Journal Club 「急性呼吸不全に対するnasal high flow」 2015.7.14 東京ベイ浦安市川医療センター 小島俊輔
背景 NIPPVがCOPDや心疾患に伴う肺水腫の症例の死亡率や挿管を減少させることは言われている。 一方で、急性低酸素性呼吸不全に対するNIPPVの効果はまだ議論の余地がある。 そのような場合にHigh flow oxygen Nasal cannula(HFNC) が代替になりうる可能性がある。
High flow Oxygen Nasal Cannula 特徴 ・高流量の高酸素濃度 ・加温・加湿 ⇒粘液絨毛クリアランスUP ・解剖学的死腔を洗い流す ・軽度のPEEPをかけられる ・QOLを維持 ⇒会話や食事が可能 Fisher & Paykel 社より
本論文のPICO Patient 心不全、CO2貯留のない 低酸素血症の患者 Intervention HFNC Comparison 通常酸素、NIV Outcome 28日時点における 累積挿管率
患者選定 ・Feb 2011- April 2013の期間でFranceとBelgiumにおいて23施設のICU Inclusion Criteria 18歳以上で以下を満たすもの 呼吸数 25/min 以上 PaO2 / FiO2 300mmHg以下 PaCO2 : 45mmHg以上ではない 慢性呼吸不全の既往を認めない
除外基準 Exclusion Criteria ・PaCO2 : 45mmHg以上 ・慢性呼吸不全の既往がある患者 ・気管支喘息やCOPDの急性増悪 ・心原性の肺水腫 ・好中球減少症 ・循環動態不安定 ・GCS <12 ・NIPPVが禁忌 ・緊急で挿管の適応の患者 ・急変時の対応がDNIRの患者
Figure 1
① ② ③ ・inclusion criteriaに525名該当 ・そのうち313名がstudyに参加 ・313名が以下にランダムに振り分け ①high flow oxygen group 106名 ②standard oxygen group 96名 ③NIPPV 111名
割り付け Inclusionに入ることを確認後、3時間以内に以下の3つにグループに分けられる。 Web-based management system( Clinsight, Ennov)に基づき、振り分けられる。 ①High-flow-oxygen group ②Standard oxygen group ③NIPPV
介入方法 ① High-flow-oxygen group 器械は ‘MR850, Fisher and Paykel Healthcare’を使用 50L/min, FiO2 1.0で開始。 ②Standard oxygen group リザーバーマスク10L/min以上から開始。 ③NIPPV ‘Fisher and Paykel Healthcare’のFace Maskを使用 TV 7-10ml/kg, PEEP2-10cm H2Oで開始 ①〜③ともにSpO2 92%を維持するように調整。
挿管の基準 多施設での基準を一定化し、また挿管が遅れることを予防するために以下の3つのいずれかを満たせば挿管することとする。 血行動態不安定(SBP≦90、mBP≦65) 2) 意識レベル増悪(GCS<12) 3) 呼吸不全 以下のうち2つ RR>40, 呼吸疲労改善なし、分泌物の増加、pH <7.35, SpO2 90%以下持続、酸素投与に反応ない sBP< 90 vasopressor必要 MAP <65 GCS <12
アウトカム Primary outcome 28日目の時点での累積挿管率 Secondary outcome 1) 集中治療室入室中の全死因死亡率 2) 90 日の時点での全死因死亡率 3) 1〜28 日での人工呼吸器の非装着日数 その他 敗血症性ショック、HAP, 不整脈、心停止など。
統計解析 通常酸素投与群の挿管率を60%と予測 nasal high flow群、NIV群は、挿管率を20%改善させると予測 α error 0.05、power 80%として、サンプルサイズを計算 Total 300人の患者が必要であると算出 →実際の統計解析時は、最も挿管率の低かったnasal high flow群を基準として、他2つと比較する形とした
3つのグループにおける 患者背景
呼吸不全の原因としては、
⇒3つのグループにおけるベースの有意差はない
結果
Primary Outcome 28日目時点での累積挿管率 50% 47% 38% 介入から28日目時点での挿管率 グラフで示すと。 ・ high flow oxygen 38% Stanard oxygen 47% NIPPV 50% ⇒有為差なし Primary Outcome ⇒有意差なし
Primary Outcome 28日目時点での累積挿管率 58% 53% 35% PaO2/ FiO2 <200mmHgの28日目における累積挿管率 ⇒high-flow groupで有意に低い
介入から28日目時点での挿管率 ・ high flow oxygen 38% Stanard oxygen 47% NIPPV 50% ⇒有為差なし 介入から挿管までのインターバル ⇒ 有為差なし 挿管の理由にも有意差なし。
28日目までの呼吸器を必要としない日数は、 high-flow oxygen群で有意に長い
・ICU入室後の死亡率 ・90日時点での死亡率 一方で、以下には有意差あり ・ICU入室後の死亡率 ・90日時点での死亡率
Kaplan-Meier Plot
Hazard Ratioは、 ICUでの死亡率、90日時点での死亡率には有意差あり。 補正後(simplified acute physiology score II, PMH of cardiac insufficiency) も有意差あり。 Hazard Ratioは、 standard oxygen VS high-flow oxygen ⇒2.01 (95% CI, 1.01-3.99) NIPPV VS high-flow oxygen ⇒2.50 (95% CI, 1.31-4.78) ただし、挿管された患者での90日死亡率には有意差なし。
Discussion High-flow oxygenはNIPPVと比べ挿管率に差はなかった。 一方で、ICUにおける死亡率、90日時点での死亡率は減少させた ・High-flow oxygenはNIPPVと比較し、挿管率を減らすという報告もある。 Respir Care 2015; 60: 170-8 Intensive Care Med 2011; 37: 1780-6 Respir Care 2015;60:162-9
どうしてHigh-flow oxygenで 死亡率が減ったのか? 可能性としては、 「P/F ratio <200mmHgの症例」、及び「挿管された症例」において、High-flow oxygen群で死亡率が少なかった。 ことが関与しているのかもしれない。
介入から28日目時点での挿管率 ・ high flow oxygen 38% Stanard oxygen 47% NIPPV 50% ⇒有為差なし 介入から挿管までのインターバルに有為差なし 挿管の理由にも有意差なし。
ICUでの死亡率、90日時点での死亡率には有意差あり。 補正後(simplified acute physiology score II, PMH of cardiac insufficiency) も有意差あり。 ただし、挿管された患者での90日死亡率には有意差なし。
どうしてHigh-flow oxygenで 死亡率が減ったのか? 他の可能性として、 ・NIPPVで挿管のタイミングが遅れた ・NIPPVによるVILIが生じるリスク ( Vt > 9ml/kg of PBW) ・high-flow oxygenによるcomfort度合い改善、呼吸苦改善、呼吸数減少を認めること。 ・humidification of inspired gasで分泌や無気肺の減少、Low PEEPが関与しているのかもしれない。 ・high-flowによる上気道における死腔のフラッシング
Limitation サンプルサイズの計算として、通常酸素群の挿管率を60%と予測し、また実際の差は予測した20%には及ばないことから、nが少ない可能性あり 統計手法として、当初は通常酸素群と他2群を比較する予定であったが、実際にはnasal high flow群と他2群を比較しており、正しいのか疑問
結論 急性の低酸素性呼吸不全患者では、 ・High-flow oxygen、Standard oxygen, NIPPVの比較で挿管率に有意差は認めなかった。 ・90日死亡率では、High-flow oxygenにおいて死亡率の有意な低下を認めた。
最近発表された nasal high flowに関する研究
胸部手術後の急性呼吸不全の予防のおける、 NIPPVに対する High flow nasal cannula (HFNC)の 非劣性試験
本論文のPICO Patient 胸部手術して抜管後 急性呼吸不全を呈した、 もしくはリスクのある患者 Intervention HFNC Comparison NIV Outcome 治療失敗 再挿管+別の治療へ変更+治療の中止
Primary Outcome ⇒有意差なし
High flow nasal cannula (HFNC) による 管理により、挿管の時期が遅れると不利益が Intensive Care Med 2015, 41: 623-632 High flow nasal cannula (HFNC) による 管理により、挿管の時期が遅れると不利益が 起こるかどうかを調べた後ろ向き研究
本論文のPICO Patient HFNC使用後に 挿管となった症例 Intervention 48時間以内の挿管(Early) Comparison 48時間以降の挿管(Late) Outcome ICU死亡率、抜管成功率、 人工呼吸器不要日数
結果 挿管に至った175名のICU管理患者のうち48時間以内のEarly群は130名(74.3%) , 48時間以降のLate群は45名(25.7%)。 ICU死亡率、抜管成功率、人工呼吸器不要日数は共にEarly 群において有意に良好であった。 (Propensity scoreでマッチさせた37ずつの検討でも同様の結果であった) HFNCで粘って挿管が遅れると、 予後が悪化する可能性がある
私見 肺炎(CAP, HAP)を主体とする症例で、挿管の適応は満たさない低酸素血症の症例では、nasal high flowで経過をみるのはいいかもしれない しかし著明な低酸素血症であれば挿管の適応となるので、適応症例については不明確である (本論文で有用とするには証拠が不十分であると考える) ・NPPVと同様であるが、nasal high flowで粘って挿管が遅れるのは、予後を悪くする可能性があるので、粘ってはいけない ・心血管術後抜管後の呼吸不全に対してもいいかもしれない