人間活動下の 生態系ネットワークの 崩壊と再生

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人間活動下の 生態系ネットワークの 崩壊と再生 2006.9.22 地球研  FSプロジェクト計画発表 人間活動下の 生態系ネットワークの 崩壊と再生 山村 則男 京都大学生態学研究センター

生物間ネットワーク 間接効果、カスケード効果のため 大きな変化が急激に生じ回復困難になる このような生態学の視点は、 プロジェクト概要 生物間ネットワーク 生物間ネットワーク=生物の相互作用網 食う食われる 花粉の媒介、種子の分散 物質の循環・エネルギーの流れ  間接効果、カスケード効果のため 変化の予測が難しい 小さな変化が大きな変化をもたらしうる  大きな変化が急激に生じ回復困難になる レジームシフト このような生態学の視点は、 地球環境問題の解決に非常に有効であろう

生態系ネットワークとは プロジェクト概要 均一な生態系ではなく、サブシステム(原生林、二次林など)が相互作用する二重ネットワーク構造を考える (ボルネオ熱帯林) 生物間ネットワーク 焼き畑 種A 地域社会 原生林 種C 種B グローバルな社会 気候変動 種D 二次林 河川 従来の生物のネットワーク研究 プランテーション このプロジェクトの研究 均一な生態系ではなく、サブシステム(原生林、二次林など)が相互作用する二重ネットワーク構造を考える 社会経済ネットワークからなる人間社会もサブシステムの一つに含める

目 的 人間活動の直接的な影響だけでなく、生態系ネットワークを介して生態系の崩壊や劣化を引き起こすメカニズムを明らかにする プロジェクト概要 目 的 人間活動の直接的な影響だけでなく、生態系ネットワークを介して生態系の崩壊や劣化を引き起こすメカニズムを明らかにする 生態系の利用に伴う長期的・広域的な不安定性や  不確実性を最小化するネットワークの特徴を あきらかにする ・高い生物多様性と生態系機能を持つ、より健全な  生態系への再生とその維持への道筋をつける

対象とする調査地域 プロジェクト概要 *一般性の高い成果を得るために、対照的な複数の調査対象地域を対象とする モンゴル草原 ボルネオ島 サラワク熱帯林 共通点 陸上生態系 自然生態系が残っている 急速なネットワークの変化がみられる 研究の蓄積と成果がある 相違点 食物網構造 トップダウン構造 ボトムアップ構造 ヒトの栄養段階 高い 低い 更新時間 短い(数年) 長い(数十〜数百年) 主なサブシステム 疎林、草原、農地 原生林、二次林、 プランテーション、焼き畑 モンゴル マレーシア・ サラワク州

研究プロセスと期待される成果 プロジェクト概要 人間活動と生態系ネットワーク構造変化の関係を2地域において明らかにする 観測と調査によって現状の生態系ネットワークを記述・理解する 特に人間活動の影響が急激に大きくなった過去100年間の変化を把握する 2. 異なるシナリオに基づいた生態系ネットワークの 予測と評価のモデルを示す データに基づく地域シミュレーションモデルを構築する 異なる条件に対する応答予測のセットをシナリオとして提示する  (短期的予測:5年、長期的予測100年) 生態系ネットワークを考えることによって 地球環境問題に新しい視点を与える どのようなネットワークの構造が地球環境問題を引き起こすのか 環境問題の解決にどのような「ネットワークの再生」が可能なのか

ISでの研究成果 人間活動を含めた生態系ネットワークを どのように調べ評価できるのか、検討をおこなった 資料の収集、整理 利用可能な技術・設備の検討 調査地域における研究・連絡体制の構築 適切な研究チームの構築 国際プログラムおよび関連プロジェクトとの連携の検討

両調査地域内の生態系の食物網構造を 把握する手法を検討した ISでの研究成果 既存のデータ収集・整理から 両調査地域内の生態系の食物網構造を 把握する手法を検討した d 13 C (‰) 15 N (‰) -19 -21 -23 -25 -27 -29 -31 -5 5 10 サラワク森林 モンゴル草原 植物 (C3, C4) 節足動物(草食・肉食) 家畜・ほ乳類(草食・雑食・肉食) ヒト 植物(C3) ほ乳類 (植物食・雑食・肉食) ヒト? (高津ほか 未発表) (兵藤ほか 未発表) 食物連鎖:N 3.4, C 1.0 安定同位体比の分布 ヒト頭髪の同位体比 δ15N(0/00) C4植物(トウモロコシ) C3植物(イネ、コムギ) 8 10 12 -22 -20 -18 -16 -14 -12 -10 ブラジル アメリカ 日本 モンゴル 沿岸縄文人 オランダ インド菜食者 内陸縄文人 南米先史人 サラワク? d 13 C (‰) 1. ネットワーク理論、生態学の知見とともに、当該調査地に於ける先行研究(中静・市川プロ、和田・藤田プロ)など。 2. 設備:野外観測項目、大規模計算、安定同位体分析、リモートセンシング、統計メタアナリシス… 3. 基地(ランビル、ガチュールト)、現地窓口となる研究室・研究者 4. 現在の協力体制

2) 過去100年に起こった主な出来事を整理した モンゴル遊牧生態系100年史 ISでの研究成果 既存のデータ収集・整理から 政治・経済 資本主義, 社会主義 伝統的遊牧 第一次世界大戦 第二次世界大戦 ナライハ炭坑 操業開始 社会主義体制終焉 日本との外 交関係樹立 政治・経済 ウランバートル 人口100万超す スターリン 虐殺開始 市場経済化 ソ連ーモンゴルー中 国を結ぶ鉄道開通 モンゴル独立 人民革命政府樹立 国土4割鉱区化 毛加工工場完成 キリル文字移行 科学アカデミー設立 土地私有化 人口増開始 主な出来事 乳工場設立 新たな 家畜増 ヤギがヒツ ジを上回る 生態系 牧民生産協 同組合規則 農牧業協同 組合発足 国営農場 指導局設立 寒害 家畜増 農地のピーク 家畜頭数 農地面積 人口 ウランバートル人口 年 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000

2) 過去100年に起こった主な出来事を整理した サラワク熱帯林生態系100年史 ISでの研究成果 既存のデータ収集・整理から 政治・経済 植民地時代 商業伐採の時代 プランテーション の時代 第一次世界大戦 第二次世界大戦 朝鮮戦争 政治・経済 ゴムの国際価格上昇 熱帯材需要の上昇 植民地の領土・歳入拡大政策 伐採キャンプからの米需要 イバン人の入植 パームオイル需要拡大 マレーシアへの編入 道路インフラ開発 地方都市の発展 主な出来事 生態系 ゴムプランテーションの造成 商業森林伐採 オイルパームプランテーション拡大 田の拡大 先住民の入植・林産物採集拡大 小ゴム園増加 農業離れと農地減少 川沿いでの焼畑 道路沿いでの焼畑 保護区の設定 原生林面積 人口 プランテーション 年 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000

3) シナリオに必要となる変数を検討した いろいろな条件 生態系の変化 モンゴル 生態系ネットワーク サラワク ISでの研究成果 既存のデータ収集・整理から 3) シナリオに必要となる変数を検討した いろいろな条件 生態系の変化 ・カシミヤ国際価格 ・家畜の数・種類 ・都市周辺への人口集中 ・総人口の増加 ・鉱山の開発 ・土地所有制度 モンゴル ・草原土壌の生産性 ・草原植物の被度と多様性 ・動物の多様性と密度 ・局所的気候(乾燥度) 生態系ネットワーク サラワク ・南洋材、パーム油、ゴムなどの国際価格 ・民族特有の文化・習慣 ・道路の延長補修 ・土地所有制度 ・土地利用の変化 ・植物の受粉と種子分散  森林の変化 ・動物の多様性と密度 ・局所的気候(乾燥度)

4) 生態系ネットワークのモデルの 理論基盤を整理した ISでの研究成果 既存のデータ収集・整理から 4) 生態系ネットワークのモデルの  理論基盤を整理した ネットワーク理論 さまざまな研究分野で使われている インターネット(情報科学) 人間関係、社会構造(社会学) 遺伝情報の発現、生合成代謝経路(ミクロ生物学) 生物種間の相互作用、物質循環(マクロ生物学)  異なる分野のネットワークで共通の性質が発見されている クラスター構造 スケールフリー性 スモールワールド現象  生態系ネットワーク理論  自然界のネットワークには特徴的な構造がある  複雑性(構造)と安定性にはどのような関係があるか  自然界のネットワークは安定な構造をしている  複雑な食物網における動態がどこまで予測できるか

研究プロセスと期待される成果 ISでの研究成果 プロジェクトの見通しを得た 人間活動と生態系ネットワーク構造変化の関係を 1.現実のネットワークの把握 2.シナリオ提示型   予測モデル 3.一般理論 人間活動と生態系ネットワーク構造変化の関係を 2地域において明らかにする 観測と調査によって現状の生態系ネットワークを記述・理解する 特に人間活動の影響が急激に大きくなった過去100年間の変化を把握する 2. 異なるシナリオに基づいた生態系ネットワークの 予測と評価のモデルを示す データに基づく地域シミュレーションモデルを構築する 異なる条件に対する応答予測のセットをシナリオとして提示する  (短期的予測:5年、長期的予測100年) 生態系ネットワークを考えることによって 地球環境問題に新しい視点を与える どのようなネットワークの構造が地球環境問題を引き起こすのか 環境問題の解決にどのような「ネットワークの再生」が可能なのか

人間活動と生態系ネットワーク構造変化の関係:モンゴル 期待される成果 現実のネットワークの把握 人間活動と生態系ネットワーク構造変化の関係:モンゴル 食用植物 耐性植物 送粉者 オオカミ 植食昆虫 家畜 河川 農地 森林 遊牧民 飲用 涵養 競争 食用 間引き 生息 送粉 アルカリ土壌化 食害 定住 糞尿 菌根菌 バクテリア 土壌節足動物 養分 分解 有機物の供給 世界 都市 汚濁 輸出 商品 木材 サブシステム間 サブシステム内 放牧 草原 モンゴル草原の生態系ネットワーク 太い線で示した関係は近年急激に強くなったと考えられるリンク 森 草 砂 南北の乾湿経度に沿った各気候帯に成立する草原、森林、砂漠に調査地を設け、モンゴル全体の生態系ネットワークを把握する これまでの気候要因から植生を予測するモデルと比較することにより、生態系ネットワークを考慮することの効果がわかると期待される

人間活動と生態系ネットワーク構造変化の関係:サラワク 期待される成果 現実のネットワークの把握 人間活動と生態系ネットワーク構造変化の関係:サラワク 低地 奥地 送粉者 イノシシ 植食昆虫 河川 焼き畑 二次林 イバン 涵養 儀式 食用 食料 狩り 種子散布 生息 送粉 蜜・防衛 食害 散布 移動 糞尿 菌根菌 バクテリア 土壌節足動物 養分 分解 有機物の供給 競争 世界 都市 汚濁 輸出 商品・労働 木材 商品 飲用 サブシステム間 サブシステム内 原生林 サラワク熱帯林の生態系ネットワーク 太い線で示した関係は近年急激に強くなったと考えられるリンク、点線は弱くなったリンク 種子 花 実生 成木 樹木 種子散布者 プランテーション 土地利用変化 捕食者 アリ 獣害 汚染 開発が進む低地と過疎の傾向がみられる奥地で調べることにより、サラワク全体の生態系ネットワークを概観する 急速な土地利用や生態系改変が間接的にもたらす生態系サービスの低下を定量的に示す

異なるシナリオに基づいた 生態系ネットワークの予測と評価のモデル 期待される成果 2.生態系ネットワークの予測と評価 異なるシナリオに基づいた 生態系ネットワークの予測と評価のモデル シナリオ1 シナリオ2 広 狭 遊牧範囲 ヤギ:ヒツジ ヒツジ ヤギ 農地面積 評価 制御可能なオプション 未来予測 生態系ネットワークモデル 短期的収入(3年) 少 多 長期的収入(20年) 降水量 少 多 遊牧不適地 少 多 カシミア価格 狭 広 制御不能な変動要因 植物の種多様性 安 高 雪害 少 高 軽 重

環境問題を生態系ネットワークの 視点から捉える 期待される成果 3.生態系ネットワークが与える新しい視点 環境問題を生態系ネットワークの 視点から捉える 人間 サブシステム 種 1)かつて いろいろなものを少しずつ生態系からえていた 例えば 人間 2)環境問題の顕在化 一つの資源を集中的に使うことでリンクの数を減らしている  生態系サービスの低下  系の不安定化  多様性の喪失  持続性の低下 人間 3)生態系ネットワークの再生 人間の生態系の利用を分散する 生態系サービス、安定性などからみて重要なリンクを特定し、再生する

FSの研究計画 ・ 本プロジェクトの計画および研究体制の検討を行い、 FSの研究計画 既存のデータからモンゴル草原、サラワク熱帯林の生態系ネットワークの骨格を検討し、不足している情報を特定する(データの分析、現地調査) 1. ネットワーク理論、生態学の知見とともに、当該調査地に於ける先行研究(中静・市川プロ、和田・藤田プロ)など。 2. 設備:野外観測項目、大規模計算、安定同位体分析、リモートセンシング、統計メタアナリシス… 3. 基地(ランビル、ガチュールト)、現地窓口となる研究室・研究者 4. 現在の協力体制  ネットワークの解析や予測に、どのようなモデル、   アルゴリズムを使えるのか検討する ・ 本プロジェクトの計画および研究体制の検討を行い、   最終的にそれらを決定する

研究組織 FSの研究計画 研究代表者 山村則男(京大・生態研) 研究協力者 理論モデル班 サラワク熱帯林班 中丸麻由子(東工大・社会理工学) 研究代表者     山村則男(京大・生態研) 研究協力者 理論モデル班 中丸麻由子(東工大・社会理工学) 大串隆之(京大・生態研) 近藤倫生(龍谷大学・理工学部) 経済・社会班 市川昌広(地球研) 諸富 徹(京大・経済) 小長谷有紀(民博) サラワク熱帯林班 酒井章子(京大・生態研) 中静 透(東北大・理) サラワク森林研究所 モンゴル草原班 藤田 昇(京大・生態研) 石井励一郎(地球環境フロンティア) モンゴル科学アカデミー地理生態学研究所