5/21~6/11 担当講師 柘植謙爾(つげ けんじ) (6)第4章 ゲノム配列の解析

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5/21~6/11 担当講師 柘植謙爾(つげ けんじ) ktsuge@ttck.keio.ac.jp (6)第4章 ゲノム配列の解析 5/21~6/11  担当講師  柘植謙爾(つげ けんじ)  ktsuge@ttck.keio.ac.jp (6)第4章 ゲノム配列の解析 日時:5/21 9:25-10:55 内容:様々な塩基配列の決定法の原理を概説し、その情報を統合してゲノム全体の塩基配列を得る「ゲノムプロジェクト」の方法論を解説する。 (7)第5章前半 遺伝子の機能を調べる 1 日時:5/28 9:25-10:55 内容:ゲノム中の遺伝子の位置を決める具体的な実験手法について解説する。 (8)第5章後半 遺伝子の機能を調べる 2  日時:6/4 9:25-10:55 内容:遺伝子の機能を調べるための、(1)コンピューターによる機能解析、 (2)実際の遺伝子の不活性化による機能解析、について概説する。 (9)第6章 ゲノムがどのようにして機能するかを理解する 日時:6/11 9:25-10:55 内容:ゲノムのタンパク質をコードしている遺伝子から生じたRNA分子の集合体である「トランスクリプトーム」とその翻訳産物の集合体の「プロテオーム」ついてそれぞれの研究方法を概説する。

ゲノム配列を理解する 第5章 5.1 5.2 5.3 本章のねらい ゲノム配列中の遺伝子の 位置を決める 遺伝子の機能を調べる ●コンピュータを使ったゲノム配列解析と実験によるゲノム配列解析の長所と 短所を述べる․ ●オープンリーディングフレーム(ORF)スキャンの基本原理を理解し‚ 真核生物 ゲノムで遺伝子の位置を決める際‚ なぜこの方法ではうまくいかないことがあるかを説明する․ ●ゲノム配列中で機能性RNA遺伝子の位置を決める方法を説明する․ ●“相同性”という用語を定義し‚ 相同性と比較ゲノム学によってゲノム配列中での遺伝子の位置を決める方法を説明する․ ●RNA分子を指定するゲノム配列の場所を同定するのに用いられるさまざまな実験について概説する․ ●遺伝子の機能を同定するのに用いられる相同性検索の利点と限界について評価する․ ●酵母と哺乳類において遺伝子の不活性化と過剰発現させる方法を述べ‚ これを用いてどのように遺伝子の機能を動的できるか説明する․ ●未知の遺伝子がコードするタンパク質の活性を詳しく調べるための技法について概説する․ ●出芽酵母ゲノムの塩基配列のアノテーションについて‚ 用いた方法とこれまでの成果をまとめる․ 5.1 ゲノム配列中の遺伝子の 位置を決める 5.2 遺伝子の機能を調べる 5.3 ケーススタディー:出芽酵 母ゲノムの塩基配列のア ノテーション

5.1 ゲノム配列中の遺伝子の位置を決める 前章で説明した手法によりDNAの塩基配列が得られた場合に どのように遺伝子の位置を決定するか? 5.1 ゲノム配列中の遺伝子の位置を決める 前章で説明した手法によりDNAの塩基配列が得られた場合に どのように遺伝子の位置を決定するか? 2つの方法がある 1.バイオインフォマティックス  (ドライ)  コンピュータを用いて遺伝子に特異的な塩基配列の特徴を探す ●ORFスキャン ●相同性検索 ●ゲノムの自動アノテーション ●機能性RNAの予測 ●比較ゲノム学 2.実験  (ウエット) DNAの塩基配列を実験的に解析することで遺伝子の位置を決定 ●ノーザンハイブリダイゼーション ●ズーブロット法 ●逆転写PCR ●RACE法 ●ヘテロ二本鎖解析 ●エキソントラップ法

2.実験 DNA分子を直接調べるのではなく、遺伝子から転写されたRNA分子の探索による ●アガロースゲル電気泳動 二次構造をとらないように変性剤(ホルムアミド等)を入れて電気泳動すると 大きさに依存して分離することができる。 ●ノーザンハイブリダイゼーション サザンハイブリダイゼーションのRNA版 プローブには、標識RNA分子、標識 DNA分子のいずれも使えるが、一般にRNAプローブの方が感度が高い。 ●標識RNA分子 バクテリオファージT7あるいはSP6のプロモーターを上流に持つ遺伝子断片を 作成し、試験管内でこれらファージのRNAポリメラーゼにより合成する。 ●ポリメラーゼ連鎖反応(逆転写PCR reverse transcriptase-PCR ) 一旦DNAに逆転写してから通常のPCRを行う。RACE法に用いられる。 ●RNAの塩基配列決定法 DNAの化学分解法に似た、配列特異的エンドヌクレアーゼを用いることで可能。 ●スペシャリスト法 RNA分子のDNA塩基配列中の位置をマッピングする手法。たとえば、 RACE法、S1ヌクレアーゼマッピング、エキソントラップ法

RNAのアガロースゲル電気泳動の例 原核・真核を問わず全ての生物からとられた全RNAには 数多くのrRNA(リボソーマルRNA)が含まれている 枯草菌の全RNAのアガロースゲル電気泳動 臭化エチジウム(エチジウムブロミド)で視覚化 見えない部分にもmRNAなどのRNAが大量に存在している。 二次構造をとるので臭化エチジウムで染色されやすい 23S rRNA 16S rRNA

二本鎖DNA・RNAの視覚化 エチジウムブロマイドの2本鎖DNAへの インターカレーションにより蛍光を持つ 臭化エチジウム(エチジウムブロミド)が よく用いられる 臭化エチジウム の構造 エチジウムブロマイドの2本鎖DNAへの インターカレーションにより蛍光を持つ

サザンハイブリダイゼーション(復習) (A)ブロッティング(DNAの膜への転写) (B)ハイブリダイゼーション(特定DNAの検出) ちなみにRNAのブロッティングを ノーザン・ブロット、タンパク質の ブロッティングをウエスタン・ブロット という (A)ブロッティング(DNAの膜への転写) (B)ハイブリダイゼーション(特定DNAの検出) 図2.11

ズーブロット(相同性検索の実験版と言える) 各生物のゲノムDNAを 制限酵素で切断して 電気泳動で分離 ヒトの遺伝子断片をプローブ としてサザンハイブリダイゼーション 検出されたバンドの大きさに違い ヒト遺伝子と相同する 遺伝子が存在することが わかる 対象遺伝子周辺で 制限酵素地図に違いが あることがわかる 図5.12

ノーザンハイブリダイゼーション サザンハイブリダイゼーションのRNA版 サザンハイブリダイゼーション(Southern hybridization) 電気泳動したDNAを膜にブロッティングしたのち 標識したDNAプローブとハイブリダイゼーション。 ハイブリダイズしたDNAの大きさの情報が得られる。 サザンさんが開発(図2.11参照) ノーザンハイブリダイゼーション(northern hybridization) 電気泳動したRNAを膜にブロッティングしたのち 標識したRNAあるいはDNAプローブとハイブリ ダイゼーション。ハイブリダイズしたRNAの大きさ の情報が得られる。洒落で命名 ウエスタンブロッティング(western blotting) 電気泳動したタンパク質を膜にブロッティングしたのち抗体で特定のタンパク質を検出。検出されたタンパク質の大きさの情報が得られる。洒落で命名 図5.11

RACE(cDNA末端高速増幅) 特に5’-RACEといわれる方法 内部配列が少しでも判っていないとプライマーは設計できない 図5.13

3’-RACE法 真核生物のmRNAにはポリAが付加することを利用して mRNAの3’末端側をクローニングする方法 ポリA mRNA 5’- -3’ AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA TTTTTTTTTT ポリT 逆転写 5’- -3’ AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA TTTTTTTTTT 遺伝子内部の 配列を参考に プライマーを 作成 RNaseHで mRNAを分解 TTTTTTTTTT PCRにより増幅 二本鎖DNA

ヘテロ二本鎖解析 S1ヌクレアーゼマッピング mRNAの5’末端(即ち転写開始点)を決めるのによく用いられる 5’- -3’ mRNAの3’末端決定にも用いられる S1ヌクレアーゼ 一本鎖DNAとRNA 部分を全て分解 図5.14

エキソントラップ法 ミニ遺伝子のイントロン中に エキソンが入っていると考えられるDNA断片を導入したベクターを目的の宿主中で転写とスプライシングさせて得られたmRNAの塩基配列を決定することで境界を決定 DNAに変換後 塩基配列決定 図5.15

5.2 遺伝子の機能を調べる 1. 遺伝子機能のコンピューター解析 2. 実験的解析によって遺伝子の機能を決める 5.2 遺伝子の機能を調べる 1. 遺伝子機能のコンピューター解析 ・相同性検索  ・BLASTプログラム 2. 実験的解析によって遺伝子の機能を決める ・遺伝子機能不活性化 ・遺伝子機能の過剰発現 3. 未知遺伝子にコードされたタンパク質の機能    についてのさらに詳細な研究

相同性は進化的なつながりを反映 オーソロガス遺伝子 異なる生物種に存在する相同遺伝子で、その共通祖先はその種間の分岐点以前にある。 パラロガス遺伝子 同じ生物種に存在し、多重遺伝子族。共通祖先は、その生物種の分岐以前以後を問わない 図5.16

相同性検索 (DNA配列とアミノ酸配列) 遺伝子の相同性検索はDNAレベルよりアミノ酸レベルの方がよりはっきりした結果が得られる。 4種類のみ 関係のない遺伝子間(ランダム)でも1/4=25%は一致するという欠点がある。  アミノ酸配列 20種類存在する。関係のない遺伝子間でアミノ酸が偶然一致する可能性はDNA配列よりはかなり低い。

相同性検索 (塩基配列) 16/22=73%の同一性 塩基配列の場合 比較する全長に対する同一の塩基の割合(%)を表したもの 22塩基 相同性検索 (塩基配列) 塩基配列の場合 比較する全長に対する同一の塩基の割合(%)を表したもの 22塩基 16塩基 が一致 16/22=73%の同一性 図5.17

相同性検索 (アミノ酸配列) DNAレベル 18/24=75%同一 アミノ酸レベル 2/8=25%同一(低い) 24塩基 8アミノ酸 相同性検索 (アミノ酸配列) DNAレベル 18/24=75%同一 24塩基 8アミノ酸 18塩基 2アミノ酸 が一致 アミノ酸レベル 2/8=25%同一(低い) 図5.18

BLAST(相同性検索プログラム) 例えばDDBJのBLAST http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html ①与えた配列の種類 (DNA or アミノ酸)と 対象のデーターベース (DNA or アミノ酸) を選ぶ ②ここに好きな配列をテキストで入れる (DNA or アミノ酸) ③送信ボタンを押すと、DDBJ内部のデータベースと相同性の高いデータを示してくれる

BLASTの結果 入れた配列(ランダムに打ち込んだ配列 54 bp)atcgcgtgaggtaaaaatcgccggccccgtggctgagtaagtccccggggtttt 入れた配列の全長のどの部分があっていたかを示す図 検索された配列に関する情報 データベースから検索された配列のうち 同一塩基配列の場所を示している

タンパク質のドメイン -tudorドメインを例に ・ドメイン タンパク質の内部の配列 ・類似するドメイン間では、共通する機能を有する可能性が高い ・tudorドメインはRNA結合にかかわっているようだ 図5.19

相同性検索によりヒト疾患遺伝子の 機能を推定することも可能

実験による遺伝子機能解析 ●遺伝子機能不活性化 ・相同組み換えによる遺伝子破壊 ・相同組み換え以外の不活性化 ●遺伝子機能の過剰発現 未知遺伝子の機能を明らかする最も基本的な方法→ 対象遺伝子を不活性化して表現型を調べる ・相同組み換えによる遺伝子破壊 ・染色体上の標的遺伝子をクローニングベクターの有する破壊遺伝子と組みかえる最も基本的な方法 (酵母 大腸菌 マウスES細胞など) ・マウス等の動物ではES細胞を用いる。 ・相同組み換え以外の不活性化 ・トランスポゾンタギング法(ランダムに遺伝子破壊) ・RNA干渉(遺伝子を破壊せずmRNA分解を促進) ●遺伝子機能の過剰発現

相同組み換えによる遺伝子の不活性化 不活性化する特定の遺伝子のみに狙いを定めて遺伝子破壊する方法 図5.20

相同組み換えによる遺伝子破壊の手順 カナマイシン耐性遺伝子(kanR) PCRなどで取得 図5.21

相同組み換え以外の方法 トランスポゾンタギング法 細胞の中のゲノム中を移動できる塩基配列 “動く遺伝子”と称される。ランダムに移動するので、ランダムな遺伝子破壊によく用いられる http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/PLANT2002/01/14.html (植物と動く遺伝子 トランスポゾンって何?)より転載

相同組み換え以外の方法 RNA干渉(RNAi) 特定のmRNAの分解を促進する方法で、遺伝子機能の不活性化を引き起こす 短い二本鎖RNAを化学合成するか、細胞の内部で二本鎖RNAを合成することで、簡単に不活性化が可能 図5.23

正常な遺伝子の発現量を逸脱するような過剰な遺伝子発現も遺伝子機能を推定するのに有効 遺伝子破壊以外の方法 遺伝子の過剰発現 正常な遺伝子の発現量を逸脱するような過剰な遺伝子発現も遺伝子機能を推定するのに有効 多コピーベクターの利用で細胞内の遺伝子の数を 40~200ぐらいに増やすことができる。 トランスジェニック動物 (遺伝子導入動物) ノックアウト動物 (遺伝子欠損) ノックイン動物 (遺伝子付加置換) と混同しないように!! 図5.24

遺伝子の不活性化や過剰発現の表現型に対する効果は判別が難しい 調べなければならない表現型の範囲は膨大

未知遺伝子にコードされたタンパク質の機能についてのさらに詳細な研究 ●部位特異的変異による詳細な遺伝子機能解析 ●レポーター遺伝子による遺伝子発現の時間的・  空間的解析

部位特異的変導入 遺伝子の内部の一塩基だけ置換するのには有効な方法 図T 5.1

遺伝子を人工的に合成 現在は、短い合成DNA (~150bp)をつなぎ合わせて 遺伝子やゲノムを人工的に 合成することが可能 ヒトのタンパク質を大腸菌で生産 させるときなど、ヒト型コドンから 大腸菌コドンに変換し場合がいいときなど一塩基レベルで遺伝子を作りたいといに有効 今年初め、ベンター博士らが マイコプラズマゲノム(全長 780kb)の完全化学合成に 成功 Science 319, 1215 – 1220 (2008) 図T 5.2

部位特異的変異をした遺伝子を 染色体DNAに戻す方法 第一段階とし標的遺伝子を一回取り除いて抗生物質耐性遺伝子に置換し、 2段階で行う 第一段階とし標的遺伝子を一回取り除いて抗生物質耐性遺伝子に置換し、 第二段階で抗生物質耐性遺伝子を部位特異的変異をした遺伝子に置換 第一段階 第二段階 図5.25

レポーター遺伝子  生物内の遺伝子発現の時間的・空間的パターンを調べるために使われる遺伝子 最終的に光や色を 出すものが判りやすい 図5.26

よく用いられるレポーター遺伝子の例  lacZ GFP 放医研ニュース No.83より転載

免疫細胞化学 主に遺伝子発現の空間的パターンを観察するための手法 蛍光抗体の例 青 アクチン繊維(これは抗体ではない) 主に遺伝子発現の空間的パターンを観察するための手法  蛍光抗体の例 青 アクチン繊維(これは抗体ではない) 黄 ミトコンドリア(蛍光抗体) 赤 核(蛍光抗体) 図16 固定して、透過性にしたHeLa細胞をアクチン線維を標識するAlexa Fluor® 350ファロイジン(A22281)と、ミトコンドリアを標識する抗-OxPhos複合体V阻害タンパク質抗体(A-21355)で染色した。 核は抗-cdc6ペプチド抗体(A21286)で標識した。 抗-OxPhos複合体V阻害タンパク質抗体はZenon® Alexa Fluor® 488マウスIgG1標識キット(Z25002)で、抗-cdc6ペプチド抗体はZenon® Alexa Fluor® 568マウスIgG1標識キット(Z25006)で標識した。 Molecular Probes社HPより 図5.27

出芽酵母ゲノムの塩基配列のアノテーション 5.3 ケーススタディー 出芽酵母ゲノムの塩基配列のアノテーション 出芽酵母ゲノムの特徴 真核生物ではあるが、遺伝子間配列が少なく、イントロンは極めて少ないため、ORF同定が容易である。 約30%の遺伝子が相同性検索から機能同定された 約10%の遺伝子が相同性検索から他の生物にも見出されることが分かっているが機能未同定である。 →オーファン(みなしご)遺伝子ファミリー 約30%の遺伝子が相同性検索から他には見られない出芽酵母固有の遺伝子である。 →単一オーファン遺伝子

酵母ゲノム配列をアノテーション した第1段階の結果 ORF数  6120個 図5.28

トランスポゾンタギング法 図5.29

バーコード欠失法を用いた欠失カセット 図5.30