--X線天文衛星「すざく」の成果を中心に-- 松本浩典 名古屋大学 理学部Ux研究室 & 現象解析センター (KMI)
通常の天文学 (乙女座銀河団) ~100万光年
X線でみると…
目で見る宇宙と、X線の宇宙 宇宙観が変わる! 可視光 X線 銀河団 = 銀河の集団 銀河団 = 数千万度の火の玉 ~100万光年 ©SDSS ©RASS
天文学の「暗黒」 「暗黒」=人の目に見えない 宇宙の組成 暗黒物質の分布 暗黒星雲 ニュートリノなど0.4% 物質3.6% 暗黒物質23% 暗黒エネルギー73% 宇宙の組成 暗黒物質の分布 暗黒星雲
X線だって人の目に見えません。 X線で見た宇宙は「暗黒」!? 可視光で見る宇宙と、全く異なる世界をお楽しみ下さい。
内容 X線とは? X線天文衛星 銀河団 超新星残骸 巨大ブラックホール
X線の発見: レントゲン(1895年) Roentgen(1845-1923) 奥さんの手の写真 1901年ノーベル物理学賞
X線とは? 発見当初: 正体不明の「X」 現代的な見方: 光の一種。ただし「色」が違う。 プリズム実験 虹: 天然のプリズム実験
X線の波長: 0.01~1 nm (原子1個程度; 1nm = 1/1000μm) X線=青すぎる光 光の色 = 光の波長 (波長短いと青い) X線の波長: 0.01~1 nm (原子1個程度; 1nm = 1/1000μm) (可視光の波長: 0.4~0.8μm) 携帯電話、テレビ リモコン、こたつ お肌の敵 癌治療
光の色と温度(エネルギー) 物体の温度=エネルギーが高いほど、出る光は青い 赤い光 青い光 温度低い (~600℃) 温度高い(~数万度)
X線の発生:高エネルギー現象 X線 = 青すぎる光 X線を出す物体の温度 1000万度以上=高エネルギー現象。 比較: 青白い恒星の表面温度 ~ 数万度 X線を出す物体の温度 1000万度以上=高エネルギー現象。 X線で宇宙を見ると、 極端にエネルギーの高い(変わった、そして面白い)世界ばかりが見える。
世界のX線衛星の例 欧米の巨大X線天文衛星 アメリカ: Chandra衛星 ヨーロッパ: XMM-Newton衛星 鮮明なX線画像
日本のX線天文衛星 小型・中型ながら、特色のある衛星を継続的に打ち上げ、世界をリード。 はくちょう 1979--1985 ぎんが 1987--1991 てんま 1983--1989 あすか 1993--2001
X線天文衛星すざく(2005年以降) 微弱なX線天体でも良く見える。X線のエネルギー測定も得意。 キトラ古墳 「朱雀」
名古屋大学Ux研の貢献:X線望遠鏡 集光能力が高く、しかも軽いX線望遠鏡を開発 明日(8/20) Ux研究室見学で模擬実験 16
銀河団からのX線 可視光 X線 銀河団 = 銀河の集団 銀河団 = 高温ガスの塊 ~100万光年 ©SDSS ©RASS
X線スペクトル=成分グラフ どんなエネルギーのX線がどれだけやってきたか 乙女座銀河団 (すざく衛星) X線の到来数 X線のエネルギー(keV)
銀河団ガスの温度測定 なめらかにつながる成分(連続成分)に着目。 X線到来数 X線のエネルギー(keV)
原子のおさらい 原子核+電子 ヘリウム原子の模式図 陽子の数で原子の種類が決まる (周期表) 原子が壊れる(電子が離れる) 原子核が壊れる 原子核=陽子+中性子 陽子の数で原子の種類が決まる (周期表) 水素: 陽子1個 ヘリウム:陽子2個 鉄:陽子26個etc… 原子が壊れる(電子が離れる) プラズマ状態 原子核が壊れる 核融合、核分裂 ヘリウム原子の模式図 + + - - 陽子 + 原子核 中性子 - 電子
なめらか(連続)成分の起源=電子の熱運動 X線 - - 電子 + + 原子核 - - + + 高温のため、銀河団ガスは、電子と原子核がばらばら プラズマ状態 電子が、原子核によって曲げられて連続成分放出 連続成分で、電子の運動=温度がわかる。 21
乙女座銀河団ガスの温度 連続成分の曲がり方から、約2千万度 X線到来数 銀河団ガスの温度は、 一般に2千万度~1億度 X線のエネルギー
銀河団高温ガスの質量 連続成分の明るさ(光度) 銀河団ガスの総量 例えば、Abell85の場合、 銀河団ガス~1044kg Abell85 X線画像+可視光画像 サイズ~1000万光年(~1023m) 例えば、Abell85の場合、 銀河団ガス~1044kg ~太陽1014個分 ~銀河千個分 Abell85中の銀河数: 数百個 銀河団ガス>銀河 ©CXC 銀河団の実態: 銀河の塊というより、高温ガスの塊(火の玉) 23
なぜ銀河団ガスは飛び散らない? X線観測でわかる 銀河団の総質量 ペルセウス銀河団の場合、 銀河団ガス=1044kg 銀河=1044kg 銀河団の重力で引き止めている。 銀河団の 重力エネルギー 銀河団ガスの 熱エネルギー = X線観測でわかる 銀河団の総質量 ペルセウス銀河団の場合、 銀河団ガス=1044kg 銀河=1044kg 銀河団総質量=1045kg 7万光年=7×1020m ©CXC 暗黒物質:見えないが、重力だけ作り出す物質が10倍も存在
銀河の分布(大規模構造) 銀河の分布はむらむら。濃いところが銀河団。 300万光年 我々の場所
大規模構造とX線 すざく衛星で銀河団Abell1689を観測 大規模構造につながる部分の温度が高い カラー図: 銀河の分布 大規模構造に沿ってガスが落下し、銀河団が成長。 緑の部分:銀河が多い すざく衛星で銀河団Abell1689を観測 大規模構造につながる部分の温度が高い 6200万度 2600万度 1500万度 2000万度 1500万光年 川原田など (2010)
でこぼこ(輝線)成分 乙女座銀河団 (すざく衛星) X線の到来数 X線のエネルギー(keV)
輝線(でこぼこ)成分=特性X線 どんな原子が存在するかがわかる。 電子線やX線
銀河団ガス中の原子 乙女座銀河団 シリコン (すざく衛星) アルゴン 鉄 X線の到来数 鉄 酸素 硫黄 マグネシウム カルシウム X線のエネルギー(keV)
重元素の起源は? 主成分:水素+ヘリウム それ以外の原子が数% ビッグバン直後の宇宙は、水素とヘリウムばかり。 重元素の起源は? 98%以上を占める それ以外の原子が数% 鉄、酸素、カルシウムetc. 重元素と呼ぶ。 ビッグバン直後の宇宙は、水素とヘリウムばかり。 重元素の起源は? マグネシウム 酸素 硫黄 鉄 鉄 シリコン カルシウム
答え:恒星の燃えカス(核融合) 太陽 核融合でエネルギー発生 燃料: 水素・ヘリウム 燃えカス: 新しい原子(酸素、炭素、鉄など)
星の最期: 超新星爆発 燃料(水素・ヘリウム)が無くなると、星は大爆発 (アニメーション)
超新星1987A 1987年2月24日 大マゼラン星雲 1987年2月23日 大マゼラン星雲 小柴昌俊 2002年ノーベル物理学賞
2002年ノーベル物理学賞 新しい天文学の開拓 ©Nobel Web Ricaldo Giacconi 小柴昌俊 Raymond Davis X線天文学 ニュートリノ天文学
SN1006 (1006年の超新星爆発) 藤原定家 明月記 すざく衛星X線画像
SN1006のX線スペクトル 確かに重元素が飛び散っている。 すざく衛星 (山口ら 2005) ネオン シリコン 酸素 硫黄 X線の到来数 アルゴン X線の到来数 マグネシウム 鉄 カルシウム エネルギー(KeV)
人間も星の中にいた ある星の中で、人間の体の元(炭素や鉄など)が合成。 超新星爆発で宇宙に飛び散る。 たまたま地球上で固まって我々の身体になった。
爆発の影響: 宇宙線 北側のスペクトルには、連続成分のみ。 高エネルギー電子の存在=宇宙線 (宇宙を飛び交う放射線) 北側 東側
身の回りへの影響: 宇宙線 超新星残骸から飛び散った宇宙線 空気シャワー反応で粒子数増加 ガイガーカウンターなどで計測
巨大ブラックホールとX線 銀河の中心には、巨大BHが存在する。 乙女座にあるM87銀河 X線写真(チャンドラ衛星) 可視光 ジェット 太陽の1億倍の重さの ブラックホール
どうしてX線が出る? ブラックホールそのものではなく、飲み込まれる物質がX線を出す。 X線 ブラックホール
我々の住む銀河:天の川銀河 想像図 中心部の星の運動(実際の観測) 中心部分に、太陽質量の400万倍のブラックホール。
天の川銀河中心のX線写真 巨大BHの場所 巨大BH自身は、X線では明るくない。 (周辺は明るい。超高温ガスのため。) チャンドラ衛星 180光年 巨大BHの場所 巨大BH自身は、X線では明るくない。 (周辺は明るい。超高温ガスのため。)
天の川銀河中心のX線スペクトル 普通の鉄(冷たい)が出す特性X線 外部から強烈なX線であぶられた証拠。 =蛍光X線 すざく衛星 (小山ら2007) エネルギー(keV)
鉄の蛍光X線の分布 X線画像(すざく衛星) 300光年 天の川銀河中心核 (巨大ブラックホール) いて座B2領域
いて座 B2 領域の過去10年 1994年 2000年 2004年 2005年 いて座 B2 領域の鉄の蛍光X線は、徐々に暗くなる。 (すざく衛星) 1994年 2000年 2004年 2005年 乾ら 2009 いて座 B2 領域の鉄の蛍光X線は、徐々に暗くなる。
照らしていたのは天の川銀河中心BH 300光年 いて座B2領域 BHからのX線 天の川銀河中心 ブラックホール 鉄の蛍光X線 いて座B2が、鉄の蛍光X線を出す。 300年前、天の川銀河中心BHは明るかった。 そして徐々に暗くなっていった。
X線で明るい巨大BH:MCG6-30-15 鉄の特性X線の幅が広い X線スペクトル(すざく衛星) 想像図 鉄の 特性X線 エネルギー (Miniutti et al. 2006) 鉄の特性X線の幅が広い 強重力 (ドップラー効果+重力赤方偏移)のため? X線観測で、極限重力での相対性理論を実験検証
日常生活と相対性理論 GPS衛星 カーナビ GPS衛星と電波で通信し、 自分の位置を算出。 地球の重力の電波に対する影響を考慮=相対性理論。 カーナビは、弱い重力での相対性理論の実験検証といえる。
日本の将来計画:ASTRO-H衛星 超精密X線スペクトル 高エネルギーX線の画像 Ux研は高エネルギーX線望遠鏡を作っています。 2013年度打ち上げ予定
まとめ X線で見る宇宙は、高エネルギー現象の世界。 銀河団は、巨大な火の玉。 超新星爆発で、宇宙に原子がばらまかれる。 高温度、高エネルギー粒子etc. 銀河団は、巨大な火の玉。 超新星爆発で、宇宙に原子がばらまかれる。 天の川銀河中心のブラックホールは、300年前は明るかった。 X線観測で、極限重力での相対性理論の検証の可能性。