光散乱モデルを用いた皮膚と刺青の 色評価に関する研究

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光散乱モデルを用いた皮膚と刺青の 色評価に関する研究 Miho Shimada 皮膚の色解析は多くの研究が報告されています。津村先生はその代表で、皮膚の色から内部情報を引き出す手法、画像処理のために効率のよい色情報の保存・再現方法について成果を上げていらっしゃいます。本研究は、視点を変えて、皮膚の中に存在する色素や散乱の特性から、皮膚の色のメカニズムを解析、また、刺青を施した皮膚の色を推定する方法についての報告です。 平成12年度 博士論文 島田 美帆

本発表の流れ はじめに 健常者の皮膚の色解析 刺青を施した皮膚の色推定 結論 色のスペクトル解析 皮膚の構造 散乱体中の光の伝播 Miho Shimada: 本研究の最終目的は刺青をした後の皮膚の色推定です。 そのために、最初に健常者の皮膚の色のメカニズムについて知る必要があります。ですが、皮膚は多層構造であり、短波長における強い散乱および吸収、その波長依存性、などの影響により色のメカニズムは複雑なものとされてきました。本研究によって簡単な式で色を表す方法について報告します。 刺青の色は確立した推定方法が存在せず、医師の経験と勘を頼りに施術を行っています。刺青は皮膚に色をつけるために非常に強い散乱もしくは吸収があります。そのような物質を皮膚内に入れることによって光の伝播は大きく変化し、その解析は難しいとされてきました。 簡単な推定方法について報告します。 はじめに 色のスペクトル解析 皮膚の構造 散乱体中の光の伝播 健常者の皮膚の色解析 刺青を施した皮膚の色推定 結論

1. はじめに 色のスペクトル解析 皮膚の色と構造 散乱体中の光伝播 Monte Carlo法による光伝播の計算 1. はじめに 色のスペクトル解析 皮膚の色と構造 散乱体中の光伝播 Monte Carlo法による光伝播の計算 拡張Lambert-Beerの法則

色と反射スペクトル ×S(l)× 光源スペクトル =R, G, B の値に変換 人間の目では色をRGBで認識するが、その情報は反射率スペクトル×光源のスペクトルによって決定される。 本研究では色解析はすべて反射率スペクトルで行う。

1. はじめに 色のスペクトル解析 皮膚の色と構造 散乱体中の光伝播 Monte Carlo法による光伝播の計算 1. はじめに 色のスペクトル解析 皮膚の色と構造 散乱体中の光伝播 Monte Carlo法による光伝播の計算 拡張Lambert-Beerの法則

皮膚の構造 皮膚は表面から大きく表皮、真皮と皮下脂肪に分けられる。 メラニン色素は表皮、毛細血管は真皮層に存在し、皮下脂肪に目立った色素細胞は存在しない。

皮膚の散乱 27 12.6 表皮& 真皮 皮下脂肪 波長が短い光は散乱されやすい 光を散乱するのは主に真皮、皮下脂肪 散乱係数(mm-1) 表皮& 真皮 27 皮下脂肪 12.6 波長633nmの人間の皮膚の散乱係数 C.R.Simpson et al : Phys. Med. Biol. (1998) 波長が短い光は散乱されやすい 光を散乱するのは主に真皮、皮下脂肪 表皮ではほとんど散乱しない。

皮膚に含まれる色素細胞の モル吸光係数 メラニン色素は短波長で吸収が強い 血液に含まれる成分は特有のピークを持つ。

1. はじめに 色のスペクトル解析 皮膚の色と構造 散乱体中の光伝播 Monte Carlo法による光伝播の計算 1. はじめに 色のスペクトル解析 皮膚の色と構造 散乱体中の光伝播 Monte Carlo法による光伝播の計算 拡張Lambert-Beerの法則

Monte Carlo法とは 方程式の形で解が与えられない場合に、乱数を使って解を求める方法 例えば、面上にランダムに打たれた点を数えることで、任意の形の面積を求めることができる。

Monte Carlo法による光伝播の計算1     L = lnR / ms    散乱係数 : ms(mm-1) 吸収があるときは光量が減る。 W = W0exp(- mal )    吸収係数 : ma (mm-1)    光路長  :  l (mm)

Monte Carlo法による伝播の計算2 散乱方向はHenyey-Greenstein関数に基づいて計算 異方性散乱パラメーターg 異方性散乱パラメーターg   (散乱角度のcosの平均)  皮膚はg = 0.9の強い前方散乱 光拡散方程式などの解析解   が使えないときに有効

Monte Carlo法の欠点 各層に散乱・吸収係数を代入し、波長ごとに計算しなければならないため、時間がかかり過ぎる。  臨床応用には簡易な解析方法が必要

Monte Carlo法と逆Monte Carlo法 屈折率:n 厚さ:d が既知 Monte Carloシミュレーション   散乱係数:ms 吸収係数:ma               ↓    反射率:R 透過率:T 逆Monte Carloシミュレーション 反射率:R 透過率:T ↓ 散乱係数:ms 吸収係数:ma

逆Monte Carlo法 計算値と実験値との差が閾値(1%)以下になるまで計算を繰り返す。 おおよそのms、maの値が推測不可能であっても計算可能 乱数による統計的誤差が発生しやすい。

1. はじめに 色のスペクトル解析 皮膚の色と構造 散乱体中の光伝播 Monte Carlo法による光伝播の計算 1. はじめに 色のスペクトル解析 皮膚の色と構造 散乱体中の光伝播 Monte Carlo法による光伝播の計算 拡張Lambert-Beerの法則

Beer-Lambertの法則 Beer-Lambertの法則 A : Attenuation d : 物体の厚さ l : 波長 e : モル吸光係数 C : モル濃度 n種類の吸光物質がある物体の Attenuation A(l)

拡張Beer-Lambertの法則 散乱体ではdの代わりに平均光路長 l(l)を代入 G(l):散乱による減衰

散乱による平均光路長の変化 散乱が強い場合は、 平均光路長 l(l)が短くなる。 散乱による減衰G(l)が、小さくなる

吸収による平均光路長の変化 吸収が強い場合は 長い光路長で観測される光の減衰が大きいため平均光路長 l (l)が短くなる。 散乱による減衰G(l)は変わらない。

吸収の増加による平均光路長の変化 平均光路長は吸光度の濃度変化に対する微分 濃度が大きくなるにつれlは小さくなる。

層構造の拡張Beer-Lambertの法則  添え字iはi番目の層に対する値を意味する。 i番目の層に複数の吸収物質がある場合

本発表の流れ はじめに 健常者の皮膚の色解析 刺青を施した皮膚の色推定 結論 新しい手法の提案 Miho Shimada: 本研究の最終目的は刺青をした後の皮膚の色推定です。 そのために、最初に健常者の皮膚の色のメカニズムについて知る必要があります。これまでに報告したように、皮膚は多層構造であり、短波長における強い散乱および吸収、その波長依存性、などの影響により色のメカニズムは複雑なものとされてきました。本研究によって簡単な式で色を表す方法について報告します。 本発表の流れ はじめに 健常者の皮膚の色解析 新しい手法の提案 Monte Carloシミュレーションによる検証 皮膚ファントムによる検証 in vivo測定による検証 刺青を施した皮膚の色推定 結論

重回帰分析とは 目的変数yiをn個の説明変数xniの線形和で近似 重回帰分析とは係数biを推定する方法 フィッテングの度合いを決定係数R2で表し、1に近いほど近似がよいことを示す。

重回帰分析によるスペクトルの再現1 濃度をDCだけ変化させたときの吸光度変化量DA 次の式が成り立つと仮定

重回帰分析によるスペクトルの再現2 層構造のBeer-Lambertの法則から DAiおよびGが既知であれば、重回帰分析によってCi/DCiを統計的に予測可能

重回帰分析によるスペクトルの再現3 添え字m, bはそれぞれ表皮(メラニン)および真皮(血液)を表す Gは波長に依存しないと仮定

本発表の流れ はじめに 健常者の皮膚の色解析 刺青を施した皮膚の色推定 結論 新しい手法の提案 Miho Shimada: 本研究の最終目的は刺青をした後の皮膚の色推定です。 そのために、最初に健常者の皮膚の色のメカニズムについて知る必要があります。これまでに報告したように、皮膚は多層構造であり、短波長における強い散乱および吸収、その波長依存性、などの影響により色のメカニズムは複雑なものとされてきました。本研究によって簡単な式で色を表す方法について報告します。 本発表の流れ はじめに 健常者の皮膚の色解析 新しい手法の提案 Monte Carloシミュレーションによる検証 皮膚ファントムによる検証 in vivo測定による検証 刺青を施した皮膚の色推定 結論

皮膚モデルの反射スペクトルの計算 屈折率 n=1.37 異方性散乱パラメーター g=0.9 裏面は計算時間短縮のために鏡面反射とした

皮膚モデルの散乱係数 各層のmsは短波長で強く、単調減少とした。

皮膚モデルの吸収係数 各層のmaは5段階のメラニンおよび血液濃度を持つものとして仮定

吸光度差の変化(メラニンの増加) メラニンの濃度が上昇するにつれ吸光度変化量が減少している。

吸光度差の変化(血液の増加) 散乱の強い部分の吸光度変化量がより減少するため、吸光度変化のスペクトルが変形する。

拡張Lambert-Beerの法則による 重回帰分析 決定係数は全てのファントムにおいて0.99以上となった。

重回帰の係数 血液の濃度に対する非線形の影響が無視できないほど大きい。 メラニンは線形性を保っている。

Monte Carlo法による精度の検証 (結論) 非線形的な影響が若干見られたが、濃度の測定は十分可能であることがわかった。 皮膚ファントムで血液濃度の相関係数が比較的低かった原因は、この非線形であることがわかった。

本発表の流れ はじめに 健常者の皮膚の色解析 刺青を施した皮膚の色推定 結論 新しい手法の提案 Miho Shimada: 本研究の最終目的は刺青をした後の皮膚の色推定です。 そのために、最初に健常者の皮膚の色のメカニズムについて知る必要があります。これまでに報告したように、皮膚は多層構造であり、短波長における強い散乱および吸収、その波長依存性、などの影響により色のメカニズムは複雑なものとされてきました。本研究によって簡単な式で色を表す方法について報告します。 本発表の流れ はじめに 健常者の皮膚の色解析 新しい手法の提案 Monte Carloシミュレーションによる検証 皮膚ファントムによる検証 in vivo測定による検証 刺青を施した皮膚の色推定 結論

表皮ファントムと真皮ファントムの作製 メラニンの代わりにイカ墨(組成が同じ)を使用 イントラリピッド/ゼラチン溶液 厚さ 表皮土台 0.05   イントラリピッド/ゼラチン溶液 厚さ 表皮土台 0.05 2.5mm 真皮土台 0.133 6.3mm メラニン/表皮土台 E0 0/10 (g) E1 0.025/10 (g) E2 0.05/10 (g) E3 0.075/10 (g) E4 0.100/10 (g) 血液/真皮土台 D0 0/30 (g) D1 0.025/30 (g) D2 0.05/30 (g) D3 0.075/30 (g) D4 0.100/30 (g) メラニンの代わりにイカ墨(組成が同じ)を使用

ファントム作製と測定 皮下脂肪層は完全拡散反射体(BaSO4)で作製 表皮ファントムと真皮ファントムを順に皮下脂肪層にのせて25種類の皮膚ファントムを作製

積分球による 反射率および透過率の測定 波長範囲400nm~700nm、10nmピッチで測定 光源は50Wハロゲンランプ

皮膚ファントムの測定 各層の散乱・吸収係数を求めるために反射率と透過率を測定 3層構造の反射率を測定

表皮・真皮ファントムの散乱係数 ほぼ同じ散乱係数を持つことが確認された。

表皮・真皮ファントムの吸収係数 ほぼ正確に5段階の濃度をもつ表皮および真皮ファントムを作製できたことが確認できた。

吸光度差の変化(メラニンの増加) 皮膚ファントムでは誤差が大きく非線形の影響は確認できなかった。

吸光度差の変化(血液の増加) 誤差の影響が大きいが非線形の影響が確認できる。 スペクトルの変化が短波長で大きい。

拡張Lambert-Beerの法則による 重回帰分析 決定係数は全てのファントムにおいて0.99以上となった。

メラニンと血液濃度の推定値 相関係数の平均      表皮中のメラニンの濃度    0.993      真皮中の血液の濃度      0.947

皮膚ファントム実験(結論) 各波長で拡張Lambert-Beerの法則が成立し、 重回帰分析によってスペクトルを推定することができた。 メラニンと血液の濃度を重回帰分析によって測定可能であることがわかった。

本発表の流れ はじめに 健常者の皮膚の色解析 刺青を施した皮膚の色推定 結論 新しい手法の提案 Miho Shimada: 本研究の最終目的は刺青をした後の皮膚の色推定です。 そのために、最初に健常者の皮膚の色のメカニズムについて知る必要があります。これまでに報告したように、皮膚は多層構造であり、短波長における強い散乱および吸収、その波長依存性、などの影響により色のメカニズムは複雑なものとされてきました。本研究によって簡単な式で色を表す方法について報告します。 本発表の流れ はじめに 健常者の皮膚の色解析 新しい手法の提案 Monte Carloシミュレーションによる検証 皮膚ファントムによる検証 in vivo測定による検証 刺青を施した皮膚の色推定 結論

反射率スペクトルの測定 60人の頬の反射率スペクトルをハンディタイプの積分球で測定(表面反射光は除去) 波長範囲400nm~700nm、10nmピッチで測定

紫外線および熱湯を浴びた後の皮膚の反射率測定 紫外線照射実験 上腕に2MEDの紫外線を照射 照射前と照射後2日、9日および16日後に測定 被験者3人 熱湯実験 47度のお湯に3分間腕を浸し 実験前と2分後、6分後、31分後、61分後に測定 被験者5人

60人の女性の頬のAttenuation 似たようなスペクトル形状をしている。

皮膚内でメラニンが増加したときの 皮膚の吸光度の変化 散乱の強い短波長領域での吸光度変化が少ない。

皮膚内で血液が増加したときの 皮膚の吸光度の変化 散乱の強い短波長領域での吸光度変化が少ない。

拡張Lambert-Beerの法則による 重回帰分析 60人の決定係数の平均は0.987であった。

熱湯を浴びたときのメラニンの係数amと血液の係数abの変化 血液量は一時的に上昇する一方でメラニン量に変化がみられない。これは医学的見地と一致する。

紫外線を浴びたときの メラニンの係数amと血液の係数abの変化 血液量は一時的に増加した後に元に戻る一方でメラニン量は徐々に増加している。これも医学的見地と一致する。

in vivo実験による解析(結論) in vivo の皮膚に対しても各波長で拡張Lambert-Beerの法則が成立し、 重回帰分析によってスペクトルを推定することができた。 メラニンと血液の濃度を重回帰分析によって測定可能であることがわかった。

結論 拡張Lambert-Beerの法則と重回帰分析によって、皮膚の色がほぼメラニンと血液によって説明できることがわかった。 Monte Carlo法によって小さな非線形性を確認したが濃度測定が可能であることがわかった。 本手法により散乱体中の吸光物質と色の関係が明白になり、他の分野に広く応用できる。

積分球測定と逆Monte Carlo法で測定される散乱・吸収係数の検証 体積分率  (×10-3 ) Mie Theory m’s            ma Inverse Monte Carlo 2.495 1.000 0.0033 1.016 0.0023 1.663 0.750 0.0033 0.779 0.00242 1.248 0.500 0.0033 0.513 0.0034 最大誤差     m’s    3.9%      ma   30% 散乱係数は信頼のおける結果が得られた。 1回の計算に要した時間は約30分であった。

Kubelka-Munk第2法則 2層の反射率 平行光および拡散光が入射したときの反射率                  と仮定

Newton-Raphson法による 光学特性値の測定 Monte Carloによる統計誤差を避けることができる。 広い範囲には適用できない。

係数の変化 メラニンの増加により真皮中の平均光路長が減少

様々な散乱体中の光の伝播モデル Kubelka-Munk理論 入射方向と逆方向の2方向のみ 光拡散方程式 散乱された光は等方散乱と仮定  入射方向と逆方向の2方向のみ 光拡散方程式  散乱された光は等方散乱と仮定  充分な光路長と経た光に適用できる。 Monte Carloシミュレーション  散乱方向をHenyey-Greenstein関数に 基づいて任意に設定可能 前方散乱の強い皮膚ではMonte Carlo法が適当

Monte Carloとin vivoの比較