2003年5月23日 名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂 債権総論と債権各論との関係 2003年5月23日 名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂
目次 債権総論と各論の関係 債権各論における債権総論の適用と準用 債権総論,契約総論の位置づけ 練習問題2-1,2-2,2-3 参考資料 目次 債権総論と各論の関係 債権各論における債権総論の適用と準用 弁済の場所と代金の支払場所 弁済の費用と契約費用 練習問題2-1,2-2,2-3 参考資料 債権総論,契約総論の位置づけ 債権総論と各論 債権総論⇒契約総論 債権各論⇒契約,事務管理,不当利得,不法行為 契約総論⇒双務契約総論 契約各論⇒典型契約各論
債権総論と債権各論との対比 債権総論 債権各論 債権の目的 債権の効力 多数当事者の債権 債権の譲渡 債権の消滅 契約 不可分債務 連帯債務 保証債務 債権の譲渡 債権の消滅 弁済,相殺,更改,免除,混同 債権各論 契約 契約総論 契約の成立,契約の効力, 契約の解除 契約各論 贈与,売買,交換, 消費貸借,使用貸借,賃貸借, 雇傭,請負,委任,寄託, 組合,終身定期金, 和解 事務管理,不当利得,不法行為
債権総論と債権各論 との関係(1/5) 債権総論の規定は,契約以外の債権(事務管理,不当利得,不法行為)にはほとんど適用されない。 そうだとすると,債権総論は,以下のように,契約総論として位置づけるほかないし,それが穏当であろう。 債権総論→契約総論 債権各論→契約各論,事務管理,不当利得,不法行為
債権総論と債権各論 との関係(2/5) 債権総論と契約総論との関係 債権総論を契約総論と考えたいが,契約総論という項目は,すでに債権各論の契約の規定(民法521条以下)の中に存在している。 民法 第3編 債権 第1章 総則(債権総論) ⇒ 第1章 契約総論? 第2章 契約 第1節 契約総則(契約総論) 第1款 契約の成立,第2款 契約の効力, 第3款 契約の解除
債権総論と債権各論 との関係(3/5) 民法521条以下の「総則」は,本当に「契約総論」か? 民法521条以下の契約総則の規定は,契約全体に関する総論というよりは,双務契約総論となっている。 契約総論のうち,契約の成立の箇所には,「要物契約(片務契約であるものが多い)」に関する契約の成立の規定が欠落している。 契約総論のうち,契約の効力の箇所では,「同時履行の抗弁権」,「危険負担」,「第三者のためにする契約」が扱われ,また,最後に「契約の解除」が扱われているが,これらは,片務契約には適用されない。 このように考えると,民法521条以下の契約総論は,片務契約には適用されない,単なる,双務契約総論に他ならない。
債権総論と債権各論 との関係(4/5) 債権総論を契約総論として位置づけることは可能か? 債権総論と債権各論との関係を以下のように位置付けてみてはどうだろうか? 債権総論→契約総論 (典型例は,片務契約である金銭消費貸借契約) 契約総論→双務契約総論(典型例は,売買契約) 契約各論→典型契約各論 ただし,無償契約総論(贈与),有償契約総論(売買)を含む もしこれがうまくいけば,債権総論の規定と債権各論の中の契約の章の規定は,すべて,契約法の下に統一することが可能となろう。
債権総論と債権各論 との関係(5/5) 結論 第3編 債権 第3編 債権 第1章 契約総則(片務中心) 第1章 総則 第2章 契約各論 債権総論と債権各論 との関係(5/5) 結論 第3編 債権 第1章 契約総則(片務中心) 第2章 契約各論 第1款 双務契約総則 第2款 贈与(無償契約総則) 第3款 売買(有償契約総則) … 第3章 事務管理 第4章 不当利得 第5章 不法行為 第3編 債権 第1章 総則 第2章 契約 第1款 総則 第2款 贈与 第3款 売買 … 第3章 事務管理 第4章 不当利得 第5章 不法行為
練習問題2-1 債権総論と各論との関係 債権総論と債権各論との関係を論じるもののうち,適切なものはどれか? (1)債権総論は,債権各論,すなわち,契約,事務管理,不当利得,不法行為の総論であり,それらが問題となる事件に適用される。 (2)債権総論は,債権の総論というよりは,契約の総論であり,各論に位置づけられる契約総論と同じ範疇に属する規定である。 (3)債権総論は,債権の総論というよりは,片務契約,双務契約を含めた契約の総論であり,各論に位置する契約総論は,双務契約の総論として位置づけられる。
契約各論における債権総論の規定の適用関係 以下の2つの条文を例にとって考えてみよう。 1 弁済の場所と代金の支払場所 債権総論にある民法484条〔弁済の場所〕と債権各論にある民法574条〔代金支払場所〕との関係は,総論の適用か,総論の例外としての特則か。 2 弁済の費用と契約費用 債権総論にある民法485条〔弁済の費用〕と債権各論にある民法558条〔売買の契約費用〕との関係は,総論の適用か,総論の例外としての特則か。 これらの規定は,従来は,原則(債権総論)と例外(債権各論)の組み合わせと考えられてきた。しかし,実は,債権総論に関する原則を双務契約に適用または準用したものにすぎないのではないだろうか?
弁済の場所と代金の支払場所との関係(通説) 条文の対比 第484条〔弁済の場所〕 弁済ヲ為スヘキ場所ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ特定物ノ引渡ハ債権発生ノ当時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ為シ其他ノ弁済ハ債権者ノ現時ノ住所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス 第574条〔代金支払場所〕 売買ノ目的物ノ引渡ト同時ニ代金ヲ払フヘキトキハ其引渡ノ場所ニ於テ之ヲ払フコトヲ要ス 従来の学説の対応(異論がない) 民法574条における代金の支払は,民法484条における「其他ノ弁済」に該当する。したがって,民法484条によれば,代金支払場所は,債権者(売主)の住所においてなすべきことになるはずである。 ところが,民法574条は,代金の支払場所を「引渡ノ場所」と規定しており,民法484条の規定とは明らかに異なる。 したがって,民法574条は,民法484条の例外を定めた特則である。
弁済の場所と代金の支払場所との関係(疑問点) 条文の対比 第484条〔弁済の場所〕 弁済ヲ為スヘキ場所ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ特定物ノ引渡ハ債権発生ノ当時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ為シ其他ノ弁済ハ債権者ノ現時ノ住所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス 第574条〔代金支払場所〕 売買ノ目的物ノ引渡ト同時ニ代金ヲ払フヘキトキハ其引渡ノ場所ニ於テ之ヲ払フコトヲ要ス 疑問点 債権総論部分にある民法484条は,売買代金の支払場所の規定である民法574条や,その他の契約(雇傭,請負,委任,寄託等)における報酬の支払場所を含めた共通ルールのはずではないのか。
弁済の場所と代金支払場所との関係(立法理由) 特定物の引渡 種類物の引渡 代金の支払 民法484条に従った 弁済の場所 債権発生時の物の所在地 (債務者・売主の住所) 債権者・買主の住所 債権者・売主の住所 民法574条に従った代金支払の場所 同時履行の場合 立法理由(民法533条の精神を生かす) 物の引渡の場所 異時履行の場合 立法理由(民法484条の原則通りのため,旧民法の該当条項を削除)
弁済の場所と立法例 債務の 種類 立法例 特定物の 引渡義務 種類物の 金銭債務 その他の 作為債務 例 不動産の 引渡 ビール1ダース 種類 立法例 特定物の 引渡義務 種類物の 金銭債務 その他の 作為債務 例 不動産の 引渡 ビール1ダース 代金支払 借金返済 医療 理・美容 旧民法 合意時の目的物の所在地(債務者の住所) 特定の指定の場所(債務者の住所) 債務者の 住所 現行民法 債権発生当時の目的物の所在地(債務者の住所) 債権者の住所 債権者の UNIDROIT EU契約法 債務者の住所
弁済の場所と代金支払場所の関係に関する改正案(私案) 第484条〔弁済の場所〕 (1)弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡の場合は,債権発生の当時その物の存在した場所で,種類物の引渡の場合は,種類物の特定の当時その物の存在した場所で,その他の引渡債務(金銭債務)の弁済は,債権者の現時の住所でこれをしなければならない。 (2)その他の債務(作為債務)については,債務者の現時の住所で弁済をしなければならない。 第574条〔代金支払場所〕 (1)売買代金の支払は,第484条1項の規定に従い,債権者である売主の住所でこれをしなければならない。 (2)売買の目的物の引渡と同時に代金を払うべきときは,買主は,第533条の規定の趣旨を援用して,その引渡の場所で支払うことができる。
練習問題2-2 (1/3) 練習問題2-2の設例 Aさんは,通信販売でB社のワンピースを購入することにした。C宅配便の人がワンピースを届けてくれたので,試着してみたところ,ぴったりで問題がない。そこで,代金を支払おうと思う。同封の振込用紙にB社の銀行口座名が書かれている。この場合,近くのD銀行で代金を振り込むことにしようと思うが,民法の原則によると,代金はどこで支払うのが本筋であろうか。
練習問題2-2 (2/3) 1. 設例の場合,「代金の支払場所」に関する問題であるのに,代金の支払に関する民法574条が適用されず,一般的な「債務の弁済の場所」に関する民法484条が適用されるのはなぜか。 2. 民法574条が,同時履行の場合について,代金の支払の場所を,金銭債務の弁済の場所としての「債権者の住所」ではなく,目的物の「引渡の場所」と規定した理由は何か。 3. 同時履行の場合に,代金の支払場所を目的物の「引渡の場所」とするというルールは,どのような原理から導かれるか。
練習問題2-2(3/3) 以下の二つの条文の関係は,原則と例外か?それとも,原則に他の原則(同時履行の抗弁)を合わせたものとその適用か? 第484条〔弁済の場所〕 弁済ヲ為スヘキ場所ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ特定物ノ引渡ハ債権発生ノ当時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ為シ其他ノ弁済ハ債権者ノ現時ノ住所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス 第574条〔代金支払場所〕 売買ノ目的物ノ引渡ト同時ニ代金ヲ払フヘキトキハ其引渡ノ場所ニ於テ之ヲ払フコトヲ要ス → 立法理由 民法改正私案 CISG Art. 57
弁済の費用と契約費用との関係 条文の対比 学説の対応 疑問点 第485条〔弁済の費用〕 第558条〔売買の契約費用〕 弁済ノ費用ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ其費用ハ債務者之ヲ負担ス但債権者カ住所ノ移転其他ノ行為ニ因リテ弁済ノ費用ヲ増加シタルトキハ其増加額ハ債権者之ヲ負担ス 第558条〔売買の契約費用〕 売買契約ニ関スル費用ハ当事者双方平分シテ之ヲ負担ス 学説の対応 弁済の費用:運送費・荷造費など。 契約費用:契約書の作成費や目的物の鑑定のための費用など。 大審院は,登記費用も,契約の費用に含まれるとしている。 疑問点 弁済の費用の規定が,双務契約の均衡性によって,平分負担となっただけではないのか。
登記費用の分析(1/2) 弁済の費用として売主が負担するのか,契約費用として売主と買主が平分して負担するのか? 区別の基準 大審院は,不動産売買の登記に要する費用は,契約費用であると判示した(大判大7・11・1民録24輯2103頁)。 もっとも,不動産取引においては,登記費用は買主が負担するとの特約が一般に利用されている。 区別の基準 以下の要件を満たすものを契約費用と考えるべきであろう。 債務者が弁済する際に要する費用のうち,契約の相手方にとっても有益である費用である。 その費用の対象となる債務者の行為に相手方も協力すべき関係にある。
登記費用の分析(2/2) 登記費用を買主に負担させることの当否 本来,登記義務者である売主の弁済の費用であるが,買主にとっても,登記を行なうことは有益であり,かつ,登記に協力することが義務付けられているのであるから(共同申請主義),契約費用と解するのが正当である。 したがって,特約がなければ,登記費用は契約当事者で平分するのが本筋である。 民法の債権法に関する規定は,任意規定とされており,特約がある場合には,任意規定は適用されないとされてきた。しかし,この原則は,消費者契約法の制定によって根本的に変更されることになった。 つまり,すべてを買主に負担させている不動産取引の現状は,買主に一方的に負担を強いるものであり,売主が事業者である場合には,不公正な取引慣行として,消費者契約法10条によって無効とされるおそれがあるというべきである。
弁済の費用と契約費用の関係に関する改正案(私案) 第485条〔弁済の費用〕 弁済の費用について別段の意思表示がないときは,その費用は,債務者がこれを負担する。但し,債権者が住所の移転,その他の行為によって弁済の費用を増加したときは,その増加額は債権者がこれを負担する。 第558条〔売買費用〕 売買契約に関する費用は,その結果が双方に利益をもたらすものであることに鑑み,民法485条の但し書きの法理,および,民法427条の趣旨に基づいて,当事者の双方が平分してこれを負担する。
練習問題2-3 弁済の費用と契約費用 以下の二つの条文の関係は,原則と例外か?それとも,原則に他の原則(負担部分平等の原則)を合わせたものとその適用か? 第485条〔弁済の費用〕 弁済ノ費用ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ其費用ハ債務者之ヲ負担ス但債権者カ住所ノ移転其他ノ行為ニ因リテ弁済ノ費用ヲ増加シタルトキハ其増加額ハ債権者之ヲ負担ス 第558条〔売買の契約費用〕 売買契約ニ関スル費用ハ当事者双方平分シテ之ヲ負担ス → 民法改正私案
参考資料 任意規定とその適用 契約の種類 諾成契約と要物契約 旧民法における弁済の場所 CISG(国連国際動産売買条約) Art. 57(代金支払場所) UNIDROIT(国際商事契約原則) Art. 6.1.6(履行地)
任意規定とその適用(1/2) 公序に関しない事項 当事者意思あり 当事者意思不明・意思なし 当事者意思に従う (民法91条) 事実たる慣習あり 事実たる慣習なし 事実たる慣習に従う(民法92条) 任意規定が適用される
任意規定とその適用(2/2) 消費者契約法 第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
消費者契約法 (目的) 第1条 この法律は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ,事業者の一定の行為により消費者が誤認し,又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに,事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより,消費者の利益の擁護を図り,もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
契約(典型契約)の種類 契約の目的 契約の性質 契約の名称 財産権の 移転 財産権の移転のほか, 目的物の引渡・保存を含む 無償 贈与 有償 金銭 売買 物 交換 代替物の返還が必要 無償,有償 消費貸借 その他 物の利用(使用・収益) 使用貸借 賃貸借 労務の利用 雇傭 請負 委任 寄託 物・労務の利用の結合 組合 終身定期金 紛争の解決 和解
契約の分類とその意味 典型契約と非典型契約 無償契約と有償契約 片務契約と双務契約 諾成契約と要物契約,そして要式契約 贈与 無償,片務 売買 有償,双務 交換 消費貸借 無償・有償,片務 使用貸借 賃貸借 雇傭 請負 委任 無償・片務 有償・双務 寄託 組合 終身定期金 和解 典型契約と非典型契約 契約自由の原則とその制限 契約の目的と性質に基づく分類の効用 無償契約と有償契約 担保責任の有無の基準 片務契約と双務契約 区別の基準と要物契約の処遇 危険負担・解除 諾成契約と要物契約,そして要式契約 強制履行との関係 使用貸借と賃貸借との比較,贈与と売買のとの比較 諾成消費貸借契約の可能性と将来の課題 一時的契約と継続的契約 解約告知・中途解除
諾成契約と要物契約 との比較 契約の種類 無償 有償 財産権移転 贈与 売買・交換 書面によらない契約 書面による契約 目的物の引渡までは 取消可能 合意のみで成立 合意のみで 契約成立 無償・消費貸借 有償・消費貸借 目的物の引渡までは契約不成立 左に同じ 特定物の利用 使用貸借 賃貸借 労務の利用 無償・寄託 有償・寄託 物の引渡までは契約不成立
要物契約の廃止(私案) 契約の種類 無償 有償 財産権移転 贈与 売買・交換 書面によらない契約 書面による契約 目的物の引渡 までは取消可能 合意のみで成立 合意のみで 契約成立 その他 無償・消費貸借,使用貸借,無償・寄託 有償・消費貸借 賃貸借 有償・寄託
旧民法財産取得編75条 旧民法財産取得編75条 現行民法574条は,旧民法財産取得編75条を以下のように修正した。 ①代金弁済ノ場所ヲ合意セサルトキハ其弁済ハ有体動産ニ付テハ引渡ヲ為ス場所不動産、債権、争ニ係ル権利又ハ会社ニ於ケル権利ニ付テハ証書ノ交付ヲ為ス場所ニ於テ之ヲ為ス ②引渡ノ前又ハ後ニ代金ノ弁済ヲ要求スルコトヲ得ヘキトキハ其弁済ハ買主ノ住所ニ於テ之ヲ為ス 現行民法574条は,旧民法財産取得編75条を以下のように修正した。 1項,すなわち,売買代金が物の引渡と同時履行となる場合において,旧民法のように動産,不動産,権利の売買を区別せず,物の引渡の場所を代金の弁済の場所とした。 2項,すなわち,同時履行とならない場合においては,金銭債務について,すでに,民法484条において,旧民法の債務者の住所主義を変更し,債権者の住所主義を採用したことから,これを削除した(広中俊雄編『民法修正案(前三編)の理由書』有斐閣(1987)556頁)。
CISG: 国連国際動産売買条約 国連国際動産売買条約(CISG: United Nations Convention on Contracts for the International Sales of Goods)の略。 1966年に発足した国連国際商取引法委員会(UNCITRAL: United Nations Commission on International Trade Law)によって,1978年に草案が起草され,ウィーンで開かれた62カ国が出席する外交会議で,1980年4月10日に採択された。 国連国際動産売買条約(CISG)は,1980年にウィーンで採択されたため,「ウィーン統一売買法」とか「ウィーン売買条約」とも呼ばれている。 この条約は,1988年1月1日に発効し,現在,加盟国は,アメリカ合衆国,ドイツ,フランス,カナダ,イタリア等の先進諸国,ロシア,中国等の社会主義諸国,開発途上国を含め,52カ国となっている。先進諸国の中でまだ加盟していないのは,イギリスと日本のみである。 この条約は,これまで不可能とされていた大陸法と英米法との私法の融合を売買契約について初めて実現した画期的なものであり,各国の民法改正,例えば,ドイツの債務法改正に大きな影響を与えている。
CISG Art. 57 第57条【売買代金の支払場所】 (1)代金を他の特定の場所で支払うことを要しない場合には,買主はそれを次の場所で売主に支払わなければならない。 (a)売主の営業所,又は, (b)物品又は書類の交付と引換えに代金を支払うべきときには,その交付が行われる場所。 (2)契約締結後に売主が営業所を変更したことにより生じた代金支払に付随する費用の増加は,売主の負担とする。
UNIDROIT Principles:ユニドロワ国際商事契約法原則 1926年に国際連盟の一機関として設立され,1930年4月から,国際売買に関する法の統一を推進してきた私法統一国際協会(UNIDROIT: International Institute for the Unification of Private Law;Institut international pour l‘unification du droit prive)が作成した国際商事契約原則(UNIDROIT Principles for International Commercial Contracts,1994)の略(PICCとも略す)。 なお,私法統一国際協会(UNIDROIT)は,1940年にユニドロワ法(政府間協定)によって,独立の組織としてローマで再設立され,現在,イタリア,日本を含めて57の加盟国によって支えられている。 ユニドロワ原則は,CISGと異なり,正規の条約ではないが,CISGがカバーしていない売買以外の契約全般および契約の有効・無効について体系的な規定を持つため,CISGを補うものとして,国際商事仲裁を中心に広く利用されている。
UNIDROIT原則 6.1.6条 6.1.6条 - 履行地 (1) 履行地が契約によって定められておらず、また、契約からも決定できない場合には、当事者は以下の各号の場所で履行すべきである。 (a) 金銭債務については、債権者の営業所 (b) その他の債務については、その当事者自身の営業所 (2) 契約締結後に当事者が営業所を変更したことによって生じた履行に付随する費用の増加は、その当事者が負担しなければならない。