台湾経済の次なる位置付け ー知識経済化を目指す台湾ー 川嶋 一郎 台 北 支 店
1.知識経済(Knowledge-Based Economy)の時代
知識経済時代の到来 1970 1980 1990 2000 工業化時代 知識経済時代 米国 知識経済による復活の時代 工業化時代 石油危機 IT革命 1970 1980 1990 2000 工業化時代 知識経済時代 冷戦終結、軍事技術の民間移転 米国 IT 革命、ネットワーク社会へ 生産效率の追求 知識経済による復活の時代 工業化時代 失われた80年代 生産效率の追求 「より良い物をより安く」 引き続き效率を追求 環境変化への対応遅れ 日本 IT 革命 工業化時代 Japan as No.1 失われた10年 「より良い物をより安く作る」→「市場の多様なニーズに対応して高品質の製品を提供する」 (顧客サービス) 台湾 工業化時代 輸入代替→輸出加工 伝統産業の 基礎固め ハイテク生産基地 産業構造調整 知識経済
知識経済とは 産業社会 農業化 工業化 情報化 創造化=創知化 生産手段・資源 =付加価値創出 の源泉 道具 エネルギー データ・影像システム アイデア、コンセプト、ノウハウ、セオリー 土地 機械 コンピュータ 情報通信ネットワーク コンセプト、アイデア・エンジニアリング 機能の外部化 足 手(腕、指先) 眼、耳、口 脳の計算機能 脳の知識創造機能 生産形態 少品種少量 少品種大量 多品種少量 多品種単品 メリット 共同作業 規模 スコープ 創発 管理 共同化 標準化 システム化 ネットワーク化 測度 石 熱量 Bit 創発量 国力 軍事力 政治力 経済力 文化力 出所)『創造の戦略―創造化時代のマネジメント』、野村総合研究所、1990年 「情報が早くなったり、安価になったりすることは、それ自体あまり大きな価値をもたない。 富を産み出す「知識」や「知識」のマネジメント が重要。 組織のそれぞれのレベルの人々が仕事を遂行するなかで得られ、付加される「知識」が重 要
産業創発 創知型産業 『知識』をベースに 統知型産業 知識経済時代の企業・産業発展 『産業創発』を担う2タイプの企業 創知型企業 統知型企業 知識経済時代の企業・産業発展 創知型産業 『産業創発』を担う2タイプの企業 創知型企業 Knowledge Creating Corporation 『知識』をベースに これまでにない新しい知識を創造することこそが、産業創発のカギになるような産業 例:情報通信、バイオテクノロジー、航空・宇宙、新エネルギー、省エネルギー 産業創発 産業構造の変化を加速させる 新たなコンセプト、技術、ノウハウを活用して、新たな分野に挑戦する企業を群生させる 統知型企業 Knowledge Integration Corporation 既にある知識を洗練させた上で、従来とは全く異なった使い方をする産業 例:医療福祉、環境、物流、都市環境整備(ITS智慧型運輸系統等) 統知型産業 出所)野村総合研究所
… … 統知型産業の発展形態(花びら型産業) 花びら型産業 : リーディング企業になろうとする企業がナレッジ・インテグレーターとなり、これまでの経験や多角化、戦略的M&Aなどの定型手法を組み合わせながら、散在している市場を需要家のニーズに合わせて統合し、ワンストップでシームレスなサービスを提供できる企業体 『花びら型産業』で活用される知識 Engineering Know-how Finance Know-how Operation Know-how 大規模 Project Management エンジニアリング力 情報システム構築力 Equity Finance Project Finance Venture Capital Finance 資金管理 リスクマネジメント ローコストオペレーション フランチャイズ 人材調達 購買管理 知的財産権管理 官民・民民コーディネーション 例:ETC市場(高速道路自動料金徴収システム) 自動車用AV 自動車部品 … 統知型企業之Integration ETC 市場 電子部品、 自動車 … Engineering Finance Operation 交通制御 システム開発 クレジットカード
2.台湾経済を取り巻く環境変化と企業活動の変化
台湾から中国へのヒト・モノ・カネの移動 ●渡 航 者:185.2万人 約260万人(2000.01~11:241.6万人、+40.5%) 1999年 日本→中国 ●渡 航 者:185.5万人 ● 輸 出 :285.0億ドル(輸入:517.1億ドル) ●直接投資:1,614件/36.8億ドル(契約ベース) 1999年 台湾→中国 2000年 ●渡 航 者:185.2万人 約260万人(2000.01~11:241.6万人、+40.5%) 1988~99累計:1,523.1万人 ● 輸 出 :213.3億ドル 250.3億ドル(+17.3%) (輸入:45.2億ドル) (輸入:62.2億元 +37.6%) ●直接投資:2,499件/33.7億ドル(契約ベース) 3,108件/43.7億ドル(+24.4%/+29.7%) 1979~99累計:4万3,740件/138.3億ドル(同上) 出所)渡航者数は香港中国旅行社による台胞証申請者数、輸出入は台湾大陸委員会による推計値、直接投資は中国対外経済貿易合作部による数値 日本→中国の渡航者数は『中国統計年鑑2000』、輸出入は大蔵省数値(円建)を年平均円ドルレートでドル換算、直接投資は中国対外経済貿易合作部。
中国の台湾電子メーカ(DELTAの例) <台達電子-東莞工場の概要> <台達電子-東莞工場の概要> ・1994年設立 生産品目 SPS(スイッチング電源)、トランス、CRTモニターなど ・年間生産額 578百万ドル(約620億円) ・工場敷地面積 18.5万平方メートル ・従業員数 約4万人(うち、台湾人幹部社員 100人) ・工場内設備 4万人収容の宿舎(全社員寮生活)、数千人規模収容の食堂、 病院、銀行、郵便局、美容院、バレーコート、バスケットコート、 サッカー場など 全寮制で目覚しい労働生産性の高さ 残業をむしろ好む従業員 安い人材(チベット以外の各地から) 作業員は福利厚生込みで1500人民元(約2万円) 大卒課長クラスで3000人民元(約4万円)など 台湾で研究開発と試作、量産は中国 中国は労働集約型工場だけではない ハイテク製品でも量産品は中国で生産 中国工場の利益による新事業開発 価格競争の厳しい製品を中国へ移管して、 台湾ではさらなる高付加価値型の事業開発
台逹電子東莞工場 設計・試作=台湾 量産(ハイエンドであっても)=中国
ヘッドクォータ化する台湾本社 台達電子(台湾本社)の業績推移 次頁 出所)同社各年株主報告書 単位:百万NT$ 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 売上高 8,274 9,207 12,252 11,449 12,971 12,485 売上原価 7,177 8,007 10,643 10,190 11,020 10,058 売上総利益 1,097 1,199 1,610 1,258 1,951 2,427 販管費・一般管理費等 461 503 972 1,214 1,786 2,447 内、研究開発費 245 300 535 619 831 1,249 内、その他 215 204 437 477 955 1,198 営業利益 637 696 625 47 220 39 営業外収入 N.A. 133 860 1,877 2,802 2,842 内、投資収益 323 1,222 1,703 2,360 538 655 1,099 482 営業外支出 108 90 131 280 265 税引前利益 758 721 1,395 1,793 2,741 2,616 所得税支払 21 44 103 281 436 380 当期利益 736 677 1,292 1,521 2,306 2,235 次頁 売上高営業利益率 7.7% 7.6% 5.1% 0.4% 1.7% 0.3% 売上高税引前利益率 9.2% 7.8% 11.4% 15.7% 21.1% 21.0% 売上高当期利益率 8.9% 7.3% 10.5% 13.3% 17.8% 17.9% 出所)同社各年株主報告書
R&Dセンター化(設計・試作、新事業)、ヘッドクォータ化 ヘッドクォータ化する台湾本社② 台達電子(台湾本社)の従業員構造の変化 43.7% 2,557 5.6% 981 1,226 20.4% 34.8% 39.2% 3,993 44.7% 1,786 24.6% 30.7% 1998年 22.1% 41.3% 32.7% 3.9% 3,778 51.8% 1,957 23.1% 873 25.1% 948 1997年 24.7% 41.1% 31.1% 3.0% 3,295 53.1% 1,750 19.3% 635 27.6% 910 1996年 27.1% 44.4% 26.2% 2.3% 3,040 58.9% 1,790 15.5% 470 25.7% 780 1995年 32.1% 47.3% 1.3% 3,320 60.0% 1,994 18.0% 596 22.0% 730 1994年 38.7% 16.8% 0.8% 3,730 68.6% 13.2% 493 18.2% 680 1993年 小中卒 高卒 大卒 大学院 合計 工場作業 営業/管理 エンジニア 学歴別の従業員比率 職務別の従業員比率 年 度 前頁 出所)同社各年株主報告書 R&Dセンター化(設計・試作、新事業)、ヘッドクォータ化
日本企業の台湾投資の量的・質的変化 第一次ブーム(60年代中盤):日本企業の国際化/台湾の外資導入政策 第二次ブーム(80年代後半):円高回避のための生産基地移管 第三次ブーム(90年代後半):台湾ハイテク産業の成長とアジア事業基地 第二次ブーム 第三次ブーム 出所)経済部投資審議委員会
アジア「生産」事業のハブ拠点化する在台日系企業 ◆日本との生産分業(コスト面で苦しい製品のシフト、部材や最終製品の逆輸出) ◆中国生産拠点の支援基地(生産管理、開発設計、品質管理、工場運営の支援) ◆東南アジア生産拠点が不足する機能の補完(開発設計、部品・設備供給) 在台拠点はアジア地域の製造ビジネスのベースキャンプ 在中国日本企業 76.7% 日本企業本社 生産移管 部品・製品輸出 工場運営・生産指導 設備・部材供給 在台日本企業 生産指導・開発設計支援 設備・部材供給 シンガポール・マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン・ベトナム日本企業 42.9% 41.8% 46.2% 40.9% 42.5% 45.5% 出所)野村総合研究所(ジャパンデスク1997年調査)
台湾企業を取り巻く環境変化 -他の先進国企業と同様、台湾企業は「知識経済化」、「IT化」、「全球化」に直面している。 -また、製造業は、「中国大陸の生産地としての重要性向上」、「製造業のサービス化」(製造メーカの付加 価値の源泉が、「生産」から、R&D、Finance、Logistic、Maintenance、After Service等の「サービス」に 比重移行)にも直面している。 知識経済化 IT化 グローバル化 中国大陸 世界の工場 製造業の服務化 事業活動の国際化 中国大陸・世界へ 台湾本社のヘッドクォータ化 事業ラインの多角化 新規発展領域の追求
3.知識経済化に向けた政府政策
現行政策【国家建設ビジョン:緑色矽島】
現行政策【経済発展政策:知識経済発展方案、全球運籌発展計画】 1.創造と創業の活力あるメカニズムを構築し、創造的企業を育成する。 2.インターネット利用の基本環境を構築する。 3.生産と生活における、ITとインターネットの利用を拡大する。 4.知識経済の発展ニーズに応えるべく、教育体系を見直し、人材育成/導入を積極的に行う。 5.顧客志向のサービス型政府を構築する。 知識経済発展方案 原材料調達~設計~生産~販売~アフタサービス~バックオフィス機能・各種管理を効率的に進めるには、「物流」、「商流」、「資金流」、「情報流」の作業システム構築が不可欠。 1.「電子商取引」に関する環境整備 2.「物流・通関」に関する環境整備 3.「港湾・空港インフラ」に関する環境整備 全球運籌発展計画 アジア太平洋オペレーション構想 1)製造中心、2)海運転運中心、3)空運転運中心、4)金融中心、5)電信中心、6)媒体中心
台湾経済の次なる位置付け 自由で公正なビジネス環境の整備 世界 (含中国)から、資本、技術、 知識・アイデア、人材を呼び込み 輸出加工基地 ハイテク電子生産基地 中華圏ビジネス運営基地 自由で公正なビジネス環境の整備 欧州 日本 世界 (含中国)から、資本、技術、 知識・アイデア、人材を呼び込み 製品、 サービス 米国 後背地・中国も 活用し、付加価値創出 台湾の強みを活かしつつ、 後背地・中国も活用し、 新たな付加価値を創出 中華圏事業のオペレーション基地へ 資金、技術、知識・ アイデア、人材 ハイテク企業、モノ作り基盤、 国際感覚、マネジメント力、 ベンチャー精神・・・