化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城 一郎
化学的侵食とは 劣化要因:酸,硫酸塩等 劣化現象:酸や硫酸塩などの侵食物質によるコンクリート中のセメント水和物の分解,侵食物質がセメント組成物質や鋼材と反応し体積膨張することによるひび割れやかぶりのはく離,さらには鋼材腐食を引き起こす劣化現象 劣化指標:劣化因子の浸透深さ,中性化深さ 劣化機構:水和物の分解,膨張性化合物の生成に大別される.(他に水和物の溶脱) ・ 水和物の分解:コンクリート中のセメント水和物と化学反応を起こし,水に溶けにくいセメント水和物を可溶性物質に変化させることにより,コンクリート組織が多孔質化したり分解したりするもの.代表例:酸による侵食 ・ 膨張性化合物の生成:コンクリート中のセメント水和物と反応して新たに膨張性化合物を生成し,生成時の膨張圧によりコンクリートを劣化させるもの.代表例:硫酸塩(例えばNa2SO4)による侵食
化学的侵食を受ける構造物 酸,各種塩類を使用する工業施設 温泉地帯 下水道施設 海洋構造物 硫酸塩を含む土壌
下水道施設における劣化 細菌による硫酸の生成+硫酸による化学的侵食 1.硫化水素の生成→2.硫化水素の蒸発→3.硫化水素の吸収と酸化→4.管壁の侵食 1.下水中あるいは下水汚泥中に含まれる硫酸イオンが嫌気性環境(酸素の存在しない環境)において,硫酸塩還元細菌の作用で硫化水素に変化 生成した硫化水素が流れの乱れる箇所で大気中にガスとして放散 気相部コンクリート表面の結露水に溶解した硫化水素が,好気性環境(酸素の存在する環境)において,硫黄酸化細菌によって硫酸に変化し,コンクリートを侵食 H2SO4+Ca(OH)2→CaSO4・2H2O(二水石膏)
硫酸による劣化の特徴 劣化指標:侵食深さ,中性化深さ,(強度低下域) 劣化に影響を及ぼす要因(侵食作用と浸透作用のバランスで説明可能) 硫酸濃度:硫酸濃度が高いほど,侵食 大→劣化深さ 大 水セメント比:硫酸濃度が高い場合,低水セメント比のコンクリートほど侵食 大→劣化深さ 大,硫酸濃度が低い場合,侵食は顕在化しない.高水セメント比のコンクリートほど中性化(浸透)深さ 大→劣化深さ 大 注)硫酸による劣化は水セメント比が低いほど(組織が緻密なほど)劣化しやすくなるという他の劣化現象とは異なる傾向を示す場合がある.
下水道施設における硫酸劣化 ③ ④ ① H2S+O2→H2SO4 SO42-+2C+2H2O→2HCO3-+H2S 硫黄酸化反応 硫酸による腐食 H2S+O2→H2SO4 資料提供:八戸工業大学 阿波稔先生 ① 硫酸塩還元反応 SO42-+2C+2H2O→2HCO3-+H2S
実構造物の劣化メカニズム 供用14年の実構造物 圧送管直後のマンホール付近で激しく劣化 嫌気性 硫化水素の発生 好気性 硫酸へと変化
検討対象となる実構造物とコアの採取位置
実構造物の内部強度分布 推定圧縮強度(MPa) 初期浸漬面からの距離(mm) 針貫入試験による実測値 強度分布曲線 実際の劣化深さ 強度低下域 実際の劣化深さ フェノールフタレイン呈色域 強度分布曲線 推定圧縮強度(MPa) 中性化深さ 侵食深さ 通常の劣化深さ 東京都のマニュアルでは中性化深さから1cmではつり. 下水道事業団の指針では中性化深さから1~2cmではつり. 初期浸漬面からの距離(mm) 東北大学建設材料学研究室での実験結果より
硫酸による劣化対策? 化学的侵食作用が非常に厳しい場合(例えば,下水道構造物や温泉近くに建設される構造物)には,一般に,化学的侵食を抑制するためのコンクリート表面被覆や腐食防止処置を施した補強材の使用などの対策を行うのが良い. 「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術指針」および「同マニュアル」平成14年12月発刊(日本下水道事業団)での考え方:基本的にコンクリート被覆工法(塗布型ライニング工法とシートライニング工法)により対応することが前提.かぶりコンクリートによる抑制効果はあまり期待していない.