)転写開始部位から終了部位まで転写される。 この配列には、エクソン、イントロンとともに翻訳   この配列には、エクソン、イントロンとともに翻訳   されない塩基配列を両端に含む。  2)5’側に7-メチルグアノシン(Cap)構造が、3’側    に100-250個の連続したA(ポリAテイル)が付    加される。  3)イントロン部分がスプライシング酵素によってつまんで    切られる(スプライシング、splicing)。  4)完成したmRNA(成熟mRNA)が核膜孔からサイトゾー    ルへ出る。

転写とmRNAの修飾

真核生物の転写調節 真核生物には「基本転写因子」と「転写調節因子」がある。 基本転写因子(TFIIA、TFIIB、TFIID、TFIIE、TFIIF、TFIIHなど)がTATAボックスなどに結合し、これを手がかりにRNAポリメラーゼが結合する。

真核生物の転写調節 原核生物よりかなり複雑

転写のスイッチィング 真核生物では多くの転写調節因子が見つかっている。 これらの転写調節因子が特定の遺伝子をオンオフすることで、細胞の機能を調節し、形態をつくり、分化を制御している。