All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 情報倫理に関する意識と 法制度上の問題点 近藤 佐保子 南雲 浩二 明治大学 埼玉大学 ただいまご紹介いただきました明治大学政治経済学部非常勤講師の近藤佐保子でございます。 本日は「情報倫理に関する意識と法制度上の問題点」というテーマで、先ごろ急増しているコンピュータ犯罪、とくにネットワーク犯罪について、法制度はどのように対処しているのか、その限界はどこにあるのか、また今後はどのように対処していくべきかについて、検討してみたいと思います。 なお、今回の発表にあたり、大学生を対象に、コンピュータ犯罪に対して法規制を望むか、意識調査を行いました。後半でその結果についても、若干触れたいと思います。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. はじめに 計算機システム、ネットワークの不正使用、犯罪の増加 (著作権侵害・不正アクセス・不正入手・名誉毀損・猥褻など) 一般社会だけでなく、学内・教育現場においても増加 ネットワーク社会の特徴 法的対応の遅れ そもそも法によって規制すべきなのか? 民事法による対処で足りるか、刑事法で処罰すべきか? 既存の法規の解釈で十分か、立法化を必要とするか? さて、今日、ネットワークの発達に伴い、ホームページへのコンテンツの無断使用による著作権侵害、システムへの不正アクセスやそれに伴う情報の不正入手、ネットワーク上での名誉毀損、あるいは猥褻画像の掲載や配布など、少なくとも社会的には不適切と評価できる行為が、私たちの周辺でも珍しくなくなってきました。 計算機ネットワークのユーザだけが、ほかの社貴人に比べて特別、非常識というわけではないのに、なぜネットワーク上ではこうしたことが多発するのでしょうか。ユーザの意識が行為となって現れる過程において一般社会との違いはどこにあるのでしょうか。 ユーザ意識と法制度上の問題を検討 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. ユーザの意識と行為 ユーザの意識 “ID”として行為 行為=計算機に対する命令 粗暴犯から 知能犯へ 準備行為の不要性 正当行為との類似性 ゲーム感覚 計算機・ ネットワークの潜在力 行為の影響力 結果に対する自己問責性 倫理意識の欠如 法的評価 不法行為 犯罪 倫理的評価 不適切 非常識 ネットワークで、社会的に不適切な行為が多発する理由は、コンピュータやそのネットワークのもつ潜在力に対して、ユーザの自己行為に対する意識がアンバランスであることに原因があると思われます。 つまり、サイバースペースで、個人は実際の何々さんといった名前や、顔立ちで識別されるわけではなく、「ID」としてのみ認識されるため、ネットワーク上での行為の結果が、現実の自己にすべて帰属されるという意識が希薄になると考えられます。IDを変えてしまえば、別人格になることができます。また、実際の操作も、現実の社会の物を盗んだり、人を傷つけたりする行為に比べると、データや命令の送信や不正な操作といった行為は現実味が無く罪悪感が無いでしょう。行為者は日常生活とは異なり、たいした罪の意識もなく、規範的障害を軽々と乗り越えてしまうと思われます。 ところが、一方で、計算機、ネットワークのもつ潜在力は予想以上に大きいわけで、行為者によって一度、蒔かれた種は、もはや行為者自身にも阻止できない甚大で広範囲な被害をもたらすことになります。 こうした現実を考えるとき、システム管理者にとっては、使用者がどのような意識を持って行動しているのかを把握し、実効性のある対策を実現するのは緊急の課題でありますし、また法制度的にも、どういった対策をとるべきか、その方向性を定めておかなければならにことになるえしょう。 想像以上の 重大な結果 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 法の対立する2つの機能 法的安定性 人権保障 具体的正義 の実現 VS 法は、現実に多少合わなくなっても、なるべく改正しないで解釈で補った方がよい 法は、現実に適合するよう、こまめに改正した方がよい 急増するコンピュータ犯罪、とくにネットワーク犯罪に法制度が追いついていないというのは、残念ながら現実です。なぜ迅速に法を改正しないのか、それは法曹実務家の不勉強・怠慢ではないかという声もあります。 しかし、ここには、法が本質的に抱えている、もっと重要で根本的な問題が内在しています。それは法自体のもっている二つの重要な機能が、内在的に対立関係にあるということです。その二つの機能とは、「法的安定性」を保ち人権を保障するという機能と、具体的な正義を実現するという機能です。 もし、めまぐるしく発展変化する社会に対応しようとして、その都度の具体的な妥当性ばかりを重んじ、法が朝令暮改であれば、人は安心して生活できません。自分の行為が、いつ犯罪と評価されるかわからないからです。そこで、法制度では、その時の社会に適合した正義の実現が、この法的安定性ないし人権保障の観点と常に天秤に掛けられていることになります。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 法的問題点の所在 社会倫理に委ねておくのが望ましくない場合 →国家の強制力 予期していなかった事態に対する法的対処 既存の法規の解釈による解決 立法的解決 既存の法規の 解釈による解決 立法的解決 そこで、社会の変化にともない、法が予期していなかった新しい事態が起こると、法的安定性の要請から、まずは立法的解決ではなく、既存の法規の解釈によって何とかこれをカバーしようという試みがなされることになります。 しかし、これではどうしても対応できないという場合もあるのであって、そうのときに初めて法を改正するという立法的解決が取られるわけえす。今日のコンピュータ犯罪は、まさにその例といえるえしょう。 日本では、それまでの法体系が予期していなかった、コンピュータ犯罪が多発し始めたころ、1980年代後半のことですが、これに対処すべく著作権法と刑法が相次いで改正されました。しかし、現在も情報に関する法の整備は決して十分なものとはいえません。 立法的解決は法的安定性を損なうおそれがある 解釈ではもはや対処できないか? All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 法と倫理 法とは? 倫理とは? 数ある行為規範のうち国家の強制力を伴って義務付けが行われるもの 行為規範のうち国家の強制力を伴わないもの 新しく起きてきた社会的に不適切な行為 ↓ 倫理に委ねておくべきか、 法によって対処すべきかが問題となる。 ところで、「情報倫理」という用語のもとにコンピュータ犯罪に対する法的措置が論じられることが、しばしばあります。この報告においても、情報倫理というテーマのもとで、法制度上の問題点を検討しているように見えるかもしれません。 しかし、法と倫理は別物です。それでは、法と倫理はどのように区別されるのでしょうか。法哲学上の一般的見解にしたがうと、数ある行為規範のうち国家の強制力を伴って義務づけが行われるものが法と考えられています。つまり、倫理も行為規範であることには変わりませんが、国家による強制力はともなわない、つまり、倫理的に不適切な行為をしても、何ら罰せられないという点が、法と最終的に異なるわけです。 コンピュータ犯罪のように新しく起きてきた社会的に不適切な行為の場合、倫理的に好ましくないことはわかっているわけですが、これを法によって対処すべきなのか、すなわち国家の強制力を伴って禁止すべきなのかが問題となるのです。 この報告でも、「倫理」といいながら法的視点が述べられているのは、法で取り扱うとすれば、どの法律によって規制することになるかという観点から検討しているためです。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 法的対処が問題となる行為 著作権侵害 不正アクセス・情報の不正入手 名誉毀損・侮辱 ポルノグラフィー プライバシー侵害 次に、情報に関し、昨今、法的に対処するかが問題となっている事例について現状と問題点を整理していきたいと思います。 最初に、どのような問題があるか、概観しておくことにします。 著作権侵害、不正アクセスとそれにともなう情報の不正入手、名誉毀損・侮辱、ポルノグラフィー、プライバシー侵害などをあげることができます。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 無体財産権の必要性 民法第85条(物の意義) 本法ニ於テ物トハ有体物ヲ謂フ 物とは? ⇒ 「有体物」 ー 排他的独占・支配が可能 それ以外は? ⇒ 債権(請求権)の対象でしかなかった 民法は物権と債権とを峻別 インターネットの普及に伴い、一部の知的創造活動を行う職業に従事する者にしか関連の無かった著作権侵害の問題が万人に関係するところとなった。ホームページからの情報発信などを通じ、誰でも容易に著作権者となり得るからである。 民法では、物とは「有体物」であると定められている。財産権の対象になるのは有体物であり、それ以外は請求権たる債権の対象にしかならない。 「物権」と「債権」を峻別する法体系下で無体財産権を認めると言うことは、大変重要な意義を持つことであった。 周知のように人間の知的創造物のうち価値を持つものは、知的財産権・無体財産権の対象として、その価値が保護される。無体財産権のうち「産業目的」に寄与するものが工業所有権であり、「文化目的」に寄与するものが著作権である。 無体物である知的創造物を保護する必要性が顕在化 人間の知的創造物のうち価値を持つもの →知的財産権・無体財産権として保護 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 無体財産権の種類 産業目的=工業所有権 文化目的=著作権 著作権の種類 著作者の権利 著作財産権 著作者人格権 著作隣接権 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
文学的および美術的著作物の保護に関する ベルヌ条約 ↓ 無方式主義の採用 無方式主義とは 一切の登録手続きを待たずして 著作物には自動的に著作権が発生 なお、日本は著作権に関する「無方式主義」を採用するベルヌ条約に加盟しているため、何らの登録手続きを待たずして著作物には自動的に著作権が発生する。 フリーウェアもPDSとは異なり著作権で保護される All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
データベース・プログラム・ 半導体チップと著作権 データベース:従来から編集著作物としての保護が可能 著作権法改正により著作権法による保護を 明文化 プログラム:従来の著作権法では保護が不可能であった 著作権法改正により著作権法により保護 半導体チップ:工業所有権法と著作権法の中間形態 特別法を作って保護 「半導体集積回路の回路配置に関する法律」 1985年、1986年の著作権法の改正により、我が国ではデータベースとプログラムに関する規定が新設された。すなわち、データベースは改正前から編集著作物としての保護が可能であったが、著作権法を改正して著作権法による保護を明文化した。 プログラムは従来の著作権法では保護できなかったので著作権法を改正して著作権法で保護できるようにした。また、半導体チップは工業所有権法でも著作権法でも保護できない中間形態なので、特別法である「半導体集積回路の回路配置に関する法律」(いわゆる半導体チップ法)により別個に保護される。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
データ送信と複製 インターネットへデータを送信することは、著作権上の複製に該当する インターネットと著作権(1) データ送信と複製 インターネットへデータを送信することは、著作権上の複製に該当する リンクを張る行為 リンクを張る行為は複製ではない 著作権上の複製権の問題は生じない インターネットと著作権に関しては以下のような問題がある。 パソコン通信やインターネットへデータを送信することは著作権上の「複製」に当たるか。これは、複製に当たると考えなければならない。 リンクを張ることは著作権法上問題があるだろうか。リンクを張ることは、複製ではないので、著作権法上の複製権に関する問題は無い。自分のホームページに無断でリンクが張られても、文句を言えないことになるが、リンクの拒絶権を認めるといった方向ではなく、リンクを張る際には、リンク先の著作者にできる限り許可を得ることを習慣として確立すべきである。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
インターネットと著作権(2) 私的利用の範囲 私的利用とは? 著作権で保護されている著作物でも、個人的に利用したり、家庭内やこれに準ずる限られた範囲で使用するのであれば、複製してもよい 何らかの客観的関係が必要 例:電子メールでの頻繁なやり取り 著作権の中で著作者自身の財産的利益を保護するものが著作財産権であるが、その主な内容である複製権の例外をなすのが「引用」と「私的使用」である。 パソコン通信やインターネットを通じて顔も知らない人との間で新しい人間関係が広範囲に形成されていくため「私的使用」の範囲が問題となる。これについては電子メールで頻繁にやりとりしているなど何らかの客観的関係が必要と解される。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. インターネットと著作権(3) 引用の範囲 引用とは? 自己の著作物の中に他人の著作物を引いて用いること 一定の条件を満たせば著作権侵害にならない 判断基準 1.主従関係 引用する側(主)と引用される側(従)の著作物が明瞭に区別できること 2.目的の正当性 報道・批評・研究その他の目的上、正当な範囲で行わなければならない インターネットで「引用」はどの範囲で認められるか。「引用」についての「主従関係」と「目的の正当性」の基準に照らして判断するしかないが、長めの引用をする場合にはできる限り著作権者に引用の許可を得ることが望ましい。 なお ホームページの出所の明示に関しては、まず題名については、ホームページのタイトルが表記されている場合にはそれを明示し、タイトルがなければURLを記載することが必要である。 著作者名については、実名又はハンドルネームがある場合にはそれを示す必要がある。そのような表示が一切ない場合には「無名の著作物」となり、著作者名を示す必要はない。 、 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
インターネットと著作権(5) 報道記事と著作権 単なる事実の伝達→著作物にあたらない 実際には新聞社はほとんどの記事について 内規により使用料を徴収 新聞社とユーザ間で納得できるルール作りが必要 著作権法上、時事報道は単なる事実の伝達にすぎないので、著作物に該当しないとされる。しかし、「誰が書いても同じ事実の伝達であるから著作権が無い」とされる新聞の報道記事は全体のごく一部である。実質的には、著作権の侵害がないと思われるようなケースでも、新聞社、は、記事の使用について内規により使用許諾の申請書を出させて使用料を徴収しているのが通常である。「知る権利」の保障からは、報道機関側とユーザ側がともに納得できるルールづくりが急がれる。 CDの曲をホームページに登録し自由にダウンロードする場合には、作詞・作曲の複製権と公衆送信権および、レコード会社・実演家の著作隣接権が問題となる。作詞家・作曲科(著作者または音楽出版社が会員になっていればJASRAC)、さらにレコード製作会社と実演家の哩ツが必要である。また、ジャケットのデザインについても製作したレコード会社に著作権が成立しているので、掲載には許可が必要である。 その他、ソフトウェアと著作権、インターネットと肖像権などにも、多くの問題を抱えているが、これについては、他の機会に譲ることにする。 インターネットと無体財産権に関する私見 「知る権利」、表現の自由を十分考慮した規制が望ましい All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
調整機関=WIPO (世界知的所有権機関) 著作権に関する国際的調整 調整機関=WIPO (世界知的所有権機関) 先進国 自国が先に投資して 育成した文化を途上国に無断で使われてはこまる →保護強化を主張 途上国 先進国の文化を早く吸収して、これに追いつきたい →保護強化に反対 vs ネットワーク社会が発達するにつれ、情報に国家の壁は事実上なくなった。それに伴い、著作権による保護も、いままで以上の国際的な調整が不可欠になってきた。 知的所有権の問題を扱う専門的な機構としては、国連の専門機関であるWIPO(世界知的所有権機関)が存在している。しかし、著作権について、国際的調整を行おうとすると、早く先進諸国の文化を吸収し、追いつこうとする途上国と、これを容認し得ない先進国との対立が支障となる。 こうした図式の中で、知的所有権の国際的調整は大変難しい要素をもっている。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. ネットワークの特徴 (1)匿名性 (2)不特定多数性 (3)時間的・地理的無限性 (4)場所の不要性 (5)無痕跡性 今日、インターネットの発展に伴いネットワークを利用した犯罪が急増してきた。 ネットワークは(1)匿名性、(2)不特定多数性、(3)時間的・地理的無限性、(4)場所の不要性、(5)無痕跡性という特徴を持つと言われる。それが規制の難しさを生み犯罪の温床になる所以でもある。 規制の難しさ・犯罪の温床 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 刑法の一部改正(1987年) (1)文書偽造に関して → 電磁的記録の不正作出・供用・毀棄 (2)業務妨害に関して → 電子計算機損壊等業務妨害 (3)詐欺罪に関して → 電子計算機使用詐欺 刑法もまた、こうした事態に手つかずで来たわけではない。少し遡ると、刑法では従来の規定に生じた隙間を埋めるため1987年に一部改正が行われた。この改正により、文書偽造、業務妨害、詐欺が電磁的記録に関しては成立し得ないという問題が立法的に解決された。 立法的対処が見送られた点 →不正アクセス・情報の不正入手 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
現在立法化を検討中 警察庁・郵政省・通産省の共管 不正アクセス禁止法 現在立法化を検討中 警察庁・郵政省・通産省の共管 ・不正アクセスを定義 ・処罰をもって禁止 不正アクセスについては、現在、警察庁・郵政省、通産省の3省庁の共管による、不正アクセス禁止法の立法化が進められている。不正アクセス、および、それを助長する行為が、刑罰をもって禁止されることになる。 しかし、これに対しては、十分に検討されないままの時期早尚な立法化であるといった、日弁連を中心とした批判の声も高い。何らかの規制が必要なことは事実であるが、運用の段階で、適正に機能するよう見守っていくことが必要である。 ・不正アクセスを助長する行為も禁止 ・アクセスログの保存について意見が対立 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
有体物説 刑法でも財物を有体物に限定 245条はみなし規定 有体物説 vs 管理可能性説 刑法第245条(電気) この章の罪については、電気は、財物とみなす。 *この章: 第36章 窃盗及び強盗の罪 有体物説 刑法でも財物を有体物に限定 245条はみなし規定 管理可能性説 刑法では管理可能なもの(電気などのエネルギー)まで財物に含める 245条は注意規定 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
領得罪(窃盗罪・横領罪)での処罰は不可能 (通説・判例) 情報の不正入手 情報は財物ではない 領得罪(窃盗罪・横領罪)での処罰は不可能 (通説・判例) ・背任罪による処罰 ・不正競争防止法による対処 また、不正入手については通説判例によると、現行刑法上、領得罪(窃盗罪・横領罪)での処罰はできない。刑法でも領得罪の対象となる財物は、民法と同じ「有体物」か、もう少し広くとらえて「物理的に管理可能なもの」と解するが、情報までをその範囲に含めてはいない。 領得罪で保護できるものは、少なくとも一次的には「物」である「媒体」に過ぎない。媒体に化体されて入手され無い限り、情報を保護することはできないのである。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
私見 情報を財物と解するか、条文を新設するか、どちらかの対処が必要 背任罪 特徴 財物の領得を要件としない 身分犯の要件(信任関係)の充足が必要 ⇒産業スパイなどには適用できない 私見 情報を財物と解するか、条文を新設するか、どちらかの対処が必要 ただ、情報の不正入手には内部犯行が大変多く、実に8割近くが関係者によるともいわれる。そこで、信任関係を基礎に背任罪で対処するケースも実際には存在する。しかし、こうした信任関係が認められない以上、刑法による処罰は不可能であり、著作権法(処罰規定がある)、不正競争防止法の範囲で規制するしかない。 刑法は、予測し得なかった不動産の侵奪には条文を新設し、電気窃盗にはみなし規定で対処してきた。「無体財産の不正入手」を対象とした何らかの立法的解決の望まれるところである。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
名誉毀損とは 「公然と事実を摘示」することにより他人の社会的評価を低下させる 名誉毀損・侮辱 名誉毀損とは 「公然と事実を摘示」することにより他人の社会的評価を低下させる 侮辱とは 事実の摘示をしなくても「公然と」人を侮辱 人は誰にでも「個人の尊厳」があり、他人から社会的評価を傷つけられない権利を有している。 刑法では「公然と事実の摘示」をすることによって他人の社会的評価を低下させた場合、名誉毀損罪が成立し、また事実の摘示をしなくても「公然と」人を侮辱した場合、侮辱罪が成立すると規定する。 どちらも「公然性」という要件の充足が必要 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
・公然性の要件 電子掲示板・ホームページには公然性がある 電子メールは公然性が認められない ニュースグループ、メーリングリストにも認め得る 名誉毀損・侮辱の問題点 ・公然性の要件 電子掲示板・ホームページには公然性がある 電子メールは公然性が認められない ニュースグループ、メーリングリストにも認め得る ・表現の自由との対立 萎縮効果という弊害を顧慮することが必要 私見ー双方向性の活用ー 法による積極介入によるよりも、当事者間の 反論による解決が望ましい サイバースペースでも誹謗中傷がなされれば、被害者の社会的評価は十分に下落する。パソコン通信の掲示板、インターネットのホームページなどには公然性が認められるとされている。 それにもかかわらず匿名性や不特定多数性といった特性ゆえに、罪の意識もないまま、こうした発言がなされる機会が大変増えている。 ただし留意すべきは、こうした「名誉権」がしばしば「表現の自由」と対立関係にあるという点である。名誉権を保障しようとするあまり、表現の自由に対して萎縮効果があってはならない。 ネットワークは双方向性をもったコミュニケーションの場である。そこでは即時的な反論が十分に可能であり、そうした手段よる自己救済ができるはずである。ネットワークという場に国家権力を介入させず、反論を手段に自己の考えを主張していくことが望ましい。 なお、電子メールでの誹謗中傷発言には公然性の要件が欠落するので、名誉毀損・侮辱の問題にはならない。いわゆるネチケットの問題として各人の自覚に委ねられることになる。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
プロバイダーとは・・・ 出版事業者 or 流通業者? 管理者責任 出版事業者→著者と同じ責任 流通業者 →原則として責任を負わない プロバイダーとは・・・ 出版事業者 or 流通業者? 名誉毀損に関し、アメリカでは書籍などの印刷物の内容について、出版事業者は著者と同じ責任を負うが、書店などの流通業者は原則的に責任を負わない。プロバイダーをどちらの性格ととらえるかについてはアメリカでも出版業者的にとらえる判決と流通業者的にとらえる判決にェかれている。 ⇒アメリカでも判例の見解は分かれている All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. ニフティ事件 ニフティサーブの会員であるU女史は、あるフォーラムの電子会議室において、別の会員から名誉を毀損された。そこで、加害者だけでなく、そのフォーラムのシステムオペレ-タと、ニフティ株式会社も、その発言を放置したとして、その三者を相手取り、民事上の賠償請求と謝罪広告の請求をした。 名誉毀損をめぐっては、ニフティ事件が注目される。この事件では、被害者が、加害者に加え、そのフォーラムのシスオペとニフティ株式会社の三者を相手取って、損害賠償と謝罪広告を請求した。そのため、ネットワークの管理・運営者の責任に関する事例として注目された。 ニフティ事件の第一審は、シスオペには発言内容を常時監視したり探知したりする義務は無いと判断しながらも、原告U女史からの掲載削除の申出以前に必要な措置をとる義務があったとして、三被告に損害賠償の支払いを命じた。 しかし、名誉を毀損された者の対応としては、いくつかのものが考えられ、削除を求めるとは限らない。シスオペ側が相手からの請求を待たずに削除等の措置を講ずることは、かえって表現の自由との調和から疑問が残る。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 猥褻に関する規制の難しさ (1)被害者無き犯罪→処罰すべきか (2)「猥褻」の概念が曖昧 (3)表現の自由との関係(萎縮効果) (4)国際性→国内法の適用範囲 国際条約としての統一基準策定は困難 インターネットの普及に伴って急浮上してきた問題の一つにポルノグラフィーがある。しかし、インターネットの問題が出現する以前から、猥褻に関する規制には難しい問題が潜んでいた。 第一に、そもそも猥褻物に関する犯罪は「被害者無き犯罪」であり、そのようなものまで処罰すべきなのかが問題となる。 第二に、そもそも「猥褻」の概念は非常に曖昧で判断基準が難しい。 第三に、表現の自由との関係で、「猥褻」の概念が曖昧であるが故に表現の自由が損なわれるようなことがあってはならない。 さらに、インターネットの国際性から来る難しさとして、国内法の適用範囲が問題となる。日本人が同じ猥褻画像を不特定多数の日本人に見せるため送信しても、どこから送信するか、蓄積するサーバがどこにあるかで日本法が適用されるかどうかが変わってくる可能性がある。 国際条約としての統一基準を策定できれば明瞭な解決策となろうが、事柄の性質上それは大変困難である。「猥褻」の概念は各国の宗教や習俗、社会通念などから規定されるため、そこに共通項を見いだすことはほとんど不可能である。ここから、「インターネットの猥褻は処罰にネじまない」という考え方もでてくる。 表現の自由との調和を考える上でも、規制をむやみに強化するより、社会倫理についての自覚に任せるべき問題とも考えられる。 インターネットの猥褻は処罰になじまない All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
(1)画像ファイルの財物性 (2)マスクソフトへのリンク (3)猥褻罪に該当するページへのリンク (4)海外のサーバへの送信 インターネット上の問題点 (1)画像ファイルの財物性 (2)マスクソフトへのリンク (3)猥褻罪に該当するページへのリンク (4)海外のサーバへの送信 私見 表現の自由や国際的文化の多様性を配慮した解決が必要 インターネット上でポルノグラフィーをめぐる問題としては以下のような点が上げられる。 1. 画像ファイルは、「物」と言えるのか。画像ファイルをサーバにおく場合、「猥褻図画公然陳列罪」が成立するのか。 2. 画像修正ソフト(マスク・ソフト)で修正してあった場合、マスクをはずすソフトのダウンロードサイトにリンクを張るなど、入手を容易にしてあるだけで公然陳列罪が成立するのか。 3. 猥褻罪に該当するページにリンクを張るだけで同罪の幇助となるのか。 4. 海外のサーバ上のホームページに猥褻な画像データを掲載したときにも日本の刑法が同じように適用されるべきか。 いずれの場合も、表現の自由との関係や、国際的文化の差異などに鑑み、行き過ぎた規制が行われないよう慎重な対処が望まれる。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. アンケートの項目例1 設問31 グラフ番号7 A 「1CPU1ソフト条項(ひとつのソフトは1台のコンピュータにしか入れてはいけない)」を、部署内(学校や、個人の家の中)のネットワークまで、厳格に適用すると、資源の共有という、ネットワークの本質が損なわれるので、適用しない方がよい。 B 「1CPU1ソフト条項」を部署内のネットワークでは緩やかに解すると、ネットワークの発達した今日、結局、何千台あろうと、多くのコンピュータで使えることになるので、厳格に適用した方がよい。 Aだと思う 78% Bだと思う 22% 今回は、法的規制が問題となるような事例について、主に大学生を対象に規制を妥当と考えるかを調査した。 アンケート項目の例を挙げると、次のようなものがあります。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. アンケートの項目例2 設問55 グラフ番号21 A 電磁的情報であれば、目に見えないのだから、改竄(わざと、一定の意図のもとに変更する)したり、破壊したりしても刑法上は問題がないし、処罰すべきでない。 B 電磁的情報を改竄したり、変造カードを使ったり、情報を破壊して、その結果、業務に支障が出れば、現行法でも処罰できるし、すべきである。 Aだと思う 26% Bだと思う 74% 今回は、法的規制が問題となるような事例について、主に大学生を対象に規制を妥当と考えるかを調査した。 アンケート項目の例を挙げると、次のようなものがあります。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. アンケートの項目例3 設問56 グラフ番号22 A インターネットの電子掲示板や、ホー ムページの場合は、ある人の名誉を 傷つけたり、侮辱するような発言をし ても、一定の人しか見ないので、名誉 毀損罪や侮辱罪を問題にする必要は ない。 B 電子掲示板やホームページは、公共 の場と考えるべきであり、人の名誉を 傷つけたり、侮辱したりする内容は、 名誉毀損罪や侮辱罪で規制すべきで ある。 Aだと思う 30% Bだと思う 70% 今回は、法的規制が問題となるような事例について、主に大学生を対象に規制を妥当と考えるかを調査した。 アンケート項目の例を挙げると、次のようなものがあります。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo. 学生の意識 その結果、以下のような結論が得られた。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
(1)規制を望む声が少なくない 表現の自由・人権保障の観点がもっと重視されなくてよいのか 意識調査を終えて (1)規制を望む声が少なくない 表現の自由・人権保障の観点がもっと重視されなくてよいのか (2)なぜ情報を巡る問題が多発するのか 情報倫理教育の徹底 国家権力の規制にゆだねず、倫理レベルでの自覚を養成する必要性 学生であれば、規制の方向より人権と自由を尊重した解答に偏るであろう予想していた。しかし、実際の結果は規制を望む声も多かった。法学者たちが急速な規制への慎重論を唱える中、法的バランス感覚からみると、むしろ、もう少し表現の自由と人権保障を重んじる姿勢も必要ではないか。 2. 問題は規制した方がいいと言う意識がありながら、なぜ実際に情報をめぐる問題が多発するのかである。調査は、ある程度、情報倫理教育を受けた学生を対象に行った。したがって、もっと情報倫理教育の普及が必要であるとも考えられる。しかし、一方で、倫理のレベルでの自覚謔閧ヘ国家権力による規制に問題の解決を委ねようとする、あなたまかせな姿勢も感じられる。 All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.
法の不備が問題となるケース → 一様ではない まとめ ー法的に規制すべきなのかー 法の不備が問題となるケース → 一様ではない (1)基本的人権や法的安定性との 抵触が比較的問題とならないケース(不正入手など) → (2)表現の自由などの人権と対立関係に あるケース(猥褻など) 解釈ないし立法化による迅速な規制が必要 以上、情報をめぐる法的問題について概観した。この他にも、情報操作、個人情報の保護、さらには多文化主義など、情報に関しては数多くの問題が内在する。プライバシー保護に関しては、従来の「私的生活に踏み込まれない権利」という消極的概念では足りず、「自らの情報を積極的にコントロールする権利」と、とらえ直されるにいたっている。 法の不備が問題となるようなケースでも、一様ではない。憲法上保障された基本的人権や法的安定性との抵触が比較的問題とならないようなケースでは、拡張解釈や立法化によってでも迅速に規制すべきであろう。情報の不正入手などはこの例である。しかし、猥褻など、本来、表サの自由と対立関係のあるケースでは、これを倫理のレベルにとどめ、個人の自覚に委ねることの方が望ましい。 倫理のレベルにとどめ、自覚に委ねるべき All Rights Reserved, Copyright© 2000, S.Kondo&K.Nagumo.