MJOがPNAパターンの 予測可能性に及ぼす影響

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MJOがPNAパターンの 予測可能性に及ぼす影響 2008年度「異常気象と長期変動」研究集会 2008年10月30日 京都大学宇治キャンパス木質ホール MJOがPNAパターンの 予測可能性に及ぼす影響 向川 均(京大・防災研)・林 麻利子(京大院・理)*                   (*) 松江地方気象台        -目次-    ●PNAパターンの予測可能性    ●研究の目的    ●解析結果    ●まとめ

Pacific/North American(PNA) パターン 180° 60° 120° W H L 180° 60° 120° W H L 冬季Z500偏差相関係数 20°,160°基準点 N W (Wallace and Gutzler,1981) 中緯度における大規模な大気変動の中にはテレコネクションパターンと呼ばれる、地理的に固定され、持続性の高い低周波変動が存在します。その中の一つがPacific/North American pattern、つまりPNAパターンです。この図はWallace and Gutzlerによる、20N、160Wを基点にした、冬季の500hPa高度場偏差の一点相関図です。PNAパターンはこの図で相関の高いハワイ、アリューシャン列島の南、カナダ西部、アメリカ東部に気圧変動の中心を持ちます。北太平洋域で負の高度場偏差である場合を正のPNAパターン、正の高度場偏差である場合を負のPNAパターンと定義されています。過去の観測データを用いた研究からPNAのライフサイクルは10日~2週間であると知られています。 また、最近では、熱帯域に存在する30-60日で地球を一周するような東進する大規模循環であるMJOがPNAパターンの形成に重要であることが指摘されています。 ・テレコネクションパターンの一つ ・ハワイ・アリューシャン列島の南・カナダ西部・アメリカ東部に 偏差の中心をもつ低周波偏差パターン ・約10日~2週間のライフサイクルを持つ(Feldstein,2002;Mori ,2008)

PNAの予測可能性 ● 1ヶ月平均場のPNA領域の予測可能性は北半球の他の地域 に比べて高い(Reichler and Roads ,2004) ●予測値が正のPNAパターンであるとき、PNA領域の予測はよい (Palmer,1988) ●1週間程度前の熱帯のMJO(Madden-Julian Oscillation)に伴う   ベンガル湾付近の発散風偏差によりPNAパターンがトリガーされる   ⇒MJOが活発な場合、PNAパターンの予測がよいことを示唆                           (Mori and Watanabe, 2008) ⇒ 予測可能性が高いときと低いときの違いは?   解析値と比較していない 冬季におけるz500の誤差分布 解析データと比較することで、冬季(11月~3月)における、日々のPNAパターンの予測可能性を調べる   ■特に、PNAパターンの予測とMJOとの関係について調べる 目的 また、PNA領域の予測可能性については、アンサンブル予報実験を行った結果から、 北半球の他の地域に比べ高いことや、予測値が正のPNAパターンである場合にPNA領域の予測がよいことが示されています。しかし、予測値と実際の解析値との比較がなされていないため、予測値が間違っていても予測可能性が高いと評価されている可能性があります。また、なぜ予測可能性がよいのかは分かっていません。したがって、その領域での変動の大部分を占めるPNAパターンの予報誤差について調べることは重要です。そこで、本研究では、解析データと比較することでPNAパターンの予測可能性を調べることを目的とします。特に、M08で指摘されたPNAパターンの予測とMJOとの関係に注目して解析を行います。

H L 負のPNAパターンの振幅が 最大になる日の9日前 MJOが活発な場合、 PNAパターンの予測が よいことを示唆 コンター:z300, ベクトル:波活動度フラックス (偏差場) 負のPNAパターンの振幅が 最大になる日の9日前 L H H L (Wallace and Gutzler,1981) 180° 60° 120° W H L コンター間隔:15m コンター:χ200, ベクトル:Vχ200    (偏差場) 発 収 コンター間隔5e+5 m2/s コンター:RWS200,  陰影:実効β これは、Mori and Watanabe,2008により示された負のPNAパターンの振幅が最大になる日の9日前の様子です。 彼らは、MJOに伴うベンガル湾の北部の北風による渦度移流によりベンガル湾の北に正のRWSが作り出され、そこから アジアジェットに沿ってRossby波が北太平洋まで伝播することでPNAパターン形成のきっかけとなることを示しています。正のPNAパターンについても同様のことが示されています。従って、MJOが活発な場合、PNAパターンの予測がよくなることを彼らは示唆しています。 MJOが活発な場合、 PNAパターンの予測が よいことを示唆 (Mori and Watanabe, 2008) コンター間隔:1e-10s-2 (Mori and Watanabe, 2008)

使用したデータ ●気象庁1ヶ月ハインドキャスト予報実験データ ・水平解像度 2.5°× 2.5°(もとはTL159L40) ・初期値   JRA25 ・海面水温 COBESST(気象庁,2006)の初期偏差固定 ・アンサンブルサイズ 11(コントロールランと10個の摂動入りラン) ・初期摂動 特異ベクトル(SV)法により作成、北緯20度以北 ・出力時間間隔 12z, 6時間 ・予報期間  1992年~2001年        -毎月10日,20日,末日を初期値とする1か月予報(40日積分) 解析には150事例を使用(冬季:11~3月) ●JRA25再解析データ  ・高度場 : dailyデータ   水平:1.25°× 1.25° 鉛直:23層   -気候値 1979-2006  偏差:日平均偏差場に7日の移動平均を施した値 予測値:7日移動平均アンサンブル平均値

解析手法 ■PNA indexの定義 PNA index = ■MJOの定義 500hPa高度場偏差(低周波成分)の EOF第1モード 期間:1979-2006(11-3月)     領域: 120E-60W,20N-90N 第1モード(寄与率 18.9%) 90N 20N 120E 60W Z*:冬季500hPa高度場EOF第1主成分 Z:500hPa高度場偏差(7日移動平均値) PNA  index = ■MJOの定義 第1モード(寄与率 40.5%) 30N 200hPa速度ポテンシャル偏差 (30-90日成分)に対する EOF第1モードと第2モード 期間:1979-2006 領域: 0-360,30S-30N 30S まず、PNAパターンの振幅と極性を表わすPNA indxを定義しました。赤で囲まれた領域で冬季500hPa高度場偏差に対して行った主成分分析の第1主成分をPNAパターンと定義し、この第1主成分に500hPa高度場偏差を射影し、第1主成分の大きさで規格化した値をPNA indexと定義しました。この値の予報誤差を用いてPNAパターンの予報誤差を評価しました。 MJOについては、200hPa速度ポテンシャル偏差の30-90日成分に対して行った主成分分析の第1主成分と第2主成分で定義しました。また、MJOの振幅は、第1主成分のスコアと第2主成分のスコアの2乗和のルートで定義しました。 第2モード(寄与率 34.0%) 30N コンター間隔:5e+5 m2/s 30S MJOの振幅=( EOF1のスコア2  + EOF2のスコア2 )1/2

PNA indexの予報誤差の PNA パターンの極性に対する依存性 PNA(-) H L PNA(+) L H 黒:全予報:150事例 予報7日目のPNA indexが 赤:1σ以上(PNA+) :32事例 青: -1σ以下(PNA-) :24事例 PNA(-) 180° 60° 120° W H L 1σ PNA(+) 予報誤差 180° 60° 120° W H L まず、PNA indexの予報誤差の大きさとPNAパターンの極性について調べました。この図は、予報7日目のPNA indexの符号で分けて平均したPNA indexの予報誤差の時系列です。黒線が全150事例の平均で、エラーバーはブートストラップ法により求めた信頼度99%の値です。赤線が予報7日目に大振幅の正のPNAパターンを予報する場合、青線が大振幅の負のPNAパターンを予報する場合の予報誤差の平均値です。予報7日目に大振幅の負のPNAパターンを予報する場合に有意に予報誤差が大きく、大振幅の負のPNAパターンを予報する場合に予報誤差が有意に小さいことが分かります。 この傾向は、PNAパターンの極性を他の予報日で分けても見られました。したがって大振幅の負のPNAパターンを予報する場合に予報誤差が大きくなる傾向にあることが分かります。この結果はPalmer,1998と整合的です。 この図は予報n日目のPNAindexの予報誤差と予報n日目の200hPaの流線関数との回帰係数分布を表しています。予報3日目から北太平洋に有意な高気圧偏差が現れ、有意な領域が 負のPNAパターンに成長していきます。 従って、予報3日目以降負のPNAパターンを予報する場合に予報誤差が大きいことが分かります。 エラーバー:信頼度99% σ:PNA indexの気候学的標準偏差 予報日数 点線: 1992年-2002年の標準偏差 大振幅の負のPNAパターンを予報 ⇒ 予報誤差大 Palmer(1988)と整合的

予報初期日におけるMJOの振幅に対する依存性  PNA indexの予報誤差の 予報初期日におけるMJOの振幅に対する依存性 誤差 1σ :全予報:150事例 予報初期日のMJOの振幅が :1σ以上:18事例 :1σ未満:132事例 エラーバー:信頼度99% σ:MJOの振幅の   気候学的標準偏差 予報日数 次に、予報初期日のMJOの振幅で区別してPNA indexの予報誤差を調べました。黒線とエラーバーは先ほどと同じです。赤線が、予報初期日に大振幅のMJOが存在する事例で平均した予報誤差、青線が残りの事例で平均した予報誤差です。 予報初期日に大振幅のMJOが存在した場合、予報7日目まで有意に予報誤差が大きくなる傾向にあることが分かります。また、図には示しませんが、予報初期日にMJOに伴う対流活発域がインド洋たインドネシアに存在した場合、予報誤差が大きくなる傾向にありました。Mori,2008の指摘からは予報初期日に活発なMJOに伴う対流活動域がインドネシアに存在すると予報誤差は小さくなると期待されるが、実際には逆の結果となっています。 点線: 1992年-2002年の標準偏差 予報7日目に注目すると,予報初期日に 大振幅のMJO ⇒ 予報誤差大 予報初期日にMJOに伴う対流活発域がインドネシア ⇒予報誤差大

条件1:予報9日目以内に解析値のPNA indexの絶対値が1σを 超える日が 5日以上続く 1σを超える日 1σ未満の日 1σ 5日以上連続 4日以上連続 -1σ σ:PNA indexの   気候学的 標準偏差 予報日数 ≦予報9日目 PNAイベントと定義     ・・・ 48事例 条件1:予報9日目以内に解析値のPNA indexの絶対値が1σを     超える日が 5日以上続く 条件2:条件1を満たし始める最初の日の前4日間は、連続して      PNA indexの絶対値が1σ未満 次に、Mori, 2008との対比を行うためにPNA indexが単調増加または減少するPNAイベントを定義し、PNAパターン形成期の予報誤差に注目して解析を進めました。PNA イベントは、PNA indexの絶対値が予報9日目以内にPNA indexの気候学的標準偏差を超える日が5日以上続き、続きはじめる日の前4日間は連続して1標準偏差未満である場合に認められます。この定義に基づき、PNAイベントを予報する事例として48事例を抽出しました。

予報初期日における速度ポテンシャル偏差(200hPa)の回帰          PNA indexの予報誤差への 予報初期日における速度ポテンシャル偏差(200hPa)の回帰  イベント予報事例 予報7日目 コンター間隔:1e+6 m2/s     :収束     :発散 濃い陰影:信頼度99%以上 薄い陰影:信頼度95%以上 赤:正の相関 青:負の相関 まず、予報初期日の200hPa速度ポテンシャル偏差とPNA indexの予報誤差の大きさとの関係について示します。 この図はPNA indexの予報誤差への予報初期日の速度ポテンシャル偏差の回帰図です。陰影は有意な領域を表わします。予報3日目からインド洋で発散域、太平洋で収束域である波数1の大きな構造をし、予報7日目に最も有意な領域が大きくなっていました。したがって、予報7日目の予報誤差に予報初期日における熱帯の発散場最も関係し、インド洋で発散である場合予報誤差が大きくなることが分かります。従って、予報7日目の予報誤差の大きさに着目して解析します。 予報初期日における上層の発散場は最も予報7日目の誤差に関係 →予報初期日にインド洋に対流活発域  予報7日目の誤差 大  全予報事例を用いると,有意な領域は顕著ではない →PNAパターンの形成期の予報誤差にインド洋の対流活動が影響

予報7日目におけるPNA indexの予報誤差と PNAパターンの極性との関係 イベント予報事例       7日予報のPNAindex -1σ~1σ   合計 予報誤差小(-1σ*以下) 1 3   7  -1σ*~1σ* 7 11 16 34 予報誤差大 (1σ*以上) 5 13 15 20 48 PNA(-) PNA(+) (-1σ以下) (1σ以上) 7日予報誤差 成功事例群 失敗事例群 σ*:イベント予報事例の7日予報誤差の標準偏差, σ: PNA indexの気候学的標準偏差 PNA(+) PNA(-) この表は、PNAの符号と予報誤差との関係を表わしています。縦が予報7日目の予報誤差の大きさ、横がPNA indexの極性です。横が7日予報のPNAindexの符号を含めた振幅で、縦が7日予報の誤差。 誤差が小さい予報は7事例で、3事例が大振幅の正のPNAパターン、1事例が大振幅の負のPNA パターン。7日予報の負のPNAは1つであり正のPNAパターンを予報する場合に予報誤差が小さい傾向にあることが分かる。予報誤差が大きい場合は、大振幅の正のPNAパターンを予報する事例は1事例で、 大振幅の負のPNAを予報する事例は5事例。したがって負のPNAパターンを予報する場合に予報しにくいことが分かる。次に、事例群Aと事例群Bを比合成図解析を用いて比較する。 H L L H L H L H 相対的に、予報7日において 正のPNAイベント ○   負のPNAイベント ×

失敗事例群のψ200偏差と波活動度フラックス(合成図) コンター:ψ200   ベクトル:波活動度フラックス コンター間隔:2.5e+6m2/s 赤:5e+6 m2/s以上 青:-5e+6 m2/s以下 PNA(-) 予報 解析 90N 予報3日目 60N 60N 30N 30N EQ EQ 60E 120E 180 120W 60E 120E 180 120W 予報5日目 30N 30N 120E 120W 120E 120W 予報7日目 予報7日目に予報誤差が大きかった事例群の200hPa流線関数と波活動度フラックスの時間発展について示します。 左が解析値で右が予測値です。観測を見ると、負のPNAパターンの偏差中心の一つである北太平洋の高気圧偏差が順調に成長し、下流にエネルギーを射出することで負のPNAパターンが形成されていることが分かります。また、Mが指摘した、アジアジェット上を伝わるRossby波列が北太平洋まで伝播しており、北太平洋の高気圧偏差の形成に寄与している。一方、予報では予報3日目以降北太平洋の高気圧偏差が成長していませんでした。同時にアジアジェット上のRossby波の伝播が弱まり、北太平洋に伝播するエネルギーフラックスが解析に比べて弱くなっています。予報誤差が小さかった事例でも、アジアジェット上を北太平洋へ伝播するRossby波は存在していたが、予報でもきちんと再現出来ていました。従って、アジアジェット上の準定常Rossby波列の再現性がPNAパターンの予測可能性に影響を与えると考えられます。 M08が指摘した、アジアジェット上を伝播するRossby波列が存在し波活動度フラックスもこの偏差パターンに沿っており、このRossby波列がPNAパターン形成に寄与していることが分かる。予報を見ると、予報3日目以降、太平洋上の高気圧偏差が成長しておらず、同時にアジアジェット上のRossby波列の伝播が弱まり、北太平洋に伝播するエネルギーフラックスが解析に比べて弱くなっています。したがって、このアジアジェットに沿った準定常Rossby波の伝播を上手く再現できなかったため予報誤差が大きくなったと考えられます。 予報誤差が小さかった事例でも、アジアジェットを北太平洋の偏差へ伝わるRosby波列が存在していたが、きちんと再現されていました。したがって、アジアジェット上の準定常Rossby波列の再現性がPNAパターンの予測可能性に影響を与えると考えられます。 30N 30N 120E 120W 120E 120W m2/s2 アジアジェット上の準定常Rossby波列の再現性が PNAパターンの予測可能性に影響を与える m2/s2

失敗事例群の予報0日目 200hPa 解析 予報 コンター:ψ200, ベクトル:波活動度フラックス 60N 60N 30N 30N EQ 60E 120E 180 120W 120E 120W m2/s2 m2/s2 コンター間隔:2.5e+6m2/s コンター間隔:2.5e+6m2/s コンター:χ200 ベクトル:発散風 30N 30S EQ 30N 30S EQ 120E 120E コンター間隔:0.6e+6m2/s m/s 収束 発散 (×e+6) 上の図は、先ほと同じ、200hPa流線関数偏差と波活動度フラックスです。下の図は、コンターが200hPa速度ポテンシャル、ベクトルが発散風です。左の列の解析値を見ると、Rossby波列が存在するアジアジェット上に細かい発散・収束が存在しています。従って、アジアジェット上のRossby波は発散風の発散・収束による渦度生成により形成されていることが分かります。また、この発散・収束はヨーロッパからの波列に伴う発散・収束である可能性があります。従って、アジアジェット上のRossby波は、MJOに伴う発散風による渦度移流ではなく、ヨーロッパなどの上流から射出されたRossby波がアジアジェット上に捕捉され形成されたと考えられます。一方、予測値をみると、東経0-60°の赤道域で収束域が発達したため、北緯30度付近の東経0-60°に存在する収束と発散が弱まり、とくに,東経60度にある高気圧偏差の振幅が解析に比べ小さく、このあたりのエネルギー伝播も弱くなっています。Rossby波源を表わすRossby wave sourceを計算したところ、30N,0-60Eにかけて解析値に比べ予測値で小さくなっていました。したがって、発散風の表現が悪くなったため、Rossby波源の表現が悪くなり、アジアジェット上にRossby波を捕捉できず、PNA パターンの予報誤差が大きくなったと考えられます。

失敗事例群の予報3日目 200hPa 解析 予報 コンター:ψ200, ベクトル:波活動度フラックス 60N 30N EQ コンター間隔:2.5e+6m2/s m2/s2 30N EQ 120E 120W 60E 180 60N コンター:ψ200, ベクトル:波活動度フラックス とRossby wave source 30N EQ 30N EQ 120E 120W 120E 120W コンター間隔:2.e-10/s2 コンター間隔:2.e-10/s2 コンター間隔:0.6e+6m2/s m/s 収束 発散 (×e+6) コンター:χ200 ベクトル:発散風 30N 30S EQ 120E アジアジェットに沿ったRossby 波列が上手く再現されなかった原因を解析したところ、予報3日目以降、アフリカの北部とアラビア半島の北部のRWSの再現性が低くなることが原因と分かった。 上の図は事例群Bの予報3日目の流線関数偏差と波活動どフラックス、真ん中は実効βとRWS 、下は200hPa速度ポテンシャルと発散風。左が解析で右が予報。 真ん中で濃い赤のおよそRossby波の伝播可能領域にRWSが存在し、RWSの符号に一致するように流線関数偏差が存在しています。したがって、アジアジェット上のRossby波はRWSにより作りだされたと考えられる。一方、予報では、アフリカの北部とアラビア半島の北部のRWSが解析よりも弱く、対応する流線関数偏差も小さくなっているの分かります。予報3日目以降、更にこのRWSは弱まり、対応する流線関数偏差、そして下流の偏差、エネルギー伝播も弱まっています。 また、RWSの各項を見積もったところ、発散風の収束・発散による渦度生成効果が大きかった。 これはM08の指摘するMJOに伴う発散風に伴う渦度移流による生成効果と異なる。 発散場を見ると、アジアジェット上にRWSに対応する位置に小さな発散構造の発散場に伴う発散・収束が存在する。予測値をみると、赤道域の60W-60Eにかけて収束域が急速に発達しており、このため、アジアジェット上に存在するはずの発散・収束域が弱く、消えてしまっている様子が分かる。 ヨーロッパからの波列に伴う発散・収束である可能性がある。したがって、アジアジェット上の Rossby波列は、ヨーロッパなどの上流から射出されたRossby波がアジアジェット上に捕捉され形成されたと考えられる。

失敗事例群の赤道における速度ポテンシャルの経度-時間断面 200hPa 解析値 予報値 コンター間隔:0.6e+6m2/s 発散 収束 予報日数 180 経度 さらに、東経0-60°の赤道上で収束域が予測値で発達した原因ですが、この図は、赤道における、発散場の経度-時間断面を示しています。これを見ると、波数1の構造をした発散場が6°/dayの速さで東進しており、MJOが存在することが分かります。予測値をみると、MJOに伴う発散場の東進を表現できておらず、60W-60Eにかけて収束域が発達していることが分かります。したがって、気象庁のモデルでは、MJOの東進を上手く表現できないために、ヨーロッパー域から射出されるRossby波列の伝播に悪影響を与え、PNAパターンの予測可能性が低くなると考えられる。この考えに従えば、前半のMJOの振幅が大きな場合に予報誤差が大きくなることも理解が出来ます。 MJOの東進を予報できてきない

まとめ PNAパターンの予測可能性について、熱帯季節内振動(MJO)と PNAパターンの関係性を考慮して調べた。 ●MJOの振幅が大きいとき,あるいは,MJOに伴う対流活発域が  インド洋にあるとき,PNA パターンの予測精度は低い ●アジアジェット上の準定常Rossby波列の再現性がPNAパターンの   予報誤差に大きな影響を与えていた ●このRossby波束は、ヨーロッパなど上流で射出されたRossby波が   アジアジェット上に捕捉されて形成される  ⇒MJOに伴うベンガル湾での発散風によるRossby波束生成   (Mori and Watanabe,2008)の有無はPNAパターンの予報精度に 影響しないようである ●負のPNAパターンを予測する場合に予報誤差は大きくなる傾向  ⇒Palmer, 1988と整合的 PNAパターンの予測可能性について、Mori,2008で示された、赤道域に存在する大規模循環であるMJOとPNAパターンとの関係性を考慮して調べました。今回は示しませんでしたが、負のPNAパターンを予測する場合に予報誤差は大きくなる傾向が示されました。これは,Palmer,1988と整合的です。また、アジアジェット上の準定常Rossby波列の再現性がPNA パターンの予報誤差に大きな影響を与えていました。このRossby波束は、ヨーロッパなど上流で射出されたRossby波がアジアジェット上に捕捉され形成されることが示唆されました。Mori,2008とは異なり、MJOに伴うベンガル湾の北部の発散風に伴う渦度移流ではありませんでした。予報初期日にMJOが存在すると、気象庁のモデルではMJOの東進を予報できないため、MJOに伴う発散風がヨーロッパ域から射出されるRossby波束の伝播に悪影響を与え、PNAパターンの予測精度は低くなっていました。