第1講 保険の本質と代位 保険法2条6号   「損害保険契約 保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するものをいう。」 保険法2条8号   「生命保険契約 保険契約のうち、保険者が人の生存又は死亡に関し一定の保険給付を行うことを約するもの…をいう」   *旧商法673条には、「一定の金額を支払う」とされていた。

Slides:



Advertisements
Similar presentations
第 13 章 制度設定の変更が必要な 社会保障制度. 社会保障制度の重要性と それに対する根強い不安感 不景気の一因 不景気の一因 1997 年以降 かつてない不況 原因 ① 消費税率の引き上げ 原因 ① 消費税率の引き上げ ② タイや韓国を中心とした アジアの通 貨危機 アジアの通 貨危機 ③ 山一證券の経営破綻に代表さ.
Advertisements

有形固定資産の取得原価 有形固定資産は、取得原価から原価売却累計額を 控除した金額で、バランスシートに計上。 取得原価は、取得の方法に応じて決定。 (購入 自家建設 現物出資 交換) 第8章 第2節第2節.
(傷害総合保険) 承認番号: SJ 承認年月日: 2010/03/24 あの事故の 弁償どうする のかしら? 賠償金か~ ケッコウす るよね~ 保険に入って なかったの かしら? 互助会で何とか ならないの? 子どもにちょ うど良い保険 が あればね~ 私、茨城に来る前は PTAの保険に入っ.
不法行為法の効果 1.序 2.損害賠償の方法 3.損害賠償の主体と複数者の関与 4.損害賠償額の算定 5.損害賠償額の調整 6.損害賠償請求権の特殊問題.
商業:ビジネス基礎 ~ビジネスの担当者~ 保険業者のビジネス.
多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
求償・免責について 第三者加害行為事案に伴う事務
求償・免責について 第三者加害行為事案に伴う事務
法律行為(契約) 民法上の法律行為の代理 商法行為の代理
医療事故 2002.6.7.
トレーニングの際はスライド, ノートの両方を確認してください
多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
債権者代位権とその転用 名古屋大学大学院法学研究科 加賀山 茂.
「楽行四海」海外旅行総合保険 充実の基本補償! 豊富な拡張補償! 死亡・後遺障害 医療費用 入院手当て 緊急医療移送 帰国移送
第4回 商事関係法.
「営業・事業」とは何か?① 商法15条:商号は営業とともにする場合に譲渡できるのはなぜ?
大阪大学大学院国際公共政策研究科 教 授 大久保 邦彦
農家への相続対策 農業相続人がいない場合は、 驚くほどの相続税が課税されます!.
「事 務 管 理」 の 構 成 債権 第一章 総則 第二章 契約 第三章 事務管理 第四章 不当利得 第五章 不法行為.
多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
PV-あんしん補償パックの Q&A.
債権 債 権 法 の 構 造 (不法行為法:条文別) 第709条 不法行為の要件と効果 第710条 非財産的損害の賠償
高額医療・高額介護合算療養費制度の参考事例
交通事故 1.交通事故の発生状況 2.自動車損害賠償責任保障法 3.中間責任主義 4.運行供用者 5.運行支配と運行利益
第05回 2009年11月04日 今日の資料=A4・5枚 社会の認識 「社会科学的発想・法」 第05回 2009年11月04日 今日の資料=A4・5枚
模擬裁判2008 ~ウルトラマンは正義か?~ 事件の概要.
第3講 生命保険の特性 なぜ? 生命保険=定額給付! *例えば傷害保険でも、死亡保障は定額
2016年度 民事訴訟法講義 秋学期 第11回 関西大学法学部教授 栗田 隆
請求権競合論 1.請求権競合論とは 2.問題点1,2 3.学説の対立 4.請求権競合説 5.法条競合説 6.規範統合説
相続・事業承継通信 厳しくなった物納制度 1. 三種類の納税方法と優先順位 2. こんな相続人は物納が認められない 多額の現預金を相続した人
第6講 保険事故論 保険事故の「偶然性」とは?
団体人身意外傷害保険の手配をお勧めいたします。 *ご注意:疾病、重大疾病などは、免責となります。
人材育成 1.従業員の雇用 1-1 従業員採用への配慮事項 1-2 人材の募集 1-3 労働契約の締結 Appendix-1 労働者保護法規
Unit18 設けるにもルールあり.
JSCC スポーツあんしんクラブ 入会申込書
ボンドの効果 ―法と経済学による分析― 桑名謹三 法政大学政策科学研究所
2018/11/8 民 法 の 構 造 (編別) 事務管理・不当利得・不法行為.
療養費 健康保険 支給申請書(治療用装具) 被保険者 家 族 円 被保険者(申請者)情報 申請内容
「申請者記入用」は2ページに続きます。〉〉〉
第1講 保険の本質と代位 保険法2条6号   「損害保険契約 保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するものをいう。」 保険法2条8号   「生命保険契約 保険契約のうち、保険者が人の生存又は死亡に関し一定の保険給付を行うことを約するもの…をいう」   *旧商法673条には、「一定の金額を支払う」とされていた。
2008年度 倒産法講義 民事再生法 7 関西大学法学部教授 栗田 隆.
株式会社における出資者と経営者 経営とは、一定の事業計画を構築し、それに沿って経営資源を調達し、さらにそれを用いて、社会に財やサービスを効率的に提供しようとする一連の営みである。 投資家(株主) 取締役 (経営者) 株主総会 所有者 経営 所有と経営の分離 資本の循環 資本金 商品 生産 商品´ 売上.
2005年度 民事執行・保全法講義 秋学期 第5回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
海外療養費 健康保険 支給申請書 円 被保険者(申請者)情報 申請内容
療養費 健康保険 支給申請書(立替払等) 被保険者 家 族 円 被保険者(申請者)情報 申請内容
Claim Report 公衆責任保険の事例紹介 重要事項 結果 支払保険金額
2018年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産債権(2) 共同債務関係にある債務者 在外財産からの満足.
第4回 商法Ⅰ.
2012年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産債権(2) 共同債務関係にある債務者 在外財産からの満足.
第3回 物権法総説(物権と債権;所有と占有);所有権(所有権の意義;物権的請求権;所有権の取得原因);占有権(占有の意義;占有と取得時効)
第1回 商法Ⅰ.
第12回 商法Ⅰ 2006/07/ /4/9.
傷病手当金 健康保険 支給申請書 円 被保険者(申請者)情報 申請内容 振込先指定口座 受取代理人の欄 常務理事 事務長 担当 支給決定額
2015年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産債権(2) 共同債務関係にある債務者 在外財産からの満足.
2001.12.4 エルティ総合法律事務所所長弁護士 システム監査技術者 藤 谷 護 人
第13回 法律行為の主体②-b(無権代理、表見代理)
2006 民事執行・保全法講義 秋学期 第15回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2013年度 民事訴訟法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆
「不 当 利 得」 の 構 造 債権 第一章 総則 第二章 契約 第三章 事務管理 第四章 不当利得 第五章 不法行為.
もてぎ・鈴鹿共済会ご加入の傷害総合保険の概要
保険目的 コンピューター保険 今回はコンピューター保険について簡単に説明いたします。
建設工事保険 (1)工事物の物的損害  工事着工から工事完成の引渡しまでの間に工事現場で発生した自然災害や不測かつ突発的な事故により保険の目的(工事の目的物、材料等)に生じた損害につき保険金をお支払いする保険です。 (2)第三者賠償責任 事故が発生した際、その付近の第三者に対し、人的損害、物的損害を引き起こし、法律上賠償責任が生じた場合、その支払いについてもこの保険をお使いになれます。
2016年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産債権(2) 共同債務関係にある債務者 在外財産からの満足.
法と経済学(Law and Economics)
Claim Report 工傷(労災)保険条例改正後の注意点 弊社雇主責任保険(2011年版)の対応
海外療養費 健康保険 支給申請書 円 被保険者(申請者)情報 申請内容
明治学院大学 法と経営学研究科 設立時委員長 名古屋大学 名誉教授 加賀山 茂
参考資料.
現金を贈与する事で合理的に相続税を減らし、当該贈与金額を 保険料に充当する事により一時所得のメリットを活用するプランです
求償・免責について 第三者加害行為事案に伴う事務
Presentation transcript:

第1講 保険の本質と代位 保険法2条6号   「損害保険契約 保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するものをいう。」 保険法2条8号   「生命保険契約 保険契約のうち、保険者が人の生存又は死亡に関し一定の保険給付を行うことを約するもの…をいう」   *旧商法673条には、「一定の金額を支払う」とされていた。

1 損害保険契約の特性 保険法の字義どおり… 「一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約する」 1 損害保険契約の特性 保険法の字義どおり…  「一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約する」 生保と損保の根本的相違は、  定額の金銭給付  vs  損害填補

被保険利益 →損害の発生によって滅失すべき利益 3条:「金銭に見積もることができる利益」 【前提】 損害が発生する可能性がある 損害保険契約の「目的」とその支配! 被保険利益  →損害の発生によって滅失すべき利益   3条:「金銭に見積もることができる利益」 【前提】   損害が発生する可能性がある  =損害が発生するはずの対象物でなければ  損害保険をかけられない。

模式図 人の財産(例えばまず特定物を想定してみよう)   損害発生!     価値減少 こんなになっちゃった…

- =

損害保険契約の目的 この部分の回復!

「回復」の方法 金銭で回復する(損害補償手段の統一性) 被保険利益が、金銭で評価できなければならないわけを考えてみよう!   被保険利益が、金銭で評価できなければならないわけを考えてみよう!  →被保険利益の金銭評価額を「保険価額」  *保険価額は原則として保険金額と一致するように思えるが、保険金額とは契約の時に決められる支払金額をいうにすぎず(もっぱら保険料算定の基礎となる)、一致しないために問題が生じることがある。

保険のおかげで、「元に戻った」だけにすぎない! 損害填補性と「儲かり感」 =  保険のおかげで、「元に戻った」だけにすぎない!

【ところで…】 そもそもなぜ損害の填補なのか? α.当事者意思説   ?? β.強行法規説(利得禁止原則の存在)  →被保険利益の存在は、損害保険契約を「賭博化」することを防いでいる。すなわち、公序良俗に関わる問題!   *モラル・ハザード防止

2 利得禁止原則の厳格性 24条、25条(代位)に端的に… 2 利得禁止原則の厳格性 24条、25条(代位)に端的に… 25条:「保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権…について当然に被保険者に代位する。   一 当該保険者が行った保険給付の額   二 被保険者債権の額…」

代位の典型例 保険会社 保険金支払 民法709条・損害賠償請求権 放火犯 家屋所有者 保険契約者

保険契約者(被保険者)が二重に利得しない 有責加害者を免責しない 損害賠償請求権をムダにしない   *保険者がこれを行使する

保険代位は、3大代位に含まれているのをご存じですか?  考えてみると、民法という大都会を保険村のルールで押し通しているような… おらが村のルールで走るだ!

でも、一番の問題は…   保険契約者(被保険者)は、タダで保険金を受領したわけではない!! 保険料を支払っているからこそ保険金を受領できた!!

だったら本当は… 保険会社 保険料払込 保険金支払 民法709条・損害賠償請求権 放火犯 家屋所有者 保険契約者

【ところで… 】  損害保険の本質論争(目的論) 絶対説   *利得禁止の原則重視 相対説   *保険料の対価性重視 不確定損害肩代わり説

3 「人」の生命・身体の実損填補? 生命保険:法文的にいうならば… 「一定の保険給付を行うことを約する」 →定額給付性 それでは… 3 「人」の生命・身体の実損填補? 生命保険:法文的にいうならば…       「一定の保険給付を行うことを約する」          →定額給付性 それでは…    生命保険を損害填補にする可能性はないか?

実は… 考えられる 価値減少 損害発生

人間について、 「元の価値」-「現在価値」 この部分が「減った」

例えば、不法行為(民710条)   他人の身体…を害したる場合と財産権を害したる場合とを問わず、前条の規定によりて損害賠償の責に任ずる者は、財産以外の損害に対してもその賠償を為すことを要す。 →ライプニッツ法やホフマン法による、損害算出(例えば、平均余命×収入)

それではなぜ保険法2条8号? 「給付の容易性・迅速性」なのか? 定額給付指向! 例えば傷害保険でも、死亡保障は定額…  例えば傷害保険でも、死亡保障は定額… どうして? 当然の理屈があるのか?  行き着くところは?  「給付の容易性・迅速性」なのか?         *「四の五の言わずに、払え!」

4 生保の特性から導かれるところ -受取人の権利の特性- 4 生保の特性から導かれるところ      -受取人の権利の特性- 保険金請求権の「固有権」性   「保険金受取人の権利取得は、保険契約者が一旦取得した権利を承継的に取得するのではなく、受取人に指定されることにより自己固有の権利として原始的にこれを取得する」(大森)

どんな場合にメリット?-シミュレーション- 債権者 保険会社 保険契約 生命保険金支払 被相続人(死ぬやつ) 相続財産 保険契約者・被保険者 × 相続人 相続放棄 保険金受取人

結局、基本的スタンスとして、 生命保険を定額給付にした =損害保険と生命保険を理論上も分離 =生命保険については「被保険利益」概念   =損害保険と生命保険を理論上も分離   =生命保険については「被保険利益」概念    を放棄した 【結果】  生命保険には被保険利益が果たす役割を期待できない。   *もちろん、「賭博化」の危険も払拭できない!

5 二類型で割り切れるのか? -「組合せ」の基準- 5 二類型で割り切れるのか? -「組合せ」の基準- 2条6号 損害填補 物 2条8号 人 定額給付

有名どころの傷害保険  ◆傷害治療費用保険金 海外旅行行程中の事故によるケガが原因で、医師の治療を受けられた時(義手、義足の修理を含みます。)、1回のケガにつき、現実に支出した当会社が妥当と認める次の費用を傷害治療費用保険金額の範囲内でお支払いします。ただし、事故の日からその日を含めて180日以内に要した費用に限ります。) (1)診療費関係、緊急移送費、ホテル客室料(治療を要する場合において医師の指示によりホテルで静養する時のホテル客室料)、入院・通院のための交通費及び通訳雇入費で治療のために現実に支出した金額。 (2)入院により必要となった国際電話料や身の回り品購入費などの諸費用のうち現実に支出した金額。ただし、身の回り品購入費は5万円、合計で20万円を限度とします。 (3)入院ののち、旅行行程に復帰または直接帰国するために現実に支出した交通費・宿泊費(払戻しを受けた金額または負担することを予定していた金額がある時は、その額を差し引きます。)

提起される傷害保険の本質問題 傷害保険における「損害填補」原則? 傷害保険における死亡保険金? 代位の有無は?