猫のクラミジア感染症 原因は猫クラミジア:Chlamydophila felisである。

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猫のクラミジア感染症 原因は猫クラミジア:Chlamydophila felisである。 血清学的にはトリ由来クラミジアや他の哺乳動物由来クラミジアと区別される。 C.felisは猫に結膜炎および上部呼吸器疾患を引き起こすが、腹膜炎や胃腸炎も報告されている。

猫のクラミジア症の症状 結膜炎はしばしば片側性であるが、両側性もよくみられる。 呼吸器疾患として軽度の鼻炎、気管支炎、細気管支炎が主であり、肺炎はまれである。 潜伏期間は概ね3~14日であり、適切な抗生物質治療がなされなかった場合には、数週間から数ヶ月持続する慢性感染症となりやすい。 予後は一般に良好で、感染が軽い場合は子猫では2~6週間、成猫では2週間程度で回復する。

猫のクラミジア感染症の診断 臨床症状からの本病の診断は困難である。 McCoy細胞にC.felisを接種後のCPE C.felis 感染McCoy細胞におけるIFA 臨床症状からの本病の診断は困難である。 粘膜上皮細胞におけるクラミジア封入体の検出、PCR法によるクラミジア遺伝子検出、さらに細胞による分離培養、蛍光抗体法による抗原検出がある。 結膜から擦過物を採取する場合には、眼を洗浄液で洗い、0.5%プロパラカインなどで局所麻酔を施した後に、小型のスパーテルで擦り、スライドグラスに塗沫し染色する。 クラミジア分離には滅菌PBSで湿らせた滅菌綿棒で患部から擦過物を採取し、McCoy細胞やCRFK細胞に接種する。

猫クラミジア感染症の予防・治療 猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症、猫白血病および猫クラミジア感染症の5種混合ワクチンが2000年末から市販されている。 ワクチン接種は罹患猫からの病原体の排泄は阻止できないが、症状を軽減させることができる。 治療法は3週間のドキシサイクリン(12時間毎に5mg/kg経口)投与により臨床症状の改善、病原体排泄の阻止が認められるが、本薬は妊娠猫や子猫に投与すべきではない。 アジスロマイシンをはじめに7~10mg/kgを24時間毎に14日間、その後5mg/kgを24時間毎に7日間、さらに5mg/kgを48時間毎に14日間経口投与すれば、ドキシサイクリンと同様の効果がある。

犬・猫のヘモバルトネラ感染症 ヘモバルトネラ感染症は犬と猫の赤血球表面に寄生するリケッチア性病原体Haemobartonella属の感染により生ずる溶血性貧血を主徴とする疾患である。 臨床の現場では犬よりも猫のヘモバルトネラ感染症が良く知られている。 病原体は赤血球表面に付着して感染し、赤血球膜に対して直接的な障害を与えるほか、二次的に抗赤血球抗体が産生されるため溶血性貧血が生じる。

猫のヘモバルトネラ病原体 猫のヘモバルトネラ病原体はこれまでHaemobartonella felisという学名で呼ばれていた。 形態学的特徴からOhio Florida/Oklahoma株およびCalifornia/Birmingham株の2系統の存在が知られ、病原性は前者の方が後者に比べて強いとされてきた。 分子生物学的解析法の発達により、 Ohio Florida/Oklahoma株はMycoplasma haemofelis、またCalifornia/Birmingham株はCadidatus Mycoplasma haemominutumと改名された。 猫の赤血球に感染したヘモバルトネラ病原体は直径0.1 – 0.8μmの球菌ないし短桿菌状の小体として1ないし数個が赤血球膜表面に付着している。

猫のヘモバルトネラ感染症の症状 猫は貧血の発現とともに、発熱、元気消失、食欲廃絶、呼吸速迫、心悸亢進、可視粘膜蒼白、脾腫などの症状がみられる。 重症例では体重減少、黄疸、ヘモグロビン尿症を伴う重度の貧血が認められ、致死的経過をとることもある。 写真はMycoplasma haemofelisの急性感染による重症貧血と診断された5歳の猫で、ドキシサイクリンの投与および輸血により回復した。

犬のヘモバルトネラ感染症の病原体および症状 犬のヘモバルトネラはMycoplasma haemocanisおよびCandis Mycoplasma haemoparvumである。 犬のヘモバルトネラ病原体は0.2 – 0.6μmの球菌ないし短桿菌状の小体だが、猫のヘモバルトネラ病原体と異なり、赤血球上に直鎖状もしくは数珠状に観察される。 犬のヘモバルトネラ感染症は、一般に健常犬では通常不顕性または慢性経過をたどるが、脾臓摘出後あるいは免疫抑制状態において急性転化があるといわれる。 写真は進行中の貧血および血小板減少を主訴として来院した10歳7ヶ月の雑種犬で、ヘモバルトネラ感染による脾腫が誘因となって脾捻転が生じ、脾臓に血液が停滞したため、いっそう重度の貧血が起こり、脾臓を摘出したためにヘモバルトネラ症が急性転化した。

猫(犬)のヘモバルトネラ感染症の診断 罹患動物の末梢血から、16SrRNA遺伝子配列に基づくヘモバルトネラ特異的プライマーを用いてPCRを行うと、犬、猫いずれのヘモバルトネラが存在しても、約170 – 190bpのバンドが得られる。 病原性の強いM.hemofelisまたはM.hemocanisの方が、Candidatusに比べると低い位置にバンドが得られる。 両者の鑑別を明確に行うため、PCR-RFLPを用いる。 猫のヘモバルトネラでは、PCR産物をHindⅢにより切断すると、C.Mycoplasma haemominimumは陽性バンドが117bpと76bpの2本に分かれるが、M.hemofelisは分かれないため、明瞭に区別される。

猫(犬)のヘモバルトネラ感染症の治療および予後 テトラサイクリン22mg/kgを8時間毎に2~3週間経口投与する。 ドキシサイクリン5-10mg/kgを12時間毎に2~3週間経口投与する。 オキシテトラサイクリン25mg/kgを8時間毎に21日間経口投与する。 本病では免疫介在性で溶血が生じるため、プレドニゾロン1-2mg/kgを12時間毎に1~2週間経口投与すると有効な場合がある。 必要に応じて輸液および輸血を行う。 抗生物質の投与によって、ヘモバルトネラは末梢血からいったん消失するが、完全に除去することは困難で、症状が回復した個体でもキャリアーとなる。 予後は一般的に良好であるが、重症例では注意を要する。

猫ひっかき病 猫ひっかき病は、その病名が示すように主に猫の掻傷、咬傷により感染する。特に、ネコノミ(Ctenocephalides felis)が寄生した子猫を飼育している人で多発している。 猫は、寄生したノミの糞便中に排泄された菌をグルーミングの際に歯牙や爪に付着・汚染させ、人へ創傷感染するものと思われる。 猫-猫間の本菌の感染伝播にはネコノミが重要なベクターとなっている。

猫ひっかき病の病原体 Bartonella henselaeが主要な病原体で、猫が自然病原巣である。本菌は、猫体内では赤血球の中に存在している。B. henselaeは小型(2×0.5~0.6μm)のグラム陰性、多形性単桿菌で、鞭毛はなく、発育にヘミン等の赤血球成分を必要とする。 血液寒天培地に塗沫し、35~37℃、5%CO2の気相で培養すると、2~4週間で灰白色、表面が粗造、非溶血性、直径約0.5~1mm程度の微小なコロニーを形成する(右図)。

猫ひっかき病の感染様式

猫ひっかき病の人の感染状況 わが国の猫ひっかき病患者は、全年齢層にみられるが、特に20歳以下に多い。性別にみると、患者の60%以上が女性で、10代と40代の女性に多発する傾向がみられる(表1)。わが国では、この年代の女性は、飼育や世話などで猫と接触する機会が多く、引っかかれる機会も多いと考えられる。 猫ひっかき病は、秋から冬にかけて多発する。この理由として、1)夏のネコノミの繁殖期にB. henselaeに感染した猫が増加し、寒い時期になると猫は室内にいることが多くなる、2)春から夏にかけて誕生した子猫をペットにする時期が秋口に多いため、人はこの時期に猫から受傷する機会が増えるためと考えられている。

猫ひっかき病の猫の感染状況 わが国の飼育猫を対象とした調査では、その7.2%(50/690)がBartonella属菌を保菌していたこと、保菌率は特に南の地方や都市部の猫、3歳以下の若い猫で高いことが示されている(表2、図2)。 また、室外飼育の猫やノミの寄生のあった猫で抗体陽性率が有意に高かったこと(図3)、保菌率と同様に、1~3歳の若い猫や南の地方や都市部の猫で高かったことが判明している。 したがって、わが国の猫のBartonella感染率は、飼育環境、ノミの分布・寄生状況あるいは地域の猫の密度に関係しているものと思われる。

猫ひっかき病の人の症状 定型的な猫ひっかき病では,猫による受傷から3~10日目に菌の侵入部位(通常,手指や前腕)に虫さされに似た病変が形成され,丘疹(図4)から水疱に,また,一部では化膿や潰瘍に発展する場合もある。これらの初期病変から1,2週間後にリンパ節の腫脹が現れる。リンパ節炎は,一般に一側性で,鼠径部,腋窩(図5)あるいは頸部リンパ節に多く現れる。 猫ひっかき病の非定型的な症状は,5~10%の割合で発生する。その症状としては,パリノー症候群(耳周囲のリンパ節炎,眼球運動障害等),脳炎,骨溶解性の病変,心内膜炎,肉芽腫性肝炎,あるいは血小板減少性の紫斑等が報告されている。 B. henselaeの心内膜炎は,猫ひっかき病の非定型的な症状として認められ,特に猫との接触がある心臓弁膜症患者に多くみられる。脳炎は猫ひっかき病の最も重篤な症状の一つで,リンパ節炎を発症してから2~6週後に発症する。多くは,後遺症なしに完全に治癒する。

猫ひっかき病の予防・治療 猫との接触や受傷で直ちに発症することはなく,性格のおとなしい猫を飼い,定期的な爪切り,猫との接触後の手指の洗浄,猫による外傷の消毒ならびにネコノミの駆除等の一般的な衛生対策で対応する。 免疫不全状態にある人は,猫ひっかき病以外の感染症の可能性も考慮して,猫との接触は避けるべきである。 定型的な猫ひっかき病に対して各種の抗菌性物質による治療が試みられているが,その効果は低い。 免疫不全患者に発生した細菌性血管腫や細菌性肝臓紫斑病の治療には,エリスロマイシン, リファンピシン, ゲンタマイシン, ドキシサイクリン, シプロフロキサシン等が有効である。