周産期医療の新しいパラダイムを求めて 中 村 肇 (神戸大・小児科) 兵庫県小児科医会 2002.3.1. 周産期医療の新しいパラダイムを求めて 中 村 肇 (神戸大・小児科)
神戸大学周産母子センター
四半世紀における 我が国の新生児医療の進歩
人口動態統計:1975年と2000年の比較 1975 (昭50) 2000 (平12) 2000 / 1975 1975 (昭50) 2000 (平12) 2000 / 1975 出生数 1,901,440 1,190,547 x 0.63 出生率 (人口千対) 17.1 9.5 x 0.55 合計特殊出生率 1.91 1.36 x 0.71 新生児死亡率(出生千対) 6.8 1.8 x 0.26 平成13年度刊行「母子保健の主なる統計」より
我が国における新生児学研究の足跡 〜1974 新生児学の基礎的研究 未熟児保育・養護 1975〜1980 新生児用医療機器の開発・導入 〜1974 新生児学の基礎的研究 未熟児保育・養護 1975〜1980 新生児用医療機器の開発・導入 積極的な救命医療 1981〜1990 新しい医療技術の普及と地域化 1991〜 新生児医療の再評価 退院後ケア・家族支援
在胎 28週、出生体重 620 g、1976年9月出生
在胎 28週、出生体重 620 g 1976年9月出生
Wedding Party at Kobe Plaza Hotel, July 7, 2002
在胎 28週、出生体重 620 g、1976年9月出生
Symposium on the Newborn The Pediatric Clinics of North America, Volume 17 Number 4, Nov., 1970 Forward The goal of Pediatrics is to help each individual child develop to the limit of his capacity or potential and, thus, increase his chance of becoming a mature, productive, and happy adult. This goal is at the greatest jeopardy in the newborn period. Richard E. Behrman
四半世紀における 超低出生体重児の生命予後と 神経学的予後の推移
超低出生体重児(BW<1,000g) の新生児死亡率 1980 - 2000 日本小児科学会新生児委員会・全国調査から,2001
超低出生体重児(BW<1,000g) の新生児死亡率 1990 - 2000 日本小児科学会新生児委員会・全国調査から,2001
超低出生体重児の神経学的予後 6歳時、394例 厚生省研究班全国調査から, 2002
超低出生体重児の就学について 6歳時、394例 厚生省研究班全国調査から, 2002
超低出生体重児の就学について 6歳時、548例 厚生省研究班全国調査から, 1997
超低出生体重児の予後における問題 脳性麻痺,精神発達遅滞,てんかん,視力障害,難聴 広汎性発達障害 注意欠如多動障害 愛情遮断症候群,被虐待児症候群 依存的な性格になりやすい
Brain Development and Disorders in Fetal and Neonatal Period 胎児・新生児期の脳の発達と障害 Brain Development and Disorders in Fetal and Neonatal Period 脆弱性と可塑性 Fragility and Plasticity
新生児脳と障害因子 低酸素 虚血 薬物 出血 低栄養 新生児脳 感染 脆弱性 可塑性
Brain Development in Fetus from J.Cl. Larroche
Brain Development and MRI 1 month 6 months 1 year 2 years 4 years 12 years
精神・神経・運動機能の発達 神経細胞ネットワーク ミエリン形成 シナプス形成 遺伝的因子 環境因子
中枢神経系の可塑性 成熟した神経細胞は増殖しないが、 ある程度の修復機能をもつ。 新しい神経突起の伸展 シナプス連絡の再構築 Neurotrophic factors
Posthemorrhagic Hydrocephalus Case MT, GA 34w, BW 1,242g, Placenta abruptio, c/s, Aps 0 / 0, IVH and DIC at 3 days of age, VP shunt at 3 M T1 T2 MRI at 10M
Posthemorrhagic Hydrocephalus Case MT at 10 M, DQ 105, hyperactivity
早産で生まれた偉人たち Bonaparte Napoleon 1769 - 1821 Isaac Newton 1642 - 1727 Charles R. Darwin 1809 - 82 Bonaparte Napoleon 1769 - 1821 Jean-Jacque Rousseau, 1712 - 1778 Winston L.S.Churchill, 1874 - 1965
仮死で生まれた偉人たち Johann Wolfgang von Goethe, 1749 - 1832 Thomas Hardey, 1840 - 1928 Pablo Picasso, 1881- 1973
これからの新生児医療 少子高齢社会 「健やか親子21」と 周産期医療整備対策事業の推進 ファミリーケア
117万人 117万人 1.33 1.33
出生数の動き(中位推計) 国立社会保障・人口問題研究所、2002年1月推計 出生率は 2015年には 7.8 (2000年は 9.5)
将来人口の動き(中位推計) 2006年 1億2774万人でピークに達する。2050年には、1億59万人に 国立社会保障・人口問題研究所、2002年1月推計 〔将来人口〕 2000年国勢調査の第一次基本集計結果、同年の人口動態統計の確定数などをもとに推計された国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2002年1月推計)」によると、わが国の人口はゆるやかに増えて、2006年に1億2774万人でピークに達する。その後、人口は減少に転じて、2050年には1億60万人になる。前回1997年の推計では2007年に1億2778万人でピークに達するとされており、人口のピークは前回の推計よりも1年早まった。 人口の高齢化は、前回の推計時よりも進展の度合いを早めている。老年人口(65歳以上)は今後急増し、2014年には3199万人となって4人に1人が高齢者となる。一方、生産年齢人口(15〜64歳)は、出生率の低下に伴って減少していく。この結果、2000年には生産年齢人口3.9人で老年人口1人を支えていたが、2014年には2.4人で支えることになる 2006年 1億2774万人でピークに達する。2050年には、1億59万人に 2014年 4人に1人が高齢者、出生率は 2015年には 7.8 (2000年は 9.5)
人口減少社会の利点と欠点 利 点 欠 点 ①環境負荷の軽減 ①購買力の低下 ②過密国土・過密生活の解消 ②労働力の量的減少・質的低下 利 点 ①環境負荷の軽減 ②過密国土・過密生活の解消 ③一人当たりの社会資本の質的増加 ④教育の質的充実化 ⑤自給自立体制の向上 ⑥生活優先社会への転換 ⑦成熟型社会の実現 欠 点 ①購買力の低下 ②労働力の量的減少・質的低下 ③社会保障費用の負担増 ④少子化による青少年の弱体化 ⑤若者の減少による社会的活力の低下 ⑥家族形態の縮小化・多様化 ⑦地域社会の弱体化 古田隆彦「凝縮社会をどう生きるか」(日本放送出版協会)より(一部改変)
人口減少社会に向けての課題 ① 環境保全に対応した、資源節約型の消費スタイルの確立 ② 少子化の欠点を補うために子育ての社会化 ① 環境保全に対応した、資源節約型の消費スタイルの確立 ② 少子化の欠点を補うために子育ての社会化 ③ 生涯現役・自己責任型の充実した高齢期を送るための制度改革・意識改革 ④ 伝統的家族から多様化する家族形態への変化に対応したライフスタイルの創造 鬼頭 弘「地球人口100億の世紀」(ウエッジ選書)
これからの新生児医療 少子高齢社会 「健やか親子21」と 周産期医療整備対策事業の推進 ファミリーケア
健やか親子21(母子保健の国民運動計画) 課 題 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進 課 題 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援 小児保健医療水準を維持向上させるための環境整備 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の解消 主な目標(2010) ○十代に自殺率(減少) ○十代の性感染症罹患率(減少) ○妊産婦死亡率(半減) ○周産期医療ネットワークの整備(47都道府県)○不妊専門相談センター ○周産期死亡率(世界最高水準を維持) ○乳幼児のSIDS死亡率(半減) ○幼児死亡率(半減) ○子育てに自信を持てない母親の割合(半減) ○出生後1か月時の母乳栄養の割合(増加)
総合周産期母子医療センターの 設置がなぜ進まぬか
総合周産期医療センターの設置状況 H15.1. 設置済み 19 県 設置予定 6 県 予定なし 22 県 平成13-14年度厚生科学研究:周産期医療水準の評価と向上のための環境整備に関する研究 総合周産期医療センターの設置状況 H15.1. 設置済み 19 県 設置予定 6 県 予定なし 22 県
施設ランク別にみた脳性麻痺、未熟網膜症 1995年出生超低出生体重児の3歳時予後から Aランク:超低出生体重児年間入院20例以上、n = 275 Bランク:10例〜19例、n = 277 Cランク:10例未満、n = 205 厚生省研究班全国調査, 1999
1995年出生超低出生体重児の3歳時予後 施設ランク別・体重群別にみた脳性麻痺 1995年出生超低出生体重児の3歳時予後 施設ランク別・体重群別にみた脳性麻痺 BW<750g BW>750g 厚生省研究班全国調査, 1999
施設基準と該当施設数 平成9年度と平成12年度の比較 施設基準と該当施設数 平成9年度と平成12年度の比較 平成13年度厚生科学研究報告書から 平成9年 平成12年 総合周産期母子医療センター2 10 20 (保険認可NICU病棟 ≧ 12 床) 総合周産期母子医療センター1 26 31 (保険認可NICU病棟 ≧ 9 床) 保険認可NICU施設数 165 207 新生児特殊治療施設(NCCU)* 91 124 *日本小児科学会新生児委員会による基準:人工換気可能病床≧3床、 未熟児新生児病棟≧18床、独立病棟・独立看護体制、24時間専任医師勤務
ハイリスク新生児の発生と新生児医療施設 平成13年度厚生科学研究報告書から 平成9年 平成12年 平成9年 平成12年 全出生数 1,191,665 1,190,547 入院ハイリスク児数(対全出生数) 80,624 6.8% 105,083 8.8% 人工換気患者数(対全出生数) 10,674 0.9% 13,962 1.2% 新生児病床のある施設数 555 626 保険認可NICU施設数 165 207 新生児専任医師のいる施設数 124 192 全国平均病床数(対出生1万) 54.0 57.9 必要病床数(対出生1万) 74.7 96.7 出生1万人当たりの必要病床数の算出法: 入院ハイリスク児数 / 全出生数 / 年間病床回転率 x 10,000人、平均在院日数40日から年間病床回転率を9.1として計算した。
ハイリスク新生児の出生数増加 の背景
ハイリスク新生児の発生と新生児医療施設 平成13年度厚生科学研究報告書から 平成9年 平成12年 平成9年 平成12年 全出生数 1,191,665 1,190,547 入院ハイリスク児数(対全出生数) 80,624 6.8% 105,083 8.8% 人工換気患者数(対全出生数) 10,674 0.9% 13,962 1.2% 全国平均病床数(対出生1万) 54.0 57.9 必要病床数(対出生1万) 74.7 96.7 出生1万人当たりの必要病床数の算出法: 入院ハイリスク児数 / 全出生数 / 年間病床回転率 x 10,000人 平均在院日数40日から年間病床回転率を9.1として計算した。
人口動態統計:1980年と2000年の比較 -低出生体重児と母親の年齢- 1980 (昭55) 2000 (平12) 1980 : 2000 出生数 1,576,889 1,190,547 1 : 0.75 <2,500 g 81,659 102,888 1 : 1.26 5.2% 8.6% 1 : 1.65 <1,500 g 5,972 7,900 1 : 1.32 0.4% 0.7% 1 : 1.75 <20 歳 14,590 19,772 1 : 1.36 >35 歳 66,296 141,659 1 : 2.14 平成13年度刊行「母子保健の主なる統計」より
低出生体重児と母親の年齢 2000年 母親の年齢 平成13年度刊行「母子保健の主なる統計」より
これからの新生児医療 少子高齢社会 「健やか親子21」と 周産期医療整備対策事業の推進 ファミリーケア
未熟児をもつ親の養育障害 睡眠・覚醒・栄養摂取のパターン 早産児の早期ファミリーケア 早産 妊娠中の身体的・情動的過程の中断 早産 妊娠中の身体的・情動的過程の中断 母親の子供に対する愛情形成過程の途中である. 子供の誕生に対する準備ができていない. 長期入院中による母子分離. 「絆」形成の失敗. 応答性に乏しい乳児の行動. 親の感情的ストレス 睡眠・覚醒・栄養摂取のパターン 早産児の早期ファミリーケア
新生児医療の今後の課題 IT 革命への対応 危機管理システムの構築 ライフスタイルを重視した個の医療サービス 人間的医療の実践 「すべての新生児が健やかに育ち,幸せな生涯をおくるために」 IT 革命への対応 危機管理システムの構築 品質マネージメントシステムの導入 ライフスタイルを重視した個の医療サービス 人間的医療の実践 「データ中心のEBM」から「患者中心のEBM」へ 「Narrative Based Medicine」 倫理的課題への対応