宇宙線起源研究の展望 藤田 裕 (大阪大学 宇宙進化グループ).

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宇宙線起源研究の展望 藤田 裕 (大阪大学 宇宙進化グループ)

内容 Cosmic ray escape from supernova remnants 2次粒子 Fermi Bubble and Cosmic rays 超新星残骸の巨大版と考えることができる 活動銀河核での宇宙線加速とニュートリノ Diffuse gamma rays around Sgr A* Clusters of galaxies 宇宙最大の天体での宇宙線加速 まとめと展望

Cosmic ray escape from supernova remnants

銀河系内宇宙線 基本的な理解 起源:超新星残骸 加速:1次フェルミ加速 超新星残骸 SN1006 (by Smithsonian Institution) 衝撃波統計加速(1次フェルミ加速)

起源と加速 ハドロンかレプトンか 加速の詳細 超新星残骸のガンマ線スペクトル (Ackermann, et al. 2013) 粒子シミュレーションによる粒子加速 (Kato 2015)

伝播 超新星残骸で加速された宇宙線はどういう経過をたどって地球に届くか 波や乱流による散乱 2次粒子

超新星残骸周辺のガンマ線 超新星残骸周辺の分子雲からγ線が見つかることがある Gamma-ray Map W 28 Gamma-ray emission from the SNR W28 Aharonian et al. (2008) Molecular Clouds SNR 超新星残骸周辺の分子雲からγ線が見つかることがある 分子雲は超新星残骸から出てきた宇宙線に照らされているのかもしれない (ガンマ線は pp-interaction で発生) CR escape (e.g. Ptuskin & Zirakashvili 2005; Lee et al. 2008; Gabici et al. 2009; Reville et al. 2009 ; Caprioli et al. 2010; Ohira et al. 2010; Drury 2010; Casanova et al. 2010; Ellison & Bykov 2011)

観測との比較 銀河系の典型的な宇宙線の拡散係数 拡散時間(E~10 TeV の宇宙線) 超新星残骸の周辺の環境は特別? W 28 (Fujita et al. 2009) 銀河系の典型的な宇宙線の拡散係数 D(E ~ 10 TeV) ~ 3×1029 cm2 s-1 拡散時間(E~10 TeV の宇宙線) Lc2/(6 D) ~ 100 yr 雲の大きさ: Lc ~ 15 pc 宇宙線の加速が終了してからの時間 (~104 yr) よりはるかに短い 現在は衝撃波が弱く、宇宙線加速は行われていない 超新星残骸の周辺の環境は特別? ガンマ線は主に pp 反応(青線) SNR Cloud

超新星残骸からの宇宙線の脱出 MHD波が宇宙線により増幅し宇宙線の脱出を抑える 磁場の構造のせいで、宇宙線の脱出に方向性 波のエネルギー分布 (Fujita et al. 2011) 磁場と超新星残骸の関係 (Malkov et al. 2013)

Secondary particles AMS-02 の観測 陽電子比、反陽子比が高エネルギー側で落ちない 陽電子比 反陽子比 陽電子比                       反陽子比 AMS ホームページより 

2次粒子生成 陽電子、反陽子が宇宙線と星間ガスとの反応でできた2次粒子だとする 加速源から離れた星間空間で反応が起きたとすると、スペクトルは観測のようなハード(高エネルギー側にも多くの粒子)なものにならない 星間空間では拡散の効果でスペクトルはソフトになるべき 加速源付近で反応が起きた? 超新星残骸からまさに脱出しようとしている宇宙線

例えば 密度が高いガス雲での超新星爆発 衝撃波(超新星残骸)で陽子が加速 加速直後に陽子-陽子相互作用で陽電子、反陽子が生成 Kohri, Ioka, YF, Ymazaki (2015) 密度が高いガス雲での超新星爆発 衝撃波(超新星残骸)で陽子が加速 加速直後に陽子-陽子相互作用で陽電子、反陽子が生成 それら陽電子、反陽子が地球に到達 反陽子過剰はPAMELA騒動の時に予言していたりする (Fujita+ 2009) e+ e- p 地球 ガス雲 超新星 衝撃波

Fermi bubble

フェルミバブル 銀河系中心方向に見られる巨大なガンマ線の構造 フェルミ衛星で見つかった 見方を変えると変な天体が見つかる例 もし銀河系中心に存在すれば大きさ ~10 kpc NASA

一様な表面輝度 Sharp edges Hard spectrum 特徴 表面輝度                     スペクトル Su et al. (2010)

代表的なモデル Hadronic + starburst (Aharonian & Crocker 2011) Leptonic + acceleration inside the bubbles (Cheng et al. 2011, Mertsch & Sarkar 2011) すべての特徴を満たすモデルを作るのは難しい CR protons pion decay Inverse Compton CR electrons

Similar to supernova remnants? バブル周囲の衝撃波で加速された陽子からの放射 Surface brightness 中空にならない理由 超新星残骸 一様ガス中に広がる フェルミバブル 中心に集中した銀河系ガスの中を広がる バブルに残ったガスと陽子の反応 (deg) YF, Ohira, Yamazaki (2013) Rsh

Neutrino and Cosmic ray acceleration in AGNs

IceCube どうも銀河系外からニュートリノは来ているようだ IceCube ホームページより

AGN? 天体物理学的な起源を考える場合、有力なのは AGN(活動銀河核) AGN といってもいろいろ 巨大ブラックホール周囲の高エネルギー物理現象でニュートリノができる pγ pp AGN といってもいろいろ QSOs? AGN の中でも最も明るい ジェット ブラックホール 降着円盤 NASA

Accretion disc and low luminosity AGNs ブラックホール周囲の降着円盤中で宇宙線の加速とニュートリノの生成が起きた可能性 クェーサーの場合 降着円盤の密度が高く、粒子分布の緩和が速いので、特別エネルギーが高い粒子(宇宙線)が生まれにくい 降着円盤の温度が低いので、pγ 反応のターゲットの放射光子のエネルギーが小さく、生成されるニュートリノのエネルギーが観測と合わない 低光度 AGN の降着円盤は逆の性質(低密度、高温) 暗いが数は多い IceCube の観測を説明できる (Kimura, Murase, & Toma 2015)

検証 銀河系の中心のブラックホール (Sgr A*) も低光度 AGN 周囲を高密度の分子ガスが覆っている 降着円盤で加速された陽子と反応することでガンマ線が出るはず ニュートリノではなく、ガンマ線で検証 γ γ p 分子ガス 分子ガス Sgr A* p+p p+p p+p p+p γ γ p

Diffuse gamma rays at the Galactic center Sgr A* の過去の活動に依存する >100 年前の活動が今より活発だったら観測と合う 現在の活動は異常に弱い 過去も現在と同じ活動 過去の活動は現在より活発 HESS Fermi YF, Kimura, & Murase (2015)

Clusters of Galaxies

銀河団 スケール 宇宙で最も重い重力的に閉じた天体 質量~1013-15 M 銀河数~10-1000 大きさ~Mpc (van Dokkum et al. 1998)

銀河団をX線で見ると 銀河団のバリオンの大部分は銀河団ガス A133銀河団 X-ray の等強度線を可視光画像に重ねた図 (Fujita et al. 2004) 広がったX線が銀河団ガス(Intracluster medium; ICM)から出ている 銀河団ガスの正体は高温のガス (108 K). 銀河団のバリオンの大部分は銀河団ガス

銀河団ガス (ICM) 質量 温度 (~108 K) 密度 (~10-3 cm-3) X線の放射メカニズム 4-10 × 銀河団中の銀河の総質量 「銀河団」でも銀河は主要な成分ではない 1/4 -1/10 × 銀河団の総質量 一番多いのは未知のダークマター 温度 (~108 K) プラズマ状態になっている 密度 (~10-3 cm-3) X線の放射メカニズム 制動放射 (Bremsstrahlung)

銀河団ガスからの電波放射 シンクロトロン放射 少なくともエネルギーが ~GeV の宇宙線電子が銀河団ガスに存在 Halo Relic Mini-halo (コアで見られる) Feretti et al. (2001) van Weeren et al. (2010) Sijbring (1993) シンクロトロン放射 少なくともエネルギーが ~GeV の宇宙線電子が銀河団ガスに存在 銀河系よりもはるかに密度が低く温度が高い環境での宇宙線加速が必要

銀河団宇宙線の起源 1次電子説(加速された電子がそのまま放射) 電子の冷却時間は ~108yr 電子は電波放射が観測されているその場で加速されている必要がある。 乱流加速説 衝撃波加速説 どちらも起きているのかもしれない 乱流 → halo? 衝撃波 → relic?

乱流加速のメカニズム Fujita, Takizawa, & Sarazin (2003) 銀河団衝突で 流体の乱流が発生 (乱流の寿命は~109yr) 流体の乱流がAlfvén 波を励起 加速された電子から 非熱的放射 乱流状態の Alfvén 波に散乱される 電子が次第に加速 (2次フェルミ加速)

もし本当なら 電波放射が観測されている場所で、ガスの乱流が観測されるべき スペクトル分解能が高い Astro-H (2016年) で、X線ガスの輝線のドップラー効果から調べられる イラスト 池下章裕氏/提供 JAXA Kitayama et al. (2014)

衝撃波加速 Relic についてよく言われている 本当に1次フェルミ加速でいいのか? ガスの温度や密度のジャンプ 本当に1次フェルミ加速でいいのか? 衝撃波のマッハ数は M 3 銀河団ガスの温度が高いためマッハ数は小さい こんな小さなマッハ数で電子が加速するのだろうか? van Weeren et al. (2010)

Relic の起源 明らかに衝撃波での1次フェルミ加速と反するものがある 歯ブラシ銀河団 X線観測(密度、温度ジャンプ)で求めた衝撃波のマッハ数 は ~1.5 電波のスペクトルのべきから見積もったマッハ数は ~3 1次フェルミ加速を仮定 衝撃波と relic の場所が一致しない 衝撃波後方に relic 歯ブラシ銀河団 van Weeren et al. (2012) 電波: コントア X線: カラー

乱流? 衝撃波で加速された粒子が後方の乱流で再加速 加速 乱流 衝撃波 衝撃波からの 距離 再加速 Fujita, Takizawa, Yamazaki, Akamatsu, Ohno (2015)

2次電子説 pp 反応でできた電子がシンクロトロン放射 AGN で加速された陽子が銀河団中に流れ出し、銀河団ガスを加熱している 可能性 宇宙線陽子は銀河団中では実質的に冷えないので、銀河団ガス中には宇宙線陽子が蓄積されている可能性がある AGN で加速された陽子が銀河団中に流れ出し、銀河団ガスを加熱している 可能性 1次電子の乱流加速モデル            と異なり乱流とは無関係 シンクロトロン放射が乱流            と対応しない Fujita & Ohira (2012,2013) AGN Heated ICM 宇宙線陽子 コア 銀河団

まとめと展望 宇宙線は銀河系にとどまらずいろいろな天体に存在する なぜこんなところにという場所にも 加速メカニズムもいろいろ 例: 銀河団 加速メカニズムもいろいろ 衝撃波 乱流 パラメーターが違ういろいろな天体を比較することで、加速メカニズムの手がかりを得る

まとめと展望 観測 理論 いろいろな波長、いろいろな手段(ニュートリノ、重力波) ミクロスケール: 粒子シミュレーション、プラズマ不安定性 実験? 理論 ミクロスケール: 粒子シミュレーション、プラズマ不安定性 マクロスケール: 降着円盤、ジェット、宇宙の大規模構造形成

まとめと展望 多角的な検証 宇宙の果てからのニュートリノを銀河系中心の分子雲からのガンマ線で調べる 低光度 AGN からのニュートリノ 乱流のX線観測(熱的放射のドップラー効果)とシンクロトロン放射(非熱的放射)の比較 銀河団での宇宙線乱流加速