5・文化は変化する 2009.10.21. 成蹊・文化人類学Ⅱ
5・文化は変化する [前回]「農業」という産業の変化 1930年当時、産業従事者のほぼ半分(47.74%)を占め ていた農業は、いわば「日本人の普通の生活」の最たる ものであった 戦争をはさんで1955年になっても、実はこの点は大きく は変わらない ほぼ全国的に、1930年と比べて10ポイント程度低下しているが、 それでも全体の1/3を超えるひとびとが「農業」によって暮らし ていた ところが1980年になると「農業」をめぐる状況は激変し ていた 全国でようやく10%に届くかどうか、東北と九州の一部が20%を 超えるものの、大都市圏は5%かそれ以下に 2005年現在ではさらに状況は悪化、平均で5%を下回る
5・文化は変化する [前回]それが何を意味するのか? 戦前(おそらくそれ以前も)~戦後のある時期まで日本 人の暮らし・文化の「普通」であったものが、この50年 間(とりわけ60年代を中心とする四半世紀)に完全に崩 れ去った、ということになる では、今の「普通」は、なんだろう? 当時の「普通」は、「普通」と自覚されていたのだろうか? そもそも「みんな同じ農業・農民」という考え方でいいのだろう か? 資料映像2(新潟の農村映像)からわかることは、 もちろん東京(都市)との間に大きな地域的偏差があ ったこと そして「新潟の農村の暮らし」といっても決して一様 ではないこと……cf. 前期の内容「ラベル貼りとくくり」
1958年 「豊作」/東京タワー完成 1953年に本放送がはじまったテレビは、1958年に契約 数が100万件を超える 5・文化は変化する 1958年 「豊作」/東京タワー完成 1953年に本放送がはじまったテレビは、1958年に契約 数が100万件を超える 当時のテレビ(白黒14型)は約6万円台(当時の高卒初任給=5400円なの で、現在の貨幣価値に換算すると200万円程度) 1962年に1000万件を超える=普及率49.5% 1968年テレビのカラー化が完了 1975年家庭用テレビがほぼカラー化(契約数2000万件) 映像資料2「豊作」放映時点で、大多数の人々がみてい た「映像」は(都市でも農村でも)テレビではなかった
ニュース映画 通常の娯楽的な映画の前後に上映された時事的なニュー ス映像 モノクロ映像・週替わり 5・文化は変化する ニュース映画 通常の娯楽的な映画の前後に上映された時事的なニュー ス映像 モノクロ映像・週替わり 1953年の映画入場者数=6780万人(当時の日本の人口約9200万 人) 映像資料3:1950年代後半のニュース映画
〈変化〉を前提に考えてみる(1) 囲炉裏を見て 衰退する農業を見て 民謡や盆踊りについて (昔) なんて汚くて効率の悪い調理のしかただろう 5・文化は変化する 〈変化〉を前提に考えてみる(1) 囲炉裏を見て (昔) なんて汚くて効率の悪い調理のしかただろう (今) なんだか懐かしいなあ、和むなあ 衰退する農業を見て (昔) もうからないんだから、みんな都会に出るさ (今) なくなってしまうのは残念だ、残せないだろうか 民謡や盆踊りについて (大昔) いやあ、楽しいなあ (昔) やっぱりマンボでしょ、ロカビリーでしょ (今) 伝統だから(ほんとはつまんないけど)残さなきゃ
〈変化〉を前提に考えてみる(2) テレビを見て 冷蔵庫について ぎゅうぎゅう詰めのファッションショーを見て 5・文化は変化する 〈変化〉を前提に考えてみる(2) テレビを見て (昔) ああ、東京はこんななのか、憧れるなあ (今) とりあえずつけてるけど、別に真剣に見てないし。 冷蔵庫について (大昔) わざわざ氷を買って冷やすなんて、不経済だ (昔) これで肉や魚料理を作って食べられるぞ (今) 最新型の500㍑・急速冷凍・栄養増加機能付き・保温機能付 きの冷蔵庫がほしいわ ぎゅうぎゅう詰めのファッションショーを見て (昔) よく見えないわ、だけどちょっとでも見て覚えて、あとで自 分で作れるようにしなくっちゃ (今) なにこの熱気は。ありえない。でもすごい。
〈変化〉を前提に考えてみる(3) 「豊かな生活」について 「ひとびとのつながりが濃い」ことについて 5・文化は変化する 〈変化〉を前提に考えてみる(3) 「豊かな生活」について (大昔) 昔からこの暮らしをしてきたんだから、今もこれからも、この暮 らしをするのがあたりまえだ (昔) どんどん働いてどんどんモノを買って、それで豊かになるのがめざ すべきことだ (今) 確かにモノはあふれているけれど、なにかを忘れてきてしまったの ではないか 「ひとびとのつながりが濃い」ことについて (昔) なんでもかんでも周りのひととつながっているのは、煩わしいなあ、 ドライな都会の人間関係にあこがれる (今) 昔のひとのつながりに温かさを感じる、わたしたちはなにかを忘れ てきてしまったのではないか
文化の変化 ひとびとは(わたしたちも含め)そのときの状況に応じ て行動したり考えたりしている……あたりまえだが、見 落としがちなこと 5・文化は変化する 文化の変化 ひとびとは(わたしたちも含め)そのときの状況に応じ て行動したり考えたりしている……あたりまえだが、見 落としがちなこと 文化を、物質文化と精神文化に分ける 物質文化……衣食住、生業、道具 etc. 精神文化……言語、宗教、儀礼、慣習・習慣、人間関係、価値観 etc. 物質文化と精神文化、どちらがより変わりやすいだろう か? 衣・食・住は、どの順番で変わりやすいだろうか? 精神文化で変わりやすいもの・変わりにくいものは、そ れぞれどんなものだろうか?
5・文化は変化する 1950-60年代の変化 日本史では1868年・1945年が日本の政治制度の大変革 期として挙げられるが、ふつうのひとびとの生活に注目 すると、1890-1900年代と、1950-60年代が大きな変 化の時代にあたるといえる 1890-1900年代は、国民国家を支える諸制度(学校教育、 新聞/郵便メディア、鉄道交通、地方制度、軍事制度な ど)がほぼ国の隅々まで行き渡った時期 1950-60年代は、生活の自給自足的な部分の比率と購買 消費的な部分の比率が逆転し、大量生産・大量消費型社 会へと転換した時期
5・文化は変化する [補足]「近代」と「国民国家」 多様・雑多 均質化・画一化 =「くくり」 多様化 & さらなる画一化