(5)テレビ電話の使用の前に 聴者とろう重複の障害のある人との コミュニケーションの可能性: “概念”の共有化は可能か 「バリアフリーのための心理学」(08年度) (5)テレビ電話の使用の前に 聴者とろう重複の障害のある人との コミュニケーションの可能性: “概念”の共有化は可能か
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テレビ電話機能 どのような“モード”でコミュニケーションが可能か?物品要求の場面で考えてみよう 1)手話 2) ? 3) ? 4) ?
複数モードの使用 携帯テレビ電話機能の使用についてのその前に・・・ 聾重複の障害のある個人のコミュニケーションについて・・・・(my life-study)
以下の3つの「世界」に共通するものは?
「言葉のない世界に生きた男」スーザン・シャラー(晶文社) これ違うわ!
http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/mononiwa.pdf 望月昭・野崎和子(1993)聴覚障害児における「抽象的概念」の獲得援助に関する予備的展望:「物には名前がないこと」の理解への教育段階的アプローチ.聴覚言語障害,22、39-49.
実践例:「聴覚障害+知的障害」を持つ成人における居住施設における要求言語行動の成立 VTR:1985~1997 1)書字とサインモードを用いたマンドの獲得 2)日常での維持のための環境設定(援助) 3)書字(アイコン)とサインによる複数 モードの表出手段の獲得 4)2つのモードによる言語行動の獲得
1)通常の「形態」にこだわらず(障害のある) 個人が、今、できる形態を用いて「機能」 を成立させる。 個人が、今、できる形態を用いて「機能」 を成立させる。 正の強化で維持される行動の選択肢が絶えず 複数存在する状態の実現 本人の得意な物を選択 口話:「みず」 サイン:「ミズ」 書字:「みず」 アイコン選択 確立操作 弁別刺激 強化(水)
手話の本:環境成員の手話の獲得のために
「ろう重複」という障害を持つ成人は, どんな教育歴や処遇を受けていたのか? ・コロニーに居住している成人 ・愛知県下での施設利用者の場合
HIさんの略歴: ・損失聴力:95dB以上,コース立方体テスト(I.Q:68), ・物品名に対する記述(tact)可能,食べ物を並べた「絵日記」を書く, ・言語表出:日常で,書字,サインで言語的表出する事は無い。 身振りで要求をする事あり(ちり紙の袋を振る,櫛を持って職員の前に座 る) ・時々,(原因不明の)パニックを起こすことあり,
「ろう重複」(聴覚障害と知的障害)の 「障害」のある成人4名の事例の特徴 コロニーで出会った施設居住の成人対する職員の認識 1)「コミュニケーションがとれない」 2)「普段は静かなのだが,時々パニックや問題行動を おこす。その理由を尋ねられないか?」 個別に対応したり調査すると・・・・・ 3)発話訓練の痕跡あり(4名とも),「絵→書字(tact)」は(HI,KA)可能 4)HI,KA:発話訓練など,幼稚部~小学部での学習? しかしながら, ★「要求言語行動」を含めた社会的機能を持った言語行動については現状では表出はほとんどなし。
成人した「ろう重複」の成人に状況: 1986年調査(野崎・望月・渡辺:1989) ・愛知県下の精神薄弱者関係の全施設83施設への郵送と訪問調査(37例:19歳~47歳) ・教育歴:37名中17名が聾学校経験 1/17 :一貫して聾学校教育を受けた 16/17:途中で他校へ転校,施設入所,就学免除 ・全体の20%:全く就学経験なし/施設のみ ・「言語訓練」の経験 受けたことがある:30% 現在も施行中 :11%(含HI,KA)
調査からみた当時の施設における概況 ・日常的生活(「身辺自立)では問題となることはないが,パニック様の行動が多く報告 ・「要求」「感情などの表現」は,指さし,あるいは簡単な身振りで行われる ・学校教育については一貫した聾教育(聾学校での教育)を受けた者は殆どいない ・利用施設で継続的な「訓練(教授)」や「関わり」のある個人:きわめて少数
●「ろう重複」という障害性に由来すると思われる社会的不利益 ・「病院,施設において聴覚障害を持つ精神遅滞者は,静かな良い対象者とみなされている(Kopchik, Rombach, & Smilovits, 1975)」という表現がそのまま当て嵌まる。 ・口話(発話)教育を受けた経験があっても,機能的言語行動を促進・維持する機会 を成人になってから持ちにくい。
「ろう重複」障害のある個人に対する教授・援助設定の方針 1)それぞれの個人が持つ既存の言語的レパートリー(身振り,書字,etc)を活かしながら,機能的側面を重視した言語行動の成立を目指す。 2)教育歴がない場合,口話や書字を学習することは時間的犠牲(コスト)が大きい。手話の導入が現実的であろう。 3)但し,何らかの書記モードも社会的生活の上で必要であろう。→アイコンなどの導入
1)個人差を考慮しながら,複数の表現モード(揮発性&不揮発性)を学習する 具体的な「教授」の方針 1)個人差を考慮しながら,複数の表現モード(揮発性&不揮発性)を学習する 揮発性:すぐ表出可能だが痕跡として残らない(口話・サイン) 不揮発性:表出に時間がかかるが痕跡残る(文字・アイコン) 2)語彙獲得に対して,単に机上学習の形にとどまらず,要求言語行動(mand)や社会的機能を持つ記述・報告(tact)を伴う学習形式を取り入れ,日常での使用を前提とする
具体的な「教授」の方法 ●複数モードの獲得については, 「刺激等価性手続き」 (stimulus equivalence procedures) ●社会的機能の獲得については, 語彙獲得の学習時に,要求行動の設定等での 使用(「お使い場面」など)を織り込む
一般には,条件性弁別訓練を通じて, 複数の刺激項の間の相互の(選択)関係を効率よく学習する方法 「刺激等価性手続き」 一般には,条件性弁別訓練を通じて, 複数の刺激項の間の相互の(選択)関係を効率よく学習する方法 効率とは:刺激項間の一部を学習するだけで他の組み合わせは転移(派生)によって生じる Sidman, M, (1971)以来の,研究・訓練のパラダイム
条件性弁別課題 従来の三項随伴性 条件刺激・・弁別刺激・・反応・・強化 (見本刺激)(選択刺激)(選択) 四項随伴性( 条件性刺激+三項) どの刺激が弁別刺激となるかは,条件刺激が決定する。
猫は? ←条件(見本)刺激が 最初に出れば弁別刺激は決まる 4つの刺激のうち何れが弁別刺激?
条件刺激 弁別刺激 反応 強化 猫はどれ・・・猫写真・・選択・・強化 犬 猿 鳥 犬はどれ・・・猫写真 犬・・・・選択・・強化 猿 鳥 条件刺激によって,弁別刺激が変わる
Sidman(1971):知的障害のある個人への適用 条件性弁別 表出 (派生)
条件性弁別課題 条件性刺激 弁別刺激 A(音声刺激「なまえ」)→B(対象物) 「いぬ」 犬の絵 Sidman(1971)
いぬはどれ? これはできてた Sidman,1971
A(音声刺激)→C(文字) これは「訓練」する 対象者:文字(単語)が読めなかった
見本刺激(条件性刺激)は音声 いぬはどれ? Sidman(1971)
さる ねこ とり いぬ いぬ いぬはどれ? Sidman(1971) A→C:訓練
さる ねこ とり いぬ いぬ いぬはどれ? Sidman(1971) A→C:訓練
A→C ができたら(ABは既習) B→C,C→B もできるかな? C→D:文字をみて表出(読み) もできるかな? Sidman(1971)
いぬ さる ねこ とり Sidman(1971) B→C:派生
いぬ C→B:派生 Sidman(1971)
「読み」もできた いぬ 「いぬ」 D C B→D(絵:命名)は既にできていた Sidman(1971)
A C B 「刺激等価性」の成立 上記のような事は人間しかできない? 理論は別として,効率的な語彙獲得の成立に使えるのでは? A→B,A→C ができれば, B→C,C→Bもできる A→B,B→C,ができれば C→A(A→C)もできる 上記のような事は人間しかできない? 理論は別として,効率的な語彙獲得の成立に使えるのでは?
ろう重複の対象者への適用 (文字とサインの場合) A:写真(対象物) B:文字 C:サイン ----------- B→A,C→A (訓練) then B→C,C→B? かつ,A→書字,サインでるか? ろう者は音声媒介がない。それでもいける?
ろう重複の対象者への適用(文字とサインの場合) 条件性弁別 表出 訓練 派生 訓練 対象物・文字・サインの相互の「条件性弁別関係」と 「表出」に関する課題の一覧(実線:訓練/波線:派生)
複数モードによる語彙獲得と要求場面での使用 お使い場面 条件性弁別 Mand場面での使用その(5)で紹介)
条件性弁別課題の実際 VTR
HI,KAさんの,書字,サイン彙獲得後の,要求言語行動(mand)における複数モードの使用 誤物品呈示と時間遅延によるで自発的モード変換 (書字→サイン/サイン→書字など) 物品供給者が,誤物品を出したり,「もたもた」していると自発的にモード変換が起こる 誤物品呈示 時間遅延 モード変換がある方が,供給者も正しい物品を呈示しやすい。
展開1 「赤い・スプーン・下さい」 「色名+物品目」による要求言語行動の 学習 HI・KA:書字とサインで SE・TA:アイコンとサインで 色名と物品名をそれぞれ別個に条件性弁別で学習した後に,要求場面で応用できるか?
SE,TOさんの刺激項目 A:色紙 C:サイン B:アイコン
SE・TOさんの「物品目」(アイコンと手話)
「これをもらってきて」 「色名+物品名」という組み合わせ出るか? 語彙獲得(色・物品名)と要求時の表出 (サインとアイコンを用いたSE,TOのケース)
結果:SEさんとTOさん 色名と物品名の複数モードでの語彙獲得 の後,要求場面で「色名+物品名」の 要求言語行動成立するか? ●要求時に色名か物品名しかでない そこで, 1)サインを使ったモデリング→ × 2)アイコンを使ったモデリング→ ○ 「書記(不揮発)モードのメリットか?」 (複数モード使用のメリット)
「あの人はどんな気持ち?」 (表情に対するタクトの獲得) 展開2 「あの人はどんな気持ち?」 (表情に対するタクトの獲得)
展開3 味名の獲得 からい,すっぱい,あじがない,あまい VTR
C: アイコン/文字 文字 からい すっぱい あじがない あまい B:サイン
条件性弁別課題
A:味覚刺激(水溶液)→C:文字/アイコン 当初,この条件性弁別課題が難しい対象者あり。 A:味覚刺激→T:典型味覚物品(塩の瓶) T:典型的味覚物品→C:サイン絵/アイコン これによって、 A:味覚刺激→C:アイコン/サイン が可能になり、表出もできるようになる
望月(1998)実践障害児教育
この食べ物は「どんな味?」 (様々な食べ物への「味名の般化」) →むずかしい !! 例:チョコレートを食べて「どんな味?」 →「チョコレート」と表出してしまう そこで、「味は?」「名前は?」という 条件性条件性弁別訓練を行う (物には複数の「名前」がありうる)
味は? 食品(羊羹) あまい からい ようかん あられ 名前は? 食品(羊羹) あまい からい ようかん あられ 条件性条件刺激 (文脈刺激) 条件刺激 弁別刺激 (選択刺激) 反応 強化 味は? 食品(羊羹) あまい からい ようかん あられ 選択 名前は? 食品(羊羹) あまい からい ようかん あられ 選択 「味は?/名前は?」という文脈つき
文脈刺激 条件性刺激 文脈刺激 反応 強化 条件性刺激 反応 強化
文脈刺激を明示して訓練することによって、 様々な食品について、味覚名を表出できるようになった。 聴覚障害児の「9歳の壁」あるいは、 「比喩理解の困難さ」などは、本当にability の問題か? →視覚モードなどによる「文脈刺激」の明示が足りないために生じるhandicap(関係的)な問題ではないか? →教授場面で考慮すべき「援助設定」では?
訓練シリーズから示されたこと 1)条件性弁別課題によって,複数モードの語彙獲得と使用が可能になった。 2)アイコンなどの不揮発モードは文型(2語文)などの学習の際にモデリングの効果を生じさせやすい。 3)物には複数の「名前」があること 「文脈」を明示することの必要性: →教授過程、および日常でのことばの 使用時における設定として重要
色名,表情(感情名),味名 次第に困難にはなるが,それぞれ獲得可能であった。 ●成人後でも言語行動の獲得は可能である (遅すぎるということはない) ●過去の学習歴は様々であっても,無駄に なるものはない (これまでの既習モードを統合化させ 機能的な使用へ展開可能)
参考文献 望月(1998-1999)「実践障害児教育」 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/14-Mochizuki(1998-1999).pdf ・望月(1993)「物には名前がないという学習 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/mononiwa.pdf ・望月昭・野崎和子(2001):「障害と言語行動:徹底的行動主義と福祉」,日本行動分析学会(編):『ことばと行動』ブレーン出版、213~235,