すざく衛星搭載XISのバックグラウンド特性

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すざく衛星搭載XISのバックグラウンド特性 山口 弘悦、中嶋 大、松本 浩典、鶴 剛、小山 勝二(京都大)、片山 晴善(JAXA)、 田和 憲明、Eric Miller、並木 雅章、林田 清(大阪大)、水野 恒史、中本 創(広島大) Email: hiroya@cr.scphys.kyoto-u.ac.jp by ono10 Abstract:日本で5番目のX線天文衛星である Suzaku には主力検出器としてX線CCD(XIS)が搭載されている。 本講演ではXISのバックグラウンドのうち、宇宙線粒子起源であるNon X-ray Background (NXB)の調査結果を報告する。主にCosmic X-ray Background (CXB)など、他のバックグラウンド成分については田和他(w62b)で詳細に報告されているので、合わせてご覧になって頂きたい。性能上の観点からSuzakuの最大のライバルとなるXMM-NewtonのEPICよりもXISのバックグラウンドレベルは低く、かつ短期的・長期的に安定している。NXBのCCD上での位置依存性を調べ、露光領域と蓄積領域で受けるNXBイベントの割合を見積もった。また、その他のセンサー特有な位置依存性も報告する。これらの位置依存性は、実際にXISのデータ解析をする際には十分に注意しなければならない。最後に、NXBのcut-off rigidity (COR)依存性についての調査結果も報告する。観測ごとのCOR分布の違いを考慮することでNXBスペクトルを再構成したことにより、バックグラウンドレベルのシステマティックな不定性を低減することに成功した。 1. XISのBackground Cal src A B その他センサー特有の位置依存性 図2のスペクトルは、Cal source領域を除外 しているにも関わらず、XIS0のみMn-Kの 輝線が強い。この成分は図6左のように、 非一様な分布を示していた。 Mn-Kαと Mn-Kβの強度比がCal source 直接成分と異なることから、これはCal srcの 散乱ではなく、汚染の可能性が高い。 ① NXB (Non X-ray Background) 本講演の主題   宇宙線起源のバックグラウンド。line & continuum ② 地球大気からの散乱・蛍光X線   主に E<1keVに信号を示すが予測は困難。   elevation angle で reduction 田和他 (w62b) 参照 ③ CXB (Cosmic X-ray Background)   遠方のAGNからのX線。 I(E)∝E-1.49 @1-20keV   Blank sky data 整備中 田和他 (w62b) 参照 ④ LHB (Local Hot Bubble)   solar system を取り巻くHot gas起源。非等方的。 NXBのスペクトル=夜地球の観測から得られる。   ここでは elevation angle < -5 のデータを用いた。 図1より、E>5keVでNXBがドミナントなことがわかる。 CXB(が、ドミナント) LHB 図6: XIS0 5.89keVのイメージ(左)、XIS1 1.74keVの     イメージ(右)。ともにDetector(DET)座標系。 Kβ/Kα Contami 0.13 Cal src A 0.34 Cal src B 0.32 NXB また、図6右のようにSi-Kにも非一様性が あった。Cal src 周辺で強いのは、Si-Kが 主にescapeイベントであることを示唆する。 他の輝線成分には、ACTY依存を除く 非一様性は見られない。 図1: Norse Ecliptic Pole (NEP)(赤)と 夜地球(黒)のスペクトルの比較。 図7: XIS0 Mn-K 周辺の スペクトル。赤は図6左の 赤円内から抽出、緑・青は 2つのCal srcの直接成分。 輝線成分のエネルギーと起源 Al-Kα 1.49keV OBF, Housing, CCD substrate Si-Kα 1.74 keV CCD (Si-escape) Au-Mα 2.12 keV Housing, CCD substrate, Heatsink Mn-Kα,β 5.89, 6.49 keV 55Fe Cal source の 散乱・汚染 Ni-Kα,β 7.48, 8.27 keV Housing, Heatsink Au-Lα,β 9.70, 11.48 keV (Au-Mα に同じ) 表面照射型(FI)CCDであるXIS0, 2, 3は600μmもの 中性領域によってバックグラウンドイベントが大きく 広がりGrade判定法で除外されやすいため、 中性領域の存在しない裏面照射型(BI)のXIS1に 比べてバックグラウンドレベルが低い。 (穴田他 口頭講演 (w65a) 参照) Cal source region は除外 4. COR依存性とスペクトルの再構成 Al-K Mn-K (XIS0のみ強い) Ni-K NXBのスペクトルはcut-off rigidity (COR)に依存。 輝線成分・連続成分ともに変動し、連続成分は エネルギーバンドによって変動の仕方が異なる。 (つまりスペクトルの形も変わる。) COR < 10GeV/cのときのNXBの強度は COR > 10GeV/cのときの強度のおよそ1.5倍。 但し、CORはほとんどの場所で10-13GeV/c程度 なので(田和他(w62b)参照)、観測ごとにNXBの レベルが1.5倍も変動するという意味ではない。 Si-K Au-M Au-L 図2: XIS0(黒), XIS1(赤), XIS2(緑), XIS3(青)の夜地球スペクトル。 較正用線源55Feの領域は除外している。 図8: XIS1 COR<10GeV/c(黒), >10GeV/c(赤), XIS2 COR<10GeV/c(緑), >10GeV/c(青)のNXB 2. 他衛星(XMM-Newton)との比較 NXBスペクトルの安定性 2005/08 ~ 2006/01のNXBスペクトルを1ヶ月ごとに分け、安定性を調べる。 各衛星の特徴 (諸性能の比較) → 月ごとにわずかな差がある。 Al-lineもEPICは  非常に強い (かつ強度が不安定) 集光能力 空間分解能 エネルギー分解能 Chandra △ ◎ XMM-Newton ○ Suzaku CORの平均値と相関  → CORの違いが影響 05/08 05/09 05/10 05/11 05/12 06/01 図10: CORの 平均値とXIS1 5-10keVの カウントレート  の相関関係。 上表のような観点から、Suzaku のライバルと なるのは XMM-Newton/EPIC だと言える。 そのEPICと比べて、XISのバックグラウンドの レベルは図3の通り有意に低い(特にFI)。 また、Suzakuは軌道高度が低いため太陽風の 影響を受けにくく、Newtonに見られるような バックグラウンドフレアはほとんど起こらない。 図9: XIS1(左)及びXIS2(右)の月ごとの夜地球スペクトル。黒、 赤、緑、青、水色、紫の順に、2005/08 ~ 2006/01のスペクトルを示す。 NXBスペクトルの再構成 図3: XIS/FI(黒), XIS/BI(赤), EPIC/MOS(緑), EPIC/PN(青)のバックグラウンドレベル。 立体角および有効面積で規格化している。 (広がったソースに対するS/N比の逆数に相当。) 月ごとのNXBレベルのバラつきにCORの違いが影響していることがわかったので、 月によってのCOR分布の違いがなくなるようにNXBスペクトルを再構成する。 再構成にあたり、まずはCORを一定の間隔に区切り、各CORでのスペクトルをそれぞれの 月について用意(下枠内Ij, 2k(E)に相当) 。今回はCORを 2GeV/c 毎に区切った。 3. NXBの位置依存性 ∞ Ij(E) = ∑ Ij, 2k(E)×[t2k / T] : j番目の月の再構成後スペクトル  k=0 Ij, 2k(E) : j番目の月、2k < COR < 2(k+1) のスペクトル T : 夜地球データ 半年分(2005/08~2006/01)の全観測時間 t2k : 半年間の観測のうち、2k < COR < 2(k+1) である時間 再構成計算式 ACTY(縦転送方向)依存性 ‥ 転送回数が多いほどバックグラウンドレベルが高い    → 縦転送中に蓄積領域でもバックグラウンドイベントを受けることを示唆。 表1: 再構成前後での夜地球スペクトル 5-10keVのカウントレートの標準偏差。 括弧内は平均値に対する割合を表す。 X = 0.39 X = 0.63 X = 0.62 標準偏差 (×10-4cnts s-1 keV-1) Before After XIS1 20.0 (8.0%) 9.7 (3.8%) XIS2 5.9 (7.6%) 5.6 (7.1%) 3.0-7.0keV(連続成分) Al line Ni line 図4: バックグラウンドレベルのACTY依存性。3-7keVの連続成分(左)、Al-line(中)、Ni-line(右)。 C(1023) – C(0) = 蓄積領域(FS)で 6.8sec に受けるバックグラウンド C(0) = 露光領域(IA)で 8sec に受けるバックグラウンド X = [{C(1023) – C(0)} / 6.8] ÷ [C(0) / 8] = BGD強度比 (FS/IA)   連続成分と輝線成分でBGD強度比が異なる。         X~0.4(連続成分), X~0.6(輝線成分) ピクセルサイズ ‥ 24μm×24μm (IA), 21μm×13.5μm (FS)     → ピクセルサイズ比 (FS/IA) ~ 0.5 → 輝線成分は蓄積領域の方がFluxが大きく(FSはAlで遮光)、   連続成分は露光領域の方がFluxが大きい(望遠鏡方向から?)   注: ピクセルサイズが異なる=Grade分岐比が異なる        なので、それほど単純ではない。 図11: 再構成後の夜地球スペクトル。左がXIS1、右がXIS2 ACTY スペクトル再構成により、特にバックグラウンドレベルの高いBIでカウントレートの分散を 低減させることに成功。もともとレベルの低いFIでも、わずかに減少した。 さらに我々は、CORの分布を考慮して任意の観測に対するNXBを決定するツールを作成。 システマティックなエラーを含めたXISのバックグラウンドレベルは以下の通り。         XIS1 (BI) : 2.5 (±0.097)×10-2 cnts sec-1 keV-1 (@5.0-10.0keV)         XIS2 (FI) : 7.8 (±0.56)×10-3 cnts sec-1 keV-1 (@5.0-10.0keV) 露光領域 蓄積領域 5. Summary ・ XISのバックグラウンドレベルはXMM-Newton/EPICに比べて低く、かつ安定。 ・ NXBのCCD上での位置依存性を調べた。蓄積領域で受けるBGDイベントも存在する。 ・ COR依存性を考慮し、バックグラウンドスペクトルを再構成。   バックグラウンドレベルのシステマティックな揺らぎを抑えることに成功した。 図5: XIS CCDの構造