安全保障政策の体系 - 国防・同盟・多国間協力の諸類型 - 安全保障論 (第2回) 担当:神保 謙
第1回授業のレビュー 安全保障の概念の多元化 「対称的脅威」と「非対称的脅威」の性質 9.11後の安全保障の特質 「空間軸」の変化 ⇒ 「空間横断型安全保障」の出現 「時間軸」の変化 ⇒ 「時間の歪んだ安全保障」の出現
脅威の座標軸 非対称脅威とWMDの結びつき 台頭する中国への対処 小規模紛争への対処 High Intensity 非対称 対称 旧ソ連 +WMD +WMD 中国 非対称脅威とWMDの結びつき 台頭する中国への対処 北朝鮮 非対称 経済秩序の破壊・混乱 国家統合の破綻による政治危機 対称 テロリズム 南沙諸島領有権問題 小規模紛争への対処 国際組織犯罪 小規模越境紛争 大規模災害等 Low Intensity
空間横断の安全保障? National Level Security 日本有事 Regional Level Security 周辺事態 イラク支援特措法 テロ特別措置法 PKO協力法 Global Level Security?
弾道ミサイル脅威に応じた拒否的抑止力、対処能力(MD)の必要性 脅威と紛争のスペクトラム概念図 弾道ミサイル脅威に応じた拒否的抑止力、対処能力(MD)の必要性 対処 伝統的(対称的)脅威 脅威の烈度 外交 弾道ミサイルと結びついた対称的脅威 対処 外交 抑止 新しい(非対称的)脅威 被害局限 脅威の質の差 復興・安定化 国家・国際総合力によるリスク・ヘッジ 予防 先制行動 紛争のスペクトラム 平 時 危 機 有 事 収 拾
第2回講義の目的 脅威の概念を理解する 安全保障政策の類型を理解する・・・ 主体(国家・非国家主体・個人)に危害・損害を与える(可能性のある)「意図」と「能力」 安全保障政策の類型を理解する・・・ 誰が (Who?) 何を (What?) 何から (From Who/What?) どのように (How?) 誰と (With Whom?) 守るのか (Defend / Secure)
脅威の概念の類型 脅威を与えるもの 国家 非国家主体 事物 (環境・疾病・・ 地震など) 国内 国際 脅 威 を 受 け る も の 伝統的国際紛争 反乱・内戦 テロリズム 投機的資金 環境・感染症 自然災害 対テロリスト 民族抑圧 Communal Conflict 国際組織犯罪 PMC(?) 個人 政治的弾圧 犯罪 国際組織犯罪 (誘拐・詐欺) (出所)山本吉宣「アジア太平洋の安全保障の構図」をもとに編集 山本吉宣編『アジア太平洋の安全保障とアメリカ』(彩流社、2005年)
〔新中世圏〕 〔近代圏〕 〔混沌圏〕 主要先進国 平均寿命60歳以上 1人当たりGDP 1万ドル以上 1人あたりGDP1万ドル未満 UAE ブルネイ バーレーン サウジアラビア シンガポール クウェート 〔新中世圏〕 主要先進国 1人当たりGDP 1万ドル以上 オマーン リビア シリア 〔近代圏〕 マレーシア メキシコ トルコ 韓国 ポーランド 南アフリカ 1人あたりGDP1万ドル未満 平均寿命60歳未満 〔混沌圏〕 スーダン ルワンダ エチオピア コンゴ ジンバブエ インド ナミビア マラウィ (出所) 田中明彦『新しい中世』(日本経済新聞社、1996年)
「防衛計画の大綱」にみる脅威認識・政策・制度 グローバル リージョナル バイラテラル ナショナル 脅 威 認 識 政 策 制 度 国際テロリズム ゲリラ・特殊部隊 北朝鮮 中国 島嶼部侵略 極東ロシア WMD・ミサイル拡散 弾道ミサイル攻撃 中東から東アジア に至る地域 日米間の緊密な協力 日米防衛協力 統合運用強化 ODAの戦略的活用 情報機能強化 国連改革 ARF(信頼醸成・予防外交) 国際平和協力活動 国際平和協力法 日米防衛協力の ガイドライン 日米安保条約 自衛隊法 対テロ特措法 有事関連法制 周辺事態法 イラク支援特措法 国民保護法製
まとめ 脅威認識 国家 vs 国家 の軸から「多元的脅威」へ 「脅威」(threat)から「能力」(capability)への注目 各国によって異なる優先順位 ⇒ これらの「脅威」に対応する安全保障政策の枠組 を歴史的経緯を踏まえて理解してみよう
戦争の違法化と武力使用の限定化 侵略戦争の違法化 1929年 不戦条約 1945年 国連憲章 武力行使の正当性 個別的・集団的自衛 侵略戦争の違法化 1929年 不戦条約 1945年 国連憲章 武力行使の正当性 個別的・集団的自衛 国連憲章第7章に基づく武力行使
国連憲章による自衛権の規定 第51条[自衛権] この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武 力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の 平和及び安全の維持に必要な措置を取るまでの間、個別 的または集団的自衛の固有の権利を害するものではない。 この自衛権の行使に当たって加盟国がとった措置は、直 ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、こ の措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維 持または回復のために必要と認める行動をいつでもとる この憲章に基づく権能及び責任に対しては、いかなる影 響を及ぼすものではない。
国連憲章第7章に基づく武力行使 第42条[軍事的措置] 安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。
個別的自衛と集団的自衛 B C A 集団的自衛 Collective Defense 個別的自衛 Individual Defense
日米安全保障条約 第5条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。 前記の武力攻撃及びその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない。
集団的自衛の発展型 E F D A C B
北大西洋条約機構(NATO) 第5条 締約国は、ヨーロッパまたは北アメリカにおける1以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。・・・そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第51条の規定によって認められている個別または集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復しかつ維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む)を、個別的に及び他の締約国と共同して直ちにとることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。
自衛権行使の要件 武力攻撃が存在すること(憲章) 安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置を取るまでの間に限ること(憲章) 攻撃態様に対する比例性(proportionality)の原則が守られること(一般国際法) 原状回復の目的を超えてはならないこと(一般国際法)
自衛権発動の3要件(日本) 憲法第9条の下で認められる自衛権の発動としての武力の行使 について、政府は、従来から (1)わが国に対する急迫不正の侵害があること (2)この場合にこれを排除するために他の適当な手段がないこと (3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと という三要件に該当する場合に限られると解している。 ―『防衛白書』(各年度版)
集団的自衛権(日本) 国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有するとされている。わが国は、主権国家である以上、当然に集団的自衛権を有しているが、これを行使して、わが国が直接攻撃されていないにもかかわらず他国に加えられた武力攻撃を実力で阻止することは、憲法第9条の下で許容される実力の行使の範囲を超えるものであり、許されないと考えている。 ―『防衛白書』(各年度版)
集団的安全保障 E A D F B C
国際安全保障システムの類型 a1 抑止・対抗型 (同盟) b1 域外脅威対処型の同盟 a2 (COCOM型) b2 (MTCR型) c1 脅威の性格 特定 不特定 a1 抑止・対抗型 (同盟) b1 域外脅威対処型の同盟 a2 (COCOM型) b2 (MTCR型) c1 危機管理 d1 集団安全保障 c2 共通の安全保障 d2 協調的安全保障 非包括 包括 非包括 包括 外 部 内 部 脅威の所在 (出所)山本吉宣「協調的安全保障の可能性—基礎的な考察」 『国際問題』第425号(1995年8月)4頁
冷戦期の2戦域(theater) ワルシャワ 北大西洋条約機構 条約機構 アジア戦域 欧州戦域 (第2戦域) (第1戦域) 米国との二国間安全保障関係
冷戦期の2戦域(theater) ワルシャワ 北大西洋条約機構 条約機構 アジア戦域 欧州戦域 (第2戦域) (第1戦域) 米国との二国間安全保障関係
共通の安全保障
協調的安全保障
“Double Track”構造の成立? 勢力均衡(抑止・対処) 同盟関係 多国間安全保障協力 協調的安全保障(信頼醸成・予防外交) 勢力均衡(抑止・対処) 同盟関係 多国間安全保障協力 協調的安全保障(信頼醸成・予防外交) 基盤の提供
同盟と多国間安全保障の枠組み ARF 日米同盟 米韓同盟等 PSI 有志連合 双務化 国連・地域集団安全保障 レジーム? 中国 北朝鮮 強制型 高 中国 日米同盟 米韓同盟等 北朝鮮 (枠組みの性格) (脅威の烈度) テロリズム PSI 有志連合 地域紛争 友好協力条約 多国間共同演習等 WMD拡散 海賊 破綻国家 国際組織犯罪 予防・対話型 ARF 低 非対称的 (脅威の対称性) 対称的 包含的 (枠組みの性格) 限定的
同盟と多国間安全保障の枠組み 攻防均衡・双務化 ⇒ 伝統脅威対処 対処 日米同盟 枠組みの重層化 ⇒ 多層的な安全保障 抑止 国連 ⇒ 伝統脅威対処 対処 対称的脅威 日米同盟 枠組みの重層化 ⇒ 多層的な安全保障 抑止 国連 多国間枠組の整備⇒ 新しい脅威対処 復興・安定化 非対称的脅威 予 防 PKO等 共同演習 PSI等 多国間安全保障 紛争のスペクトラム 平 時 危 機 有 事 収 拾 (※多国間安全保障には、国連枠組内・外の有志連合を含む)