日本プライマリ・ケア連合学会 札幌 あさお診療所 梶原診療所 西村 真紀 恒川 幸子

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2011.7 日本プライマリ・ケア連合学会 札幌 あさお診療所 梶原診療所 西村 真紀 恒川 幸子 診療所における 子宮頚がん検診の 取り組み 2011.7  日本プライマリ・ケア連合学会 札幌 あさお診療所   梶原診療所 西村 真紀    恒川 幸子

20代30代のがん発症率の推移 子宮頸がんは20代から30代で増加傾向にあり、乳がんを抜いてこの年代に発症するがんのトップになっています。子宮頸がんは主に性交渉を介してヒトパピローマウイルス(HPV)感染によって発症するためです。

あさお診療所での取り組み 啓発パンフレットの作成 啓発ポスターの作成 子宮頚癌検診の実施 質改善のためのアンケート調査 当診療所では啓発活動とともに、2008年より家庭医による子宮頚がん検診の実施を開始し、2009年には検診普及に関する質改善のためのアンケート調査を実施しました。 以下、子宮頸がん検診を検診と略させていただきます。

前回調査の結果 子宮頸癌の原因がHPVであることの認知度は 低い 子宮頚癌検診を受けるきっかけとしてはクー ポンなど国や医療機関からの積極的な働きか けが必要 家庭医による子宮頸癌検診は受け入れられる 検診の施行にあたっては多くが女性医師を希 望している。 2010年のアンケートでみられた傾向は、子宮頚がんについて一般的認知度が低いことと、国策としての普及活動が十分でないこと、家庭医による検診も十分に受け入れられること、検診においては女性医師が望まれるということでした。

目的 前回の調査結果を踏まえ、調査対象を広げて (婦人科を標榜しない)診療所における家庭 医による子宮頚がん検診が検診の普及に果た す役割をさらに検証し、検診率の改善を目指 す 男性家庭医による子宮頚がん検診が受け入れ られるか調査し、家庭医研修における婦人科 研修の工夫につなげる。 目的です。2009年に行ったアンケート調査を踏まえて、家庭医による検診が検診の普及に果たす役割を他施設での意識調査と比較することで再度検証し、それらを評価、考察することで今後の取り組みに役立てます。また、家庭医による検診の実施にあたっては男性医師による施行も前提となるため、その影響を確認することで、今後の家庭医研修の工夫にもつなげていきたいと考えます。

調査した診療所の特徴 あさお診療所  神奈川県川崎市 閑静な住宅地  常勤医師は家庭医と研修医2名  外来も往診も行う   一月のレセプト:800  子宮頸がん検診を家庭医が行っている  調査を行った診療所の特徴を少しお伝えします。 あさお診療所は新宿から西へ電車で22分の所にある小さな教育診療所です。 梶原診療所は東京北区の下町にある大きな教育診療所で家庭医以外に専門医がいますが婦人科はありません。

調査した診療所の特徴 梶原診療所 東京都北区 下町 常勤医師は 7名  東京都北区 下町  常勤医師は 7名 (うち家庭医3名、研修医は非常勤で1名)  外来部門・往診部門がある  一月のレセプト:2500~3000   子宮頸がん検診は行っていない 

方法 対象:2011年2月~4月に 家庭医による子宮頚がん検診を行っている診療所(あ さお診療所)と 行っていない家庭医のいる診療所(梶原診療所を 受診した20歳以上70歳未満の女性。  - あさお診療所135名  - 梶原診療所143名 アンケート方式 子宮頚がん検診を受けたことがある人とない人で質問 内容を変えて調査。 方法です。対象は家庭医による子宮頚がん検診を行っている当診療所と子宮頸がん検診は行っていない梶原診療所を受診した20代から60代の女性で、あさお診療所では135名、梶原診療所では143名でした。調査方法はアンケート方式で年齢と検診回数を記載してもらった上で9つの質問に対して無記名で回答してもらいました。回収は診療所内のボックスに投函してもらう方法をとりました。

方法:アンケートの内容1 【子宮頚がん検診を受けたことがある方】 質問① 出産経験について 質問② 検診を受けようと思った理由 質問① 出産経験について 質問② 検診を受けようと思った理由 質問③ ヒトパピローマウイルスについて 質問④ 検診を受けるときに重視すること 質問⑤ 男性医師による検診について 質問⑥ 家庭医による検診について 質問⑦ 内診台の経験の有無 質問⑧ 内診台について 質問⑨ 今後、診療所で検診を受けたいかどうか 質問は検診を受けたことがある方とない方で内容を分けて設定しました。こちらは受けたことのある方用のアンケート内容です。

方法:アンケートの内容2 【子宮頚がん検診を受けたことがない方】 質問① 出産経験について 質問② 検診を受けたことがない理由 質問① 出産経験について 質問② 検診を受けたことがない理由 質問③ ヒトパピローマウイルスについて 質問④ 検診を受けるとすれば重視すること 質問⑤ 男性医師による検診について 質問⑥ 家庭医による検診について 質問⑦ 内診台の経験の有無 質問⑧ 内診台について 質問⑨ 今後、診療所で検診を受けたいかどうか こちらは検診経験がない方へのアンケート内容です。

結果 回答者数 133 121 回収率 99% 83% 平均年齢 51.3 49.5 子宮頸がん検診経験あり 71.4% 67.8% あさお 梶原 回答者数 133 121 回収率 99% 83% 平均年齢 51.3 49.5 子宮頸がん検診経験あり 71.4% 67.8% 結果です。表のように回収率は良好でした。両診療所での平均年齢、検診経験の割合はほぼおなじでした。

結果:HPVの認知度 メディアの影響や子宮頚がんワクチンの日本での承認により、子宮頚がんに関する啓発が進んだと思われます。 HPVについて 前回の調査で知っていた人は13.1%に過ぎませんでしたが、今年は44.3%と大幅に増加していました。 メディアの影響や子宮頚がんワクチンの日本での承認により、子宮頚がんに関する啓発が進んだと思われます。

子宮頚がん検診の啓発

結果:男性医師が行うことについて 次に、男性医師による検診についてです。検診を受けたことがない人の4割以上、経験者では6割以上が男性医師でもよいと答えました。この傾向は男性医師が検診を行っているあさお診療所でも、行っていない梶原診療所でもあまり差はありません。

結果:家庭医が行うことについて 家庭医による子宮頚がん検診が行われているあさおでは、検診経験の有無に関わらず、有意差をもって家庭医またはどちらでも良いと答えた人が75%にのぼりました。一方、検診が行われていない梶原でも半数以上は家庭医でもよいとしています。

結果:子宮頸がん検診を受けようと思った理由 P=0.018 検診を受けようと思った理由は、クーポンが配布されているあさお地域ではその効果がみられ、配布されていない梶原地域では健診項目に組み込まれることが受診行動につながっていますが、その場合健診を受けない20代30代は子宮頸がん検診を受けるきっかけがないことになります。

結果:子宮頚がん検診を受けたことがない理由 検診を受けない理由は、ピンクで示す「症状がないから」や「面倒だから」「不必要」(p=0.091)など、子宮頚がんに関する一般的な知識が十分でないことによるものと、青で示す婦人科や男性医師への抵抗、漠然とした恐怖感など検査自体に対するものが主体となっています。 診療所間で比較をすると家庭医による検診が行われ、検診の普及活動が行われているあさおでは症状がないからという知識不足の影響は少ないようです(P=0.094). 検査自体への「怖い」という抵抗感についても、あさおではその影響が少ないことから、診療所で検診の普及を図りながら受診の閾値下げることで受診率向上につながる可能性が示唆されます。(重要度↑自信度↑)

結果:検診を受ける際に重視すること 子宮頚がん検診を受ける上で重視することは、いずれの診療所でも検診経験の有無に関わらず、女性医師であること、子宮頚がん以外の婦人科疾患を診てもらえることが上位に挙がりました。 婦人科診察の際にはその他婦人科相談を受けたいという思いが強いようです。子宮頚がん検診を実施する際には、家庭医として一般的な婦人科疾患も相談できることも重要であると考えられます。

内診台の希望 いずれのグループでも緑で示す内診台があった方が良いと答えた人は約二割で、内診台がないことでのデメリットはないと考えられました。検診経験のない人は検診経験のある人よりも内診台はない方が良いと答えており内診台に対する抵抗から検診をためらっていることがうかがえます。

今後の受診希望 家庭医による子宮頚がん検診が行われているあさおでも行われていない梶原でも、オレンジで示す家庭医による検診を受けたいとする割合は3~4割存在し、子宮頚がん検診を家庭医が行うことは受け入れられると推察されます。

考察 子宮頸がん検診に関する啓発は進んでいるが、未受 診者の多くは知識が十分でない。診療所での普及活 動により一定の効果がみられることから子宮頸癌の 正しい知識の普及活動は診療所単位でも積極的に行 うことが望まれる。 検診に関しては婦人科という専門性は必ずしも求め られておらず家庭医による検診は受け入れられ、ま た婦人科疾患の相談窓口としての役割が求められて いる。 男性医師でもよいと約半数の人は考えているが、女 性医師による検診を望む声は大きい。 考察です。子宮頚がん検診の啓発は進んでいるものの、受けない理由はやはり知識不足であり、今後も官民一体となった検診の普及活動が必要だと思われます。また、検診に関しては必ずしも専門性は求められておらず、婦人科疾患を含む幅広い領域を診る家庭医へのニーズが一定数存在することが示唆されました。男性医師でもよいと考えている人は約半数いますが、一方で検診で重視することとして女性医師と答えた人も半数以上いました。

結語 子宮頚がん検診を受けるきっかけとして国や医療 機関の積極的な働きかけは今後も継続が必要。 家庭医による子宮頸がん検診は積極的に行うこと で受け入れられる 男性家庭医による検診の実施は十分可能であるが 、女性医師を選べる環境がある方がなおよいと思 われる。 結語です。子宮頚がん検診を普及させる上で、検診受診のきっかけとなる様々な取り組みは継続的な国策として今後も必要です。また、家庭医による検診の実施は積極的に行うことで検診啓発に大きく寄与することがわかりました。男性家庭医による検診の実施は十分に可能ではありますが、受診時に検者の性別を選択できるなど被検者の気持ちに配慮した工夫を行うことが前提になります。