PCB問題の現状 日本子孫基金 新居田真美
はじめに
PCBとは 工業的に広く使用→現在は製造禁止 毒性 環境中に残留 熱に強い、絶縁性に優れる、化学的に安定な性質のため カネミ油症事件 発ガン性 環境ホルモン→次世代への影響が懸念 環境中に残留 生物によって分解されにくい 高次の生物に生物濃縮(魚介類、鳥類、ヒトなど) PCB(ポリ塩素化ビフェニル)は、熱に強い、絶縁性に優れる、化学的に安定であるという性質を持つため、工業的な用途で広く使用されました。 便利である一方、PCBは強い毒性を持つという落とし穴がありました。日本では、米ぬか油にPCBが混入し、それを食べた人がPCB中毒を起こしました。これをカネミ油症事件と言い、この事件をきっかけに、PCBの毒性が社会的に注目され、世界的にPCB禁止の方向に向かいました。台湾でも油症がおこっています。 PCBの毒性に関する研究は、現在も続けられています。PCBの中でもコプラナPCBは、ダイオキシンと同様の毒性を持つこと、発ガン性、環境ホルモン作用があることが報告されています。PCBが私たちの子どもたち、次世代へ与える影響が懸念されます。 このように毒性の強いPCBが、生物によって分解されにくいため、環境中に残留しています。そうして、生物濃縮を通じて、最終的に魚介類、鳥類、人のような、生態系の高次の生物にPCBが高濃度に蓄積します。
世界のPCB汚染 アジア地域も広く汚染 なくすためには各国の協力が必要 この図は、環太平洋地域の大気中のPCB濃度を示しています。この棒が、1ng/m3を示しています。この図から、PCBは世界中のあらゆる所で検出され、アジア地域も広く汚染していることが分かります。 すでに、環境中に広がってしまったPCBを回収することは困難です。しかし、汚染源をなくし、これ以上PCB汚染を広げない対策を行わなければいけません。PCBをなくすためには、一カ国の努力では不可能であり、世界中で協力する必要があります。 そこで、今回のシンポジウムを企画しました。皆さんの協力を感謝します。 アジア地域も広く汚染 なくすためには各国の協力が必要
日本の現状 まず、日本のPCB処理に関する現状について、お話しいたします。
PCBの用途 代表的な電気機器 トランス コンデンサ 安定器
PCBの使用と保管量 この図は、PCBの使用量と保管量を示しています。平成10年に厚生省が実施した調査がもとになっています。この調査で、分かっている使用量と保管量は一部であり、十分なデータとは言えません。更なる調査が必要ですが、今日はこのデータでお話しします。 電気製品、熱媒体、感圧紙、その他に分類しています。その中で電気製品に使われているPCB製品が最も高く、約70%を占めています。 電気機器の中で、最もPCB量が多いのが高圧トランス・コンデンサーで、約34,700tのPCBが使われました。生産台数約39万台で、そのうち1.1万台が紛失または不明になっています。これは、おそらく環境中に放出されていると考えられ、大きな問題です。 低圧トランス・コンデンサーは、約39万個が生産され、PCB量は約12トンです。 蛍光灯の安定器のPCB量は約600トンであり、トランスやコンデンサに比べて少ないものです。しかし、2000万個の安定器が生産されており、多くの数が紛失しています。たとえ、PCB量が少なくても、台数が多く、紛失も多いため、PCBの汚染源となっています。
PCBの保管方法 日本には、PCB処理施設がないために、PCB廃棄物は厳重に保管しなければなりません。保管法は法律で決められています。 まず、周囲に囲いを設ける 見やすい場所に表示を設ける 機器への表示:本製品にはPCBが含まれています。 保管施設の表示:PCB汚染物保管場所 排水溝がなく、地下浸透しない床構造である PCB以外の物も保管する場合は、しきりを置く 暖房、可燃物の保管禁止 雨水の浸透防止 このように、厳重に保管しなければならないはずのPCB機器ですが、管理が不十分な所もあります。さらに、行方不明となっているPCB機器があります。 PCBが禁止されてから約30年が経過し、会社が無くなったり、担当者が変更していることが理由の一つです。 保管には、コストがかかり、紛失などのリスクもあるため、一刻も早く保管しているPCB機器を処理する必要があります。 東京都環境局(2001)「PCBの適正な管理にご協力ください」パンフレット
PCBの処理 1976年に高温焼却法が認められる 海上で感熱紙1778tを焼却実験 鐘淵化学が約5500tを焼却処理(1987〜1989) 1998年、化学処理法が追加 2001年、北九州市でPCB処理施設建設が決定 処理施設計画に対して、住民の同意が得られず、処理は進んでいない 日本のPCB処理はほとんど進んでいません。 1976年に高温焼却法が認められていましたが、過去にPCBを処理した例は、2例のみです。 一つは、海上で感熱紙1778トンを焼却実験した例です。もう一つは、PCBを製造していた鐘淵化学が、自社でもっているPCB55000トンを焼却した例です。 しかし、焼却という処理に対して住民の同意が得られず、その後処理は全く行われていません。そこで、住民の理解を得やすくするため、PCBの処理に化学処理法が追加されました。 そして、2001年に北九州市でPCB処理施設の建設が決定しました。住民は化学処理法によるPCB処理を要求しています。しかし、この施設だけで日本全国のPCBを処理できるわけではありません。各地に、処理施設を建設する必要があります。
PCBに関する法律 ここで、日本のPCBに関す法律を紹介します。 世界的にPCBのようなPOPsを廃絶する動きが高まり、2001年にPOPs条約が採択されました。条約加盟国は、PCBを2028年までに廃絶しなければなりません。 日本はまだPOPs条約に批准していません。しかし、近い将来批准すると思われます。そうすれば、PCB処理を進める必要が出てきます。そのため、2001年にPCB特別措置法ができました。
保管の報告がスタート 現状をどれだけ把握できるかが課題 栃木県 環境省 東京都 PCB特別措置法によって、PCB廃棄物の保管量、保管状況を届けなくてはならなくなりました。 政府は、パンフレットを作り、関係者にPCBの届け出を呼びかけています。これが環境省、これが東京都、栃木県の作ったパンフレットです。 報告義務は始まったばかりで、まだ知らない事業者もいます。政府はどのように知らせるのか悩んでいます。PCB廃棄物を保管している全ての事業者に、報告させて現状をどれだけ把握できるのかが課題です。 栃木県 環境省 東京都 現状をどれだけ把握できるかが課題
法律の問題点 PCB安定器を使用中 PCB廃棄物を保管中 事業者 事業者 通常のゴミと間違えてPCBを捨てる可能性が大 PCB機器を 新しいものと交換 PCB安定器を使用中 PCB廃棄物を保管中 この法律は、保管に関しては、有効です。しかし、蛍光灯の安定器のような今も使われているPCB機器に関しては、十分にカバーできていません。 PCB機器を使用していて、新しいものと交換した場合、保管量を報告しなければなりません。 しかし、PCB機器を使用中の事業者には届け出の義務がありません。そのため、使っていることを知らない人も多いと考えられます。それらは、通常のゴミと間違えられてPCBを捨てる可能性が大きくなり、問題です。 届け出の義務なし 使っていることを知らない人が多い 都道府県に保管量・状況の報告義務あり 通常のゴミと間違えてPCBを捨てる可能性が大
日本の現状における問題点 現在の使用状況、PCB廃棄物量が把握できていない。 処理が進んでいない 一般市民の理解が進んでいない 処理施設の具体化している地域が少ない 一般市民の理解が進んでいない 現在もPCBによる汚染が進んでいる 魚介類の汚染 DXN汚染もPCBの寄与が大きい ここで、日本のPCBに関する現状の問題点をまとめたいと思います。 現在の使用状況、PCB廃棄物量が把握できていません。そして、処理が進んでいません。PCB処理の必要性が、一般市民に伝わっていません。 そのため、現在も魚や母乳などがPCBによって汚染しています。ダイオキシン汚染の由来を調査した研究では、ダイオキシン汚染の中でコプラナPCB汚染の寄与が大きいという報告もあります。 これらの問題を解決に導くために、私たち日本子孫基金の行った活動を報告します。
日本子孫基金の活動
PCBを含んだ蛍光灯安定器 日本子孫基金事務所にて撮影 この写真は、日本子孫基金で撮影したものです。 この写真は、日本子孫基金で撮影したものです。 実は、私たちの事務所で使っている蛍光灯の安定器は1970年製です。 これにはPCBが含まれています。私たちが調べるまで、ビルの持ち主はPCB機器があることを知りませんでした。そのため、このまま知られなければ、PCBとは分からずに廃棄されたかもしれません。 実は身近にPCBの入った機器が使われていることに私たちは驚きました。そして、このような例はたくさんあるのではと考えました。そこで、PCB問題に取り組むようになったのです。 日本子孫基金事務所にて撮影
なぜ安定器を問題にするのか 不明になっている数が多い 耐用年数が近づいている 一刻も早い発見・回収が必要 回収には市民の関心が必要 相次いで学校の蛍光灯安定器破裂事件が起こっている 一刻も早い発見・回収が必要 回収には市民の関心が必要 なぜ、蛍光灯安定器に着目しているのか。 それは、不明になっている数が多い。 学校で安定器の破裂事件がおこっており、耐用年数が近づいていると考えられます。今後次々に交換され、適切に保管しなければならなくなります。 PCB入り機器なのかそうでないのか、明らかにしなければなりません。そして、回収が必要です。 回収には、蛍光灯安定器周辺で生活する市民の関心が必要です。
私たちの取り組み これまでの活動 政府に申し入れ POPs会議参加 社会的な関心を集める アジア地域内の情報交換 PCB対策の必要性を訴える 行政による回収・処理 POPs会議参加 PCB対策の必要性を訴える 社会的な関心を集める 蛍光灯からPCB揮発を調査 シンポジウム開催 アジア地域内の情報交換 ワーキンググループ 私たちのこれまでの取り組みを紹介します。 まず、政府に申し入れを行いました。その内容は、行政による回収・処理を行うようにというものです。 国際的な活動は、POPs条約交渉会議に参加し、PCB対策の必要性を各国の政府代表やNGOにアピールしました。 日本国内での関心を集めるために、蛍光灯からPCBが揮発するのかどうか調査しました。データは、まだ受け取っていません。しかし、使用中の安定器からPCBが揮発していると報告を受けています。詳しい結果は、明日のシンポジウムで、東京農工大学の細見先生が発表します。 アジア地域内で情報交換を行うために今日のワーキングループを企画しました。
今後の取り組み 蛍光灯安定器の調査 CODEX委員会の食品添加物・汚染物質部会参加 (3月、オランダ) 一般市民にアンケート 食品のPCB汚染基準について決める部会 PCBの源を断つことを訴えるポスターを作成 ポスターを用いて、各国政府代表・NGOにアピール 次に、今後の取り組みを紹介します。 一般市民を対象に、蛍光灯の安定器にPCBが入っているかどうかのアンケート調査を行います。 今年3月にオランダのロッテルダムで開かれるCODEX委員会の食品添加物・汚染物質部会(CCFAC)に参加します。CCFACは、食品のダイオキシンやPCB汚染の基準について話し合う部会です。 今日、午後から、PCBの汚染源を断つことを訴えるポスターを作成します。そのポスターを各国政府の代表、NGOに配り、PCB問題をアピールします。
結論 日本ではPCBに対する対策がようやく始まった しかし、不十分な点がある 処理を進めることが重要 法律の成立、保管届け出の義務 1カ所のみ処理施設建設が決定 さらに施設を建設することが必要 日本では、法律が成立し、保管届け出の義務ができ、PCBに対する対策がようやく始まりました。 しかし、使用中のPCB機器は把握されていない。PCBの問題を知らない人が多いといった不十分な点もあります。 そして、処理施設が足りていないので、さらに施設を建設することが必要です。 私たちは今後もPCB対策が進むように、働きかけていきます。
最後に 人間の工業世界とは無縁な極域の生物を汚染 使用を禁止しても汚染は減らない 未来に持ち越してはいけない 世界的な協力が必要 残留性、難分解性 未来に持ち越してはいけない 世界的な協力が必要 技術、市民への情報提供など 最後に PCBは、人間の工業世界とは無縁な極域の生物を汚染しています。残留性があるため、使用を禁止しても、汚染はなかなか減りません。しかし、未来に持ち越してはいけないものです。PCB廃絶のゴールに向かうためには、技術、市民への情報提供など、世界的な協力関係が必要です。