東北地方太平洋沖地震における 関東の建物応答観測記録 2011/09/27 東京工業大学 建築物理研究センター講演会 「東北地方太平洋沖地震における建物強震記録」 東北地方太平洋沖地震における 関東の建物応答観測記録 東京工業大学 建築物理研究センター 笠井 和彦 1
地震直後からの流れ 高層建築、および歴史が新しい制振・免震構造の集中する関東地方で、大きな揺れを多数記録したのは今回が初めて レベル1~2(稀~極稀)相当のデータが極めて多数 日本建築学会 関東支部の地震災害調査連絡会での活動 ・神奈川県の各大学の協力 ・東京、仙台の大学、企業の協力 ・建築研究所の協力 2
活動方針 ・観測記録を共有化することの重要性 → 貴重なデータの有効活用 ・多数の観測記録を統一的に整理 → 横並びの評価による比較 → 貴重なデータの有効活用 ・多数の観測記録を統一的に整理 → 横並びの評価による比較 データ整理例 3
現状 多数の協力を得て現在40棟以上の観測記録が集まっている (耐震・制振・免震構造それぞれが10棟以上) 建物階数と頂部加速度振幅比の関係 今後増やしていく・・・・ 4
記録整理の結果概要 耐震構造 制振構造 免震構造 高層建物 加速度増幅比が最も高い。 短周期の場合を除いて加速度増幅比が低い。 加速度を最も良く抑える。 ただし建物のアスペクト比が高いほど、上層階の加速度が上昇。 高層建物 長周期で頂部加速度が低下していない。 → 高次モードの影響するため。減衰装置の必要性。 5
制振建物 ・関東地区では非構造材の損傷程度だが、 揺れの印象や制振に対する満足度は様々だった 揺れの印象や制振に対する満足度は様々だった ・減衰定数3.4%の場合でも1%の低減衰の場合に対して、 最大応答変位 0.74倍 (二乗平均平方根で0.53倍) 最大応答加速度 0.53倍 (二乗平均平方根で0.48倍) → 2~3%の付加減衰で高層建物の振動性能が顕著に改善 6
けがき記録装置から求めた免震層最大変位の分布 免震建物1 免震層のけがきも多数得られている けがき記録装置から求めた免震層最大変位の分布 スターツCAM株式会社 酒井和成氏より 7
免震建物2 東工大すずかけ台キャンパスJ2棟 Y X W N E S N N W W E E S S 西側変位オービット 東側変位オービット (mm) W N E S X Y 西側変位オービット 東側変位オービット (mm) (mm) N N W W (mm) E E S S 8
11階建(耐震)の最上階における絶対加速度と相対変位 加速度記録からの応答変位算定 ・加速度二重積分(ハイパスフィルター使用)による変位算出 ・伝達関数のカーブフィッティングから求めた固有値を用いて、 モード重合解析から変位算出 2つの変位応答計算法が一致することを確認 データの信頼性 11階建(耐震)の最上階における絶対加速度と相対変位 9
29階耐震構造(Y方向)
41階オイルダンパーを用いた建物(X方向) 加速度記録:頂部 VS. 基部 加速度記録 VS. モード重合解析
29階耐震構造(Y方向)
耐震構造と同様に、制振構造でも、記録加速度と、モード同定後に行ったモード解析から得た加速度がほぼ一致した。また、記録加速度の2重積分から得た変位と、モード解析から得た変位がほぼ一致した。これらは、記録加速度の2重積分の方法や、モードの同定方法の妥当性を示している。 免震構造も、高層で上部構造が比較的柔らかいと、上記と同一の傾向が認められる。つまり、吸収エネルギーに比べ歪エネルギーが多い(低めの減衰)と、免震・制振・耐震に関わらず、非比例減衰を比例減衰に理想化して非減衰モードを用いる古典的な動的解析法や同定法が有効と思われる。 このたびの関東の地動の傾向のため、高層建物、例えば29層の工学院大学(久田教授らによる観測)では、最上階の記録加速度は、前半約70秒が2次以上(周期約1秒、0.5秒など)のモードで支配され、そこで最大となったが、後半は約130秒の1次モード(周期約3秒)の大きな加速度が生じた。2次モード変形が大きな16階では、高次モードのため前半で高い加速度となった。このように高次と低次のモードが、前半の短周期地震波、後半の長周期地震波でそれぞれ励起され、その程度は階により異なった。 13
対象建物基部入力地震波の応答スペクトル 対象建物(11棟)基部最大加速度は52-142gal,平均で80galほどである。 中・長周期領域で変動係数約20%と低く、入力レベル・特性が似ている。 14
鋼材ダンパーを用いた建物(東工大G3棟) 加速度記録の二重積分により平均層間変形角約1/1900。 非構造壁の亀裂、一部のダンパーの降伏が確認できる。 東工大すずかけ台キャンパスG3棟
鋼材ダンパーを用いた建物(東工大G3棟) ダンパーが十分塑性化する入力ではないため、付加減衰少なく、加速度が高かった。 付加剛性により変位が顕著に抑えられた。 ダンパー有り・ダンパー無しの応答の比較
鋼材・粘性ダンパーを併用した建物 地震時平均層間変形角が1/900である。 Y方向1~3次モードの減衰定数が3.5、8.4、12.6%、周期が1.87、0.63、0.31秒と同定した。 ダンパーない場合、2次、3次の加速度成分が卓越する。 ダンパー有り・ダンパー無しの応答の比較
ダンパー有り・ダンパー無しの応答の比較(Y方向) オイルダンパーを用いた建物 X方向 周期:4.20、1.31、0.71秒;減衰定数:3.4%、4.1%、9.8% Y方向 周期:6.54、2.00、0.84秒;減衰定数:3.9%、3.5%、4.3% さほどの高減衰建物でないとしても、加速度・変位ともによく抑えられている ダンパー有り・ダンパー無しの応答の比較(Y方向)
41階オイルダンパーを用いた建物(X方向) RF加速度応答:本建物 VS. 減衰1%の場合 RF変位応答:本建物 VS. 減衰1%の場合
床応答スペクトル(減衰定数3%) 11階鋼材ダンパーを用いた建物 21階鋼材・粘性ダンパーを併用した建物 41階オイルダンパーを用いた建物 54階オイルダンパーを用いた建物
おわりに 将来の関東の地震では、このたびの3倍以上の入力が予想され、特に低減衰の構造には心配な状況であることが判明した。 将来の関東の地震では、このたびの3倍以上の入力が予想され、特に低減衰の構造には心配な状況であることが判明した。 また、加速度や変位の抑制には、建物の振動エネルギーを消散して揺れ低減を行う減衰材料や装置が有効であることもわかった。 建物応答の観測記録が、これらの基盤となっており、記録の公表や共有が、社会を守るために大変重要であることも理解できたと思う。 21