知的財産権講義(1) 主として特許法の理解のために 平成15年12月15日 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 池田 博一
平成14年改正 知的財産権法文集 2) 知っておきたい特許法(12訂版) 3) 第1回目講義のレジメ 資料等の確認 平成14年改正 知的財産権法文集 2) 知っておきたい特許法(12訂版) 3) 第1回目講義のレジメ
制度の概念的及び手続的側面について議論し、これによって制度の大枠を理解することを目的とする。 技術部研修「知的財産権」の内容(1) 着想から 出願まで 制度の概念的及び手続的側面について議論し、これによって制度の大枠を理解することを目的とする。
制度の実体的側面について議論し、これによって特許庁における審査の内容を理解することを目的とする。 技術部研修「知的財産権」の内容(2) 出願から 査定まで 制度の実体的側面について議論し、これによって特許庁における審査の内容を理解することを目的とする。
特許権の行使、防衛、利用等の特許権の成立後の議論を行い、これによって、侵害訴訟、無効審判、実施許諾制度等に関する理解を目指す。 技術部研修「知的財産権」の内容(3) 特許権の発生 特許権の変動 特許権の消滅 特許権の行使、防衛、利用等の特許権の成立後の議論を行い、これによって、侵害訴訟、無効審判、実施許諾制度等に関する理解を目指す。
パリ条約及び特許協力条約について議論することにより、特許を巡る国際的枠組みについて理解することを目的とする。 技術部研修「知的財産権」の内容(4) 1883@Paris 1970@Washington DC 1994年のTRIPS協定@Marrakesh パリ条約及び特許協力条約について議論することにより、特許を巡る国際的枠組みについて理解することを目的とする。
参考文献等
第一回目の講義の概要 本講義は、知的財産権に関する理解を深めるために、特許法を中心として、その法目的、保護対象、さらに保護ための法制度について議論するものです。 第一回目は、知的財産権、及び発明の意義を議論の対象としたいと思います。最初に、受講者の問題意識を喚起するために設問を用意しています。つぎに、主要な論点を関係する条文とともに提示しています。これによって、これまでの誤解が修正され、あらたな知見を習得することができることを期待いたします。さらに、できるだけ具体的な適用事例・限界事例を示すことによって知識の定着と、応用能力を養成したいと考えました。
講義の内容
特許に関し国際的な条約が締結されたのは、国際間の貿易摩擦が顕在化してきてからのことである。 設問【1】 特許に関し国際的な条約が締結されたのは、国際間の貿易摩擦が顕在化してきてからのことである。 自動車? 半導体? WTO? FTA? 南北格差? 特許??
著作権については、明治時代から国際的な保護条約が存在した。 設問【2】 著作権については、明治時代から国際的な保護条約が存在した。 ポパイ? 映画?CD?
科学的発見が、「知的所有権」の対象として明文で掲げられたことはない。 設問【3】 科学的発見が、「知的所有権」の対象として明文で掲げられたことはない。 科学的発見そのものを経済的利得の対象とすること はないのだが!
工業所有権の語を、農業又は採取産業の分野において用いることは何ら不適切ではない。 設問【4】 工業所有権の語を、農業又は採取産業の分野において用いることは何ら不適切ではない。 工業 VS 農業?? 農業所有権!?
特許法は、産業の発達に寄与することを主目的とし、併せて科学技術の進歩に貢献することを目的としている。 設問【5】 特許法は、産業の発達に寄与することを主目的とし、併せて科学技術の進歩に貢献することを目的としている。 特許法の目的
特許法における「発明の保護」とは、独占権の付与にはとどまらない。 設問【6】 特許法における「発明の保護」とは、独占権の付与にはとどまらない。 「発明の保護」の内容
特許法における「発明の利用」とは、専ら他人の特許につきその許諾を受けて実施することをいう。 設問【7】 特許法における「発明の利用」とは、専ら他人の特許につきその許諾を受けて実施することをいう。 「発明の利用」の内容
設問【8】 特許庁は、収入を増やせる? 出願人は、それで満足しているし だれも損をしていないのではないか? 永久機関の発明、及び明らかに実施不能な発明に特許を付与することは、なんら第三者に不利益を及ぼすものではない場合であっても、これに独占権を付与することはできない。 特許庁は、収入を増やせる? 出願人は、それで満足しているし だれも損をしていないのではないか?
プログラムに関する発明は、著作権法の保護対象ではあっても、未だに特許法上の保護対象とはなっていない。 設問【9】 プログラムに関する発明は、著作権法の保護対象ではあっても、未だに特許法上の保護対象とはなっていない。 当時の特許庁と文化庁の争い! 米国ではCopy rightで保護 著作権法にコンピュータ・プログラムのようなものを 混入させたことに問題があるといった批判!
実用新案法の保護対象には、材料、組成物等、その形態が一定の作用効果と連関しないものは含まれない。 設問【10】 実用新案法の保護対象には、材料、組成物等、その形態が一定の作用効果と連関しないものは含まれない。 発明と考案の相違?
「特許」の進化(沿革) 国際競争力 としての 特許 発明者と権利者の乖離 利益享有主体の変遷 国家間対抗レース 個人よりも企業 すべての自然人 国際競争力 としての 特許 特定の個人 産業競争力 としての 特許 自然権 としての 特許 国王より賜った恩恵 特許の意義の変遷
知的財産権、知的所有権、 産業財産権(工業所有権) 知的財産に関して 法令により定められた 権利又は法律上保護 される利益に係る 権利をいう。 知的所有権 知的財産権 育成者権 著作権 営業秘密等 に関する権利 商号 産業財産権 特許権、実用新案権、意匠権、商標権 すべの分野における発明 科学的発見 知的活動から生ずる他の すべての権利
知的財産基本法における定義 知的財産そのものは 広く認めるのだが、 第二条 この法律で「知的財産」とは、 第二条 この法律で「知的財産」とは、 発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。 2 この法律で「知的財産権」とは、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。 結局は、何らかの 法律的根拠を必要 とする。
国際条約ではどうなっているか 知的所有権機関(WIPO)を設立する条約: 最も広い定義 知的所有権機関(WIPO)を設立する条約: 「知的所有権」とは、文芸、美術及び学術の著作物、実演家の実演、レコード及び放送、人間のすべての分野における発明、科学的発見、意匠、商標、サービス・マーク及び商号その他の商業上の表示、不正競争に対する保護に関する権利並びに産業、学術、文芸又は美術の分野における知的活動から生ずる他のすべての権利をいう。 世界貿易機関(WTO)を設立するマラケシュ協定におけるTRIPS協定: 「知的所有権」は、著作権及び関連する権利、商標、地理的表示、意匠、特許、集積回路の回路配置、並びに開示されていない情報の保護 最も狭い定義
発明の実施 発明の実施許諾 権利の譲渡 技術文献 知的財産の意義 開発投資 株式への投資のような直接的金銭投資と類似のモデルを構築することができる。 権利者 収益 蓄積 技術開発 他のビジネスモデルに おける投資 有体財産 発明 財産としての権利 無体財産の 蓄積 発明の実施 発明の実施許諾 権利の譲渡 技術文献 利用
産業財産権(工業所有権)
特許法の目的 産業の発達 経済の健全な発達 特許法 商標法 私的独占、不当な 取引制限等の禁止 事業支配力の過度の 集中を防止 不正競争防止法 独占禁止法 事業者間の 公正な競争 国際約束の実施 公正かつ自由な 競争の促進 産業の発達 経済の健全な発達 不正競争の防止 不正競業に係る 損害の賠償 緊張関係 特許法 商標法 発明の奨励 発明の保護 及び利用 業務上の信用の維持 商標の保護
特許法第1条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。 条文の確認 特許法第1条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。 条文集 第2ページ この法律:------ 発明:----------- 発明の保護:-- 発明の利用:-- 発明の奨励:-- 産業の発達:--
1)実用新案法では? 2)意匠法では? 3)商標法では? 4)不正競争防止法? 5)回路配置法? 6)種苗法? 7)著作権法? 他の法域ではどうか? 128頁 1)実用新案法では? 2)意匠法では? 3)商標法では? 4)不正競争防止法? 5)回路配置法? 6)種苗法? 7)著作権法? 産業の発達 179頁 併せてて需要者の 利益の保護 224頁 383頁 511頁 国民経済の健全な発展 531頁 農林水産業の発展 428頁 文化の発展
産業の発達 特許法の規定振り 緊張関係 科学技術基本法の規定振り
発明の保護(1) 発明保護の態様
発明は保護がないと奨励することができないものか? 発明の保護(2) 発明は保護がないと奨励することができないものか? 非独占とすることによって開発にインセンティブが得られる場合もありうる。 ビジネスモデルにおけるオプションとして捕らえておけばよいと考える。
盗用 発明保護のイメージ 侵害 刑法 民法 安心 発明 技術の累積的進歩 期間限定の独占権(特許法) 不当な権利主張 新規発明公開の 代償としての保護 盗用 侵害 不正競争防止法 刑法 民法 発明の 利用 安心 審査制度 登録制度 発明 技術の累積的進歩 期間限定の独占権(特許法) 不当な権利主張
発明の利用 学術研究の現場においては、従来第二の利用形態については限定的であった。
1)自然法則を利用していること 2)技術的思想の創作であること 3)高度であること 発明の定義 条文集第2ページ、併せて128ページを参照のこと 1)自然法則を利用していること 2)技術的思想の創作であること 3)高度であること
自然法則の利用 テキスト8ページの脚注参照
技術的思想
技術的思想ではないもの
創作 なお、「高度」の意義については、単に「発明」と「考案」を区別するためのレトリックと考えられている。「考案」だから創作の程度が緩やかであってよいとか、「発明」であるから厳格に審査されるといったことはない。
産業上の利用 ダイソンの発明 の
付録
1)企業は、過酷な国際競争に曝されている。 2)企業のみでは、国際競争に太刀打ちできない。 なぜ大学なのか(1)? 1)企業は、過酷な国際競争に曝されている。 2)企業のみでは、国際競争に太刀打ちできない。 必要性 1)大学には、研究者が豊富に存在している。 2)国は、大学に莫大な資金を投入している。 3)大学には、技術開発のためのインフラがある。 または、その整備は可能である。 合理性 1)大学といえども、係る危難に協力する義務を免れることはできない。 2)そこで、教育研究の特殊性に配慮しながらも 産業の再生に協力しもらうこととした。 第三の使命
なぜ大学なのか(2)? 知的創造サイクルモデル 交付金 国 大学 研究費 研究者 大学発 ベンチャー 実施料等 税金 収益 研究開発 産業 大学発明 技術移転等
米国バイドール法
日本版バイドール法(1) 大学が権利を留保することができる 特許法83条(不実施の場合の通常実施権の設定の裁定)に類似する。
日本版バイドール法(2) 国の一定の権利、請求権を留保したものであるが、大学が権利主体となることを認めた点において米国バイドール法と同様の効果を目指したものとなっている。
以下、永久機関の発明についての審決取消し訴訟を取り上げて判決の読み方について議論します。 第1回目の講義の本論は以上 以下、永久機関の発明についての審決取消し訴訟を取り上げて判決の読み方について議論します。
時間の許す限り、特許を巡る具体的な紛争を取り上げて検討してみたいと思います。 判例研究 時間の許す限り、特許を巡る具体的な紛争を取り上げて検討してみたいと思います。 知的財産権に関する実務では、民事訴訟法の知識も重要です。 法文集にもそれが掲載されている理由があります。
訴訟の種類 民事訴訟 行政訴訟 刑事訴訟 特許権侵害の問題が発生した場合 管轄の地方裁判所のほか、民事では東京地方裁判所に訴えを提起 特許庁のした行政処分 に不服のある場合 審決に対する訴えの場合 には、東京高等裁判所 に訴えを提起
レジメに添付した事例では 1)行政訴訟:審決取消し訴訟 2)管轄裁判所:東京高等裁判所 3)原告:A 本人訴訟 4)被告:特許庁長官 拒絶査定不服審判における 1)行政訴訟:審決取消し訴訟 2)管轄裁判所:東京高等裁判所 3)原告:A 本人訴訟 4)被告:特許庁長官 5)請求の趣旨:特許庁のした審決の取消し、および訴訟費用の被告負担 裁判を起こすときには、この請求を忘れないこと。ただし、弁護士費用は含まれません。
1)書誌的事項 2)主文 3)事実及び理由 4)裁判官の氏名、捺印 判決文の構成 結論 1)書誌的事項 2)主文 3)事実及び理由 4)裁判官の氏名、捺印 当事者の言い分と、 裁判所の判断が書いてある。
1)当事者の求めた裁判 2)当事者に争いのない事実 3)原告主張の審決取消事由の要点 4)被告の反論の骨子 5)当裁判所の判断 6)結論 「事実及び理由」の記載内訳 1)当事者の求めた裁判 2)当事者に争いのない事実 3)原告主張の審決取消事由の要点 4)被告の反論の骨子 5)当裁判所の判断 6)結論
当事者に争いのない事実 1)原告が特願第303394号の出願人であること 2)被告は、本願発明は特許法29条柱書に規定する「産業上利用することができる発明」に該当するものとはいえないと判断し、拒絶査定不服審判の審決において、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を原告の送達した。 永久機関 は不可! 裁判所は、当事者に争いのない事実については、 裁判所は、そのまま裁判の基礎としなければならない。 弁論主義の第2テーゼ
当事者の主張 原告の主張: 被告の主張: 「エネルギー保存の法則 若しくは「熱力学の第一 法則」自体が誤った考え であるから、審決はその 前提において誤っており 違法として取り消される べきである。 被告の主張: 「エネルギー保存の法則」が真の科学法則であることを前提とする限りにおいては、本願特許請求の範囲記載の発明は、特許を受けることができないとした点に誤りはない。 第3テーゼ 裁判所は、独自の判断で職権証拠調べを行うことはできない。 第1テーゼ 裁判所は、原則として当事者の弁論に現れない事実を採用できない。
当裁判所の判断 「エネルギー保存の法則」が科学技術の普遍的法則であることは明らかであり、原告の主張は失当である。 そこで、原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。 自然科学の分野における「明らか」とは程度が異なります。 自由心証主義:裁判における事実の認定を、裁判官が 審理に現れたすべての資料・状況にもとづいて自由な 判断によって形成する心証に委ねる建前をいいます。 原則として「引き分け」はない!
お疲れ様でした 次回は12月22日(月)です。 10:00から12:00 1)第1回目の設問の解説 2)第二回目の主要なタイトルは 「特許を受けることができる者」です。