聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 小田恵子, 塚原 歩, 小倉佑太 野村 悠, 北野夕佳 Clinical practice guidelines for antimicrobial prophylaxis in surgery ~外科における抗菌薬予防のための臨床実践ガイドライン~ Am J Health-Syst Pharm. 2013;70:195-283 聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 小田恵子, 塚原 歩, 小倉佑太 野村 悠, 北野夕佳
背景 外科手術における予防的抗菌薬投与は, 適切に行われれば, 手術部位感染の予防方法として大変有効な手段である. 術前, 術中, 術後の抗菌薬の選択, 投与量やタイミングなどを適正化することが必要である. まず始めに、外科手術における予防的抗菌薬投与は, 適切に行われれば, 手術部位感染の予防方法として大変有効な手段です。
目的 このガイドラインは, 臨床的な証拠や問題点に基づくSSIの防止のために, 実践者にとって合理的で、安全かつ効果的な抗菌薬使用への標準化されたアプローチを提供することを目的としている. 抗菌薬予防とは感染の防止を意味しており, 1次予防, 2次予防, 根絶がある. 1次予防は初感染の防止を意味し, 2次予防はすでに存在している感染の再発または再活性の防止を意味している.根絶は感染の発症を防止するために保菌微生物を駆逐する事を意味している. このガイドラインは1次予防に焦点をおいている. このガイドラインはSSI防止を目的とした抗菌薬の使用について標準化されたアプローチを提供することを目的としています。抗菌薬予防とは感染の防止を意味しており, 1次予防, 2次予防, 根絶があります。 1次予防は初感染の防止を意味し, 2次予防はすでに存在している感染の再発または再活性の防止を意味している.根絶は感染の発症を防止するために保菌微生物を駆逐する事を意味しています。
ASHP(American Society of Health-System Pharmacists) このガイドラインは, ASHP(American Society of Health-System Pharmacists) IDSA(Infection Diseases Society of America) SIS(Surgical Infection Society) SHEA(Society for Healthcare Epidemiology of America) により作成された. このガイドラインはASHP,ADSA,SIS,SHEAにより作成されました。
信憑性 高 論文にはエビデンスのヒエラルキーがあります。信憑性の一番低いものにはinvitro、比較動物試験などがあり、表の様に上に行くにつれ信憑性が高くなります。今回の論文では信憑性が高いシステマティックレビューやメタ解析、二重盲検やランダム化比較試験などを用いています。 低
分類 Level Ⅰ(evidence from large, well conducted, randomized, controlled clinical trials or meta-analysis) Level Ⅱ(evidence from small, well conducted, randomized, controlled clinical trials) Level Ⅲ(evidence from well conducted cohort study) Level Ⅳ(evidence from well conducted case control studies) Level Ⅴ(evidence from uncontrolled studies that were not well conducted) Level Ⅵ(conflicting evidence that tends to favor the recommendation) Level Ⅶ(expert opinion or data extrapolated from evidence for general principles and other procedure) 抗菌薬治療の推奨を支持する研究によりlevel1〜7に分類されています。
弱 Category A 強 Category B Category C 推奨レベル Level Ⅰ-Ⅲ Level Ⅳ-Ⅵ Level Ⅶ categoryAはlevel1〜3,Bは4〜6、Cは7というように分けられており、categorAが一番推奨レベルが強いです。 弱
各論 それぞれの臓器や部位別の手術での原因菌と推奨する抗菌薬、推奨レベルを表にしました。すべての抗菌薬は単回投与がすすめられていました。
抗菌薬の推奨投与量と時間 アンピシリンスルバクタム 3g(アンピシリン2g、スルバクタム1g) 50mg/kgのアンピシリン 0.8-1.3 成人での投与量 小児への投与量 成人、正常腎機能での投与時間 投与間隔時間(術前投与からの) アンピシリンスルバクタム 3g(アンピシリン2g、スルバクタム1g) 50mg/kgのアンピシリン 0.8-1.3 2 アンピシリン 2g 50mg/kg 1-1.9 アズトレオナム 30mg/kg 1.3-2.4 4 セファゾリン 1.2-2.2 セフロキシム 1.5g 1-2 セフォタキシム 1g 0.9-1.7 3 セフォキシン 40mg/kg 0.7-1.1 セフォタテン 2.8-4.6 6 セフトリアキソン 50-75mg/kg 5.4-10.9 NA シプロフロキサシン 400mg 10mg/kg 3-7 クリンダマイシン 900mg 2-4 エルタペネム 15mg/kg 3-5 それぞれの抗菌薬の投与量と時間、投与間隔についての表です。 NA=not applicable
抗菌薬 成人での投与量 小児への投与量 成人、正常腎機能での投与時間 投与間隔時間(術前投与からの) フルコナゾール 400mg 6mg/kg 30 NA ゲンタマイシン 5mg/kg 2.5mg/kg 2-3 レボフロキサシン 500mg 10mg/kg 6-8 メトロニダゾール 15mg/kg モキシフロキサシン 8-15 ピペラシン−タゾバクタム 3.375g Infants(2-9m):80mg/kg,children(>9m and <40kg):100mg/kg 0.7-1.2 2 バンコマイシン 4-8 エリスロマイシン 1g 20mg/kg 0.8-3 6-10 ネオマイシン
消化器
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 Βラクタムアレルギー 根拠 強さ 胃十二指腸; 腸管内腔に入り込む処置 (肥満手術や胃十二指腸切除術) 最も共通な菌;大腸菌群 (E.coli,Proteus species, klebsiella species) staphylococci, streptococci, enterococci, Bacteroids species セファゾリン クリンダマイシンorバンコマイシン + アミノグリコシドorアズトレオナムorフルオロキノロン A 腸管内腔に入り込まない処置 (選択的迷走神経切離、抗逆流術) ゲンタマイシンorアズトレオナムorフルオロキノロン
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 βラクタムアレルギー 根拠 強さ 胆管; 開腹処置 E.coli,klebsiella species,enterococci 頻度少;グラム陽性菌(streptcocci, staphyrococci) セファゾリン、 セフォキシチン、 セフォテタン、 セフトリアキソン、アンピシリン-スルバクタム クリンダマイシンorバンコマイシン + ゲンタマイシンorアズトレオナムorフルオロキノロン、 メトロニダゾール ゲンタマイシンorフルオロキノロン A 腹腔鏡 (低リスク) なし (高リスク) 開腹処置と同様
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置 ・手術 原因菌 推奨抗菌薬 βラクタムアレルギー 根拠強さ 虫垂切除 最も共通な菌:嫌気性菌・好気性グラム陰性菌(B.fragilis,E.coli) Staphylococcus species streptococci, enterococcus species,P.aeruginosa セフォキシチン、 セフォテタン、 セファゾリン + メトロニダゾール クリンダマイシン + ゲンタマイシンorアズテレオナムorフルオロキノロン、 ゲンタマイシンorフルオロキノロン A 小腸処置(閉塞なし) E.coli,Enterococcus species,streptococcus species P.aeruginosa,S.aureus,bacilli セファゾリン アミノグリコシドorアズトレオナムorフルオロキノロン C 小腸処置(閉塞あり) + メトロニダゾール、 セフォテタン アミノグリコシドorフルオロキノロン
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 βラクタムアレルギー 根拠強さ ヘルニア修復 Streptococci,staphylococcus species Enterococcus species,MRSA セファゾリン クリンダマイシン、バンコマイシン A 大腸処置 B.fragilis,E.coli + メトロニダゾール、 セフトリアキソン セフォキシチン、 セフォテタン、 アンピシリンスルバクタム、エルタペネム クリンダマイシン + アミノグリコシドorフルオロキノロンorアズトレオナム、 メトロニダゾール アミノグリコシドorフルオロキノロン
頭頸部
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 βラクタム アレルギー 根拠強さ 頭頸部 清潔処置 口腔咽頭部臓器 streptococi,Bacteroides species,Prevotella species,Fusobacterium species,Veillonella species,Enterobacteriaceae,staphylococci 鼻腔内正常細菌叢 staphylococcus species,streptococcus species なし B (中耳腔換気用チューブを含む)人工的補充物を留置する場合 セファゾリン、セフロキシム クリンダマイシン C 頭頸部 汚染された癌の手術の場合 セファゾリン+メトロニダゾール、 セフロキシム+メトロニダゾール、 アンピシリン/スルバクタム A 扁桃摘出術、機能的内視鏡彎曲部の汚染部位の処置の場合
脳神経外科 ・ 整形外科
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 βラクタムアレルギー 根拠強さ 脳神経外科 選択的開頭術 グラム陽性菌、S.aureus,coagulas(-)ブドウ球菌、 MRSA,P.acnes, セファゾリン クリンダマイシン、 バンコマイシン A 脳脊髄シャント術 C 整形外科 手・膝・足を含む清潔処置 (異質材料を移植するものは含まない) 整形外科での一般的な菌:S.aureus, 非集団性staphylococci(S.epidermidis), β-hemolyticstreptococci、 関節形成:S.aureus,S.epidermidis,VRE,MRSA なし 器具不使用の脊椎処置 脊椎:グラム陰性菌を含む多様菌
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 Βラクタムアレルギー 根拠の強さ 股関節骨折修復 S.aureus, S.epidermidis セファゾリン クリンダマイシン、バンコマイシン A 内固定留置でバイス(釘、ねじ、ワイヤーなど) 全関節置換術
産婦人科
,enterococci,lactobacilli,diphtheroids,E.coli, 手術 原因菌 推奨抗菌薬 Βラクタム アレルギー 根拠強さ 帝王切開術 膣腔内正常細菌叢:staphylococci,streptococci ,enterococci,lactobacilli,diphtheroids,E.coli, anaerobic streptococci,peptococcus species, peptostreptococcus species,Bacteroides species, Bacteroides bivius,B,fragilis,Fusobacterium species 内膜炎:staphylococci,streptococci,E.coli, peptostreptococcus species,Bacteroides bivius, Bβ-hemolytic,streptococcus,urealyticum 両者:staphylococcus,enterococci セファゾリン クリンダマイシン + アミノグリコシド A 子宮摘出術 正常細菌叢Staphylococci,streptococci,enterococci,lactobacilli,diphtheroids,E.coli,嫌気性streptococci,Bacteroidesspecies,Fusobacterium 術前で叢に違いがあり腹腔鏡:entero,aerobicgram陰性菌、Bactero 腹部広汎子宮全摘術:gram陽性菌、entericgram陰性菌、anaerobes セファゾリン、セフォタテン、セフォキシン、アンピシリンスルバクタム クリンダマイシン orバンコマイシン+アミノグリコシド orアゼトレオナムorフルオロキノロン、 メトロニダゾール+アミノグリコシド orフルオロキノロン
眼科
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 βラクタム アレルギー 根拠強さ 眼科 coagulase(-), staphylococcus(epidermidis), gram(+):S.aureus,Streptococcus,Entero, P.acnes,Corynebacterium, gram(-):seratia, Klebsiella,P.mirabilis,P.aeruginosa 局所のネオマイシン−ポリミクシン、 β−グラミシディンor第4世代フルオロキノロン (ガチフロキサシンorモキフロキサシン) A 結膜下注射ではセファゾリン100mg、 intracameralセファゾリン1−2.5mg、 セフロキシム1mgを眼科処置後に投与する
循環器
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 Βラクタムアレルギー 根拠の強さ 心臓 冠動脈バイパス術 黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、および、アクネ菌を含むグラム陽性菌gram-positive(S.aureus,coagulase-negative staphylococcus,propionibacterium acnes) セファゾリン、セフロキシム クリンダマイシン、MRSA保菌者はバンコマイシン A ペースメーカー植え込み術等の心臓装置植え込み術 循環補助装置 C
胸腔
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 Βラクタムアレルギー 根拠の強さ 心臓に対する手術を除いたもの(肺葉切除、肺摘除、胸腔鏡検査、開胸術を含む) S.aureus,S.epidermidis セファゾリン、アンピシリンスルバクタム クリンダマイシン、MRSA保菌者はバンコマイシン A 動画補助による胸腔手術 C
血管系
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 Βラクタムアレルギー 根拠の強さ 血管系の手術 黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、および腸内グラム陰性桿菌が主 セファゾリン クリンダマイシン、バンコマイシン A
移植
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 Βラクタムアレルギー 根拠の強さ 心臓移植 グラム陽性菌のブドウ球菌属(他の胸部手技と同様の) セファゾリン クリンダマイシン、バンコマイシン A 肺移植、心肺移植 グラム陽性も陰性もあり、陰性菌や真菌による縦隔炎や肺炎が増えている
泌尿器
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 Βラクタムアレルギー 根拠の強さ 感染のリスクがある下部尿路器具の挿入(経直腸前立腺生検を含む) E.coli, グラム陰性桿菌、enterococci,S.aureus,coagulase-negative Staphylococcus species,groupA streptococcus species フルオロキノロン、トリメソプリム-スルファメトキザール、セファゾリン アミノグリコシド+/orクリンダマイシン A 尿路への侵入のない清潔操作 セファゾリン(アミノグリコシドの追加の単回投与は人工物留置時に推奨する) フルオロキノロン、アミノグリコシド+/orクリンダマイシン 準清潔操作 セファゾリン+メトロニダゾール、セオキシン フルオロキノロン、アミノグリコシド+メトロニダゾールorクリンダマイシン 尿路への侵入のある清潔操作 S.epidermidis,P.aeruginosa クリンダマイシン+/orアミノグリコシドorアザトラナオム、バンコマイシン+/orアミノグリコシドorアザトラナオム
形成外科
Recommendation for Surgical Antimicrobial Prophylaxis 処置・手術 原因菌 推奨抗菌薬 Βラクタムアレルギー 根拠の強さ リスクファクターのある清潔or準清潔操作 S.aureus,streptococci,staphylococci,グラム陰性菌(Serratia marcescens,Enterobacteriaceae,E.coli,Klebsiella species) セファゾリン、アンピシリン−スルバクタム クリンダマイシン、バンコマイシン C