国立環境研究所 温暖化リスク評価研究室長 江守 正多

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国立環境研究所 温暖化リスク評価研究室長 江守 正多 地球温暖化予測から 衛星観測への期待 国立環境研究所 温暖化リスク評価研究室長 江守 正多

今日お話しすること 地球温暖化予測とは 気温上昇予測の現状と限界 予測精度の向上に向けて   ~衛星観測への期待 温暖化対策との関係

地球シミュレータ ©海洋研究開発機構

20~21世紀の地表気温変化シミュレーション 日本にある世界最大級のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」で計算した。世界の温暖化の計算の中で最も詳細な(格子が細かい)予測。 20世紀半ばから。青いところが産業革命前に比べて気温が低い、赤いところが気温が高い。 自然のゆらぎがあるのが分かるが、2000年にはかなり赤っぽいところが多くなる。

もしも対策をとらなければ、 地球の平均気温は何度上がるか? 100年間で    1.1℃ ~6.4℃ 社会の発展の仕方によって異なる 科学的な予測にも幅がある IPCC AR4 SYR SPM

なぜ,気温上昇量の予測には 大きな幅があるのか? =「気候感度」の問題 温室効果の増大に対して,気候(気温)が どれくらい敏感に反応するか?   どれくらい敏感に反応するか? フィードバック 温室効果 の増大 水蒸気・雪氷 ・雲等の変化 気温上昇 気候感度、最大の難問の一つ。気温が変化する原因を与えたときに、気温がどれくらい敏感に変わるか。 温室効果増大から気温上昇までは比較的よくわかっている。 フィードバック。例えば、温暖化すると水蒸気が増えるが、水蒸気は温室効果気体。 温暖化して雲がどう変化するかを予測するのは難しい。 フィードバックの大きさが気候感度を決める 特に雲のフィードバックの大きさがよく分かっていない

気候モデルの不完全性 Fl Q 大気・海洋の変化を支配している 物理法則の方程式を近似して解く 大気・海洋を3次元の格子 ... Fl Q 大気・海洋を3次元の格子 (数10~数100km)に分割 各格子に風(流速), 温度等の物理量を定義 実際の地球で実験できないので、コンピュータ中に仮想地球を作って実験する。 物理の方程式をコンピュータで解くのだから、さぞ完全と思うかもしれないが、事情があって不完全。 雲粒一つ一つはとても計算できない。 流体力学の方程式で表せない項 (格子以下の現象,雲,雨…) ↓ 半経験的に表現  (モデルの不確かさの原因)

「第一人者が全てを注ぎ込んだ地球の「これから」の予測。温暖化に関心がある人にとっての必読書が誕生した。」 茂木健一郎氏推薦

気候感度の推定の幅を狭める ボトムアップアプローチ トップダウンアプローチ 不確実なフィードバックに関連するモデル中の過程(特に雲過程)の信頼度を増す。 パラメタリゼーションの高度化、精緻化 プロセスレベルの検証、モデル比較 トップダウンアプローチ 過去の気候変動の観測データを基に気候感度に制約条件を課す。 20世紀の温暖化、火山噴火に対する応答、氷河期など。

衛星データによるモデルの雲量の検証 衛星データ 気候モデル 雲の3次元分布が 初めてわかるように なってきた CALIPSO, Jan 2007 MIROC4.5 + simulator, Jan 衛星データ MIROC4.5, Jan 気候モデル 雲の3次元分布が 初めてわかるように なってきた

気候感度を観測データから推定する 過去の放射強制力 が精度よくわかって いない (特にエアロゾル) ↓ 気候感度が精度よく 推定できない 過去の気温上昇=気候感度×(過去の放射強制力 -海洋による熱吸収) 確率 CO2倍増に対する気温上昇 過去の放射強制力 が精度よくわかって いない (特にエアロゾル)       ↓ 気候感度が精度よく 推定できない 放射強制力が 小さければ 感度は高いことに 天気予報で降水確率30%というのと似ている。 いろいろな方法があるが、例えば20世紀の温暖化から逆算する。 観測誤差と自然のゆらぎがあるので結果は確率分布になる。 CO2倍増に対して2℃前後の可能性が高いが、6℃などの可能性も否定できない。 (Gregory et al., 2002)

温暖化対策効果と科学的不確実性 温室効果ガス 排出量 気候-炭素循環フィードバックの不確実性 温室効果ガス 大気中濃度 (自然がどれくらい吸収してくれるかわからない) 気候感度・海洋熱吸収の不確実性 (地球の温度がどれくらい上がりやすいか  わからない) 気温上昇量 社会への影響 海面上昇・極端現象等の不確実性 (災害等がどのくらい増えるかわからない) 未知のプロセス/「サプライズ」の可能性?

気温上昇を何℃に抑えるべきか? ~450ppm CO2-eq 安定化 ~500ppm CO2-eq 安定化 2020年までに先進国25~40%削減 安定化時(~数100年後)に2℃を超えない確率が~50% ~500ppm CO2-eq 安定化 2050年までに世界で50%削減 2100年に2℃を超えない確率が~50% IPCC AR4 SYR SPM

太陽活動が弱まっている? 宇宙線強度 太陽総放射 気温変化 (Lockwood and Frohlich (2007)より) (2009. 6. 1. 朝日新聞夕刊)

まとめ 地球の温度が何℃上がるかの予測には、まだ小さくない幅がある。 今後の温暖化の過程で、エアロゾル冷却効果や雲のフィードバックをよく見極めることにより、地球の温度の上がりやすさがはっきりしてくる。ここで、雲・エアロゾルの高度な衛星観測は本質的な役割を果たす。 それによって、世界に求められる温暖化対策の大きさ(排出削減のスピード)がはっきりしてくる。