オオクチバス・ブルーギルの生息場所に 水の透視度が及ぼす影響

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オオクチバス・ブルーギルの生息場所に 水の透視度が及ぼす影響 水利環境学研究室 渋谷あゆみ

オオクチバス(Micropterus salmoides) ブルーギル(Lepomis macrochirus) 1.背景・目的 1 特定外来生物 オオクチバス(Micropterus salmoides) ブルーギル(Lepomis macrochirus) 日本各地で分布を拡大 →在来魚の生息密度の低下・種多様性の低下 →駆除等の対策(既知の生態から講じる) 特定外来生物であるオオクチバス・ブルーギルは,現在,日本各地に分布を拡大させてます. そしてこの2種が強い魚食性を持つことによって在来魚の生息密度の低下や,種多様性の低下が確認されています. そのため2種の既知の生態から対策を講じ,駆除などを行っていますが, 未だ効果的な方法は確立されていません.よって,2種の個体数増加を防ぐために,新たな視点からの生態解明が必要であると考えます. そこで本研究では, →2種が視覚に頼った採餌を行うことに注目し,オオクチバス・ブルーギルは透視度が高い場所を選んで生息しているという仮説を立てました. →これをもとに,透視度をはじめとした河川の環境と,オオクチバス・ブルーギルの分布場所に関連があるかを検討する. 効果的な 方法が無い 新たな視点からの生態解明が必要 仮説 視覚に頼った採餌 透視度が高い場所に生息 透視度とオオクチバス・ブルーギルの 分布場所に関連があるかを検討 目的

2.調査地 調査地 岐阜県安八郡 輪之内町 中江川 大榑川(5地点) 中江川(5地点) 大榑川 5 4 3 2 1 輪之内町 輪之内町位置図 2 5 4 3 2 1 調査地 岐阜県安八郡 輪之内町  大榑川(5地点)   中江川(5地点) 中江川 調査地は、岐阜県安八郡輪之内町の 大榑川5地点、中江川5地点としました.2河川はつながっており,中江川の最下流端が大榑川に合流しています. この合流地点に障害物は無く,魚は2河川の間を容易に行き来することができると考えます. 大榑川 出典:Yahoo!地図 輪之内町 出典:フリー百科事典「ウィキペディア」 輪之内町位置図

○大榑川 植生が豊富 河床:泥・礫 「ブラックバス釣り」に訪れる人が多い ○中江川 植生が少ない 河床:泥 透視度が低い 地点1 地点2 3 ○大榑川 植生が豊富 河床:泥・礫 「ブラックバス釣り」に訪れる人が多い 地点1 地点2 地点3 地点4 地点5 さらに調査地点の詳細です. 大榑川と中江川どちらも,最も下流の地点を「地点1」とし,そこから上流に向かって地点5まで設けました. まず大榑川は,植生が豊富で,各地点で川幅や水深が異なり,多様な環境で構成されています. また,河床には泥が堆積していますが,大きめの礫も目立ちます. そして,調査期間中はブラックバス釣りに訪れる人を多く見かけました. 次に中江川は,コンクリート3面張りの河川で,植生は非常に少ないです. また,河床はコンクリート上に泥が堆積しており,川幅は各地点でほぼ一定で,単調な河川であると言えます. また,大榑川と比較して周辺に水田が多いことから,水田排水の影響を受け,透視度が低くなっています. ○中江川 植生が少ない 河床:泥 透視度が低い 地点1 地点2 地点3 地点4 地点5

4.調査方法 ○魚捕獲調査方法 胴網 ※補助的にカゴ網を使用 釣り(6/9) 追い込み(10/27) ○調査項目 4 ○魚捕獲調査方法 胴網 ※補助的にカゴ網を使用 釣り(6/9) 追い込み(10/27)    0.5m 2m 胴網 次に調査方法です。 まず定期調査には,直径0.5メートル、長さ約2メートルの胴網を用いました. 調査は5月から10月まで,月に3回,網の中に練り餌を入れ,夕方に網を設置し,翌朝に回収するという方法をとった.調査回数は計16回となった. また,補助的にカゴ網も使用しました. 次に調査項目です. 環境調査の項目は、透視度・水温・pH・DO・水深を計測しました. また生物調査では魚種・体長・個体数を調べました。 定置網設置の様子 ○調査項目 環境調査・・・透視度・水温・pH・DO・水深 生物調査・・・魚種・体長・個体数

5.調査結果<魚類調査> ○大榑川 オオクチバス・ブルーギルを多数捕獲 在来魚の捕獲数は少ない 5 ○大榑川 オオクチバス・ブルーギルを多数捕獲 在来魚の捕獲数は少ない 地点5のオオクチバス・ブルーギル捕獲数が少ない 地点3においてオオクチバスの成魚を目視 では調査結果に入ります.はじめに,魚類調査の結果です. まず,大榑川における魚捕獲数の結果です. オオクチバス・ブルーギルは多数捕獲されましたが,在来魚の捕獲数は少なかった. →その中で,地点5のオオクチバス・ブルーギルの捕獲数は少なかった. また,捕獲はできませんでしたが,調査期間中に地点3においてオオクチバスの成魚を目視しました.

○大榑川で捕獲したオオクチバス・ブルーギルの体長分布 オオクチバス 全て1歳未満の稚魚 体長10~29mmを多数捕獲 ブルーギル 6 ○大榑川で捕獲したオオクチバス・ブルーギルの体長分布 オオクチバス   全て1歳未満の稚魚  体長10~29mmを多数捕獲 ブルーギル  体長45~59mmを多数捕獲 次に、捕獲したオオクチバス・ブルーギルの体長分布を見ます. グラフは,縦軸の表す個体数が異なっていますが,捕獲した2種それぞれの体長分布を表しています. オオクチバスは、最も大きい体長で74ミリのものまでしか捕獲されず,捕獲したオオクチバスは全て1歳未満の個体であるとわかりました.(1年:約150mm) →その中でも,体長10~30ミリの個体が多く,これは孵化後1~2か月の個体と考えられます。 次にブルーギルは、稚魚から成魚まであらゆる個体が捕獲された. →とくに,体長45~60ミリの個体が多かったです. ブルーギルは,生息密度が成長に大きく影響するため,体長から年齢を推定することはできなかった. ※成魚 ブルーギル:7cm以上 バス:25cm前後? バスは20mmくらいで移動範囲拡大

ブルーギルは捕獲され,オオクチバスは捕獲無し 在来魚は多くの種が多数捕獲された 7 ○中江川 ブルーギルは捕獲され,オオクチバスは捕獲無し 在来魚は多くの種が多数捕獲された 次に中江川での捕獲結果です. ブルーギルは捕獲されましたが,オオクチバスは捕獲されませんでした. また,ブルーギルは体長15~150ミリの個体が捕獲されましたが,体長分布に特徴は見られませんでした. →そして在来魚は大榑川と比べて多くの種が多数捕獲されました.中でも, →水色のコウライモロコが最も多く, →次にピンク色のギンブナ・青色のタモロコが多かったです.

中江川にオオクチバス・ブルーギルの生息数が 少ないのはなぜ? 8 ○魚類調査結果のまとめ ①生息数 オオクチバス・ブルーギル 大榑川>中江川 在来魚 大榑川<中江川 魚類調査の結果をまとめると、 →まず,外来魚の捕獲結果から,オオクチバス・ブルーギルの生息数は大ぐれ川で多いと考えられます. オオクチバスは,稚魚のみの捕獲でしたが,成魚を度々目視したことからも,オオクチバスが多数生息していると考えました. →また,在来魚の捕獲結果から,在来魚の生息数は中江川で多いと考えれます. そして,大榑川内で比較したときには,地点5におけるオオクチバス・ブルーギルの捕獲数が少ないということがわかりました. 以上より, →中江川に,オオクチバス・ブルーギルの生息数が少ないのはなぜか。  大榑川の中で,地点5におけるオオクチバス・ブルーギルの生息数が他地点と比べて少ないのはなぜか.という疑問を持ちました. よってその理由を環境調査の結果から検討します. ②大榑川地点5  オオクチバス・ブルーギル生息数が少ない 中江川にオオクチバス・ブルーギルの生息数が 少ないのはなぜ? 大榑川の中で、地点5におけるオオクチバス・ブルーギルの生息数が少ないのはなぜ?

中江川の方が大榑川よりも水深が小さい傾向にある 5.調査結果<環境調査> 9 ○水深の変化 大榑川  平均:106.2cm  最大:219cm(地点1)  最小:43.5cm(地点5) 中江川  平均:81.8cm  最大:118cm(地点3)  最小:43.5cm(地点5) 環境調査の結果,水深および透視度に特徴が見られました. はじめに水深です.図は河川の各地点における,調査日ごとの水深を示しました. 図内の赤丸と青丸は,河川内の最大および最小水深を表しています. まず,大榑川は,各地点で水深が異なり,変動も大きいことがわかった.全体の平均水深は106.2cmでした. 次に,中江川の水深は全体的に小さく,変動も小さいことがわかった.全体の平均水深は81.8cmでした. →よって,水深は中江川の方が大榑川よりも小さい傾向にあるとわかった. 中江川の方が大榑川よりも水深が小さい傾向にある

中江川の方が大榑川よりも透視度が低い傾向にある 平均:21.5cm 最高:61.1cm(地点4) 最低:6.6cm(地点5) ○透視度の変化 5月~8月中旬 透視度が低い時期 8月末~ 透視度が高い時期 次に、透視度の結果です。 2河川の透視度の傾向を比較した。図は調査日ごとの透視度を示しています. →まず,5月から8月中旬にかけて透視度の低い時期が続いた. →この時期に,大榑川の透視度は平均21.5cm,中江川の透視度は平均14.4cmとなりました. →さらに8月末からは、透視度が100センチより高い時期が続いていた. →しかし,中江川の地点1~3に関しては,透視度が100cm未満となる日も多くありました. →以上より,透視度は調査期間を通して,中江川の方が大榑川よりも低い傾向にあるとわかりました. 平均:14.4cm 最高:51.7cm(地点4) 最低:0cm(地点1・2・4) 100cm未満 (地点1~3) ※ 透視度計は2cm未満、100cmより上が測定範囲外となるため、2cm未満は「0cm」、100cm以上のときは「100cm」として示した。 中江川の方が大榑川よりも透視度が低い傾向にある

○環境調査の結果 ① 水深 大榑川>中江川 透視度 水田が多い ②大榑川地点5 最小水深・最低透視度 他地点より水深は小さく、 11 ○環境調査の結果 ① 水深  大榑川>中江川 透視度 環境調査の結果をまとめると,水深・透視度ともに中江川の方が小さい傾向にありました. →中江川の透視度が低い理由は,河川の周辺に水田が多いためであると考えられます。 大榑川の地点5については,最小水深および最低透視度をとったこと, また, →平均水深と平均透視度が,最小では無いものの,小さい傾向にあることから, 他地点と比べて,水深が小さく,透視度が低い傾向にあると考えた. 最大値 最小値 水田が多い 他地点より水深は小さく、 透視度は低い傾向にある ②大榑川地点5  最小水深・最低透視度  平均水深・平均透視度が低い

6.考察 在来魚の種数・生息数 オオクチバス・ブルーギルが影響している 大榑川<中江川 中江川・大榑川地点5 12 在来魚の種数・生息数 大榑川<中江川 オオクチバス・ブルーギルが影響している 中江川・大榑川地点5 オオクチバス・ブルーギルの生息数が少ない 透視度・水深が低い 大榑川と中江川で生じる2種の生息数の違いには、 透視度・水深が影響 以上より考察です. ・大榑川の在来魚は、種数・生息数共に中江川よりも少なかったです.これはオオクチバス・ブルーギルが影響を及ぼしているためと考えました。 ・オオクチバス・ブルーギルの生息数が少ない中江川と大榑川地点5は、透視度が低く水深が小さい傾向にあるという共通点が見られた。 よって、大榑川と中江川で生じるこの2種の生息数の違いには、透視度と水深が影響を及ぼしていると考えた。 ・しかし,調査前の予測よりも各調査地点の透視度に違いが無く,透視度の他にも考慮すべき要因があるとわかりました. そのため,河川内で各地点の比較はできず,河川間で傾向を比較することしかできませんでした. また,透視度のみを要因として検討することができなかった. ・今後は、オオクチバス・ブルーギルと透視度の関係をより明確にするために、実験的手法も取り入れる必要があります。 また,定期調査で用いた胴網は、調査結果から捕獲魚種が偏ると考えられました. よって,調査方法を再検討する必要があると考えています。 しかし・・・ 河川内でなく、河川間での比較に留まる 各調査地点の透視度に違いが無い 透視度のみを要因として検討することはできない 透視度の他に考慮すべき要因がある 今後 2種と透視度の関係を明確にする→実験的手法 胴網では捕獲魚種が偏る→調査方法の再検討