Atrial fibrillation and digoxin 2班 浅香裕之 中山郁恵 菅野良秀 吉田健一 鈴木淳 小原朋子
患者 85歳男性 体重55kg 安定労作性狭心症の既往歴あり
経過 1日目 胸痛と息切れ(救急治療室へ運ばれた) 不規則な不整脈(絶対性不整脈) 心尖の拍動126拍/分以上 経過 1日目 胸痛と息切れ(救急治療室へ運ばれた) 不規則な不整脈(絶対性不整脈) 心尖の拍動126拍/分以上 血圧収縮期120mmHg拡張期84mmHg ECGで心房細動 (急性虚血の所見なし) 軽度の低酸素血症 BUN24mg/dL ; Creatinine 1.1 mg/dL
心房細動の心電図(ECG)
治療 1日目 ジゴキシンの急速飽和療法(24時間をかけて総量1mg投与) 2日目~ 経口投与量0.25mg/dayの維持療法を行った
経過 2日目以降 退院(退院後も経口による維持療法続ける) 2日目 脈拍は90拍/分にまで減少 3日目 経過 2日目以降 2日目 脈拍は90拍/分にまで減少 3日目 ・100フィートをきびきびと歩いた後も脈拍82拍/分で調子よく歩いていた ・心電図を見ると、正常の洞調律に戻っていた 退院(退院後も経口による維持療法続ける)
経過 6日目(再入院) ジゴキシン中毒 4日目から悪心と嘔吐 傾眠 失見当識 腹部に反跳圧痛の無いびまん性の圧痛 経過 6日目(再入院) 4日目から悪心と嘔吐 傾眠 失見当識 腹部に反跳圧痛の無いびまん性の圧痛 血清ジゴキシン濃度は2.7ng/mL ジゴキシン中毒
Stable exertional angina 安定労作性狭心症 労作によって発作が生じ、安静にすると寛解 冠動脈硬化症を基盤としておこる。 冠血流増加抑制 心筋酸素需要増加時に心筋虚血 狭心痛
Apical pulse rate 心尖拍動数 実際の心室の拍動数がわかる 「末梢動脈での脈拍=心室の拍動数」 ではない 正常値 60~100拍/分 ここでは 126拍/分 以上
Blood pressure 血圧 正常値 収縮期 140mmHg未満 拡張期 90mmHg未満 ここでは 収縮期 120mmHg
BUNとCreatinine 腎機能、特に糸球体濾過量の指標 正常基準値 BUN・・・・・・・・・・9~20mg/dl creatinine ・・・・男0.8~1.2mg/day ・・・・女0.5~0.9mg/day 血中に排出される含窒素物質の最終代謝物 糸球体濾過量が低下すると上昇する
Atrial fibrillation 心房細動 概念 心房の無秩序な調律であり、そのレートは 350~600/minに達する。 興奮の一部は不規則に心室に伝導され、未治療時の心室レートは約160/minにたっすることも。
Atrial fibrillation 心房細動 機序 心房内多源性微小リエントリー回路 を興奮がランダムに旋回するため。 多くは心房の拡大をおこす症例 (僧帽弁狭窄など)におこる。 危険性 心拍出量低下により血圧低下・肺鬱血 心房内の血液うっ滞により血栓の形成
Atrial fibrillation 心房細動 治療 ①digitalis (cardiac glycoside) ②β-blockers ③Ca antagonist 以上房室伝導抑制・心室レート調整 ④K+channel blockers (amiodarone) 心筋細胞の活動電位持続時間・不応期延長
この症例のポイント1 ジゴキシンの抗不整脈作用
ジギタリスの作用機序 心臓に対する効果 1)直接作用 2)自律神経を介する間接作用
直接作用 細胞内Ca濃度を上げることによりアクチンとミオシンの相互作用を高める
Ca濃度を上げるメカニズムとは ジギタリスがNa+/K+ATPase抑制 細胞内Na濃度上昇 Na+-Ca2+交換機構抑制
間接作用 ジギタリス治療範囲レベルでは副交感神経興奮作用が表に出る。 徐拍、洞房伝導遅延、房室伝導遅延など
この症例においては 副交感神経を強めることで房室伝導を抑制 心房細動による心室への過剰な興奮をブロック 心室性頻拍・心室細動の発生の危険性を下げる
心房細動での “回旋興奮” ジギタリス 心房細動による心室への過剰な興奮をブロック
再入院 diffusely tenderness (びまん性圧痛) lethargic(傾眠)、disoriented(失見当識) 主訴 2日にわたるnausea(悪心)、vormiting(嘔吐) lethargic(傾眠)、disoriented(失見当識) 中程度の意識のくもり、軽い刺激で覚醒、注意散漫、応答や 行動緩慢 時、場所、周囲の状況を正しく理解する能力 diffusely tenderness (びまん性圧痛)
diffusely tenderと rebound tenderness (反跳圧痛) 迷走神経の過剰興奮による消化器平滑筋の過度の緊張による rebound tenderness 腹壁を手指でゆっくり圧迫し、急に離したときに疼痛を訴える。腹壁に炎症が及んでいる事を示す徴候;外科的処置が必要
この症例のポイント2 ジギタリスの副作用ージギタリス中毒
ジギタリス中毒の症状(1) 消化器症状が最もよく見られ、 食欲不振、悪心、嘔吐、下痢などがある 中枢神経症状 食欲不振、悪心、嘔吐、下痢などがある 中枢神経症状 失見当識、幻覚(特に高齢者)。視覚障害など
ジギタリスのCNS作用
ジギタリス中毒の症状(2) 心臓 ・軽度 APDの短縮・静止膜電位脱分極 ・中程度 DAD(遅延後脱分極)出現、二段脈 ・重度 頻拍性不整脈、トリガー活動、 心室細動 死
この症例のポイント3 ジゴキシンの薬力学・薬物動態学
ジゴキシンの薬物動態 吸収・分布 経口投与でよく吸収される(75%) 分布容積Vdが6.3L/kgと大きく つまり、全身の組織に結合する 経口投与でよく吸収される(75%) 分布容積Vdが6.3L/kgと大きく つまり、全身の組織に結合する 安全域がとても狭い 半減期40時間
ジゴキシンの薬物動態 代謝・排泄 2/3以上が未変化で腎臓から排泄 1日あたり体内存在量の約30%が排泄 腎不全患者ではクリアランスが低下 1日あたり体内存在量の約30%が排泄 腎不全患者ではクリアランスが低下 血中濃度が上昇 2.0ng/ml以上で中毒
この例についての問題点 ~なぜ、ジギタリス中毒に陥ったのか~ 患者さんの既往歴から心不全をおこす可能性があったので、心臓機能を抑制しないdigoxinの投与は適当。しかし、腎臓機能が低下している人に対して、腎機能の正常な人に対する量(0.25mg/day)で維持療法を行ったため、体内に蓄積し、中毒域に達してしまった。
では、どうすればよかったのか? 腎機能の低下を考慮し、補正した量を投与すべきであった 血中濃度のモニタリングを行えばよかった 退院を少し待てばよかった 副作用があればすぐに病院にくるように言えばよかった
ジギタリス中毒の治療 この患者の場合・・・・軽症のジギタリス中毒 ジキタリスの投与を中止 血漿中のジキタリス、K値、Mg値、Ca値測定 心電図測定
ジギタリス中毒の治療 軽度 経口カリウム補給 中程度 点滴でカリウム補給・ 抗不整脈薬 重度 ジギタリス抗体投与
問題1 ジギタリスは心房細動の他に何に使われますか。3つ選んでください。 a.うっ血性心不全 b.高血圧 c.低カリウム血症 d.心房粗動 a.うっ血性心不全 b.高血圧 c.低カリウム血症 d.心房粗動 e.上室性頻拍
解答と解説 問題1 答え)a, d, e 考え方)直接作用;陽性変力作用によりうっ血性心不全に使われます。 間接作用;迷走神経刺激により徐拍と洞房伝導遅延や房室伝導遅延により心房粗動と上室性の頻拍に用いられます。
問題2 ジギタリスの薬物動態、作用機序、治療に関する以下の文で間違っているものを1つ選んでください。 a.急速飽和療法を用いるのはジゴキシンの排泄の分を補うためである。 b.ジゴキシンは主に腎臓で排泄されるので腎臓の悪い人は量を抑えるべきである。 c.ジギタリスはNaポンプに結合してこれを抑制する。 d.ジギタリスは治療用量の上限で中毒をおこす。 e.ジギタリスは心筋細胞内のカルシウム濃度を上げることで心筋の収縮力を増強する。
解答と解説 問題2 答え)a 考え方)a;ジゴキシンは分布用量が大きいから、体内の結合部位を飽和するために急速飽和療法を行います。 b、c、d、e;すべて正しいです。
問題3 ジギタリス中毒で気をつけるべき状態はどれですか。 a.低カリウム血症 b.高カリウム血症 c.低カルシウム血症 d.高カルシウム血症 b.高カリウム血症 c.低カルシウム血症 d.高カルシウム血症 e.高マグネシウム血症 f.低マグネシウム血症
解答と解説 問題3 答え)a, d, f 考え方)低カリウム血症;Naポンプの活性は低下し、Naポンプのジギタリス結合が高まるので、ジギタリスの作用増強と中毒が生じやすいです。 高カルシウム血症;Ca過負荷の状態を生じやすいので中毒になりやすいです。 低マグネシウム血症;Mgは生理的なCa拮抗薬なので中毒になりやすいです。