平成25年度 東京工業大学 大学院基礎物理学専攻 第5章 参考資料 平成25年度 東京工業大学 大学院基礎物理学専攻 宇宙物理学(前半) 松原英雄(ISAS、JAXA)
黒体放射とは? 放射吸収する物質と熱平衡にある放射のこと。黒体放射する物質の量・表面の性質は関係ない 全く同じ放射 黒体=完全吸収体 黒体 の壁 黒体 黒体放射 背後から来る光は 完全に吸収 一部が透過 背後から来る光 物質からの放射 通常の物質
キルヒホップの法則 放射輸送の式(4.24)で左辺=0とおく: (5.2) 天井も床も同じ温度Tの箱を考えましょう。天井は黒体、下の箱の床は反射率がRの物質でできているとします。 床Bからの反射光+床Bの放射光=天井Aの放射光 R・B(T)+IB=B(T) IB=B(T)ーR・B(T) =(1-R) ・B(T) =E・B(T) 床から放射される光 E・B(T) は同時に床が吸収する光の量に等しい:(吸収率をAとすると) A・B(T)= E・B(T) 床 B (温度T) 黒体天井 (温度T) IB B(T) R・B(T)
振動数nの光子の量子状態の数 一辺がLの立方体を考え、その中にある光子の量子状態数をもとめましょう。量子力学では光子が箱の中で安定な波になっていると考えます。その条件は x、y、z の各方向で辺長 L が波長の整数倍になることです。 L/λX = 1,2,3、...、 L/λY = 1,2,3、...、 L/λZ = 1,2,3、... ですが、電磁波には2成分の偏光があるので2倍して、L3の箱内の安定な光子の量子状態の数 ΔNBox は、 ΔNBox = 2Δ(L/λX)・ Δ(L/λY)・ Δ(L/λZ) で与えられます。単位体積当たりの状態数 ΔNUnit は、箱の体積で割って ΔNUnit = ΔNBox/L3 = 2Δ(1/λX)・ Δ(1/λY)・ Δ(1/λZ) です。 光子の密度を振動数ν空間で考えると ( ΔVν 振動数空間での体積要素) ΔNUnit =(2/c3)Δ(c/λX)・ Δ(c/λY)・ Δ(c/λZ) = (2/c3)Δ(νX)・ Δ(νY)・ Δ(νZ)= (2/c3) ΔVν 球座標で書くと ΔVν = ν2dΩdν よって ΔNUnit = (2/c3) ν2dΩdν (5.10) 式 参考: http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html
黒体輻射の数値表現 h=6.626×10-34 Js, k=1.381×10-23 J/K, c=2.998×108 m/s 参考: http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html G: 黒体輻射
Planck Spectra T=6000K T=6000K 波長 (cm) 振動数(Hz) 波長 (cm) 振動数(Hz) http://www.shokabo.co.jp/sp_e/optical/labo/bb/bb.htm
レーリージーンズ領域 傾き一定、 強さはTに比例 ウィーン領域 傾きと強さが 大きく変化する http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html G: 黒体輻射
天体からの(近似的に)黒体放射の例 赤外線でみた 燃えるマッチを持つ人
黒体輻射スペクトルの例 天体 典型的な温度 宇宙開闢の頃 1032 K 高温降着円盤 109-13 K 低温降着円盤 107 K 中性子星表面 太陽中心 白色矮星表面 10000 K 高温度星表面 太陽表面 6000 K 宇宙の晴れ上がり 4000 K 星間雲 10 ‐100K 現在の宇宙背景放射 2.74 K http://www.shokabo.co.jp/sp_e/optical/labo/bb/bb.htm
ところで、 天体からの放射はどういうときに黒体放射になるのか? 注: 放射物質が熱平衡だからといって放射が黒体とは限らない。
放射が黒体になる条件(1) 物質が熱平衡にあること 源泉関数Sn=Bn(T)が成立すること。 必ずしも、物質の温度と放射場の温度が同じとは限らない。 放射場は非熱的な場合もある:レーザー/メーザー 以下の場合には動力学的な温度=放射場の温度が成立 条件① 系の大きさが平均自由行程よりも十分に大きいこと 条件② 平均衝突時間が系の年齢よりも十分に短いこと 条件③ 物質が放射場光子を非弾性散乱する機能を持つこと(色々な光の振動数に変換できること)
放射が黒体になる条件(2) 光学的に十分に厚いこと In = In(0)exp(-tn) + B n(T) (1 - exp(-tn)) なので、 tn >> 1が必要。 星間塵のように、波長によって光学的厚みが著しく異なる場合、近赤外線ではBlackbodyでも、遠赤外~サブミリ波では In = tnB n(T)~nb B n(T) (b=1-2) となる ★天体(特に希薄な宇宙空間)は一様温度とは限らない: そのときでも局所的になりたっている場合が多い(局所熱力学的平衡:LTE) 熱平衡を達成するには衝突緩和時間に比べて十分長い時間が必要。 銀河間空間のプラズマ: 電子と陽子で温度が違う可能性がある: teq(e,e) ~ 3.1×105 (Te/108K)3/2(ne/10-3cm-3)-1 yr teq(p,p) = √(mp/me) teq(e,e) ~ 1.3×107 (Te/108K)3/2(ne/10-3cm-3)-1 yr
制動放射とは? 運動する荷電粒子が、加速度を持つ時、電磁波が放射される。宇宙の主要な構成物質である水素の原子核のクーロン力で、自由電子が「制動」を受けた時も、電磁波が放射される。 上記のような「衝突」では電気双極子モーメントの2回微分がゼロでないので双極子放射が生じる。
自由ー自由遷移のスペクトル (電波領域) 光学的に薄い周波数では (EM: emission measure) (6.24a) 光学的に厚いと この境界 となる周波数をturn-over frequency Optically thin Optically thick
制動放射を行う天体(プラズマ)の例 名称 波長 Ne (cm-3) T (K) 太陽のコロナ 電波~X線 1010 107 新星 (可視~赤外) 105 -- 108 104 -- 105 惑星状星雲 電波・可視・赤外 103 -- 104 1-2 x 104 HII領域 1 -- 103 0.5-1 x 104 銀河団ホットガス X線 10-3 108
太陽くらいの重さの星はだんだん膨張していきどんどんガスを外に放出します。これが惑星状星雲です。 注意:この画像は可視光。イオンのスペクトル線の画像です (STScI)
オリオン大星雲 HII領域からの制動放射 (電波) 若い段階( Ultracompact H II領域)から、成長した巨大なH II 領域まで、色々観測されている。
系外銀河:全体を見ると・・ 星形成が活発に行われている系外銀河M82の電波スペクトル 制動放射は支配的ではない・・ ダストからの熱放射 シンクロトロン放射 制動放射成分 可視・赤外(すばる望遠鏡) 星形成が活発に行われている系外銀河M82の電波スペクトル 制動放射は支配的ではない・・
銀河団にはX線で輝く高温ガスがある この高温ガスを閉じこめておくためには、暗黒物質による重力が必要です。 あすか衛星によるX線画像 可視光 髪の毛座銀河団 (写真/宇宙科学研究所)