脳性まひ児ケアーのための タイプ別基礎講座 総論 (社)大阪府理学療法士会 障害児保健福祉部 藪中良彦
子どもの理学療法の変遷 以前の理学療法は、 各子どもの能力をいかに向上するか のみに注意が向いていた
ある子どもの能力では、練習しても着替えを一人で行なえるようになることが難しい → 個人の能力の向上には限界がある ボタンの無いシャツは着ることができるが、ボタンが着いているシャツは一人では着れない → 要求される課題によって、子どもはできたり、できなかったりする
手摺の整備されたトイレでは一人でトイレ動作ができるが、手摺が整っていない自宅では難しい → 環境によって、子どもはできたり、できなかったりする
子どもの能力を向上するだけでは、子どもさんとご家族の生活の質の 向上を援助できないことが多い
生活の質の改善 子どもの能力 生活の質の改善 日常生活の課題 日常生活の環境
小学校2年生の 痙直型四肢麻痺児 (身体が硬く、動きにくい) のトイレ動作のビデオ
環境 個人の能力 手摺 適切な大きさの便座 ウォッシュレット 一人でトイレ動作可能 課題 一人でトイレ動作を行なう
環境 個人の能力 普通のトイレ 子どもさんの能力 介助歩行の練習 介助者の能力 介助歩行の介助の練習 課題 介助者と一緒にトイレ動作を行なう
生活の質の改善 子どもの能力 生活の質の改善 日常生活の課題 日常生活の環境
生活の質の向上のためには 1.子どもの能力の維持・向上 介助によって立つことができ、数歩ステップできる子どもさんの場合 日常生活において 介助されて立って数歩歩いて便器に移動 → 立つ機能の維持・向上 いつも抱き上げられて便器に移動 → 立つ機能の低下
生活の質の向上のためには 2.日常生活の課題の検討 時間は掛かるが上着を一人で着ることができる子どもさんの場合 日常生活において 朝は時間が無いので、介助者が上着を着せる 夕方時間がある時は、一人で上着を着る
少し工夫するだけで、子どもさんが楽に行なえることが増える 生活の質の向上のためには 3.環境調節の検討 スプーンの柄を太くする スプーンを握りやすくなる スプーンを使いやすくなる 少し工夫するだけで、子どもさんが楽に行なえることが増える
生活の質の向上のためには 「がんばれ、がんばれ」と子どもの能力の向上を目指すだけでは難しい 子どもさんに行なう能力があるにも関わらず、ほとんどの日常の課題を介助者がしてしまう → 子どもの機能の低下
生活の質の向上のためには 車いすを家の中で使えるように家の中の段差をなくしたり、家に手摺の完備された広いトイレを作るなどの環境整備がいつもできるわけではない
生活の質の向上のためには どの部分は子どもさんにがんばってもらうか、 どの部分(課題)は介助者が手伝うか、 どの部分の環境設定を行なうかを、 1日の生活及び1週間の生活の流れの中で、 考えることが重要である
先程のビデオの 痙直型四肢麻痺の方の 現在(12年後)の様子
現在でも手摺とウォッシュレットが付いたトイレでは一人でトイレ動作が可能 トイレ動作機能の維持 学校や施設のトイレに手摺が完備 毎日の生活のトイレ動作の中で立位活動 現在でも手摺とウォッシュレットが付いたトイレでは一人でトイレ動作が可能
ご家族の介助量の軽減 毎日の生活の中に立位動作が定着 現在でも家族の方と介助歩行 ご家族の介助量が少ない
多くの子どもさんの場合、リハビリを受ける時間は、多くて週に1回 成長に従いいろいろな活動に参加することも増え、リハビリを受けるのが月に1回程度 その機能を維持していくためには、その機能が日常生活の中で発揮され定着することが非常に重要 ある機能を獲得 するために リハビリテーションは有効
理学療法士の役割 子どもとご家族の生活の質の改善 運動能力や認知/知覚能力の改善を通して、子どもの能力の向上 子どもに日常的に関わる方たちと協力して、子どもが日常生活で要求される課題や 課題を行なう環境へのアプローチ 子どもとご家族の生活の質の改善
生活の質の改善のために 日常生活で子どもに関わるご家族や先生や保育士やヘルパーの方と協力して 日常生活の把握:子どもさんとご家族が生活の中で直面する問題の把握 生活の質の改善のために取組むべき事柄の決定:個人の能力・課題・環境
リハビリテーション部門での取組み 日常生活での取組み 生活の質の改善
理学療法士の活用 脳性まひの子どもたちの療育において、 理学療法士は黒子に過ぎず、 日常生活を子どもたちと共に過ごすご家族や 先生や保育士やヘルパーの方が主役である 日常で直面する問題について、理学療法士が援助できそうなことは何でも相談していただき、ドンドン理学療法士を使って行っていただきたい
日常生活の関わり方の重要性 日常生活の質の改善が第一の目標であるので、日常生活で子どもたちとどのように関わるかが 非常に重要である もちろんそれぞれの子どもさんは違うが、 脳性まひの子どもたちにはいくつかのタイプがあり、 それぞれのタイプの特徴とケアーのポイントがある
今回の講座の目的 日常生活で脳性まひの子どもたちと関わる 先生や保育士やヘルパーの方に 脳性まひ児の各タイプの 特徴とケアーのポイントをお伝えし、 脳性まひの子どもたちに関わる方が、 少しでも自信と見通しを持って子どもたちに 関われるようにお手伝いすること
今回の講座の目的 子どもたちの療育を発展させていくために 今後より一層協力関係を強くしていくことを お願いすること
脳性まひ児の定義 受胎から新生児(生後4週間以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的なしかし変化しうる運動及び姿勢(posture)の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅滞は除外する。 [厚生省脳性麻痺研究班 1968]
原因が生じる時期 妊娠中や出産時に、脳の正常な発達を妨げ脳性麻痺を引き起こす可能性のある多くのことがある
約70%のケースにおいては脳の損傷が出産前に起こるが、少数のケースでは出産前後または生後1ヵ月以内に 脳の損傷が起こる 多くのケースにおいては、脳性麻痺の原因はよく分からない
原因 現在知られている原因には以下のものがある 妊娠中の感染:風疹、サイトメガロウイルス(ウイルス感染)、トキソプラズマ症(寄生性感染)、羊水/胎盤/尿路を含む母体の感染など
原因 胎児に届く酸素の不足 未熟性:1,500g以下の未熟児は、満期産児に比べ脳性麻痺を患うリスクを最高で30倍持つ 分娩と出産の合併症:出産時の仮死は、 脳性麻痺の原因の10%程度である
原因 血液型不適合 他の出産時損傷:脳形成不全、多くの遺伝疾患、染色体異常、他の身体的損傷 後天的脳性麻痺:約10%の脳性麻痺児は、生後2年間に起こった脳損傷による脳性麻痺児である。最も一般的な原因は、脳の感染(髄膜炎)と頭部外傷である
合併症 精神発達遅滞又は学習障害:50~75% 言語障害:25% 聴覚障害:25% 痙攣:25~35% 視覚障害:40~50% (Batshaw and Perret, 1992; Schanzenbacker, 1989)
脳性まひ児の分類 身体の動きによる分類 障害の部位による分類 今回は、大きく5つのタイプに分類
身体の動きによる分類 1.腕と脚が硬く動きの少ない子ども 痙直型 2.不随運動があり動きの多い子ども アテトーゼ型 (失調型) 3.障害が重く動きの大変少ない子ども 重障児
痙直型 1.腕と脚が硬く動きの少ない子ども 腕や脚の筋肉の緊張が高く硬い 胴体は、硬い子どもとぐらぐらと不安定な子どもがいる 動くことが難しく、動きの範囲が狭い 努力して動く。いろいろな動きが難しく、同じような動きで動く 筋肉が短くなったり、身体の変形が生じたりしやすい
アテトーゼ型 2.不随運動があり動きの多い子ども 動きが突発的で、予想しにくい 姿勢を保つことが難しい 非対称的になりやすい(例えば、頭をまっすぐに向けることが難しい)
重障児 3.障害が重く動きの大変少ない子ども 身体が硬い子どもさんの場合と低緊張の子どもさんの場合がある 動きが非常に少ない 介助しないとずっと同じ姿勢をとっている
重障児 3.障害が重く動きの大変少ない子ども 身体を動かせないだけでなく、食事やトイレや睡眠や呼吸や痙攣などの問題も併せ持っていることが多い 動かされることを怖がることがある 身体の変形や関節の脱臼を起こしやすい
障害の部位による分類 片まひ:痙直型
両まひ:痙直型
四肢まひ: 痙直型 アテトーゼ児 重障児
脳性まひ児のタイプ 痙直型片まひ 痙直型両まひ 痙直型四肢まひ アテトーゼ児 重度児 失失調型 低低緊張児